様々な企業が掲げている理念は「企業にとって重要な言葉」という認識はあっても、
その定義までは知らないという方も多いのではないでしょうか。
例えば「経営理念」と「企業理念」には、どんな違いがあるのでしょう。
「どっちでもいいじゃないか」という声も聞こえてきそうですが、
これから理念をつくろうとしている方、理念について調べている方は特に、
改めて定義の確認をオススメします。
なぜなら理念は、組織の行き先を決める大切な言葉だからです。
「ちょっと修正」ができないものだからこそ、理念を決めた後に違和感を感じることがないよう、言葉選びにも納得して進んでほしい。そんな想いでこの記事を書きました。
今回は、
- 経営理念と企業理念ってそもそも何がちがうの?
それぞれどんな場面で使い分ければいいの?
という疑問を解消していきたいと思います。
私たち株式会社パラドックスは、業界業種問わずたくさんの企業様の理念づくりをお手伝いさせていただいています。その中で、ワードの意味や定義について考える機会も多く、この記事を書くことにしました。読んでくださっているみなさんに、少しでもスッキリしていただければ幸いです。
1. 経営理念と企業理念の違い
まずは概要からご説明していきます。
私たちは、経営理念と企業理念について、次の表のように考えています。
企業理念 | 経営理念 | |
何を明文化するか | 企業のあり方・ 存在意義や目的 | 経営の目標・方針・手段 |
変更のタイミング | 企業の哲学であるため 5〜10年単位で使用し 大きな変更は少ない | 経営の方針であるため 経営者が変わるときに 理念も変わることがある |
そもそも「理念」とは、「特定の物事に関する根本的な考え方」を指します。
つまり「〇〇理念」といえば、「〇〇における根本的な考え方」を示すということ。
経営理念:経営の進め方における根本的な考え方
企業理念:企業という存在における根本的な考え方
といえます。もう少し具体的に、それぞれの定義を次のように置いてみます。
経営理念:事業・顧客・利益を拡大し続けるための目標や方針
企業理念:企業のあり方や、存在している理由・目的を示したもの
なぜこのように定義したのか?次の章ではさらに詳しく説明していきます。
2. 企業理念とは、企業の「あり方の定義」
- 企業理念
- 企業のあり方や、存在している理由・目的を示すもの。
そもそも企業とは、世の中の人々に対して価値を提供し、喜びを届ける存在です。反対に、お金儲けだけを重視し人を不幸にする組織は、いい企業とは呼べませんし、世の中に必要とされないため、何十年も存続することはできません。
だからこそ企業は、自分たちはどんな存在でありたいのか、何のために存在するのかを宣言します。そういった、企業の「あり方」「存在している理由」の定義が、企業理念と呼べるでしょう。さらに具体的に言えば
・その企業が何のために存在しているのか。
・どんな未来に向かって企業活動をしているのか。
・その企業の強みはなんなのか?
・日々どういったことを心がけているのか。
といったその企業のあり方をまとめたものが企業理念ということです。
企業理念の中には、MISSIONやVISIONなど、様々な言葉がある場合も多いですが、基本的には「企業としてどうありたいか」「自分たちが存在する理由は何か」を示しています。特にMISSIONに注目してみると、あり方や大きな目的を定義した言葉であることが多く、わかりやすいかと思います。
ここで、企業理念の例をひとつ見てみましょう。
企業理念の例:タイガー魔法瓶株式会社
*以降、理念の引用時は公式HPの表記順に基づき紹介します。
Mission:温もりあるアイデアで、食卓に新たな常識をつくり続ける。
この言葉が、タイガー魔法瓶の存在している理由や使命にあたる部分です。そして、MISSIONとともに、自分たちの価値(Value)や、実現したい未来(Vision)が表現されています。
*企業理念についての詳細は、下記の記事もご覧ください。
企業理念とは?100年続く企業になるために必要な企業理念を徹底解説。
3. 経営理念とは、企業の「経営の方針」
- 経営理念
事業・顧客・利益を拡大し続けるための目標や方針を示すもの
企業理念と混同されがちですが、経営理念とは経営をする上での方針。つまり、経営上でどのような目標を定めるか、その目標に向けてどんな手段をとるのかを定めた言葉です。ですから、経営者が変われば経営の方針も変わり、経営理念も変わる可能性があります。
「成長をいかに続けるか?」という観点も含まれるため、事業や顧客、利益の拡大を続けるための方法を示した言葉となる場合が多いです。
つづいて、経営理念の例をひとつ見てみましょう。
経営理念の例:株式会社ツムラ
株式会社ツムラでは、経営理念を「自然と健康を科学する」と置いています。つまり、企業として「自然と健康を科学する」ことで成長する、と宣言していると言えます。目的ではなく、手段を示していることがポイントです。
また、表現は異なりますが、企業使命すなわちMISSION( ≒ 企業理念)として、「漢方医学と西洋医学の融合により世界で類のない最高の医療提供に貢献します」と置いています。こちらは、企業としての目的についての記述ですね。
このように、企業理念と経営理念はどちらか一方だけでなく、共存する場合もある言葉なのです。
ここまでそれぞれの定義を説明してきましたが、実際には企業理念と経営理念を意識して使い分けている企業はそこまで多くありません。多くの辞書でも、それぞれの言葉の用法は明確に分けられておらず、実は定義があいまいな言葉なのです。
それでも、大切な理念に用いる言葉だからこそ、それぞれの役割をはっきりさせることは重要です。意味や目的を定義する企業理念と、手段や方針を定義する経営理念。違いをはっきりさせて、よく検討することをおすすめします。
4. 理念の実例
企業理念と経営理念、それぞれ他の企業の例もみてみましょう。
企業理念の例
【楽天グループ】
ミッション・ビジョンに加えて、価値観・行動指針を示した「楽天主義」という言葉を掲げています(ここでは楽天主義についてはスペースの都合上、割愛させていただきました)。「イノベーションを通じて、人々と社会をエンパワーメントする」というMISSIONが、楽天グループの目的、存在意義を示しています。また、ビジョンでは「世界中の人々が夢を持って幸せに生きられる社会を創るために」という、目指す未来も示されています。
経営理念の例
【ライオン株式会社】
社是と経営理念があります。社是では経営の基本である「愛の精神の実践」と、「人々の幸福と生活の向上という」企業の目的が同居している形です。それを受けて経営理念では、どのように人々に価値を提供するか、どのように企業として成長を続けるか、という詳しい内容が示されています。経営理念には手段が中心に書かれていることがわかります。
5. まとめ
ここまでお読みいただきありがとうございました!
企業理念は「あり方や目的」、経営理念は「成長の目標や手段」と説明してきましたが、少しでもスッキリしていただけたでしょうか。どちらを策定するにあたっても大切なことは「いま自分たちに必要な言葉は何か」を明確にすることです。
人に役割があるように、言葉にも役割があります。それぞれの役割を意識することで、人も言葉も、最大限のパワーを発揮できる。そんな組織が増えることを願っています。
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