この記事の本題に入る前に、少しだけ自身の紹介をさせていただきます。私は10年ほどアメリカで過ごした帰国子女としてパラドックスに入社し、ブランディング・クリエイティブの仕事を始めました。これまで数多くの理念に触れてきたのですが、全て日本企業のものだったため、「海外にはどのような理念があるのか?」ということをより深く知りたくなりました。海外の“理念企業”と聞いて多くの方が思いつくのは、やはりパタゴニアなのではないでしょうか。
パタゴニアは、イヴォン・シュイナード氏が1973年にアメリカ・カリフォルニア州で立ち上げた、アウトドアのウェアや用品を取り扱うブランド。明確な思想を掲げているため、消費者の中で好き嫌いが大きく別れながらも、アメリカをはじめ日本や世界中でも熱狂的なファンを集めています。
私は個人的にアウトドア派ではなく、パタゴニアの商品を持っているわけでもありません。しかしこの会社の存在は大学時代から知っていましたし、“環境保全”に取り組む姿勢が書かれた理念には、強く惹かれるものがあります。
一方で、「なぜ“環境保全”を目的としながら、製造業に関わっているのか?」ということは疑問として残っていました。この疑問への解を探求する方法として、パタゴニアの歴史と理念、その過程で創業者のシュイナードが立ち向かってきた壁や、考えてきたことを掘り下げていければと思います。
*パタゴニア創業者、イヴォン・シュイナード氏
画像参照:「https://www.huffingtonpost.jp/entry/patagonia-food-provision_jp_5d099e1ae4b06ad4d2580dbf」より
1:2019年、パタゴニアは理念を一新した。
パタゴニアは自社の理念を、2019年にリニューアルしたことをご存知でしょうか?パタゴニアのMission Statementを出発点として、歴史と思想を掘り下げていければと思います。
1-1: 1991年版の理念と2019年版の理念から見えた、明確な違い。
【1991年版のMission Statement】
「最高の商品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する」
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【2019年版のMission Statement】
「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」
2つのMission Statementを見てみると、1991年版・2019年版ともに、“環境保全”に立ち向かう強い決意が書かれていることがわかります。
一方で、大きな違いも見えてきます。1991年版では「どのような方法で環境問題に立ち向かうか?」、すなわち「HOW」が主役となっていましたが、2019年版では「何のために自分たちが存在しているのか?」という、「WHY」へと大きく焦点をシフトしているように思います。
また、旧理念では自分たちの「アウトドア製品メーカー」という業態に縛られているように、さらにはそこから罪悪感を感じていることさえも感じますが、新しい理念では大きな目的に向けて、自分たちの事業やアクションを開放しています。これくらい劇的に理念を一新するのには大きな覚悟が必要ですし、強い意思が込められているはずです。
1-2:この記事で探るMIND IDENTITYとBEHAVIOR IDENTITYとは。
1991年版の理念と2019年版の理念の違いを理解するためにも、パタゴニアの軌跡を辿っていき、各フェーズでシュイナードやパタゴニア の社員が「大切にした価値観」、そして「落としていった行動」を探る必要があると考えます。
パラドックスでは、それらを「MIND IDENTITY(MI)」と「BEHAVIOR IDENTITY(BI)」と呼びます。
CORPORATE IDENTITY(コーポレートアイデンティティ)、すなわち自社のブランドは、MIND IDENTITY(マインドアイデンティティ)、BEHAVIOR IDENTITY(ビヘイビアアイデンティティ)、そしてVISUAL IDENTITY(ビジュアルアイデンティティ)の3つのアイデンティティから成り立っています。簡単にいうと、心・行動・見た目のアイデンティティです。
VISUAL IDENTITYもブランドにおいて欠かせませんが、パタゴニア の場合、会社の進化を最も物語るのは、MIND IDENTITYとBEHAVIOR IDENTITIYでしょう。この記事ではこの2つそれぞれの役割と、ブランディングの中でどのように作用していったかを紐解いていければと思います。
2:若きシュイナードが出会った「製造業」と「環境保全」のジレンマ。
パタゴニアのMission Statementを理解するために、パタゴニアの思想を形成する、創業前の出来事へとさかのぼりましょう。
2-1:ピトン製造から浮上した環境破壊への危機感。
幼い頃から熱心なクライマーだったシュイナードが、初めて会社を立ち上げたのは1957年、たった19歳の頃でした。シュイナード・イクイップメントの主な事業は岩を登る時に壁に刺す「ピトン」の製造で、初めは手づくりから始まったものの、需要が高まる中で徐々に従業員と生産量を増やしていきました。1970年代には、シュイナード・イクイップメントはアメリカ最大のクライミング・ギア・サプライヤーに成長していました。
しかし会社が波に乗りながらも、シュイナードはジレンマを抱えていました。ピトンとは、ハンマーを使って岩に刺し、それを頼りに人間が体重をかけてクライミングを行うもの。クライマー人口が増えていくにつれ、人気のクライミングルートの崖が深刻なダメージを受けていることに気づきました。穴だらけになった崖の姿をシュイナードが自ら見て、愕然としてしまったそうです。
*シュイナード・イクイップメントを立ち上げた頃の、若きシュイナード。
画像参考:「https://www.patagonia.jp/company-history.html」より
2-2:クライマーも地球も想い、生み出したサードアンサー。
シュイナード自身もクライミングが大好きで、これからもお客様にクライミングを楽しんでほしいと考えました。しかし、崖も破壊したくない。ピトンの代理となるものは、見つからないか。そんな発想からたどり着いたのが、「アルミのチョック」でした。
アルミチョックとは、もともと岩山に存在する自然な割れ目に差し込み、展開することで固定できるクライミング用のアイテムで、イギリスではすでに広く使われていました。アルミであれば、ハンマーを使わずに手で岩に押し込むことができるため、ハンマーほどの破壊力がなく、岩の形を変えないのではと考えたのです。クライマーにとっても、地球にとっても、シュイナード・イクイップメントにとってもいい答え、すなわちWIN-WIN-WINを見つけられたのです。
ただし、これまでアメリカの消費者に受け入れられなかったアルミのチョックを、単に販売し始めても売れるわけがない。想いをしっかり伝達しなければいけないと、シュイナードは感じました。その発表をするために初めて「シュイナード・イクイップメント・カタログ」を発行。
このカタログは、製品を宣伝するために作られたのではなく、自社の思想やお客様のメッセージを文章に落とし込んで届けたもの。のちにはパタゴニアがお客様のストーリーを取り上げていく、有名なカタログへとさらに進化していきます。このカタログの第一号にて、「クリーン・クライミング」の大切さをクライマーに訴えかけました。
2-3:「クリーン・クライミング」で自社の価値観を表明。
「キーワードは『クリーン』。プロテクションとしてナッツとスリングだけを使用して登ることをクリーンクライミングと提唱したい。クライマーにより損なわれていない岩はクリーンであり、ハンマーでピトンを繰り返し打ち付けたり、引き抜いたりせず、次のクライマーがより自然な形で岩を経験できるからクリーンであり、またクライマーのプロテクションがほとんど痕跡を残さないからクリーンである。クリーンとはつまり岩の形状を変えないことであり、人間が本来のクライミングに近付く第一歩でもある。」
※パタゴニア公式ホームページ「パタゴニアの歴史」より
この製品、この文章こそ、パタゴニア のMIND IDENTITYの原点だったのではと思います。
カタログの発送後、アルミのピトン使用に躊躇するクライマーもまだ多かったものの、シュイナードが自らアルミのピトンを使ってクライミングを披露し、共感を集めました。数ヶ月以内にアルミのチョックが急速に売れ始め、ピトン製造が自然とフェードアウトしていったのです。
自分たちの信念、正しいことを突き通し、お客様にその想いをまっすぐ伝えることこそ、ビジネスを成功に導く。おそらくこの頃シュイナードの中では、後に策定する理念の原点となる考え方が芽生え始めていたのでしょう。
3:急成長後に迎えた存続の危機が、理念づくりの発端となった。
クライマーの道具から、アウトドア愛好家のウェアへ。事業拡大を果たし、成功を掴んだシュイナードが直面したジレンマを掘り下げていきます。
3-1:業界パイオニアとして果たした圧倒的な成長。
アルミのチョックを売り出した同じ時期に、シュイナードは初めてウェアをつくろうと考え始めたそうです。1970年の冬、シュイナードはスコットランドにクライミング旅行に出かけ、公式ラグビー・シャツをクライミング用に購入しました。ラグビーのシャツは丈夫な縫製でできていたため、クライミングに最適。
さらに、そのシャツはクライミングウェアでは滅多に見ないカラフルで明るいものでした。きっとクライマーの間でも人気になるだろう、とシュイナードはこの時にひらめいたのです。
クライマー用のウェアを製造しようと生まれたのが、パタゴニアでした。色をふんだんに取り入れたウェアやグッズを次々と展開していったほか、機能的な素材も最先端で実験し続け、クライマー、アウトドア愛好家が魅了され、瞬く間に成長していきました。
アウトドアウェアを製造する他社はなんとかパタゴニアに追いつこうとしますが、その技術を手に入れた時にはすでにパタゴニアが次の製品を売り出し始めていました。業界を牽引するパイオニアとして急成長し、『Inc.』誌の「急成長私企業リスト」でも称えられたのです。
*パタゴニアのカラフルなアウトドアウェアのインスピレーションとなった、ラグビーのシャツ。
画像参照:「https://www.patagonia.jp/company-history.html」より
3-2:アメリカの景気後退から、パタゴニアも危機的状態に。
しかしパタゴニアが絶好期を迎えていた1990年頃、アメリカは景気後退に見舞われました。その影響で消費も大きく縮小し、パタゴニアは経営危機に陥ってしまったのです。売上が減少した上、取引銀行自体が売りに出され、回転融資の返済を求められました。
負債返済のために大幅なコスト削減と在庫圧縮を余儀なくされ、それまでは拒んでいた社員20%のリストラもしなければいけなくなりました。パタゴニアでリストラをしたのは、20年近くの歴史の中で初めてのこと。社員のうち多くは仲間、友人、家族で、一人ひとりを大切にしていたため、苦肉の決断だったそうです。
パタゴニアの未来が揺らぐ中、シュイナードはあることに気づきました。人間の活動は、社会や経済など既存の仕組みが耐えられる範囲を超えてしまった。取り返しのつかない、環境破壊も起きてしまった。これ以上に成長したら、世界中のあらゆるエコシステムが崩壊してしまうのではないか。シュイナードは当時のパタゴニアを、世界・経済界全体で起きていることの縮図だと感じたのです。
3-3:原点に立ち返り、自分たちのMIND IDENTITYを確立。
自分たちは、無限に成長することが目的だったのか。自分たちが本当に大切にするべきこと、環境への悪影響を軽減するためにできることは何か。これらを考え直すために、シュイナードはマネージャー陣12名ほどをアルゼンチンのパタゴニア山脈に招き、深く話し合ったそうです。
アメリカに戻った後に書き上げたのが、1991年版の「Mission Statement」でした。自分たちが難しい局面に立った時に正しい問いを投げかけ、正しい答えを出せるように、以下のように定めました。
【1991年版のMission Statement】
「最高の商品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する」
「クリーン・クライミング」を掲げた時から強く意識をし始めた「地球との共創」を明確に言語化したのが、この時でした。パタゴニアが危機的状態に陥ったからこそ、ブレない軸の必要性を強く感じたのです。
3-4:経営の参考にしたのは「イロコイ連盟」と「禅」。
シュイナードがMission Statementを考えていくにあたり、これまで環境を壊してきたアメリカの大企業を参考にしませんでした。シュイナードは、自社の社員が語ったパタゴニアのエピソードを参考にしたほか、パタゴニアの考え方と親和性の高い思想を取り込むために、アメリカ北部・カナダの先住民「イロコイ連邦」や、「禅」の考え方を深く研究したそうです。
例えば、イロコイが何か大きな決断を下すときは、必ず参加者のうち一人が「7世代先の子孫」を代表し、その目線で議論に参加するとのこと。このような「長期的目線」を、パタゴニアに注入したいとシュイナードは考えました。
他の経営メンバーが必死に数字と向き合っている中、シュイナードは新しい理念を社員に正しく広めていくために、自然へと連れ出し、1週間単位のセミナーを繰り返し開催していました。MIND IDENTITYから、BEHAVIOR IDENTITYへと繋げていくために。豊かな自然の中で社員と対話し、新しい理念への共感を生み出し、一人ひとりが行動していけるための大切な基盤をつくっていったのです。
4:価値観の明文化から、パタゴニアらしい商品や活動が生まれた。
MIND IDENTITYの基盤を創り上げた、シュイナード。しかし、考え方を言語化することに留まらず、自社内、そして社外にも発信していき、自分たちの理想へと一歩ずつ近づいていきました。
4-1:本当に自社がやるべきことを、アクションへ移していく。
1991年のMIND IDENTITYの確立から、私たちが今知るパタゴニアのBEHAVIOR IDENTITYが生まれたとも言えるでしょう。
理念について社内外に語るにつれ、シュイナード自身の「WHY」、すなわち「なぜあえてビジネスに関わっているのか」がより鮮明になったとのことです。
お金を儲けて、そのお金で地球保全に貢献するだけでは物足りない。人が長く使える、高品質で環境にも優しい商品を自社で作り、そのビジネスモデルやノウハウを広めることで、業界の常識を内側から変えていきたい。20年前にピトン製造を打ち切った際のように、革新的なアイディアで、環境保全に向けてビジネスを率いるリーダーになれたら。
経営理念を作った1991年から、パタゴニアの行動やメッセージが変わったことが明確にわかります。持続可能な成長を実現できるように、無駄を減らし、経営判断も丁寧に意思を込めて行いました。理念に沿ったアクションとして、1991年以降に以下のような実績を残しています。
4-2:明確になったBEHAVIOR IDENTITY ①:自社内でのアクション
以下は、あくまでも一例です。シュイナードは社員やパートナーを巻き込みながら、以下のような社内革命を起こしていきました。
- 1994年から自分たちの事業に関する「環境レポート」を発行開始。バリューチェーン・製造工程を吟味し、改善できることを発掘しては、仕組み上で反映していきました。
- 1996年、綿で作られたスポーツウェアを全てオーガニックコットンに切り替えました。その他の素材や製造工程にも大きくメスを入れ、環境への配慮を高めました。
- 本社を始め、パタゴニアの店舗のほとんどは古い建物をリノベーションして再利用。自社がもつ建物では、エネルギー消費量も60%削減を実現しました。
- 「WORN WEAR」というパタゴニア製品のリペアプログラムや、古い衣服をリサイクルして製造する活動を開始。
- 毎年、自分たちの売上の一部を地域の小さな環境保護団体に寄付する、支援活動をスタート。
- 社員の働きやすさを支援。託児所の開設、フレックスタイムの導入など、他の企業では10年、20年先にしか取り入れられなかった施策を段階的にスタート。“Great Place to Work”や”100 Best Companies for Working Mothers”にも評価されました。
*WORN WEARリペアスタッフによる修理の様子
参考画像:「https://www.huffingtonpost.jp/entry/patagonia-food-provision_jp_5d099e1ae4b06ad4d2580dbf」より
4-3:明確になったBEHAVIOR IDENTITY ②:業界・社会に向けたアクション
その他、パタゴニアが業界のロールモデルとなれるように、ビジネス界や同業者にも働きかけるアクションを始めました。
- 1% for the Planetという認定を設立し、同業も売上を環境保全に寄付することを勧め始めました。2020年現在、250ミリオンドルの寄付につながっています。
- OIA(Outdoor Industry Association)とともにHigg Indexという指標を作り、アウトドア衣服・フットウェア業界のサステナブルな製造基準を設定。
- Fair Labor Associationの創設メンバーとして、アパレル業界の就労法の改善運動を始めました。
*1% FOR THE PLANET公式ホームページ
「https://www.onepercentfortheplanet.org/」より
以上のように1991年に作ったMission Statementは、自社内の改革に留まらず、アウトドア業界、さらには全ての企業のロールモデルとなっていく活動の発端となったのです。
5:自分たちの活動に自信を持ち、より視座の高い理念へと刷新。
2011年。パタゴニアの事業範囲が広がり、オーガニック食品を取り扱う「パタゴニア・プロビジョンズ」も立ち上げました。
*Patagonia Provisions公式ホームページ
「https://www.patagoniaprovisions.com/」より
ホームページにて、シュイナードがパタゴニア・プロビジョンズを立ち上げた想いが記されています。
「最も重要なことは、『ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する』ことなのです…食品業界ほどこの危機が緊急に感じられる分野はありません。現代のテクノロジーと化学と輸送が一緒になり、これまで以上に人びとと食のあいだに距離を作っています。サーモンは無差別に捕獲されるか開水域の養殖場で育てられ、野生のサーモンを危機にさらしています。草原地帯は過放牧により荒らされ、家畜は抗生物質漬けにされ、古代の帯水層は持続不可能な農作物に吸い取られています。生産高を上げるために化学薬品が最大限に使用され、遺伝子組み換え作物の未知の影響が産業全体に暗雲のごとく覆いかぶさっています。すなわち食の流れは壊れています。パタゴニア プロビジョンズは食の流れを修復するための解決策を探る試みです。」
※パタゴニア・プロビジョンズ公式ホームページ「なぜ食が重要なのか」より
もちろん、食品の事業はこれまでパタゴニアがアウトドアウェアやグッズの製造で培ってきたナレッジを生かせる分野だと思います。しかしこの言葉から見えてくるのは、ビジネスがすでに「手段」となっているということ。パタゴニア・プロビジョンズは環境保全に貢献するという大きな目標、すなわち「WHY」から逆算して、シュイナードが始めた取り組みなのだと強く感じさせられます。
パタゴニア・プロビジョンズの立ち上げを通して、自分たちは製造者としてのアイデンティティに縛られずに、目的に向けて自由に発想できる自信を得たのだと感じました。
6:最後に
改めて、2019年に一新された新しい理念をみてみましょう。
【2019年版のMission Statement】
「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」
これまで辿ってきた通り、パタゴニアは急成長を遂げた後に経営危機に陥り、その際に言語化した理念(MIND IDENTITY)に伴うアクション(BEHAVIOR IDENTITY)を30年近く積み重ねてきました。その活動を通して、パタゴニアはビジネスを通してお客様、自社の社員、環境、社会に貢献できる独自の方法を見出してきました。
どのような企業も「理想」と「現実」の間に挟まれる、辛い時期があると思います。パタゴニアにとって1990年代は、まさにそのような時代だったのでしょう。
しかし、自分たちの価値観や目指す未来を理念として言語化することで、どのように「理想」に向けて進んでいくべきか、何を解決していくべきかが少しずつ見え始め、一歩ずつ踏み出す勇気が得られるのだとパタゴニアの歴史はみせてくれているように思います。
シュイナードは、自社が抱えるジレンマに大いに気づいています。2007年に出版した「社員をサーフィンに行かせよう」では「Patagonia will never be completely socially responsible. It will never make a totally sustainable product(パタゴニアは完全に責任を果たしている会社にはなれないし、サステナブルな商品をつくることもできない)」と書いています。 しかしその最後に 「But it is committed to trying(しかし挑戦し続けることを諦めない)」と言っているのです。
パタゴニアは「理想の高さ」から、世界中のアウトドアファンだけではなく、環境問題や人権問題に興味を持つ人たちの人気を集めています。そんなパタゴニアのファンたちは、常に完璧な成果を求めているわけではありません。理想に向けて、困難に立ち向かいながらも、試行錯誤を重ねていること、最善を尽くしていることを求めているのです。
その結果、自社を超えて、業界を超えて、国境を超えて共感するファンを集めることに成功しているのです。理念がブランドになっていると言っても、過言ではありません。
ビジネスの中で生まれる葛藤と向き合い、自分たちを高めていこうという約束とアクションが、お客様、社員、社会の信頼に繋がるのだと、パタゴニアの歩みが示してくれているように思います。
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「パタゴニアの進化から見えた、挑戦と葛藤とは?理念経営のグローバル事例をご紹介。」に対する1件のコメント