トピックス2023.06.27
【レポート】第二地方銀行協会主催の「地域ブランディング」セミナーに登壇しました。
第二地方銀行協会主催の「地域ブランディング」セミナーに、弊社のブランディング・ディレクター虎上亮平が登壇しました。当日は、弊社が過去に携わった島根県隠岐島海士町でさまざまなプロジェクトを手掛けたJICAの高田健二氏も共に登壇。永続的に繁栄する地域づくりについて二人が異なる立場から意見を交わしました。
この記事ではセミナーの内容の一部をアフターレポートとしてご紹介します。
<講座の概要>
テーマ:ブームで終わらせない、永続的に繁栄する地域をつくる「地域ブランディング」
主催:第二地方銀行協会
登壇者:
虎上 亮平(とらがみ りょうへい)
株式会社パラドックス ブランディング・ディレクター
高田 健二(たかだ けんじ)
国際協力機構(JICA)/海士町グローカルフロンティア大使/島根県立大学客員教授/現・群馬県甘楽町地域魅力化特命室 室長
■レポート1.
地域ブランディングとは何か?
その目的と進め方、メンバーの組成について。
――これまで主に企業の経営戦略の一つとして認知されてきたブランディング。今、地域を活性化する一つの有効な手段としてもブランディングが注目を集めています。
虎上:社会課題が多様化し、また個々人の生き方も個別化が進んでいく中で、東京一極集中から脱却を図ろうとする大きな動きがあります。この流れを受けて、それぞれの地域や自治体が「その地域らしさ」「存在意義」「志」の明確化を求められる時代がすぐそこまできています。
「このまちがどんなまちでありたいのか、どういう暮らしをしたいのか」という部分が、地域における「志」です。「志」を明確にした上で、そこに向けてシビックプライドの醸成をしながら、一貫性を持って事実と実態を積み上げていくのが地域ブランディングだと考えています。
――地域のさまざまな情報が集まってくる自治体や地方銀行は、地域ブランディングの担い手として大きな可能性を秘めた存在です。一方で、集まってきた情報をうまく活用する、プロデューサー的な役割を担える人材が少ないという課題も抱えています。
その課題を乗り越える鍵の一つが、さまざまな関係者をうまく巻き込んだプロジェクトメンバーの組成。効果的な巻き込み方について、虎上、高田氏それぞれから意見が述べられました。
虎上:市民・地域の事業者・自治体職員の皆が誇りを持てるコンセプトをつくることが重要だと思っています。ポイントは、そのコンセプトに感情移入できるかどうか。地域の固有の歴史や文化を深掘りしていけば、その地域の精神性につながっていく。そんな住民の方が感じている本当の「らしさ」や「価値」は共感を得られ、さまざまな方の協力が始まっていきます。訪れた人が感じるブランド体験というのは市役所の方の振る舞いひとつ、降り立ったJRの駅の駅員さんの振る舞いひとつで変わります。だからこそ地域の一人ひとりが理解し、感情移入し、行動に移せるコンセプトを立てることが大切。そうやって事実と実態が積み上げられ、時間と共に差別化要素が広がっていく「差積化」へとつながっていきます。本質的なブランディングとは、そのようにして長い時間をかけながら確立していくことだと思います。
高田氏:私が実際に現場で人を巻き込む上で大事にしているのは、その人が信頼できる人物かどうかです。誰も答えを知らないことに挑戦する際には、それに取り組む人の信頼度が大きな手がかりになります。とはいえ、「私は信頼できる人間です!」と自分で言う人が本当に信頼できるのかはわからないので(笑)、できれば信頼できる人の紹介をつないでいく形でチームを組成するのが良いと思います。もうひとつ、京セラ創業者の稲森和夫さんに、「人は三種類に分かれる。自燃性の人、可燃性の人、不燃性の人」という言葉があります。自治体だと守りに入らなければならない仕事も多いですが、そんな中でも可燃性の人を見つけて関わっていくこと。そして先述のように信頼できる人の紹介でチームを作っていくと、経験上うまくいくことが多かったです。
■レポート2.
最も大事にすべきことは、その地域の人の幸福。
(海士町と東川町の事例より)
――セミナーの中盤では、「誰が、どのようにプロジェクトを始めるのか」に議論が及びました。
高田氏:よく「PDCA(Plan、Do、Check 、Action)を回す」と言いますよね。でも私は、「DCAP」の方がいいんじゃないかと思うんです。Do(とにかくやってしまう)、Check(周りから「何やってんだ!」とチェックが入る)、Apologize(謝る)、Performance(パフォーマンスにつながる)です。良い計画(Plan)を立てても、それを皆に合意してもらって動くというのは現実的ではない気がします。
虎上:これまで企業のブランディングを数多く手掛け、「カリスマ創業者」的な方とお仕事をさせていただいて感じるのは、物事が始まる最初の一歩は「これちょっとまずいよね」「これなんとかしないとヤバいよね」というただならぬ感情だったりするんですね。たとえばインドにタタ・モーターズという自動車会社があります。創業者のタタさんは、激しいスコールの中で子供三人と大きな買い物袋を抱えてバイクに乗っているインドの母親を見て、「バイクと同じ値段でつくれるクルマをつくろう」と思ったわけです。結果、インド最大の自動車会社に成長しました。同じことで、地域に目を向けて「これはまずいよね」と思う気持ちがまず大事で、そう感じたら隣の人や可燃性のありそうな人に声をかけていくところから何かが始まります。
――具体的な事例として、高田氏が海士町グローカルフロンティア大使として住まう島根県隠岐郡海士町や、北海道で唯一人口を伸ばし続けている東川町の話が挙がりました。
高田氏:海士町には「ないものはない」というキャッチコピーがあり、私が感心するのは小学生から90歳までが口をそろえて「ないものはないのが海士町だからね」と言うんですよ。自分たちの地域を表す一言を、皆が腹落ちして一本化して使っているというのはすごいことです。
虎上:海士町を訪問した時、本州からフェリーで3時間くらいかかるような場所にもかかわらず、お会いした皆さんが「この島が好きだ」「ここで暮らすのが楽しい」とおっしゃるんです。住んでいる人が幸せだという、これこそがブランディングの本質で、島に人を呼ぶことにつながっているのだと感じます。
北海道にある東川町も素晴らしい事例です。東川町は緩やかに人口が増え続けており、今は空いている賃貸もないくらいなのですが、ここでは30年以上前から「写真の町」をコンセプトに取り組みが続けられています。「写真映えする暮らし」「写真映えする景観」「写真映えする家」ってどんなんだろう、と考え突き詰める。それをまちづくりの軸に置いています。また家具産業が有名で、東川町の子どもたちは、生まれたときと中学入学時に自治体から椅子をプレゼントされるんです。地域からの「ここにあなたの居場所があるんだよ」というメッセージです。すると当然、「じゃあ、これだけの投資で何人がUターンしてくるんだ?」と費用対効果が気になるのですが、「地域への愛着が深まるからやります」「この施策をやれば、必ず一定の人はUターンで戻ってくるからやります」と。でも、落ち着いて普通に考えたらその通りだと思いませんか。自分が生まれた地域から椅子をプレゼントされて、地域への愛着が芽生えないわけがない。嫌いになる人なんているわけがない。椅子の効果で正確に何人がUターンするかなんて分かりません。でも、地域に愛着を抱く人が増える、地域を好きになる人が増える、というのは「絶対」と言い切れますよね。結果、こういった住民に対するインナーブランディングの取り組みを続けて、「東川のために何かしたい」と続々と人が戻ってきています。さらに、「東川町への移住の決め手は?」というリサーチを行ったのですが、1位は「口コミ」で5割以上。ブランディングはファンづくりですから、とても上手なブランディングをやり続けている、と言えますよね。
(※東川町の取り組みについて、詳しくは下記をご参照ください。)
■レポート3.
「モノ」より「コト」に注目し、粘り強く積み上げる。
――人に共感してもらえるような「地域らしさ」をどう見つけ、どう発信していくか。地域の魅力はそこに住む人が見つけるべきか、はたまた外からの目線で見つける方が良い切り口になりうるのか。セミナー終盤ではこの問題に焦点を当て、議論が続きました。
虎上:ここが非常に卓越性を求められる部分です。地域の魅力を「モノ」に託してしまうと、それがずば抜けた一位でない限り立ち行かなくなるケースが多いです。そこで、「モノ」より「コト」をコンセプトに据える、という考え方に切り替えれば差別化することができます。先日、訪問した静岡県の掛川市を例に取ると、「お茶」が有名で、「まちとして特産の掛川茶を推したい」と考えています。しかしお茶といえば京都も有名ですし、産出額でいくと鹿児島が一位だったりもするわけです。掛川はもともと宿場町だったことや、東京と大阪の真ん中に位置し、新幹線も停まる。そんなことから「ひとやすみできるまち」をコンセプトにしたらいいのでは、という話をしました。「ひとやすみできる」という価値の象徴的なコンテンツとしてお茶(「モノ」)はピッタリじゃないですか、と。魅力あふれるカフェを誘致して、掛川茶を使ったメニューを必ず開発してもらう。そうすれば、東京からUSJに遊びにいく際に、素敵なカフェロードがあるから「途中下茶」しよう、なんてこともあるし、
「人生のひとやすみもできますよ」なんて、期間限定の移住施策なんていう企画も思いつきます。まちが気に入ったら定住する人も出てくるでしょう。「訪れた人にひとやすみしてもらうために、みんなが考え、頑張っているまち」ってなんか素敵じゃないですか。
先述の東川町の「写真の町」というコンセプトはめちゃくちゃ秀逸です。写真は「モノ」ではなく、「写真映えする暮らし」という「コト」ですから。「モノ」だったら「カメラの町」になりますからね。「写真映えする暮らし・景観・住宅・人の表情」など、無限の広がりを持てるこのコンセプトを30年以上も前に掲げた東川町はものすごい先見の明があったと思います。
高田氏:人の共感を得たり、人を呼び込むための発信には、言葉の使い方も非常に重要だなと思います。たとえば海士町では、「地域おこし協力隊、若者20代歓迎」…と言いたいところを「大人の島留学、給料も出ます」に言い換えてアピールしたところ、20代の若者が100名やってきて、うち25名がそのまま島で就職したんです。「地域おこしは経験の少ない自分にはできそうもないけれど、留学だったらできるな」と思ってもらえたのがポイントです。
また群馬県の甘楽町から「地域活性化特命室をつくるから、そこで頑張ってくれないか」と打診された時にも、そのネーミングを変えてもらえないかと私から働きかけました。というのも甘楽町というのは大変落ち着いた静かな町でして、そこに「活性化特命室」なんて騒がしい名のものを置くと、「よそ者が来て掻き回すのは勘弁してくれ」とその瞬間に住民が心のシャッターを下ろすんじゃないかと。だから、「地域魅力化特命室にしませんか。それも、魅力のない町を魅力的にしていくのではなく、すでにある魅力を発掘していくという意味合いで」とお願いし、そのような名前になりました。つまり、地域らしさを出すためには、あくまでもその地域に見合う言葉や表現を進めていくことが大切で、それによって受け手の印象も大きく変わるのではないかと思います。
――ブランディングはあくまでも、その地域の文脈に沿った形で進めること。安易にトレンドを追いかけず、地域にある意義を見出し、わかりやすく伝えること。こうした原則を守りながら、最後に、地域の人との関係性をどのように整えていくのかについて、二人からお話がありました。
虎上:私は三日間くらいかけて、地域の事業者、役場の方、学校の先生などからお話を聞きまくることから始めています。お話を聞きながら、地域の課題やコンセプトの鉱脈をクリティカルに見つけるのが私たちの持っているスキルですので、ヒアリングの中でそれをキャッチボール的に当ててみながら、話し合うことで信頼関係を築いていきます。地元の方々とお酒を飲み交わすこともあります。海士町でも浴びるほど飲んで、コップが空くことがなく…(笑)。
高田氏:物事を決めるときは、「シラフで検討、呑んで決定」、あるいはその逆の「呑んで検討、シラフで決定」がいいと言いますよね。シラフで提案するだけでは十分でなく、酒を呑んで本音ベースの話をした上で、相手の気持ちが湧き上がってくれば関係性が出来上がる。逆に、呑んで盛り上がってもシラフになって「いやあれはちょっと」となることもある。要は、場面を変えて話し合うことや回数を重ねることが重要で、2回3回と話し合う中で関係が整ってくるものだと思っています。あとはLINEの活用です。日常的に気軽にやり取りをする中で連携が深まり、物事が動き出すことがあります。ということで私のおすすめは「呑むこと」と「LINE」です(笑)。
虎上:ブランドって一年でできるものでは全くないですよね。三〜五年かけていろいろな人を巻き込みながら進めていくと、ブランディング界隈でも話題になるような成果が出始めます。
高田氏:そうですね。そのためには、失敗しても、積み上げていくことです。失敗は、失敗で終わらせるから失敗になる。取り組んだことから生まれた価値観にちゃんと目を向けていれば、地域は変わっていくのではないかと思っています。
虎上:何か仕掛けたいという気持ちがあれば、ぜひ私や高田さんに声をかけてください。私や高田さんの先にもたくさんネットワークがありますので、いろんな可能性が広がっていくと思います。
JICA高田氏・パラドックス虎上が隠岐島で手掛けた「感情創生プロジェクトムービー」はこちらからどうぞ。
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