株式会社パラドックス

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事業承継を機に、
絆を深め同志を広げる
ブランディングプロジェクト。

CLIENT:技拓株式会社さま

  • コーポレートブランディング
  • 神奈川県

技拓株式会社は、1974年創業。カナダの自然素材を使った印象的な外観と、経年変化を楽しみながら長く住み続けられる家づくりで人気を博す、湘南を代表する工務店の一つです。二代目社長が就任して15年近くの月日が経ち、創業者である会長が本格的にリタイヤすることになった2021年。事業承継と未来への発展を見据えたブランディングプロジェクトが始まりました。

1ブランディングの背景

ファンの多さや湘南における知名度、風土になじむ美しい家づくりへのこだわりなど、すでに唯一無二のブランドを確立しているとも言える技拓。特に中古住宅市場では「技拓待ち」という言葉があるほど、技拓を指名してその空き家が売りに出るのを待つ人がいる人気です。そんな技拓が改めてブランディングに取り組もうとした背景を、二代目社長の白鳥ゆり子さんは次のように話しておられます。

 

白鳥社長:

私がアルバイトとして技拓に入社してから20年以上の月日が経ちます。入社した時点で技拓には父の確立したブランドがあり、ビジョンがあり、みんながそこに向かって進んでいる状況でした。一方この20年で、父とは異なる私自身の思いも生まれていました。しかし父にそれをぶつけると喧嘩になり、社員たちに伝えようにも、ずっと一緒に働いてきたからこそ「いまさら」に思えて照れ臭く……。このままでは、仲間という立場でフリートークはできても、リーダーとしては何も示せないまま、単に会長からすべての業務を引き継いだだけの事業承継になるのではと危機感を抱いていました。

加えて、時代が変化している中で、過去の功績にあぐらをかくだけでは「悪い老舗」になりかねません。次の時代に持っていくためにも、今一度自分たちのやってきたこと、未来に向けてやっていくことを再確認し、意識統一を図る必要があると感じていました。

 

ブランディングに踏み出すきっかけは、二つほぼ同時に訪れました。一つは新しい社員が二名入り、スタッフの入れ替わりが起きたこと。もう一つは、主婦の友社から「技拓の家をテーマに本を出さないか」と声がかかったことです。過去の建築実績の整理や深掘りをし、新たなチームの意識統一を行うには絶好のタイミング。この機を逃さず、皆にとって価値ある事業承継へとつなげるべく、プロジェクトはスタートしました。

2プロジェクトの内容

プロジェクトは、インタビューとセッションを中心に約半年かけて進められました。

①会長インタビュー
過去を紐解き、企業のルーツやアイデンティティを探るためのインタビューを実施しました。会長自身が湘南・別荘文化の中で育ち、品格をともなったその街の原風景を後世に少しでも残したいと思ったことや、1970年代の大量生産される粗悪な家の在り方に疑問を持ったこと。だからこそ自分たちは無垢の「木」を使い、丈夫で長持ちするツーバイフォー工法で「経年変化を楽しめる家」をつくろうと決意したことなど、個人史と企業史を重ねながら深くお話をお聞きしました。

②理念策定セッション(全10回)
全社員参加のもと、メモリアルワークの共有や、大切にしてきた価値観のワーディングを行いました。これまで技拓が培ってきたものは何だったのか、何をやり続けていくべきなのか。その共通認識をメンバー間で深めながら、「これからの自分たちはどうありたいか」に軸足を置いて議論を進め、社員の言葉でミッション、ビジョン、バリュー、スローガン、ブランドストーリーを紡ぎました。

▲暮らしに余白を生み出す家づくりをこれからも続けると同時に、今後は技拓が培ってきた考え方そのものに共感を集め、同志を増やしていくことにも使命を広げました。

なお、セッションの裏では社長によって、書籍に掲載するための過去の建築実績の整理が進められていました。セッションで出てくる社員たちの話を受け止めながら、書籍の中で何を伝え、そのために数百棟の事例のうちどれをピックアップするべきかをひたすら考える。過去を振り返る膨大な時間の中で、改めて技拓が培ってきた価値が見直されていきました。

3アウトプット

#3-1 書籍の刊行

◉書籍「時を経て、趣のある家」(主婦の友社)
技拓として初の書籍が、2022年3月に刊行されました。

書籍刊行に際し、白鳥社長は次のようにお話しされています。

 

白鳥社長:
この本に掲載した事例の選択には、並行して進んでいたプロジェクトの影響が少なからずあったと思います。後書きに書いた言葉も、内容自体はずっと抱いていた思いですが、ブランディングの6ヶ月間がなかったらここまでまとまらなかったと思います。あれは社長から会長への言葉であり、また娘から父に捧げている言葉でもありました。会長にこの本を見せたとき、会長は「素晴らしい本を出してくれてありがとう」と、生まれて初めて私に深々と頭を下げてくれました。泣いちゃいそうでした。親に頭を下げて感謝されるなんて、ないじゃないですか。ずっと戦いながらやってきたことが報われた瞬間です。私と会長にとって、納得しきった一冊になりました。

#3-2 クリエイティブの刷新
理念を受けて、クリエイティブの刷新が行われました。パラドックスは監修として関わりました。

 

◉webサイト
コーポレートサイト。「経年変化を楽しむ」という技拓の価値観に沿って、Works(実績)では築5〜50年近い家を紹介。傷ひとつない新築ではなく、傷や汚れが趣になる様子や、住人たちが楽しみながらこだわって暮らしていることも家の価値に含ませて、見る人に伝えています。

▲編集・写真/原田教正 デザイン/杉本陽次郎 コーディング/株式会社ホットシステムズ 蒲田星人

◉カタログ

▲編集・写真/原田教正 デザイン/杉本陽次郎

#3-3 Podcastの開始

同志を広げるための「語り部」活動として、白鳥社長と弊社のブランディングディレクター・布施太朗によるPodcastが始まりました(2022年6月〜、毎週配信)。GITAKU RADIOと銘打たれたこの番組では、家や暮らし、まちづくりなどさまざまなテーマでトークを交わし、多くのゲストにもご登場いただいています。

▲ゲストを招いての収録風景

4お客様からの声

プロジェクトを終えて、白鳥社長は次のように感想を語られます。

 

白鳥社長:
社長業を引き継ぐことを気負いすぎるあまり、私は何年も自分の言葉での発信をできていませんでした。それがプロジェクトを通してミッションやビジョンが明確に言語化され、目指すものをみんなで共有できたことで、今はいい意味で肩の力が抜けています。自分が一番納得したんでしょうね。会長との関係も、「会長と社長」だけでなく「父と娘」としての絆につながったと思っています。このプロジェクトを通して、私がなんのために経営するのか、答えを出せたことが非常に大きな成果だったような気がします。

 

現在、鎌倉・湘南エリア以外の経営者に向けた「事業承継セミナー」などでも、ご自身の事業承継の経験を講師として語ることもある白鳥社長。発信を通じて技拓の同志の輪が広がっていくことを願いながら、パラドックスはこれからも伴走を続けたいと思います。