子どもには、自由に育ってほしい。自立して、自ら学ぶ人になってほしい。そんなふうに考え調べていると、出会ういくつかの教育理論(教育カリキュラム)の中にモンテッソーリ教育があります。
モンテッソーリ教育を行う保育園・幼稚園の存在や、史上最年少でプロ棋士となった藤井聡太さんが受けていたことで知っている、という方もいるかもしれません。
本記事では、名前は聞いたことがあるけど、どんな考え方なのかはよく知らないという方に、モンテッソーリ教育を理解する上で大事なポイントをご紹介します。
1:モンテッソーリ教育とは
モンテッソーリ教育とは、イタリアの医師マリア・モンテッソーリが20世紀初頭に考案した教育法。100年以上も前に考えられたものではありますが、現在も世界中で実践されているものです。
基本的には「自己教育力」、つまり子どもが自ら学ぶ力を持っていることを大切にし、その力を発揮できるよう環境や方法を用意することを重要視するものです。
大人がやってあげる、教えてあげる、指示する、といったことは行わず、子ども自身が考えたり実践することを尊重する考え方です。嫌なことを無理やりやらせるよりも、好きなことを見つけたり、その力を伸ばすことを重要視するのが特徴です。
裏を返すと、「大人の言うとおりにするいい子」にしようとする試みではありません。そのため、「個性的すぎる子になる」、「協調性に欠ける子になる」、といった声が挙げられていることも事実です。
もちろん教育に対する考え方なので、正解があるわけではなく、合う合わない、賛否両論あるとは思いますが、実際にどんなことを大事にしているのかをご紹介していきます。
2:モンテッソーリ教育の根本になる3つの考え方
モンテッソーリ教育には、根本になる3つの考え方があり、子どもにとって、最も身近な存在である保護者は、この3つを大切にして欲しいとされています。
2-1:自主性の尊重
この「自主性」という考え方がモンテッソーリ教育最大の特徴ともいえます。教育理論の根底にあるのは、何より子どもが自らを育てられると信じること。だから子どもが何かやってみようとすること、考えようとすることを、大人はただただ「手伝うだけ」。これが基本です。
たとえば子どもが何か散らかしたり、道端でマンホールを触っているようなときでも、彼ら彼女らにとってそれは「学び」であり、成長しているときです。大人が「散らかさないで!」と片付けることや、「汚いからやめなさい」と静止することは基本的にNGとされます。
よく、子どもはひとりで何もできないとされていたり、子どもには大人が言って聞かせてやるものだと思われがちですが、子供は自分たちの五感をつかって、世の中の事象を理解しようとしているとモンテッソーリ教育では考えます。よく物を口に入れたり、舐めたり、指で触ったりするのは、その理解の過程とされています。
しかし、実際に難しいのは、それが明らかに危険な場合は、どうしても止めてしまいますね。子供の理解プロセスの尊重と安全確保。ここは、モンテッソーリ教育を実践する皆が悩むポイントのようです。
2-2:敏感期
モンテッソーリ教育では、「敏感期」と呼ばれる、あるものごとに対して特別に強い感受性を発揮する時期があるとしています(ちなみにそれは、何歳と明確に決められるものではありません)。
たとえば特定の何かにすごくこだわったり、好き嫌いが激しくなったり、ずっと同じことをして遊んでみたり。ちょっと保護者からすれば理解しにくいことをしていても、そのタイミングこそ、子どもが成長しているときです。
この時期でも自主性を重要視し、大人がそれを静止してしまわないようにすることが大切とされています。子どもが存分に学びを行えるよう、保護者はそれをサポートしなくてはなりません。
2−3:環境
子どもが自ら学ぶには、整った環境が必要であるとモンテッソーリ教育では考えられています。
いくつか要素はありますが、例を挙げると、対象物が子どものサイズであること(大人の手を借りず自分でできる)、活動的に行えること(ただ眺めたりしているようなものに子どもは飽きやすい)、保護されていること(きちんと大人が見ているよ、とわかるように)などがあります。
基本的には、子どもが自ら自由にやれる環境を必要とします。ただし、自由はただ放置していることとは異なります。危険な行為が放置されていることは、上記で挙げている「保護されている環境」には当てはまりませんよね。
「やってはダメ」と否定せず、全て放任するのでもなく。まずは肯定し、見守りながら成長させることが大切です。
3:モンテッソーリ教育は24歳までが発達段階
日本では、モンテッソーリ教育が「幼児教育」として認識されていることが多く、モンテッソーリ教育を実践している幼稚園や保育園などをよく見かけます。
しかし、実はモンテッソーリ教育では、24歳までを4つの発達段階に分けて教育を考える体系になっており、本来日本のように幼児教育だけに適合される物ではありません。
0歳から6歳までを五感を使って情報を取り込み、整理していく期間、6−12歳の道徳観や社会組織の形成などに取り組む期間、12−18歳における大人の自己を形成する期間、18−24歳の学びを受け入れられる準備期間としています。
ところで、なぜ日本では幼児教育限定だと一般的に認識されているかといえば簡単な話で、小学校以降でモンテッソーリ教育を実践する学校がほとんどないからです。
正確に言うと、存在はしていますが義務教育とみなされない認可外学校という扱いになります。いくつかの学年が同じクラスになっていたり、体験を重要視する授業が多かったり、宿題やテストがなかったりといった特徴があるようです。
日本の(とくに公立の)学校では、先生に従うことやルールを厳格に守ること、カリキュラムに沿って学ぶことがかなり重要視される傾向にあります。そういった方針とモンテッソーリ教育は相反する部分も多そうです。
一人の教師が何十人もの生徒を担当しなければいけない実際の教育現場では、生徒の個性を理解し、異なるベクトルや成長スピードをもつ個々の自主性を手助けするような教育方針は現実的ではありません。
なんとか生徒全員が同じレベルのことができるようにすることが目的になっている現在の教育現場では、モンテッソーリ教育を忠実に実現するのは難しそうです。
【コラム】
ワガママも全て自由にさせなきゃいけないの?
子どものすることを尊重…というと、何でも彼ら彼女らがしたいようにさせて、大人は見ているだけにしなければならないと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。
ポイントは、「自分でやる」「(やらせるのではなく)一緒にやる」を意識することです。
具体的な例で考えてみましょう。好き嫌いをして特定の食べ物を食べないとき。無理やり叱って食べさせるのではないアプローチを考えてみます。たとえば、子ども自身に料理の盛りつけをしてもらったり、調理に参加してもらう。すると、「自分でつくったから」「自分が決めたから」という気持ちが、苦手なものを食べることにつながることがあります。
あるいは、子どもがひとりで遊びながら刃物など危ないものを扱おうとしたとき。せっかく興味があるのに、一方的に取り上げるのはNGです。しかし危険なものは危険なものなので、「大人がいるときだけにしてね」と約束して、「一緒にやろう」という姿勢を見せることも効果的でしょう。
4:お家での行動に取り入れたいモンテッソーリ教育のエッセンス
教育方針に沿って考えると、家の中でも気をつけたいポイントがいくつも見つかります。
■「イタズラ」ではなく、「学び」かもしれない
重要なのは子どもが自らを育てようとしている瞬間、学ぼうとしている瞬間を邪魔しないことです。
たとえば、硬貨の貯金箱の中身を全部出してしまった。そんな経験はないでしょうか。こういったとき、子どもは実際に硬貨を触って触感から学んでいたり、硬貨を種類ごとに並べてみてその秩序を学んでいたりします。
もちろん硬貨を口に入れてしまうなど危険な行為は止める必要がありますが、「片付けるのが面倒だから」のような大人の都合で、彼ら彼女らの興味を途切れさせてないようにすることも大切だとされます。
■自分で決めさせる
子どものやりたいことを、尊重します。たとえば、一緒に遊ぶときなどは何をして遊ぶか、子どもと一緒に相談してみることも大切です。与えてやらせる、大人が楽なものをさせる、といったことだけでは見えない、子どもの力が育つかもしれません。
■子どもが扱えるサイズのものを用意する
子どもが自ら学ぶには、整った環境が必要でした。そのためには、「大人のため」に都合よく整備された家の中では学べないことがあります。
たとえば子どもが作業しやすい高さの台があるか。子ども用のハサミだったり包丁などがあるか。「自分でやってみたい」と思ったときに、できるものを用意してあげるのが大人のサポートです。
5:習い事の中のモンテッソーリ教育
私たちパラドックスが運営する美術教室、Visions Palette“ビジョンズパレット”でも、モンテッソーリ教育と共通する考え方を取り入れ、子どもたちの可能性を広げるサポートをしています。この章では、具体的な取り組みをいくつかご紹介。日常の子育ての中でも取り入れられるエッセンスがあるかもしれません。
■何をつくるか、子ども自身が決める
ビジョンズパレットでは、「今日はこの画を描きましょう」とテーマを課すことはありません。もちろん、保護者の方が「これをつくるんだよね?」と誘導することも基本的にはお断りしています。
基準は、生徒となる子ども自身が何をしたいか、どうしたいか。「上手い」作品よりも、やりたいと感じられる作品を形にすることを重視します。
■大人・講師はやりたいことをサポートする
子どもがやりたいことをやらせることは大切にしつつも、ただ好き放題やらせ、放置することはしません。大人がサポートを行い、見守ることで作品を完成までつくりきります。
その際大切なのは、目標を子どもと講師が一緒に決めることです。何をつくるのか、どこまで頑張るのか、話し合ってゴールを設定します。そうすることでただ楽しんで終わるのではなく、最後まで自分の力でやりきることを知ってほしいと考えています。
■小さな体験をたくさん用意する
大人と同じように大掛かりな道具で壮大な作品をつくることは、子どもには難しいものです。過程が長すぎると、子どもは飽きてしまう。そこでビジョンズパレットでは、自分で決めて、頑張って、最後までやる、といった小さなサイクルをたくさん経験してもらうことを重要視しています。
大人と同じように、ではなく、子どものサイズや規模、能力に合わせて、自由にやりやすい環境を用意することが大切です。
ビジョンズパレットのより詳しい取り組みはこちらの記事でも紹介しています。
「褒めて伸ばす」美術教育で見えてきた。子どもの想像力との付き合い方
6:まとめ
モンテッソーリ教育の考え方を全て個人が実践するのは、かなり難しい部分もあるはずです。いつもやりたいことを待ってあげられるほどの時間もないでしょうし、張り付いて見守ってあげることもなかなか難しいものです。
ただ、「こういう考え方もある」ことに触れて、エッセンスを真似してみることに意味はあるかもしれません。
つい「やめなさい」と指示してしまうときに、「どうしてこの子はコレをやりたいんだろう?」と一瞬考えることで、子どもの自主性を育てるきっかけになるかもしれません。大人の望むようにさせるだけでなく、子ども自身がやりたいことを見つけることで、自律的な人へ成長するかもしれません。
教育になかなか「絶対」はありません。その中でも、少しでも子ども自身が自分らしさを見つけたり、自ら成長する力を身に着けたりできるように、私たちもヒントを探しながら情報をお届けできたらと思います。
今回の記事はこちらの書籍を参考に執筆いたしました。本記事を読んでモンテッソーリ教育に関心をもたれた方は、こちらも読んでいただけるとより理解が深まると思います。
『モンテッソーリの幼児教育 ママ,ひとりでするのを手伝ってね! 』相良 敦子著 講談社
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