様々な企業や経営者にも取り入れられ、ビジネスパーソンの中でも注目を集めているマインドフルネス。名前はよく聞くものの、実際に体験したことがある方はまだまだ少ないのではないでしょうか。
今回はメディテーションサロン・Melonを経営する橋本大佑さんに、マインドフルネスについて伺いました。
前半ではビジネスにおける組織づくりへ生かしていけるマインドフルネスについて。記事の後半では、歴史的背景にも触れながら、マインドフルネスと宗教や科学との関係について教えていただきます。
プロフィール
橋本大佑
株式会社Melon代表取締役CEO。早稲田大学卒業後、シティグループ証券投資銀行本部を経て、米系資産運用会社、オークツリー・キャピタル・マネジメントで日本株運用に携わる。15年間の外資金融でのキャリアの中で、マインドフルネス瞑想を継続し効果を実感。2019年に株式会社Melonを設立し、日本初のオンライン・マインドフルネスのプラットフォーム「MELON ONLINE」をスタート。法人向けのマインドフルネス研修やイベント登壇、個人向けの講演など各方面でマインドフルネスを広める活動を継続中。一般社団法人マインドフルネス瞑想協会理事。
Q. マインドフルネスとは、何ですか?
「瞑想」や「座禅」のようなものだとイメージをする方も多いのではないでしょうか。あるいは、「呼吸を意識することが大切」と聞いたことがある方もいるかもしれませんね。マインドフルネスは、現在の自分に立ち戻るためのトレーニングのこと。みなさんが座禅でイメージするような「心を無にする」ものとは少し異なります。とはいえ、仏教や禅とは切っても切り離せない関係にあるので、後ほど詳しくお話ししますね。
マインドフルネスは瞑想の中でも「ヴィッパサナ−瞑想」と呼ばれるものに近いのですが、“いま(今)・ここ(此処)”を「観察する」ことがポイント。無になろうとするのではなく、観察するのが大事なのです。観察対象は、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚と、自分の心が対象になります。
たとえば目を閉じて、少しの間座ってみる。そのときに「明日のスケジュールはどうなっていたかなぁ」と、つい考え始めてしまいますよね。それを考えないように無になることは、マインドフルネスの重要なポイントではありません。「いま自分はスケジュールについて心配になっているなぁ」ということに気づいて、それを気づくことに留めるのがマインドフルネスです。吸った空気が身体のこのあたりを通っているなあ、外から音が聞こえるなぁ、と“いま・ここ”の感覚を感じます。空気が通る感覚を無にしようとことも、音が何の音か考え始めることも、行いません。
Q. マインドフルネスがビジネスの文脈で注目されるのには、どのようなポイントがありますか?
パフォーマンス向上や自己を見つめるためなど、様々な目的をもつ方がいらっしゃいますが、今回はリーダーシップやチームづくりのときに必要なEQやコミュニケーションに寄与する点についてお話したいと思います。
EQとは、よく「心の知能指数」だと言われます。Emotional Intelligence。マインドフルネスのトレーニングは、EQのトレーニングと捉えることができます。自分の感情を認知する能力であり、それは他人の感情を認知する能力にもつながるので、正しくコミュニケーションするためのトレーニングになるのです。
とくにリーダーやマネージャーには、人を巻き込む能力が求められます。多様性のあるチームをひとつにし、自分よりも優秀な人を巻き込んでチームを前に進めなくてはなりません。そのとき自分とは異なる多様な人たちがどんなふうに考えたり感じていたりするのかについて、感じ取ることが重要です。あるいは、自分自身がチームのメンバーと接するとき、自分の感情について自覚的であることも求められるでしょう。
Q. 自分や相手の感情を感じることがよりよいコミュニケーションにつながるとは、どういうことですか?
例を挙げて考えてみましょう。想像してみてください。あなたはチームのマネージャーで、部下が何度も遅刻を繰り返しており、あなたがそれに怒っていたとします。そのときただ怒りをぶつけるのと、「自分はいま怒りを感じているな」と自らを観察して感じた上で部下とコミュニケーションをとるのとでは、きっと対応が異なる。後者の方がより冷静なコミュニケーションができるのではないでしょうか。
ここで重要なのは、マインドフルネスは心を無にすることではなかったという点です。つまりこの状況において、怒ってはいけないとか、怒りは抑圧しなければと考える必要はありません。自分はいま怒っているのだ、と観察することが重要なのです。
これは、相手の言動や感情に対しても同じです。部下が遅刻をくり返しているのであれば、「遅刻をくり返している」という事実だけをまずは認識する。あるいは、それについて部下がどう思っている、どう言っているのかをシンプルに聴くのです。
部下の遅刻について自分の上司にはどう説明しようとか、昔から遅刻をくり返していたからきっとやる気がないのだろうとか、思考を深めてはいけません。それは、結局バイアスのかかった状態でコミュニケーションを取っていることになります。事実と話される内容にまずは意識を100%向けてみる。そうすると、相手の感情や言わんとすることが正しく汲み取れてよりよいコミュニケーションにつながるのではないでしょうか。
Q. マインドフルネスな状態をビジネスに活かす際のポイントはどんなところですか?
繰り返しになる部分もありますが、判断したり思考したりせず、“いま・ここ”にあるものを感じることが大事です。自分の感情や相手の言うことをそのまま受け取ります。ビジネスの文脈ほど、「次のアクションへどのようにつなげようか」とか、「どこに原因があるのか」と他の思考にすぐつなげてしまいがちになります。しかし、それはマインドフルな状態とは言えません。
もちろんビジネスには判断や思考は当然必要なものなので、それらを全て排除しようということではありません。常に思考し続けるわけでもなく、常に観察するだけでもなく、両方必要だということ。ビジネスは判断や思考に偏りがちなので、マインドフルな状態をつくりにくくなってしまうため、意識してみてほしいという話です。
自分の感情や体調に気づけるように。チームの人の感情や言葉を受け止められるように。そうすることで自分のバイアスにも気付けるかもしれないし、相手に寄り添うコミュニケーションが可能になるかもしれない。結果的にチームのパフォーマンスも向上していくのではないでしょうか。
ここからは、よりマインドフルネスについて掘り下げた内容。仏教や科学との関係や、歴史的な流れにも触れてマインドフルネスについて学んでいきます。
Q. マインドフルネスと仏教の関係を教えてください。座禅とはどう違うのですか?
冒頭で少し触れたように、座禅とマインドフルネスは違うものではありますが、全く違うというわけでもありません。どちらも仏教と深く関係があります。遡ると、2600年前からあった原始仏教の瞑想法です。仏教は受け継がれる中で、いくつかの流派に分かれています。日本の中でも、親鸞とか空海、最澄と様々に仏教を説いた人がいる。歴史の教科書で読んだことのある方も多いのではないでしょうか。
その分かれたひとつが、禅宗。諸説ありますが、禅宗の座禅はサマタ瞑想と呼ばれる瞑想法に近いもので、極端に言えば、強く集中することで、我をなくし、無になろうとする瞑想です。みなさんのイメージにある座禅は、これじゃないでしょうか。
対してマインドフルネスは、仏教の流れにはあるものの、禅宗とは少し異なります。ヴィパッサナー瞑想と呼ばれる瞑想法に重きが置かれ、“いま・ここ”の観察を大事にします。完全に無になるというよりは、起きていることに気づく、ということの方が近いでしょうね。我をなくすのではなく、五感を使って起きている現象を見つめるトレーニングです。
Q. マインドフルネスは精神世界の修行?
日本だと精神世界やスピリチュアル、宗教といった言葉に対して、バイアスがかかった状態で見られやすいかもしれませんね。どこかでタブー視している雰囲気があるように思います。たとえばアメリカだと、スピリチュアルはかっこいいものとして受け止められることが多いんですよ。ネガティブなことではなく、かなりオープンに語られます。
アメリカではオープンに捉えられるだけでなく、マインドフルネスについて科学的なアプローチも積極的に行われています。始まりは1950年代。精神世界へ興味を持った若者がインドへ渡ったり、日本の禅について勉強し始め、後に著名な脳科学者や心理学者になった例があるようです。
1970年代以降になると、より科学的なアプローチが進みます。fMRIのような機器を使用して、脳の状態が計測可能になる。そうすると、マインドフルネスのようなメソッドが脳にどのような効果をもたらすかが可視化されるようになりました。
Q. マインドフルネスは宗教ではなく科学?
宗教ではなく科学、というと語弊があるかもしれません。結局やることは変わらないので、違う光の当て方だと考えてもらうといいでしょう。
科学というアプローチがあったから、病院などのプログラムに取り入れやすくなったり。あるいは、様々な人種・宗教が共存している国でも取り入れやすくなったりしました。それが、科学のアプローチによって可能になったことです。
しかし、それは宗教を科学で解明できたということではなく、暫定的に分かっていることがあるだけにすぎません。だから、科学者は宗教へのリスペクトをもって謙虚に研究を重ねているんですよ。
マインドフルネスをやってみよう!
Q. 日常的に実践するにはどんな環境がいいですか?
できるだけ静かで、人から邪魔されない環境の方がいいです。音楽をかけるかどうかは人によりますが、音楽が思考につながってしまうこともあるため、そこは注意。ボーカルは入っていないものがいいでしょう。
Q. 毎日やるものですか?
ぜひ毎日座って、やってみてください。1日5分でも10分でもいいので。理想を言えば、朝。仕事を始める30分前くらいに毎日時間をとってみましょう。週4から週5回、ルーティンにした方がいいです。続けるうちに、集中できるようになります。
Q. 集中するのが難しいときは?
無理に「集中して無になろう」と考える必要はありません。大事なのは観察なので、「あ、考え事しちゃってるなぁ」と気づくのが大事。その考え事を深めないように、“いま・ここ”に戻って来れれば正解です。それを何度も繰り返すことで、集中力が長く続くようになると思います。
マインドフルネスの実践は、毎日少しの時間からでも可能なもの。思考をし続けなければならない日々を離れて、自身の“いま・ここ”を見つめるトレーニングをぜひ実践してみてください。
株式会社Melon
科学的なアプローチに基づいたマインドフルネスのプログラムを開発し、専用のスタジオで提供することを目的に設立されたスタートアップ。米国の大学や研究機関で効果が認められたエビデンスをベースに、初心者にも取り組みやすく、継続しやすいマインドフルネスプログラムを、日本で普及させることをミッションとして活動しています。
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