「いい人材を採用したいが、差別化ポイントがつくれず曖昧になっている。」
「採用トレンドは変わるが、採用活動を刷新する時間と予算がとれない。」
「採用方針を外部に頼んだが、大事にしたいポイントがずれている。」
これらは人事部の方からよくお聞きするお悩みです。自分たちで採用活動を組み立て、実践してみようと思っても、何から考え始めればよいか分からない。外部にお任せすると意思疎通に時間がかかってしまう。そんな状況を打開するために、採用において大事にして欲しいもの。
それが、採用コンセプトです。
採用コンセプトを設定することで、自社の強みやらしさ、他社との差別化、求める人材などを整理し、言語化することが可能となります。コンセプトがあれば、採用活動における意思疎通のブレが減らせるため、学生・転職者はもちろん、社内や外部パートナーなどに、採用方針を正しく伝える大きな力となってくれるはずです。
最も大事な採用コンセプトとその効能。早速、見ていきましょう。
1:採用コンセプトとは
採用コンセプトとは、一言で表すと「採用活動における指針」です。同志探しの指針、とも言えるでしょう。それを見れば、企業がどんな人を採りたいのかが伝わる。どんな企業文化なのかが伝わる。さらに対学生・転職希望者に限らず、企業の内部においてリクルーターや面接官を行うメンバーに伝えて行く際にも必要なもの。関係するすべての人に、どんな企業で、どんな採用を行っていくのかを示す、指針となるものだと言えます。
1-1:採用コンセプトは、理念やらしさから始まる
採用コンセプトづくりは企業の理念や、その企業ならではの「らしさ」が起点です。どのような理念を掲げているか、その体現のためにどんな事業をやっているか。どんな価値提供をしていて、そこにはどんな人が必要なのか。
これらを深堀りして出てきた、他の企業にはない価値観や独自の文化の存在がとても重要で、採用活動における差別化に繋がっていきます。この企業の理念やらしさと、学生・求職者の求めている情報の重なる部分がコンセプトの基となります。
採用コンセプトについての詳細は、いいコンセプトについて解説する2章や具体的なコンセプト制作プロセスについてご紹介する3章で、詳しく触れていきます。
1-2:採用コンセプトは、表現や制作物の指針になる
採用コンセプトは企業の理念やらしさを基につくるもので、採用活動におけるあらゆる施策の指針になります。
採用パンフレットや採用サイトはもちろん、説明会や面接方法、リクルーターの接し方など、オンライン・オフライン問わず様々なことに適用されます。採用コミュニケーションすべてが、採用コンセプトに基づいた設計になっていることが大事なのです。
実際に多くの企業様では、具体的な制作物を社内でつくるのではなく、外部の制作会社などへ委託・発注することが多いかと思います。その際に、コンセプトを共有してから、制作に進むことが重要となります。
1-3:コンセプトを設定するメリット
採用コンセプトのあるなしでそんなに採用そのものが変わるのか?と疑問に思われるかもしれませんが、実際には大きな影響力があります。
採用コンセプトをつくることで(コンセプトをつくる過程も含めて)、自社の採用方針がより明確になりますし、採用チーム内の視線合わせもできます。共通認識ができれば、それをターゲットである求職者に、より早く、正確に伝えていくことができるようにもなります。
たとえば、企業が実現したいビジョンとその世界観に対し、イメージしやすい採用コンセプトがあることで、学生・転職者へのコミュニケーションスピードは格段に上がります。
さらに、どのような企業なのか、どのような採用基準を持っているかが明確になることで、他社との差別化にも繫がります。差別化が明確にされていれば、ミスマッチも減り、企業と求職者のお互いにとって非常に大きなメリットになります。
採用コンセプトが明確になると、具体的な採用ターゲットが浮かび上がり、マーケット自体を広げることもできますし、逆にピンポイントでマーケットを絞ることもできます。使い方によっては、母集団の量を増やすケース、母集団の質を上げるケース、どちらにも活かすことができるでしょう。
採用コミュニケーションにおける意思統一という場面でもコンセプトは大きな役割を担います。たとえば、制作物を外注したら、想像とは異なるアウトプットになったり、説明会とパンフレットのイメージがかけ離れていたり、面接官によって話す内容や大事にする価値観がバラバラだったり・・・。
このような企業としての人格崩壊をおこすのを防ぎ、360°どこから見ても同じイメージで、一貫したメッセージを届けやすくするために、採用コンセプトは機能してくれるのです。
最初に示したように、採用コンセプトは指針であり、旗印。パンフレットも、説明会も、面接も、すべてがコンセプトに則ることは、採用におけるブランディングとしても、積み上がっていく資産になります。
“採用コンセプトをつくるメリット”
・コミュニケーションスピードが上がる
・より差別化できる
・ミスマッチが減る
・マーケットが広がる
・採用コミュニケーションを一貫させる
1-4:事業と社会の変化に合わせて、コンセプトは変えてもいい
よくいただくご質問で、「採用コンセプトはどれくらいの期間、同じものを使っていいの?」というものがあります。
たしかに、同じ会社なのだから、採用コンセプトも変わらないのでは?と考えられそうですし、逆に採用は毎年違う出会いがあるから、メッセージも変えていいのでは?とも思えそうです。
パラドックスとしては、以下の2つのタイミングについては、採用コンセプトを刷新する良い機会だと考えています。
1つ目のタイミングは、企業のビジョン実現に必要な人材ポートフォリオが変わったときです。長期的なビジョンを見据えながらも、会社の状況や事業の内容は、日々変わっていくものです。必要な人材の変化に合わせて、求めるスキルやパーソナリティ、適正、経験なども変化していきます。
2つ目のタイミングは、採用マーケットでの自社ポジションが変化したときです。想定を超える内定辞退がおこったときや、いままで負けなかった採用競合に、優秀な人材が移動していると感じるケースを、実際に経験した方もいるかもしれません。
採用マーケットにおける企業ポジションは、常に変化が起こります。当然、マーケットが変われば、ターゲットも打つべき施策も変わる。よって採用コンセプトも再考が必要となるのです。
“採用コンセプトを変える2つのタイミング”
・必要な人材ポートフォリオが変わったとき
・採用マーケットにおける自社のポジション変化を感じたとき
1-5:コンセプトは指針。メッセージは表現。
もうひとつ、よく聞かれる疑問に「採用コンセプトと採用メッセージはどう違うのか?」というものがあります。たしかに一見わかりにくいですし、明確に定義されているものはあまり見かけません。
今回は、定義をハッキリさせておきましょう。
採用コンセプトは、採用活動の指針となるもの。企業のらしさと採用活動を抽出し、端的に言語化したもの。要件定義に近いかもしれません。ですから必要以上にレトリックに凝ったり、エモーショナルにしようとする必要はまだありません。極端な話、キーワードとなる単語だけでもOKなのです。
一方で、採用メッセージはコンセプトをベースにメッセージ化したものです。どうすればよりターゲットに届きやすく、伝わりやすくなるかが重要になります。
必要に応じて、喜怒哀楽に訴えかける情緒的なものになったり、気づきを与えるものになったり、ロジカルで信頼感のあるものになるかもかもしれませんが、あくまでそれは「表現」であり、伝えたい内容ではありません。
そして、ここが今回の重要なポイントになってくるのですが、私たちは採用コンセプトを自社でつくることに大きな意味があると考えています。最終的なアウトプットだけでなく、つくる過程も企業にとっての大事な資産になります。
自分たちの組織のことを、自ら深く知り、再発見し、自ら言語化していくことは貴重な経験です。その企業の本当のらしさとは、外部の制作会社による表面的なヒアリングでは、なかなかあぶり出しにくいところでもあるのです。
採用コンセプトは多少長くなったり、説明的になっても、正しく伝われば良いものだと私たちは考えています。採用コンセプトの軸さえ明確になっていれば、採用メッセージ自体は外注しても構いません。表現の部分は、むしろ表現のプロに頼むほうが有効な場合もあります。
この2つの違いを理解しておくだけで、採用の制作物を外注する際に認識齟齬や余計な負担を減らすことができるはずです。普段は、あまり意識しないかもしれませんが、知っておいて欲しいポイントです。
“コンセプトとメッセージの違い”
採用コンセプト:
言語化した自社の採用指針(自分たちでやることに意味がある)
採用メッセージ:
採用コンセプトをターゲットに届きやすくした表現(プロに任せるのも有効)
2:いい採用コンセプトの特徴
1章では、採用コンセプトとは何かについて見てきましたが、次は、どのようなものが「いいコンセプト」といえるのかを考えていきます。事例もご一緒に。いいコンセプトについて、具体的に見ていきましょう。
2-1:いい採用コンセプトの3か条
“採用コンセプト3か条”
1. 企業理念と紐付いていること
2. 大切にする価値観を伝えられていること
3. ターゲットの共感を得るものになっていること
では、早速ひとつずつ、解説していきますね。
まず企業理念と紐付いていること。企業理念と採用コンセプトは地続きであることを意識しなければなりません。入社すれば、その人は企業理念に従って働くメンバーの一員となります。だから、「採用のときは素晴らしい理念だと感じたが、いざ働きだしたら掲げていた理念と会社の実態は全く違う」となっては困る。企業理念と採用コンセプトには、つながりを持たせる必要があるのです。
次に大切にする価値観を伝えられていること。企業と学生・転職者のマッチングには、お互いの価値観のマッチングが非常に重要になるからです。ただのいいところアピールでは、いいコンセプトとは言い難いでしょう。
そして最後にターゲットの共感を得るものになっていること。ターゲットとしている学生・転職者から見たときにどんな企業に映るだろうかと考え、そこに寄り添い共感を醸成することでコンセプトは質を上げられます。
広く一般に知られている企業ではないけれど、20代の学生から見てもこんな点は共感しやすいかも。こういったポイントが、いまの世の中の空気感とは合いやすいのでは。そんな視点を持って、考えていく必要があります。
また、私たちは採用活動を自社で働く人材を集める活動ではなく、自社の理念に共感してくれるファンを増やす活動だと考えています。
なぜなら、実際の採用活動を通じて、自社に入社する人材は限られており、多くの人々が他社に就職していきます。せっかく採用活動を通じて会社の理念に共感してもらったにもかかわらず、その関係性が入社するかしないかで途絶えてしまってはもったいないですよね。
たとえ一緒に同じ会社で働くことはできなくても、もしかしたらビジネスパートナとして、ときにはエンドユーザーとしての新しい関係性が始まるきっかけになるかもしれません。
採用活動を通じて、社内外の仲間・ファンづくりをしていくことを考えると、理念に沿った採用活動は企業にとってのブランディング活動だとも言えます。
2-2:シーズ×ニーズ→採用活動の要件定義を再確認→ペルソナ→コンセプト
これら3か条がどのように有効になるのか。次のような図を使って、ちょっと理解を深めてみたいと思います。
採用コンセプトを構成する際の要素を図に表すと、このような形になります。シーズは、その会社ならではの事実・らしさ。ニーズは、これは世の中の空気感やターゲットとする学生・転職者から見えるであろう世の中の課題です。その交点を探すことで、採用活動の要件定義が確認できます。
この要件が、ターゲット人材(ペルソナ)に届くには、どんなポイントを示すべきか。これを考えるのが、コンセプトを考える作業です。
理念や価値観の重なりを、ターゲットが共感する価値ある情報として届けるためには、その交点を探して言語化していかなければならないのです。
2-3:採用コンセプト事例
いいコンセプトにおいて大切な要素がわかったところで、それらが表れている実際のコンセプト事例を2つ見ていきましょう。
■Plan・Do・ See
ホテルやレストランの運営を世界中で展開する企業、Plan・Do・See。コンセプトを設定する前は、「ブライダルの会社」という印象が強く、採用活動の中でも「結婚式をつくりたい」と志望する学生が多くを占めていました。
一方で、Plan・Do・Seeは世界中で事業を展開していくために、事業をつくっていく力やグローバルな姿勢を持った人材を求めていました。結婚式だけ関わる会社である、というイメージを変えるコンセプトが必要だったのです。
そこで生まれたのが、こんなコンセプト。結婚式だけ、レストランだけ、ではなく、日本のおもてなし。これを世界へ伝えていくのだと、仕事の再定義を行うようなコンセプトとなっています。
採用コンセプト:
日本のおもてなし文化を、世界に広める仲間を集める。
採用メッセージ:
日本のおもてなしを、世界中の人々へ
■神戸トヨペット
トヨペットといえば、車を売っているお店。もちろんそれは間違いではありませんが、採用の場においても「たんに車を売るだけ」と見られていることは大きな課題でした。
そうして、こちらです。神戸トヨペットが目指しているのは、車の販売を通じて、お客様の人生に寄り添い、ドラマをつくりだすこと。その原動力(エンジン)となりたい。そんな想いを込められて、新たな採用コンセプトが生み出されました。
採用コンセプト:
日常を非日常にする体験を届ける。
採用メッセージ:
Dramatic Engine ドラマティック・エンジン
具体的な事例を見ると、コンセプトを設定することで、仕事内容や事業の意義を再定義することが可能だとわかります。
次の3章では、コンセプトのつくり方についてご紹介します。
3:採用コンセプトをつくってみよう
採用コンセプトとは何かがよくわかったところで!実際にコンセプトをつくる過程について見ていきましょう。これはパラドックスが採用コンセプト制作のセミナーなどでもお話していることとも近い内容になります。
“採用コンセプト制作の6ステップ”
ステップ1:事実の深堀りと差別化(シーズの発見)
ステップ2:世の中・ターゲットのニーズ発見
ステップ3:要件定義の確認
ステップ4:ターゲットのペルソナの設定
ステップ5:コンセプトの言語化
ステップ6:コンセプトの検証・ブラッシュアップ
最初に、情報収集を行ってより自社とターゲット集団について知ること。そこでわかったことから自社の要件定義を考え、ペルソナに届くよう言語化。言語化できたら、それがコンセプトとして有効かどうかを検証してみる、というのが大きな流れです。
2章でご紹介したこちらの図を見ながら、具体的なステップを確認していきましょう!
3-1:事実の深堀りと差別化(シーズの発見)
ここでは自社に関する事実や他社とは異なる強みに関して掘り下げていきます。自社分析ですね。ただブレストして挙げていくだけではなく、社内にインタビューをしたり、資料として残っているものがあれば参考にするのもいいかもしれません。ここで出てきた、自社ならではの価値観・らしさを「シーズ」と呼びます。
“たとえばこんなことが、シーズ発見のヒント”
・企業の価値観や考え方
・事業の強みや競合との比較
・強みを支えているのは何?
など
3-2:世の中・ターゲットのニーズ発見
自社の分析ができたら、今度は世の中やターゲットとなる学生・転職者のニーズを考えていきましょう。採用に関する文脈であるとよりよしです。たとえば、いまの学生は仕事にどんなことを求めているかな?とか。もっと広くとって、現代の「働く」とはどんなものだろう、などといったことです。
“たとえばこんなことが、ニーズ発見のヒント”
・学生が仕事に求めるものは?
・働くとは?
・就活に対するイメージ
など
3-3:要件定義の確認
3−1、3−2で出てきたシーズとニーズの交点を探し、採用活動でやるべきことを再確認します。
自社の強みやらしさを活かしつつ、世の中のニーズに応えられるのはどんなことだろう?と考えてみることがポイントです。採用活動も理念の体現活動の一貫。自社の理念を活かしながら、ニーズに応える採用活動とはどんなものなのか、改めて確認を行いましょう。
3-4:ターゲットのペルソナの設定
ここでは、どんな学生・転職者に仲間になってほしいのか。具体的な人物像をひとり、完成させていきます。自社の未来に必要な人物像から考えてみてもいいですし、実際に社内で活躍している人物をベースに考えてもOKです。
スキルや能力だけでなく、価値観やパーソナリティも。もっと深堀りして、どんな本に影響を受けているとか、好きな音楽くらいまで思い描いてみるのもいいでしょう。
できるだけ具体的に、人物像が想像できる形にしてみてください。ここで描いたペルソナは、コンセプト制作に役立てることはもちろん、面接での合否基準などを共有する際にも活きてきます。
3-5:コンセプトの言語化
いよいよコンセプトをつくっていきます。やることとしては、要件定義した内容をペルソナに届けるためには、どのようなことを発信していけばいいかを考えてみることです。より明確に、相手に伝わる言葉を探してみましょう。
3-6:コンセプトの検証・ブラッシュアップ
コンセプトを一旦つくって終了!……とはならないのです。もうひと頑張りです。コンセプトの言語化ができたら、それを他者に見てもらって、ブラッシュアップしていきます。
見てもらうのは、社内のメンバーや内定者などの中で、設定したペルソナにできるだけ近い人です。複数案を出して選んでもらうようなやり方もいいですし、自由に意見をもらうやり方もできます。実際のターゲットと近い人から意見をもらうことで、ベターな言葉や視点が見つかることがあります。
ブラッシュアップを繰り返して納得のいくものとなれば、採用コンセプトは完成!表現や制作物を外注する際にも、社内で採用方針を共有する際にも、学生・転職者に採用説明をする際にも、あらゆる場面で使う指針となります。
4:まとめ
さて、まとめです!重要なポイントだけ、簡単におさらいしましょう。
まず、コンセプトとは採用活動における指針ということ。
そして、コンセプトは自社でつくることに意味があるということ。メッセージなど表現領域のものは外注してもOKでした。ビジョン実現に向けた人材ポートフォリオが変わったときと、採用マーケットでの立ち位置が変わったときは、採用コンセプトをつくり変えるタイミングです。
コンセプトづくりで考えていく順番は、①自社の強みやらしさ(シーズ)と②ターゲット集団から見た世の中の課題(ニーズ)との交点に、③採用の要件定義を確認します。
それを④ペルソナに届けるには、どんなことが有効か考えたものが⑤採用コンセプト。言語化のあとには⑥検証をするようにしましょう。
大事な図なのでもういちど確認です。ポイントを抑えて、より自社らしさを体現する採用活動に取り組んでみてください。
コメント