「あなたに会えてよかった」
“利用者さんが主役”を全職員の判断軸に。介護・看護の現場を支える理念策定プロジェクト
CLIENT:琴葉株式会社さま
- コーポレートブランディング
- 愛知県
琴葉株式会社は、2007年設立の愛知県名古屋市に本社を置く介護福祉企業。
「Slow life=自分らしい生活」の実現を掲げ、住宅型有料老人ホーム「スローライフハウス」シリーズをはじめ、訪問介護、訪問看護など、多岐にわたる介護・看護サービスを提供しています。
また、地域貢献活動として、野球チームやダンススクールの運営なども行っています。
1軒の戸建てから住宅型有料老人ホームの運営をはじめた琴葉は、設立16年で11施設に広がり介護福祉に関するさまざまな事業を展開。職員数が500名弱に増え、事業領域とエリアが拡大する一方で、創業者である伊藤社長の想いが、現場の運営まで十分に行き届いていないといった課題がありました。そこで、すべての施設で「琴葉らしさ」を体現できるようになるため、創業者が大切にしてきた想いと行動を紐解き、言語化するコーポレートブランディング(理念策定)と理念のリリース会を実施することになりました。
1ブランディングの背景と課題
当時、琴葉には次のような理念が存在していました。
「あなたに会えてよかった」と思っていただけるサービスを提供し、
すべての人々の笑顔あふれる豊かな生活に貢献します。
多くの職員は理念に共感する一方で、「あなたに会えてよかった」と利用者に思っていただけるように、日頃どういうことを意識して業務を行えばよいのか、実践のイメージが湧きづらいといった状況がありました。
「要介護度が高くても受け入れる」「利用者さんのやりたいことを叶える」「ご家族が会いたい時に会える」など、こだわりや想いはありつつも、細かな方針や内容は施設ごとにバラバラの状態。
介護・看護業界の常識に挑み続けてきた琴葉の考え方や体制が、なぜ生まれ、大事にし続ける理由は何なのか。
介護施設全体の倒産増加という外部環境も重なり、危機感も高まっていたなか、「琴葉らしさ」を全職員が判断の拠り所にできるよう、理念の再定義が不可欠でした。
2理念策定プロジェクト
各施設の施設長・ケアワーカー・看護師・事務員の計13名が参加し、約6ヶ月かけて以下の内容をワークショップ形式で議論しながら、理念策定を実施しました。
・社長の公開ロングインタビュー
・創業当時に取り上げられたテレビ番組のビデオ視聴
・創業当時のDNA、らしさ、価値観の考察
・業界の課題、真の顧客の考察
・ミッション、ビジョン、バリュー、スピリットの考察
初めに、プロジェクトメンバーが同じテーブルで議論するにあたり、チームビルディングとして社長へのロングインタビューを実施。
会社が所有する野球クラブチームの室内練習場で、社長を囲って芝生に座り、生い立ちから学生時代、看護専門学校、病院での経験などを語ってもらいました。
どうして看護師になったのか、ケアマネジャーを始めたのか、といった具体的なストーリーを通して、人間的な価値観や仕事観とそこから来る行動と、その結果を紐解いていきました。
3人類みな兄弟。
「人類みな兄弟」。そう語る社長の原体験は、琴葉を創業してしばらく経った頃のことです。当時は9床の住宅型有料老人ホームを運営しており、そのうちのお一人は、日々の介護にとても手のかかる方でした。時には暴言を口にすることもありましたが、社長はその方にも変わらず寄り添い、声をかけ続け、ご家族とも丁寧に向き合っていました。やがて、その方が最期を迎える直前に社長に伝えた一言が、「あんたに会えてよかったよ」。その言葉を残して、その方はお亡くなりになりました。この経験を通して、自らの介護観・看護観が間違っていなかったと社長は確信し、琴葉の理念の軸となっていったということを、ロングインタビューを通して初めてプロジェクトメンバーが深く理解することとなりました。
こうして創業者の想いと行動を紐解きつつ、プロジェクトメンバーが大切にしてきたことを整理していくなかで、徐々に「琴葉らしさ」とそれを裏付ける考え方が見えてきました。
「利用者さんにとって自分の居場所かどうか、わがままが言える場所か。
効率が重視されがちな介護の現場においても、琴葉はどこまでも利用者さん主体でやりたいことを叶える。」
「家のように暮らしてほしいから、ご近所づきあいができるくらいに地域に溶け込む施設でありたい。」
「要介護度が高くても受け入れる。困っている人を放っておけない。人類みな兄弟なんだから。」
もともと理念として掲げていた「あなたに会えてよかった」という言葉を、このプロジェクトを通してメンバー全員が深く理解・共感することができました。そして、日頃の行動指針にまで落としていけるよう、ミッション、ビジョン、バリュー、スピリットを定めていきました。




▲ブランドストーリーのポスターを制作
4全職員へのリリース会
策定した理念は、500名弱の職員に届ける必要がありました。まずは役職者を対象に、理念のリリース会として、創業の背景や社長の言葉を共有し、理念を自分ごと化するためのワークショップを行いました。
その後は、プロジェクトメンバーが主体となって各施設を回り、現場の職員に理念を伝えるリリース会を実施。実際の利用者を思い浮かべながら「ミッションに照らして自分に何ができるか」を考え、宣言する場を設けることで、日々の業務に直結する形で理念を浸透させていきました。
この取り組みにより、現場で迷ったときに「バリューに照らして判断する」という場面が出てきたり、職員同士が理念を軸に議論できる文化が生まれ始めました。
また、社長自身も自ら施設を回って現場の状況を理解したり、職員に向けた勉強会を実施するなど、行動の変化が見られるようになりました。
5利用者さんやご家族にも琴葉の考え方を届けるためにポスターを制作
理念を社内に浸透させるだけではなく、利用者やご家族にも「琴葉らしさ」を伝えるために、ブランドポスターを制作しました。
特徴は、演出を排した実話ベースのフィルム写真。
「酸素を吸入しながらも毎日ビールを楽しむ入居者さん」、「おむつを使わず尊厳を守り続ける介助」など、ありのままの日常を切り取ることで、「生きたいように、最後まで。」というコンセプトを強く印象づけています。
コピーにもあえて余白を残し、見る人が自分ごととして考えられるように設計。
そのアプローチが評価され、「AICHI AD AWARDS 2025」グラフィック部門において、SILVERを受賞しました。




今後も、より多くの介護・看護を必要とする方々へ琴葉の想いを届けられるよう、コーポレートサイトやパンフレットなどを制作し、多様な形で理念を基盤とした発信を広げていきます。