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創業1914年。福井県に本社を置く複合商社として、セメント、生コンクリートを扱う建材事業をはじめ、エネルギー事業や、情報システム事業といった社会のインフラを支える三谷商事様。「勝手にしやがれ。」というユニークな採用コンセプトのもと、15年以上にわたり、一貫した採用活動を行なっています。毎年変わるトレンドに流されることなく、軸を持って採用ブランドを育てていくことの意義についてお話をお伺いしました。
三谷商事が採用コンセプトを策定したのは2005年のこと。今でこそ、「コンセプト」や「ブランディング」という言葉を採用の現場でも耳にするようになりましたが、当時のトレンドと言えば「ナビ媒体」や「広告宣伝」が主流でした。さらに2000年代初頭は、ITバブルが崩壊して景気も後退。各企業が経費削減を強いられる中、採用コンセプトという新たな取り組みに予算を割くことは、三谷商事にとっても大きな決断でした。
決め手となったのは、「事業の成長による、企業の進化を止めないこと」。当時、建材や石油を扱う事業が波に乗っていた三谷商事は、業績が年々上昇し、拠点を全国に拡大している真っ只中。そんな企業の進化に伴い急務となったのが、優秀な人材を全国から獲得することでした。しかし、採用市場における三谷商事の知名度は、全国区では決して高いとは言えませんでした。これまで北陸三県(福井県・富山県・石川県)の学生を中心に、狭く深くマーケットを形成してきたためです。「予算がない中でも何か新しい手を打たないといけない」。取捨選択を迫られる中、出した答えが「地元採用やナビ媒体に割いていた予算を削ってでも、全国で戦うための採用コンセプトをつくること」でした。
コンセプトの策定にあたっては、全国の拠点で働く社員50名にヒアリングを実施。「若手だろうとどんどん裁量を与える」「何を商売にしても構わない」「老舗だけどベンチャー」、そんな共通の価値観や企業のDNAを紐解いていきました。「勝手にしやがれ。」という採用コンセプトはまさに、「出る杭は伸ばす」という社風の芯を言語化し、採用ブランドの軸へと昇華させた言葉です。
その後、一貫したコンセプトを軸に、入社案内パンフレット、採用Webサイト、説明会ブース装飾へと展開。ひときわ、大きな反響を呼んだのが、歯に衣着せぬ言い回しのキャッチコピーでした。「勝手にしやがれ。」をはじめ、「センターフライをキャッチャーがとりにいく会社。」「相談は、失敗してから。」など。賛否の声はあったものの、全国津々浦々からエントリーが寄せられ、母集団は例年の何倍にも増加。また、振り切ったわかりやすい表現にすることで、ターゲット学生に企業イメージが明確に伝わり、より効率的に企業の価値観とマッチした人材に出会えるようになりました。それから15年、軸となるコンセプトは一度も変えず、毎年変わるトレンドや学生の就労感とチューニングをしながらブランドを強化。応募者の質は格段に高まっていきました。
22卒採用は、新型コロナウイルスの感染拡大によって事情が一変。説明会や面接といった全選考過程をオンラインへと移行するなど、三谷商事も例外なく、コロナの影響を受けました。しかし、「不安はありませんでした」と、人事課長の山口氏は語ります。「コロナに関わらず戦術や施策は毎年進化させていくべきものであるが、打ち出すコアメッセージは変わらない」「むしろ今年は、イベントや直接お会いして話す機会がなかったですから、どの企業もアピールする場が限られていたと思います。そんな中、『勝手にしやがれ。』といったインパクトあるメッセージのおかげで、例年以上に応募のきっかけを創出できたと思っています」。事実、今年の内定承諾率は昨年の1.5倍という結果に。また、採用を中止する企業もある中で、三谷商事は採用予定人数を増やすとのこと。こんな時だからこそ、就活生にとって、世の中にとって貢献できる採用のあり方を考えていらっしゃいます。
一貫した採用コンセプトを15年にもわたり使い続けている企業様を未だかつて聞いたことがありません。いわば、勤続1~15年目までの社員のみなさんは全員、この「勝手にしやがれ。」というコンセプトに共感して入社されているわけです。そう考えると採用活動が、社員同士の一体感や組織文化の醸成に一躍担っていることは言うまでもありません。そして今、三谷商事様では新たな採用ニーズが顕在化してきました。企業のさらなる進化に伴う経営方針とのギャップです。しかし、「勝手にしやがれ。」という採用コンセプトは、これからも大切な軸として継続して使用されていくとのこと。その上で、新たな経営課題を解決して次のステージに上がるための、もうひとつの軸となるコンセプトを模索されているそうです。揺るぎない芯を持って常に進化する、そんな三谷商事様の姿勢から、強い採用ブランドを育てていくことの意義深さを改めて学ばせていただきました。