100年、200年と
光を放つメーカーであるために
背骨の通った理念を。
CLIENT:タイガー魔法瓶さま
1923年の創業より、ガラス製魔法瓶に始まり、電子ジャー、炊飯ジャー、電気ポット、調理器具など、暮らしに身近な製品を届けてきたタイガー魔法瓶。以来、真空断熱技術を強みに、お客様の本質的なニーズを先取りした独創的な製品を通して、さまざまな暮らしのシーンに快適さと便利さを提供している。創業の原点である魔法瓶という製品は、その名のとおり温度を保つ機能だけでなく、飲む人の心をなごませる魔法の道具としてその役割を果たしてきた。時代は変わってもその想いは変わらず、常に人と人との間にある笑顔を生みだし、より快適で豊かな暮らしづくりに取り組んでいる。
プロジェクトの背景と課題
2013年、タイガー魔法瓶は90周年を迎えました。理念の見直しに取り組んだのは、その2年ほど前。代表取締役である菊池嘉聡社長は、これから100年200年と続いていく企業になるためには、現状維持ではダメだと感じていました。もっと光を放ち、小さいながらも存在感のあるメーカーになる必要がある。そのためには”目指すべき未来””存在意義や使命””大切にする価値”といった今後進むべき方向を指し示す、すっと筋の通った理念が必要なのではないか。そんな想いから理念の再構築をスタート。初めは社内だけで考えることも検討されていましたが、積み重ねてきたいい面も悪い面もとらえて、客観的に判断して作り直した方がいいというご決断から、コミュニケーションの根幹となる部分、言語化のご依頼がありました。
1伝統ある企業の理念再構築を成功させる、解決の方向性とプロセス
100年先も存続する持続的成長可能な存在感あるメーカーになり、従業員にとっても働きがいのある会社を目指す。そのために、これからのタイガーの向かうべき方向を示す背骨となる指針(ビジョン、ミッション、バリュー)や実現のための指針(クレド、スローガン)をつくりました。
具体的には、
●社内の主要メンバーへのインタビューと同時に、これまでの歴史や、大切にされてきた言葉などを収集、整理して、受け継がれてきたDNA(らしさ)をひも解く。
●社内のみでなく外部の視点を入れることで、上記を客観的にとらえて整理。DNAとは何かを徹底的に議論。そのうえで、ビジョン、ミッション、バリュー、クレドやスローガンの言語化を行う。
●社内に「理念浸透委員会」を発足して浸透アイデアを議論。まずはクレドを従業員の日常の仕事と結び付けて、個人に腹落ちできるような浸透策、仕組みを構築する。
①理念開発
②浸透ツール制作
③理念リリース
④「理念浸透委員会」の発足
⑤浸透策「クレドチャレンジ」など
2理念開発
プロジェクトの最初は、DNAの抽出からスタート。90年間の歴史をひも解き本質を明らかにしていきました。具体的には、経営陣を含めた主要メンバー14名にインタビューを行いました。また、社史や受け継がれてきた社是社訓などをひも解き、「タイガーらしさ」が含まれた史実や想いを抽出。プロジェクトを進める中で、改めてタイガーが大切にすべきことをあぶり出していきました。たとえば、創業者は、幼少の奉公生活を送る中で、「母親の入れてくれた温かいお茶が飲みたい」という想いから魔法瓶メーカーを創業しました。「温もり」は今も息づく一番のタイガーらしさじゃないか、など。あるいは、ガラス瓶に段ボールを巻きつけるなど独創的な工夫を行うことで、関東大震災でも唯一割れずに残ったメーカーとして、大きな信頼を得ることができました。このことからも「独創性」や「信頼性」は、タイガーの大切なDNAである、など。つまびらかになった「タイガーらしさ」を幹として、「タイガーの存在意義は何か」「どんな未来を目指すか」を考えていきました。こうして約半年かけて議論を重ね、つくり上げたものが「目指す未来(ビジョン)」「使命(ミッション)」「大切にする価値(バリュー)」「行動指針(クレド)」そして「社内向けと社外向けスローガン」です。
言語化とあわせて、図解やイラストを用いて理念をビジュアル化しました。
3理念浸透コンセプトブック
理念の発表は、創立記念日に従業員の前で大々的に行いました。
4浸透策「クレドチャレンジ」
ミッションやビジョンを理解するに先駆けて、まずは日々の行動指針である「クレド」を全員に皮膚感覚で理解してもらい、日常の仕事で実践してもらうことが大切だと考えました。その方法を考えるために、各部署から代表を集めて、”理念浸透委員会”を結成。パラドックスを事務局として、クレドを楽しく実践できるようにするにはどうすればいいのか。全員で意見やアイデアを出し合いながら、検討していきました。その結果、生まれたのが「クレドチャレンジ(※下記参照)」です。毎朝の朝礼での唱和に加え、浸透策の有効な手段として「クレドチャレンジ」は、現在も継続して行っています。
1,月初に全従業員が自分の取り組みたいクレドを一つ挙げて、それに対して目標を立てる。チャレンジカードに記入し、各部署で掲示。
2,月後半には取り組み結果を記入。よい取り組みだと思ったカードに、部署内のメンバーが”いいねシール”を貼って投票。
3,シールの多いカードは本選行きとなり、従業員の多くが利用する社内食堂へ掲示。そこで再度シール投票を行い、最終的にシールの多かったカード上位数点をベストカードとして選出。
4,ベストカードに選出された数名が「クレドチャレンジ座談会」に出席して成果を発表。
5,座談会の内容をパラドックスがサマリーとしてまとめ、全社に配布、共有化へ。
5得られた成果
●理念に対する認知・誇りが80%を超える。
理念再構築前に、現状の理念浸透を図るために“理念アンケート”を実施。そこから2年後に、再度“理念アンケート”を実施してその際を考察。結果として、理念への認知に関しては理念再構築前に42%だったものが、構築後は86%へと大幅に上昇した。※従業員母数644名
●クレドを意識した行動が定着。
毎月、全員が自分のトライしたいクレドを選び、目標を立て、結果を顧みる。よい成果は全社で共有することで、個々人がクレドを覚えることでなく、日常の仕事を通して“クレドとは何か”を理解・実践できるようになった。その結果、各部署で新たなチャレンジや改善が活性化。「アイデアを出せ」「妥協するな」といったクレドの言葉がミーティングで飛び交うようになったり、「温もり」「独創性」など理念を反映した商品が少しづつ出てきている。
「タイガーといえば、温もり」と呼ばれるブランディングを目指して。
クレドチャレンジなどの成果もあり、社員の大半がクレドを意識しながら日常業務に取り組んでいるのではないでしょうか。ミーティングなどでも「アイデアを出せ」とか「妥協するな」などクレドの言葉が出てくるようになったり、商品企画でも「温もり」や「独創性」など理念を反映した商品が少しずつ出てきたりしています。また、理念浸透のアンケートをとりましたが、理念に対する認知や誇りなど、理念再構築前と後では数値は大幅に上昇しています。理念とは、一朝一夕に実践できるものではありません。全員が心から理解して実践できるようになるには、地道な浸透活動を続けていくしかないでしょう。しかし、全員が理念をベースに日々の仕事で挑戦を続け、個人が少しずつ成長していけば、会社として他にはない強い存在になれると思います。まずは従業員が理念をしっかり身につけ、実践し、語れるようになる。そして、次にはカスタマーやパートナー企業にも、自分たちの理念をしっかり伝えるようにしていきたい。それが私たちの目指す理念ブランディングであり、「タイガーといえば、温もりだよね」と言ってもらえるようになったとき、100年、200年と光を放てる存在感あるメーカーになれるのだと思います。代表取締役社長・菊池嘉聡さま