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沼津のあしたを、つくろう。

佐政水産様のaction

活気と笑顔あふれる沼津のために。
100年企業の挑戦。

創業100年をこえる老舗水産会社である佐政水産様。創業者は沼津魚市場を作った功労者と言われ、以降も長い間、沼津に貢献してきました。その一方で、近年では水産業が衰退の傾向にあり、それに伴って沼津から人口が減り続けているという課題がありました。100年もの間、沼津のために生きてきた会社として、なにができるのか。ユニークな取り組みと、そこに込められた想いを紹介します。

負のスパイラルを断ち切る。それがお世話になった町への、私たちの使命。

「地元の人にとって住みたい町にしたいという想いとは裏腹に、沼津では人口が減り続けていました」(専務取締役・佐藤慎一郎)。平成25年には人口減で全国ワースト6位。その原因の一つは、水産業の衰退でした。沼津港の水揚げ量は年々減少し、仲買人や干物加工メーカーも倒産や廃業が相次いでいる状態。会社が倒産すれば、そこで働く従業員も職場を失います。現状を見れば同業他社への転職も難しいため、他の職を求めて家族と一緒に地元を離れていきます。また働く場所や魅力的な仕事がなければ若い人はどんどん東京へ行ってしまい、戻ってこない。この負のスパイラルを断ち切らなければいけない。そんな想いから、佐政水産の新しい挑戦が始まりました。

観光客だけでなく、地元の人たちが来たくなる港町へ。

人口を増やすためには、まず働く場所がなくてはいけない。さらに若い人たちが働きたいと思える場所にしなければならない。そして住みたいと思ってもらえる街にしなければいけない。そこでたどり着いた答えのひとつが、「港八十三番地」でした。全国の観光地を見て回ったところ、観光客だけをターゲットにした場所は地元の利用も少なく、新たな施設ができるとそちらに観光客が流れて古い施設は廃れ、潰れてしまうことが多いとわかりました。また、当時建設中だった伊豆縦貫道ができれば沼津は素通りされてしまう可能性がありました。そこでまず、地元の人がきてくれるような港町を目指そうと考えました。地元の人に「安くて美味しい」と言ってもらえる店なら、観光客にももっと喜んでもらえるはず。テナント募集の際には「夜10時までの営業」や「地元の人が来やすい価格設定と丁寧な接客」など、地元の人も喜んでもらえるようなルールを設定しました。さらに差別化として、沼津港で水揚げされる深海魚をメニューにいれるといったことも条件にしていました。

オープン当初は来客がほとんどなかった夜の時間帯も、少しずつリピーターや口コミを増やし、3年目からは地元の人たちも多く訪れてもらえるようになったと言います。地元の人に喜んでもらいたい。その想いを曲げずにやってきた成果が現れ始めました。

観光客だけでなく、地元の人たちが来たくなる港町へ。の画像

同時に、「食」の展開だけでは、立ち寄る場所にしかなりません。沼津港そのものが目的になるような施設や、地元の人たちが自慢できるようなシンボルを作れないかと模索していきました。そこで、港八十三番地と同時に、「沼津港深海水族館〜シーラカンス・ミュージアム〜」を開業。世界に類を見ない、深海をテーマにした水族館が誕生しました。深海生物に特化した施設として、国内外のメディアにも多く取り上げられ、現在では毎年35~40万人が訪れる沼津の観光スポットとなっています。

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数々の取り組み。その根底にあった想いを言語化する。

こうした取り組みを行っていく中で、自分たちの想いを言葉にし、あらためて企業理念を制作しました。「沼津を活性化する。」というミッションを軸に、ビジョンや一人ひとりの心得となるスピリットを言語化していきました。自分たちだけのことを考えるのではなく、水産業を盛り上げ、沼津全体を盛り上げる。「沼津のあしたを、つくろう」というスローガンには、お世話になった町に対する、佐政水産の想いが込められています。

数々の取り組み。その根底にあった想いを言語化する。の画像

これからの100年も、沼津のために。

開業以来、観光客だけでなく地元の人の訪問数も順調に増加しています。沼津港全体で見ると、かつて100万人だった年間観光客も、160万人を超えています。地域貢献という点で言えば、港八十三番地だけで約140名の雇用を生むことができました。また他にも多くのお店が沼津港に増えています。さらに深海魚を水族館で見て飲食館で食べて楽しむ、という試みも功を奏し、深海魚のブランド化に成功。以前はほとんど値がつかなかった魚が周囲の飲食店でも使用されるようになり、セリの相場も上がって漁師さんたちに喜ばれていると言います。

しかし「今のままでは10年20年後も同じように賑わうとは思いません。水族館だって10年後には廃れてしまうかもしれない。」とも語ります。実際に、今も住んでいる人は減り続けています。

そのため、2019年には港八十三番地を拡張し、水族館の隣にシューティングアトラクションやイタリアンレストラン、ベーカリー、カフェも開業。ららぽーと沼津にもスペインの市場やNYのフードホールをイメージした「メルカドサマサ」を出店するなど、若い人達にも地元に魅力を感じてもらえるような事業を拡大しています。

「地元の人が誇りになるきっかけを、私たちが目指していければと思います。私たちが新しいエリアをつくることで、他にも若い人たちが同じようにチャレンジしてくれるかもしれない。何もしなければ廃れていくだけ。他の地域に出店するのではなく、沼津と共にいきる。今まで100年そうしてきたようにこれからも沼津のあしたをつくっていきたいと思います。」(専務取締役・佐藤慎一郎)

あとがき

地方創生がさまざまな地域で課題となっていますが、その「答えのひとつ」を見せていただいているような気がします。沼津には今、「深海」という町を象徴するものが出来つつあります。沼津港にお伺いすると、深海をテーマにしたお土産なども見かけるのですが、「町の象徴=ブランド」をつくることによって、地域に新たなビジネスが生まれるきっかけになるのだと思います。そして「どうしたら住みたい町になるか、仕事が生まれるか、行きたい町になるか」と、常に沼津の未来を想いながら事業を推進する姿に感銘を受けるとともに、そうした強い信念が道を切り拓くということを学ばせていただいています。これからもお役に立てるよう、微力ながら、私たちも尽力していきたいと思います。

(担当ディレクター:鈴木祐介)

佐政水産株式会社:https://www.samasa.co.jp/