トピックス2023.02.09
【レポート】野村證券様・北海道東川町様と地域ブランディングにまつわるセミナーを開催しました。
野村證券株式会社様主催「地域課題解決に向けた特別セミナー」に弊社ブランディングディレクター虎上亮平が登壇いたしました。
本セミナーは、地域課題解決に向けた知見の向上を目的として、「北海道で唯一人口を増やしている町」として多数のメディアに取り上げられている北海道東川町の役場職員をゲストスピーカーに招き「東川町の取り組み~住民幸福度・満足度の向上を実現する地域のインナーブランディング~」というタイトルで行われました。日本全国の自治体職員や首長・副首町などが参加されました。
今回はその一部をアフターレポートとしてご紹介させていただきます。
■本セミナーの概要について
下記がセミナーの概要になります。
<題目>
東川町の取組み ~住民幸福度・満足度の向上を実現する地域のインナーブランディング~
<目次>
『東川町ご挨拶』
東川町長 松岡 市郎 様
『東川町の取組み ~住民幸福度・満足度の向上を実現する地域のインナーブランディング~』
東川町 東川スタイル課長 高石 大地 様/税務定住課住まい室長 今野 裕太 様
『パラドックスの取組み』
株式会社パラドックス 虎上 亮平
『対談(東川町×パラドックス)』
東川町 東川スタイル課長 高石 大地 様
税務定住課住まい室長 今野 裕太 様
株式会社パラドックス ブランディングディレクター 虎上
<開催概要>
開 催 日: 2022年9月1日(木) 15:00~16:30
開催方法: オンラインセミナー
主催: 野村證券 金融公共公益法人部
■レポート1:東川町長 松岡 市郎 様よりご挨拶
今、地方では「人口が減少する・消費が減退する・財源が減少する」という三つの ”げん” が起きており、どうプラスに転換していくかが大きな課題となっています。
幸いなことに東川町は1995年以降、少しずつですが人口が増加し続けています。しかしいずれ減少の時期が来るだろうと推測しており、受け身ではなく能動的な考え方でまちづくりを進めています。その為には、能動的な姿勢を持った、挑戦する職員に変わっていかなければならないと指導しています。
これから登場いたします課長と室長は、まさに意識が変わって、挑戦をしようという二人です。
■レポート2:東川町の取り組み
東川町は北海道のほぼ中央に位置し、人口は約8,500人程度です。人口は2022年4月末現在で8,480人。前年比で少しずつですが人口が増え続けております。2020年には51年ぶりに8,400人台に回復。人口構成は、令和2年の国勢調査で高齢化率が33%、特に多いのは、30代後半から40歳代にかけての子育て世代です。
●写真文化首都「写真の町」
1985年一村一品運動を背景として「写真の町」でまちづくりをしていくという宣言をしました。写真映りの良いまちづくり、写真映りの良い人づくり、写真映りの良い物づくり、人の心に訴えるものでまちづくりしていこうという現在の東川町の流れの大きな核となっています。
<継続的に実施しているイベント企画>
「東川町国際写真フェスティバル」(38回目)
「写真甲子園」(29回目)
「高校生国際交流写真フェスティバル」(8回目)
●水が豊かな町
東川町は北海道で唯一、上水道がない町です。全世帯は地下水(天然水)を使って生活をしています。三つの道がない、「国道がない」「鉄道がない」「上水道がない」、これらがないことをポジティブに捉え対外的に魅力としてPRしています。
●木工家具の町
旭川家具の約30%を東川町の30ヶ所の工房で生産、人口の30数%が家具産業に従事しており、世帯数を含めると最大の産業となっています。家具デザイン文化を育んでおり、2021年に4月14日を「椅子の日」に制定。建築家隈研吾氏と連携して、世界に発信する取組みを行っています。
●君の椅子プロジェクト
東川町で生まれてきた子供たちに地域産の椅子を贈る取組み。生後100日頃、町長が持参してプレゼント。併せて写真の町として子供の成長を町内写真家により撮影した写真も地場木質フレームと共にプレゼント。
●学びの椅子
中学校入学式に名前入りの椅子を寄贈。各自でメンテナンスし卒業時に記念として持ち帰っていただいています。
●過疎でも過密でもない「適疎(てきそ)」な町づくり
東川小学校は平成26年に建設された建物で、横幅が270メートルの平屋建てです。田舎の地域では広い敷地を使って建物を作っていく方が大きな価値があるという町の考えがあり、人との距離にゆとりがあります。重要なのは子供たちがほんものに触れて遊ぶことがであり、そうした環境を作ることでまちへの誇り(シビックプライド)を自然に醸成することを目指しています。
●東川町のまちづくりの考え方
東川町のまちづくりは「写真の町」を軸に進めています。下記の図の真ん中に「写真の町」という核があり、軸をブレずに継続的に行ってきたことが、人口が少しずつ増加している要因だと思われます。人・文化・自然など、「写真の町」を通じて、色んな施策を行うことで、東川スタイルという文化が芽生え、共感する東川ファンや、関係人口も増加しており、おのずと移住者が増えてきているという流れになっています。
●東川町ファンの創出 ひがしかわ株主制度
東川町では平成20年より、一般的な「ふるさと納税」ではなく、関係性を持ってふるさと納税を行っていただく「ひがしかわ株主制度」に取り組んでいます。
当時東川町では、応援住民・人口という定義をしていました。近年は関係人口という言葉がフォーカスされていますが、地場産品を域外の方に体験・体感していただきながら町を応援していただく取組みを長く続けています。
●地域課題を企業とともに 東川オフィシャルパートナー制度
地域内の人々が「東川らしい生き方」をできるよう、地域外のさまざまな企業と連携する制度が東川オフィシャルパートナー制度です。外向きのプロモーションが多いように見えますが、すべては「地域を守り、住民にいかに幸せになっていただくか」という観点で推進しています。
●25年連続で人口が増加している点について
シンクタンクの調査によると、東川町への移住動機の最大要因は、行政の移住フェアなどではなく、既存住民による「良い町だよ」というリアルな助言とのことです。常々、住民のために進めている内向きの取組みが定住人口の確保といった取組みに対し有効であることが分かります。地域課題解決や地方創生については、内側の部分から磨き上げ、呼び込み力を強くして、様々な関係性の循環を拡大するという方向性が重要であることを、調査結果から再考する機会となりました。
(セミナーで紹介された「東川町の取り組み」より抜粋)
■レポート3:パラドックスの「地域創生」の考え方について
東川町が取り組む「住民幸福度・満足度の追求」「シビックプライドの醸成」は、弊社が考える地域創生の理想のあり方と近いものがあります。また、東川町の取り組みは弊社が地域にとって大切だと考える「インナーブランディング」そのものであり、本セミナーでは弊社の取り組みについてもお話しさせていただきました。
以下、弊社ブランディングディレクター虎上より
●感情の創生が、地域の未来を創生する。
弊社はこれまで、民間企業の理念策定や理念経営の推進、商品・サービスのブランドづくりやブランド推進を行ってきました。さらに最近では、JICA(国際協力機構)様や、自治体様と協働し、地域創生につながる教育や移住の支援なども行っています。
昨今、シビックプライドという言葉がよく聞かれるようになりましたが、企業でのブランディング・メソッドを使って、地域を支援する活動を続けております。
人口減少、衰退が進む地域の未来に向けて、それぞれの地域が、それぞれの挑戦をする必要があると考えています。そのためには、まず地域の一人ひとりに「誇り」や「想い」をつくること。つまり、「感情の創生」が「地域の創生」につながるということを信じております。当社は、ブランディングやクリエイティブ、さらには美術教室の運営などの教育コンテンツやスポーツコンテンツなど、さまざまな手法で感情を動かし、「想い」を創るという事業を行っています。
●永きに渡って発展し続ける地域とは
私が関わっております隠岐島海士町、岡山県西粟倉村も国が算出している人口予測より上振れしています。東川町も含め、共通している点はどの地域も「町のコンセプトやビジョン」が誰にでもわかりやすい形で言語化されており、そのコンセプトに沿って挑戦し続けていることです。その取り組みを継続し、地域に「挑戦カルチャー」「シビックプライド」が醸成されていることです。また、一つひとつの施策を見ていくと、長期的かつ本質的な施策が行われています。
東川町は、「適疎(てきそ)」や「写真の町」といったコンセプトを誰もがわかる言葉で言語化し、その志のもとに集まった職員や住民が常に挑戦を続けることで「真のファン」を増やしています。まさにブランディングを体現している地域であり、地域の新しい可能性を拓く考え方です。
■レポート4:対談(東川町×パラドックス)
東川町 高石様、今野様
株式会社パラドックス 虎上
モデレーター:野村證券金融公共公益法人部様
<テーマ1>東川町が行っている、各種取組みの意図について
(東川町 今野様)
東川町が「写真の町」事業を柱にしたのは1985年の一村一品運動の頃です。東川町が今後20年後、100年後にどんな町をつくっていこうかというところで、東川町ではあえて人の心に訴えていく文化を柱とし、対外的なアウターブランディングとしては「写真の町」、インナーブランディングとしては住民の心に、誇りを持っていただくべく、様々な施策を行ってきました。
写真の町ということで、イベントを色々と展開してきていますが、「写真の町」を核として、その周りにある、福祉や教育、子育てなど、それぞれの施策のなかでアイデアを出し合って、全ては住民の幸福度の向上のために続けてきました。まさに「写真の町」というフィルターを通して色々なまちづくりをしてきました。
(パラドックス 虎上)
ポイントは、二つあります。一つ目は「コンセプト・メイクの秀逸さ」です。何をまちづくりの真ん中に据えるかを考えたとき、37年前に名産品などの「モノ」ではなく「コト」である「写真」、つまり「情緒」の部分をコンセプトに据えたことは、もの凄く先見の明があったと感じています。こういったコンセプトの立て方も、他の地域の皆さんに参考にしていただけるのではないでしょうか。
もう一つは、「写真の町」から挑戦カルチャーが生まれたということ。元々、入っていらっしゃった企画会社がいらっしゃらなくなり、そこから企画やイベントがすべて役場で内製化されたことで、役場職員が営業活動にどんどん飛び出していかれた。それが現在の東川スタイルに繋がっているように思われます。
(東川町 高石様)
東川スタイル課は企業との連携、外への発信を行いながら、その方々に内の人になっていただく、外と内をぐるぐる回すような考え方は「写真の町」からでしょうか。写真の事業に取り組むマインドの中から醸成された感があります。
<テーマ2 東川町の「挑戦カルチャー」がどのように生まれたのか>
(東川町 今野様)
私たちが入った時から町長は「どんどんチャレンジしなさい」「チャレンジでおきるトラブルや失敗はもともとのゼロであり、マイナスにはならない。むしろ、失敗の経験をもとにプラスになっていくでしょう」という考え方でした。これは若い時からずっと植え付けられました。去年と同じことをやろうとすると、怒られるのです。「今年はどう変えるのか?今年どう新たなことをするのか?」を基本の発想としています。
また、町長から「予算がない」「前例がない」「他でやってない」、この「三つの“ない”」を言ってはいけない、と言われています。人口がどんどん減少する中で「挑戦カルチャー」をつくっていかないと公務員は絶対に変わっていかない、と思っています。
また、財源を確保するのは、財政担当の仕事だという考えが、東川町には全くありません、それぞれの部署の職員が何か事業を進める際には、まず自分で財源を捻出する為の努力をします。熱量を持って、財源を探してくるところからスタートしていますので、それぞれの職員が色んなチャレンジをする土壌ができているのかもしれません。
(パラドックス 虎上)
企業では「ビジョンドリブン」という言い方をしますが、まずやる為にどうするのかという発想があります。東川町でその礎となっているのが、「三つの“ない”」という言葉です。カルチャーが醸成される企業の多くは、わかりやすく誰もが共感する「言葉」があります。東川町には「適疎」や「写真の町」など、誰にでもわかる言葉(コンセプト)もあり、「言葉」がカルチャー醸成の起点になっていることは間違いないと思います。「カルチャー」は今日明日でできるものではありませんが、ここにいるお二人は20年も前からチャレンジし続けてますが、このように積み重ねることでカルチャーは醸成されます。
<テーマ3>東川町の対外戦略について
(東川町 高石様)
世の中に、数千の自治体がある中で、その町にしかないもの、人、でき上がったものに出会っていただき、外の方に参入するメリットを見つけていただく。その一点しか他との差を見つけられません。外の方に様々なご支援をいただく場合には、徹底的に他との違い、魅力を外の方と一緒に創り上げる。結果として中の方も誇りを持つ。意外とシンプルな戦略だと思っています。
(東川町 今野様)
外側とのつながりを大事にするというスタンスが大切です。アウターブランディングとインナーブランディングは表裏一体で、バランスよく取り組まなければ上手くいきません。どちらも最終的には住民の幸福度を上げるために取り組んでいます、ということを住民に丁寧に説明していく必要があります。私たちも37年かかっていますが、対外的なものと、内製的(内面的)な取組みをバランスよく継続するしかないと考えています。
(パラドックス 虎上)
結局は、町としての「志」を明確にして、一貫性を持って取り組み、そこにファンが集っていく構図です。これはブランディングと同じ構図で、人は信頼のおける人や共感できるものにお金を払います。昨今では、「モノ」から「コト」、つまり情緒に対してもお金を払うようになっています。志を持った役場の方々が、ファンづくりをしていく。これをナチュラルにずっと前から取り組まれていることが、本当に素晴らしいと思います。