株式会社パラドックス

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離島で生きる。
その意味を問い直し、離島のブランディングをリードする。

CLIENT:御蔵島村役場さま

  • 採用ブランディング
  • 地方創生
  • 東京都

御蔵島(みくらしま)は、東京都心から南に約200キロの太平洋上に浮かぶ離島。人口約300人が暮らす島内は全域が国立公園に指定されています。コンビニもスーパーマーケットもない。信号機もない。病院もなくあるのは診療所だけ。金融機関はたった一つの郵便局。イルカと一緒に泳げる「ドルフィンスイム」が有名で、島の自然やイルカに魅了されて訪れる方もいますが、その生活環境から、いざ移住となると長続きしないという例も多くあり、唯一の観光資源とされていたイルカに依存しない地域のあり方を模索していました。地域に息づくアイデンティティを明確にすることで、サステナブルな地域を目指すべく、まず令和5年度は村役場職員の採用ブランディングに着手。令和6年度は御蔵島全体の地域ブランディングに取り組んでいます。

▲御蔵島(みくらしま)。人が住んでいる面積は、島全体の面積の約2%。

1ブランディングの背景と課題

同じ伊豆諸島でも、八丈島や三宅島といった比較的に名の知れた島に比べて御蔵島はあまり知られた存在ではありません。以前に実施された「東京都島しょ町村職員合同採用試験」(伊豆諸島での合同募集)において、御蔵島役場での就職を希望する方は0名という結果を受け、新たに就任した御蔵島村長は、採用ブランディングの着手に踏み切りました。

 

島民約300人に対して、当時の役場職員(一般行政職)は9名。ただでさえ人数も少なく、兼務も多い。村役場職員の仕事は、水道や道路等のインフラ整備から産業や農業、教育、医療、交通まで日々の暮らしを支える仕事で忙しい。それでも10年後の人口は230名程度まで減少することが予測されており、「守り」だけでなく、御蔵島を活性化させる「攻め」の施策も必要。一般行政職員9名の体制では「攻め」の仕事に取り組めない、という課題がありました。

しかしながら、コンビニもスーパーもなく、都心から船で7時間半かかる離島への転職。簡単に踏み切れるものではありません。「御蔵島村役場ではたらく=御蔵島に住む」というハードルは高い。給与や勤務条件だけでなく「生き方」「価値観」「カルチャー」を理解し、そして何より「島民を幸せにする、という使命」で求職者と握手をすることが不可欠でした。

2採用コンセプトの策定

パラドックスのディレクター自身が「生き方」「価値観」「カルチャー」を理解し、肌で感じるため、4泊5日で御蔵島に滞在しました。

滞在期間中は、

●御蔵島村役場の職員のみなさんに協力を仰ぐために採用ブランディングの説明会

●地域ブランディングに成功している隠岐島 海士町職員によるオンライン勉強会

●島民を巻き込んだワークショップ

●役場職員を巻き込んだワークショップ

を実施。

地域のアイデンティティやカルチャーの理解。島民や役場職員が描く御蔵島の未来。御蔵島で幸せになれる人はどんな人なのか?(=ペルソナの深堀り)といった議論を行いました。

3この島には、「意味」がある。

都会の生活に比べ、あらゆるものがなく不便です。特に冬場は少しでも波が高ければ船が着港できず、その着港率は30%程度(夏場の着港率は70%程度)。行きたくても行けないこともある。そんな島です。

 

しかし、ワークショップを重ねるうちに、あることに気づきました。島民の方々は、そんな御蔵島を自ら選んで暮らしているのです。「島を元気にしたい」「大海原のシケを見ていると心が落ち着く」「子どもの頃に教わった剣道を今度は自分が教えてあげたい」など、それぞれがこの島で暮らす理由を持っているのです。

 

モノはない。でも、この島には一人ひとりに暮らしている「意味」がある。それこそが、この御蔵島のアイデンティティでした。そして「モノはないけど、意味がある。」という採用コンセプトを策定し、「意味ある仕事」「意味ある人生」を追い求めている人、「『1分でも早く、1円でも安く』に価値を感じなくなった人」などをターゲットに採用活動をスタートさせました。

▲現地へ足を運び、島民や役場職員と話し合って決定した採用コンセプト

▲御蔵島のアイデンティティを詰め込んだ採用BOOK「みくら島村役場ではたらく本」を制作。

【BOOKはこちらから全ページご覧になれます】

▲御蔵島のアイデンティティをさまざまなコピーで表現したポスター。

4カルチャー・コンピテンシーを言語化し、面接・選考へ。

しかし、真のマッチングを図るには、採用コンセプトだけでは不十分だと考えました。採用基準や面接での判断軸を明確にするために、カルチャーやコンピテンシー(御蔵島村役場で活躍できる人の条件)を言語化しました。

 

採用プロセスの中に、コンセプト、カルチャー、コンピテンシーを織り込むことで、求職者の魅力づけ、マッチングに成功。「応募ゼロ」の状況から、令和6年4月に20代を含む3名の採用に成功。これまで悩まされていた兼務が多い状態も緩和されました。

5「意味がある島。みくら島。」島全体のブランディングへ。

経済合理性にしたがう生き方ではなく、自分の価値観にしたがう生き方。一人ひとりが「暮らす意味」「はたらく意味」を持って生きている。その姿を伝えることで、都会の波に流されて生きている人たちの心を動かすことができるのではないか。採用ブランディングから島全体のブランティングへと発展させ「意味がある島。みくら島。」を御蔵島のブランドコンセプトに据えました。太平洋に浮かぶ離島にある、御蔵島の人たちの営みを、コンセプトムービーやポスターで伝えています。

▲みくら島コンセプトムービー(3分45秒)