株式会社パラドックス

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1万5911人の想いを乗せて、
街の新しいブランドをつくる。

CLIENT:名古屋市さま

  • コーポレートブランディング
  • インナーブランディング
  • カスタマーブランディング
  • 地方創生
  • 愛知県

日本有数の大都市でありながら、イメージ調査を実施すると東京や大阪、横浜、神戸などと比べ「イメージがわかない」いう結果が出ている名古屋市。「住みたい・働きたい・訪れたい・投資したい」と想起してもらうために「名古屋のブランド」を明確にし、プロモーションしていくプロジェクトが立ち上がりました。
※本プロジェクトは(株)アド近鉄さまとの協働事業として手掛け、パラドックスは主にブランディング・クリエイティブを担当。

▲新しい名古屋のイメージをつくるキービジュアル

1ブランディングの背景とプロジェクトのポイント

名古屋市民がもっとも満足しているのは「日常の満足」。子育て支援や教育の施策も全国トップクラス。しかし、これまでは観光地やグルメ以外の「毎日の素晴らしさ」を市内外に発信してきませんでした。また、大都市ゆえにさまざまな魅力があり、訴求点を一つに絞りきれないといったことも課題でした。

 

ブランディングとは「発揮する価値」と「受け手が感じる価値」を一致させてこそ確立するもの。名古屋においては「名古屋市が発揮している価値」と「市民の誇り」の乖離。そして「名古屋市の本質的な価値」と「世の中に抱かれるイメージ」の乖離が大きな課題であり、本プロジェクトでフォーカスすべきポイントとしました。

2「名古屋市民が感じる、本当の名古屋とは?」
〜名古屋市民へのヒアリング〜

プロジェクトをスタートするにあたり、定性的な面からも名古屋市を理解するため、名古屋市で活躍中のキーパーソンや事業者を中心に31名へのヒアリングを行いました。主なヒアリングのポイントは、名古屋の「SEEDS(名古屋らしさ・価値観・地域資源・想い)」と「NEEDS(課題や目指す未来)」。「名古屋市民が感じる本当の名古屋」を紐解いていきました。

 

〜ヒアリングの中で出た「名古屋市民が感じる本当の名古屋」(抜粋)〜

 

●地域特性について
◎暮らし
・ほどよい暮らしができる、居心地がいい、ちょうどいい
・東京と大阪の真ん中で交通の便がいい、市内の公共交通も充実
・あまり外に出ていかない、外に出ていく理由もないくらい満足度が高い
・暮らしを支える制度・体制・環境が充実している

 

◎市民性
・堅実・保守的・慎重派が多い
・名古屋愛のある人が多い
・ややトレンド志向?人気や注目にやや群がる?
・控えめな人が多いが、実は名古屋が好きで名古屋が一番だと思っている
・サービス精神が旺盛で優しい

 

◎経済・観光
・名古屋の経済的な豊かさ
・歴史のコンテンツが豊富
・名古屋独特の食文化がある
・「ごちゃ混ぜ」の良さもある(雑多だが魅力が詰まっている)
・意外と「発祥」が多い
・観光できる場所が多い

 

●名古屋の課題について
・東京や大阪への劣等感を抱えている
・名古屋の人は名古屋の魅力に気づいていない
・アイデンティティが不明瞭
・エネルギーがある人を活かす場が少ない、若い人ほど出ていってしまう
・新しいものに対して抵抗がある

 

●理想の名古屋について
・もっと褒められる場所をつくる、人をもっと活用する
・東海エリアの玄関口に
・再び「発祥」がたくさん出る街に
・帰ってきたいと思える故郷になるといい
・名古屋市のイベントや取り組みが届くようになるといい
・魅力の発掘と発信の継続、誇りの醸成、アイデンティティが欲しい
・大きなことに挑戦している若者が増えてほしい

3「なごやらしさ」を形容詞で表現すると?
〜市民によるブランドパーソナリティ投票〜

「ブランドパーソナリティ」とは「活動的な」「知的な」「革新的な」といった企業やブランドの人格を言語化したもので、主に形容詞が中心となっています。その「ブランドパーソナリティ=名古屋らしい人格」からロゴやビジュアルを導くプロセスを実施しました。

 

最終的に抽出されたのが、下記の4つです。ロゴマークやキービジュアルは、この4つのブランドパーソナリティを元に検討していきました。
●やさしい
●文化的な
●都会的な
●活気のある

▲ブランドパーソナリティ投票の告知画像(名古屋市公式SNS等で告知)

▲市民投票の結果、得票の多かった「ブランドパーソナリティ=名古屋らしさ」をカラーチャートで分析し、ビジュアル面からも名古屋の本質的な魅力を表現できるように。この結果がのちのブランドロゴやキービジュアル制作に大きく活かされます。

▲最終的に決定した名古屋市のブランドパーソナリティ。(ブランドロゴガイドラインにも掲載)

4市民みんなでつくる、という挑戦
〜ブランドコンセプト策定ワークショップ〜

パラドックスのブランディングディレクターがファシリテーターを務め、3日間のワークショップを実施。のべ82名の市民と一緒に名古屋のSEEDS(らしさ・価値観)、世の中のNEEDS(社会の課題や時代の要請)を議論し、名古屋に関わる市民・事業者の皆さまの想いを聞きしながら名古屋の魅力や価値をブランドとして言語化しました。

 

各回のワークショップで議論・検討されたテーマは下記。

 

<DAY1>名古屋らしさ・強みの検討
【1】名古屋の課題は何か?
【2】ブランディング・シティプロモーションで得たい成果は何か?
【3】名古屋市(名古屋市民)の「らしさ・価値観」は何か?
【4】未来に持っていきたい「らしさ・価値観」1~3位は?
【5】名古屋市が世界一になれることは何か?
【6】名古屋市民にとって「幸せに生きる・暮らす」とは?

 

<DAY2>
ターゲットの考察、世の中の課題を踏まえ名古屋が憧れられるポイント
【1】名古屋市があえて嫌われたい人は誰か?好かれたい人は誰か?
【2】世の中が抱えている課題は何か?
【3】名古屋市がもっとも憧れられるポイントは何か?

 

<DAY3>
ブランドコンセプトの考察
【1】各チームにて意見集約
【2】ブランドコンセプトをもとに、自分(あるいは自社)が取り組んでいけそうなことは何か?

 

といったテーマで議論し、名古屋のブランドコンセプトを導いていきました。

▲ワークショップを通じて「”日常の素晴らしさ”って、なかなか人には伝えてこなかったけど、これからはもっと色々な人に伝えていこうと思いました」という声がたくさん挙がりました。さらに「名古屋のブランドコンセプトとして短く言語化されたことで、一言で伝えやすくなった」という声も聞こえました。

5「想い」に客観的な視点を
〜有識者会議によるコンセプトの検証〜

今回手がけたブランディングプロジェクトはマーケットイン偏重の手法ではなく、名古屋市民から「らしさ」やアイデンティティを紐解く「インサイドアウト」の手法で取り組みました。その一方で、そのブランドコンセプトが自己満足になっていないか、本当に世の中に求められるものなのか、という確からしさを検証するため有識者によるヒアリングとディスカッション(有識者会議)を実施しました。

 

<ディスカッション(有識者会議)の参加者> ※敬称略

上条厚子(NPO 法人ママライフバランス代表理事|親のがっこう 代表)

●河合太介(株式会社道代表経営コンサルタント)

●田久保善彦(グロービス経営大学院経営研究科研究科⾧/学校法人グロービス経営大学院常務理事)

●松葉由紀子(有限会社 湯の谷荘 代表取締役|NAGOYA CONNÉCT Women and Diversity Program Manager

●安原智樹(ヤスハラ・マーケティングオフィス代表マーケティングコンサルタント)

 

<有識者ヒアリングの協力者> ※敬称略
●粟生万琴(株式会社LEO 代表取締役CEO)
●日下雄介(元名古屋市住宅都市局⾧ 現国土交通省国土政策局地方政策課⾧)
●堀井奈津子(元愛知県副知事現厚生労働省人材開発統括官)

▲有識者会議や有識者ヒアリングにおいても「最高の日常」こそが名古屋の大きな優位性である、といった意見が出ました。

6ブランドの一番の「体現者」とは?
〜市役所職員によるワークショップ実施〜

新たに策定する名古屋市のブランドコンセプトの理解を促進するため、さらにリリース後に市の施策を紐づけ、「実態」をつくるために、名古屋市役所の職員向けにもワークショップを実施しました。計4回の開催でのべ100名以上の職員が任意で参加しました。このワークショップを通じて、「ブランディングの専門知識が学べた」「自分もシティプロモーションの当事者だということに気づいた」という声が挙がりました。

7ブランドコンセプト「やさしい大都市」

多くの方の意見を聞き、取り入れ、ともに議論を交わして決定した名古屋市のブランドコンセプトは「やさしい大都市」です。

 

名古屋市は、日本でも指折り数えるほどの利便性や都市機能を持つ街です。実は数々の優れた政策に取り組んでおり、「政令市唯一」「政令市1位」といった事実が多くあることはあまり知られていません。また、日本の中央に位置し、大きなこころでさまざまな文化や価値観を受け入れ、それを「ごちゃまぜ」にすることで独自の文化や「名古屋発祥」を生み出し、発展してきた背景があります。

 

便利でなんでも揃っているがゆえに「コレ」といったイメージは湧きにくい。でも、心の底から「やさしさがある」と胸を張って自慢できる大都市は、名古屋だけなのではないか。そんな考察を経て、「やさしい大都市」というコンセプトが決定しました。このコンセプトに込められた本質的な名古屋の価値は、効率や機能性が追い求められがちな現代において、世の中から憧れられる価値になるはずです。

8「好きかどうか」を問う、市民投票
〜ロゴマーク市民投票〜

名古屋市の新たなブランドイメージを発信する際に利用するシティプロモーションのロゴマークについては、市民投票を実施。ブランドコンセプト「やさしい大都市」を表現した3つの案から、名古屋市を訪れたことがある方や名古屋に関わりのある方を対象に、WEBやSNS、そしてリアルで投票を行いました。

 

投票数の合計は、1万5911票。投票の際はブランドコンセプトについて掲示した上で行いました。コンセプトの理解促進に努めることはもちろんですが、ロジックだけでなく「好きかどうか」「名古屋らしいかどうか」といった感覚的なものはとても重要です。シティプロモーション活動が一過性のものにならないように、主体者や共感者を増やしたい。そして何より、これからも名古屋ブランドを一緒に育ててくれる人を増やしたい。そんな狙いを持って取り組みました。

▲リアル投票では、大型ショッピングモールに投票箱を設置し、市役所職員みずから投票を呼びかけました。お声がけを通じて、シティプロモーション活動が始まるという告知や市民の関心にもつながりました。

9スローガン「やさし、あたらし、大名古屋」

ブランドコンセプトを多くの方に広めるために策定したのが、スローガンやロゴマーク、キービジュアルです。スローガンは「やさし、あたらし、大名古屋」。名古屋のアイデンティティである「やさしさ」を力にして、新しい価値や魅力をどんどん生み出していこう、と呼びかけたい。そんな想いが込められています。

 

ロゴマークは、なごやの「な」と「やさしさ」を象徴する「ハート」を掛け合わせたデザイン。マークを回転させることで、よりハートに見える遊び心あるものに仕上げました。左上には、名古屋市民になじみ深い「まるはち」をあしらい、あえて「とめ」や「はらい」をあべこべにすることで、そういったユニークさを許容し、楽しんでくださる名古屋市民のこころの大きさを表現しています。カラーは、包み込むようなあたたかさや、これからも名古屋が変わっていくという革新性や力強さを、赤みのあるオレンジ色(柿色)で表しています。

▲市民にも、市外の方にも、「まだ見ぬ名古屋の表情」を詰め込み新たな発見や気づきを与えたい。そんなコンセプトでプロモーションムービーを制作しました。

10シティプロモーションサイト「やさなご」の公開
市の施策とコラボしたキャンペーンも実施

「住みたい」「働きたい」「訪れたい」「投資したい」という「名古屋のファン」を増やすことを目指し、シティプロモーションサイト「やさなご」を公開。
また、令和7年5月8日を「令和の758(なごや)」として取り組むキャンペーンとコラボし、名古屋市内での露出がスタートしています。

 

今後も、行政・市民・企業のみんなが主体者となる、新しいブランディング・プロモーションのかたちを展開していきます。

 

【シティプロモーションサイト「やさなご」はコチラ】

※「やさなご」は(株)アド近鉄さまによる制作

▲シティプロモーションサイト「やさなご」では、名古屋の「やさしさ」を中心に、たくさん魅力を紹介しています。

▲交通局とコラボしたきっぷや、ポスター、デジタル広告といったプロモーションツールのほか、会見用のバックボードや市役所職員の名刺、PowerPointの雛形といったものまで一貫した世界観を演出。名古屋のアイデンティティを大切にしながら、たくさんの方に名古屋の魅力を伝える活動をスタートしています。