バリューは顧客との約束。ミッション・ビジョンとの違いとは?

企業理念のひとつの要素であるバリュー。にもかかわらず、それが何を表す言葉なのか、企業によって定義がバラバラになってしまいがちな要素です。

これまで企業のブランディングに関わり、企業理念づくりを支援してきたパラドックスでは、「バリュー」を“世の中に約束する価値・強み”と定義しています。

この図は、パラドックスが考える企業理念の在り方です。企業理念はそもそも、日々果たすべき使命としての「ミッション(パーパス)」を起点に、実現したい未来を表す「ビジョン」、さらにミッション・ビジョンを遂行するにあたって、企業が社会に提供する価値や約束を「バリュー」、従業員個人個人が守るべき価値観・指針を「クレド(スピリット)」としています。

バリューだけでなくこの4つの要素は、企業によってさまざまな言葉に変わったり、同じ言葉でも意味するものが異なったり、要素が少なくなったりすることもあります。ただパラドックスでは、これまでのブランディングの経験を踏まえて、この構成が社内外に対して、企業理念を最も効果的に浸透させるものだとお勧めしています。

その理由も含めて、今回はバリューの持つ意味や言語化することの効果、具体的なバリューの例などをご説明します。

まだ企業理念についての理解が曖昧な方や、自社にぴったりの企業理念をつくりたい!とお考えの方に、ぜひ最後まで読んでいただければと思います。

 

1:さまざまな企業が掲げるバリュー

百聞は一見に如かずということで、バリューとは何かを詳しく知る前に、企業が掲げているバリューをいくつか見てみましょう。

真似したい部分や、自社にはマッチしないと思う部分がどこかを考えながら、参考にしてみてください。

1-1:スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社

OUR MISSION

人々の心を豊かで活力あるものにするためにー

ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから

 

OUR VALUES

私たちは、パートナー、コーヒー、お客様を中心とし、Valuesを日々体現します。

 お互いに心から認め合い、誰もが自分の居場所と感じられるような文化をつくります。

 勇気をもって行動し、現場に満足せず、新しい方法を追い求めます。

 スターバックスと私たちの成長のために。

 誠実に向き合い、威厳と尊敬をもって心を通わせる、その瞬間を大切にします。

 一人ひとりが全力を尽くし、最後まで結果に責任を持ちます。

 

私たちは、人間らしさを大切にしながら、成長し続けます。

 

▼引用元  https://www.starbucks.co.jp/company/mission.html

スターバックスは企業理念としてミッションとバリューを掲げており、バリューは社会に提供する価値でもありながら、従業員のクレドとしての役割も兼ねています。

私たちは基本的にバリューとクレドの両方を策定することをおすすめしていますが、スターバックスのバリューがクレドとしても違和感なく受け入れられるのは、業種の特性があるからこそ。スターバックスが顧客へ提供するメインのサービスは、カフェで過ごす時間やそこでの居心地の良さ。バリューを守るパートナーと受け取る顧客が直接触れ合うため、バリューが双方に向けたものであっても受け入れることができます。

1-2:内海産業 株式会社

MISSION

最上の着想で、購買欲に火をつける。

 

VISION

“購買促進”を、日本の常識に。

 

VALUE

察知する力(最上の理解力)
お客様の声に真摯に耳を傾け、課題の本質を深く理解し、真のニーズを掴みます。

 

企てる力(最上の企画力)
お客様だけでなく、その先の生活者の心理までをイメージしつつ、オリジナリティとストーリーを大切にしたアイディアを企画します。

 

完遂する力(最上の実現力)
圧倒的なスピードと柔軟な対応力を発揮しつつ、高い品質とコストパフォーマンスで驚きの企画を実現し、生活者の購買欲に火をつけます。

 

私たちは以上の価値を発揮することで、いつもお客様のそばにいる、購買促進のベストパートナーとして、末永い信頼関係を構築します。

 

▼引用元 https://utsumi-sp.co.jp/company/philosophy/

家電、自動車、住宅、化粧品など、さまざまな業界でノベルティグッズやプレミアムグッズを手がける内海産業。1972年の設立以来、リーディングカンパニーとしてセールスプロモーション業界を牽引してきました。

内海産業のクライアント(お客様)となるのは企業ですが、ノベルティを受け取るのはその先にいる消費者(生活者)。そのどちらもに言及しつつ、自社の価値を3つの“力”で端的に表したバリューとなっています。

1-3:株式会社スタッフロール

MISSION

一人ひとりの在り方を、一緒にみつける

 

VISION

一人ひとりが自分の在り方をみつけ 自分の人生の主役になっている社会

 

VALUE

人・組織・社会に対し、同志との共創による新しい価値観を届ける

01 サードアンサーを考えよう

02 一人ひとりのトリセツが見つかります

03 地域・人・組織のネットワークで解決します

04 社会の期待に応えるため、組織としての成長も続けていきます

 

▼引用元 https://www.staffrole.co.jp/dna/

人生や仕事に悩みを抱える人に向けて、「自分の人生」と出会うためのサービスを展開しているスタッフロール。うつ病などの気分障害の方に向けた、社会復帰支援プログラムなどの事業を展開しています。

バリューは4つの言葉で具体的に示され、Webサイトではさらに詳しく説明がされています。サービスを利用する方に対して、わかりやすい言葉で自社の提供する価値を表したこのバリュー。サービスの利用者が一般の方だからこそ、企業について調べたときに安心できるバリューとなっています。

2:ミッション・ビジョンとの関係から見るバリューの意味

バリューは企業理念のひとつの要素。では改めて、企業理念の全体像から、バリューの持つ意味と役割をご説明していきます。

企業理念が持つ意味や策定する理由、構成要素やそれぞれの解釈は、企業によってさまざま。しかしパラドックスでは、企業理念を形骸化させず、きちんと効果を発揮できるものにするため、要素と役割を明確に定義しています。

それが、冒頭でもお見せしたこの図。

この図を見ながら、それぞれの要素について説明していきます。

2-1:ミッション

企業理念の起点となるのは、日々果たすべき使命である「ミッション」。過去、現在、未来のどの地点でも、日々ミッションを中心とした事業運営と、組織づくりを行います。これはあるべき姿であり、こうします!という宣言でもあります。現状を表す言葉ではなく、企業の在り方を示すのがミッションです。

2-2:ビジョン

ミッションから未来軸へ目線を向けたところにあるのが、実現したい未来である「ビジョン」。これは、日々の使命を遂行し続けた結果、どのような未来を目指しているのかを言葉にしたものです。それは「売上100億!」のような企業本位の未来ではなく、およそ30〜100年後の社会を、自社の貢献によってどうしたいかということ。例えばAppleのビジョンは「テクノロジーを介して何百万人もの人の生活を変える。」というものです。

2-3:クレド

ミッションを個人軸へ落とし込み、従業員一人ひとりのとるべき行動をわかりやすくしたものが、大切にすべき精神・行動指針であるクレド(スピリット)。ミッションを遂行するためにいくつもルートがあったり、細かな行動に迷った際に、どれを選択すべきか判断する基準となるものです。特に新入社員など、ミッションだけではうまく行動に落とし込めない立場の従業員にとって、どのような判断軸を大切にすれば良いかがわかりやすくなります。

2-4:バリュー

そしてミッションを企業軸へ落とし込んだものが、世の中に約束する価値・強みである「バリュー」。企業を信頼して商品やサービスを買ったり使ったりしてくれる顧客や、社会へ対して、どのような価値を提供するかを示したものです。企業が日々ミッションを遂行する中で、どのような商品を開発するか、サービスをどう改善していくかに迷った際、このバリューに照らし合わせて考えることができます。

3:バリューは顧客、クレドは従業員に向けたメッセージ

ミッション・ビジョン・バリューを合わせてMVVと呼び、企業理念としている企業も多いですが、私たちパラドックスではクレド(スピリット)も合わせて企業理念をつくることをおすすめしています。

実はMVVの3要素で企業理念を定め、その中のバリューを、私たちがクレド(スピリット)と定義する“大切にすべき精神・行動指針”のように用いている企業も多くあります。もちろんそれが間違っているなんてことはありませんし、企業理念として不完全というわけでもありません。

ただ本来バリューの意味は「価値観」ではなく「価値」。大切にしている価値観を表す言葉が、価値という意味のバリューということに違和感を覚える方も少なくはないでしょう。

そして私たちがクレドとバリューを、それぞれ個人軸・企業軸と分けて言葉にしたい大きな理由。それは、企業理念の効果を最大限発揮するためには、誰に向けてのメッセージなのかをわかりやすくする必要があるからです。

スターバックスのように、従業員と顧客が直接触れ合うことがビジネスのメインであれば、顧客と従業員の双方へのメッセージとしてバリューを掲げても良いかもしれません。しかしエンドユーザーと企業の従業員個人が触れ合うことの少ない業種では、従業員が大切にしている精神が、そのまま顧客に伝わるメッセージになるのは難しいでしょう。

では顧客に対するメッセージのない企業理念を掲げていると、何が起こるでしょうか。それだけで業績が悪化したり、印象が悪くなることはありません。しかし顧客が企業理念を見る機会があったとき。企業内に向けてだけのミッション・ビジョン・バリューが掲げられていても、自分には関係のないものとしてスルーしてしまうでしょう。これでは、顧客と企業の接点がなくなってしまいます

ひとつの商品やサービスが気に入っている顧客がいても、企業自体の存在を気にも留めなかったら。同様のサービスでもっと安いものや新しいものが出たとき、取って代わられるような存在にしかなることができません。

そもそもサービスや商品自体に、企業理念、中でもバリューで示す提供価値をしっかりと反映させ、顧客に届けることは非常に大切です。しかしほぼ全ての人が日々多くのものを消費し、さまざまなサービスに触れ合っている現代。利用するもの全てから細やかにバリューを読み取り、企業の想いを知ることは難しいでしょう。

そこで企業理念で顧客に向けて「私たちはあなたに対してこのような価値を提供します」と明らかにすることで、顧客は自らに対する企業の真摯な態度を受け取ることができます。そうしてただ商品やサービスだけでなく、企業自体のファンとなる。これが本来、企業理念の持つブランディング効果なのです。

だからこそ私たちは、ミッション・ビジョンに続いて、企業軸のバリューと個人軸のクレドとを策定することをおすすめしているのです。

4:バリューがもたらす効果は“真の顧客”の創出

ではバリューを顧客や社会へ「約束する価値・強み」として定めると、何が起こるのでしょうか。まずは、先述した通り企業から顧客へ向けた最も大きなメッセージとなり、サービスや商品を利用する顧客が「自分への約束だ」と認識できるようになります。そして顧客がそのメッセージに共感できれば、顧客は企業のファンとなり、企業にとっての「ブランドパートナー」となるのです。

マーケティング用語ではよく、商品を多く買ってくれる顧客を「ロイヤルカスタマー」と呼びますよね。ブランドパートナーとはそのもう少し先、そのブランドにとっての理想のお客様。つまり“真の顧客”です。

ただたくさん買ってくれるだけではなく、ブランドの価値をよく理解し、その価値についてまわりのひとに広めてくれるひと。そして、ブランドのいまを愛しているだけではなく、これからの未来を一緒につくっていってくれる存在ともいえます。

▼ブランドパートナー・ロイヤルカスタマーについて詳しくはこちら
ブランド力を高めるための本当のロイヤルカスタマーとは?

ブランドパートナーはもちろん、企業ごとによってどのようなひとを指すのかが異なります。そこで重要になってくるのがバリュー。ブランドパートナーが共感するバリューを定め、バリューに共感したブランドパートナーが増える。このサイクルが生まれることで、企業の成長につなげることができるのです。

5:顧客ありきでバリューをつくる大原則

では企業が「私たちはこんなバリューを提供するので、共感するひとはついてきて!」と、ただ企業本位のバリューを定めれば良いでしょうか。実はここが、企業理念の他の要素とバリューとが少し異なる部分です。

ミッション・ビジョン・クレド(スピリット)は、企業が考えるありたい姿やあるべき姿勢、とるべき行動を言葉にしたものでした。しかしバリューは顧客に向けたメッセージ。顧客あってこそのものです。

ここでひとつ、難しい話ではないので、ドラッカーの「5つの質問」を簡単に紹介させてください。

第1の質問「われわれの使命は何か?」

第2の質問「われわれの顧客は誰か?」

第3の質問「顧客にとっての価値は何か?」

第4の質問「われわれの成果は何か?」

第5の質問「われわれの計画(事業)は何か?」

 

参照:「現代の経営・上」P・Fドラッカー著 上田惇生訳(ダイヤモンド社)

細かな内容に興味のある方は書籍を読んでいただければと思いますが、ここでお話ししたいのは質問の順番について。

第1の質問にある“われわれの使命は何か?”とは、ミッションは何かということですよね。そして次に来るのが、“われわれの顧客は誰か?”なのです。さらにその次にあるのが、“顧客にとっての価値は何か?”ということ。

つまり“顧客にとっての価値は何か?(=企業理念におけるバリュー)”が先ではなく、“われわれの顧客は誰か?(=顧客の求めるもの)”を先に考えるべきだ、ということなのです。

◎ミッション→顧客が求めるもの→顧客に提供する価値(バリュー)×ミッション→顧客に提供する価値(バリュー)→顧客が求めるもの

この流れに沿うと、企業側が顧客に「このような価値を提供したい!」と決めて、商品やサービスをつくるのではありません。企業がミッションを遂行する中で、ミッションを顧客に届けるための手段として、顧客の求めるものを具現化したものがサービス・商品となるのです。

そしてこの流れへ従うに伴い、もうひとつ重要なポイントが。それは、顧客が変わればバリューが変わり、商品・サービスも変わるということ。顧客が求めるものは常に同じではありません。時代の流れや流行に合わせて変わるものです。

もちろん私たちは決して、変化する顧客に翻弄されて、短いスパンでどんどんバリューを変えることをおすすめしているわけではありません。

この考え方をしっかりと念頭に置いて、新しい商品やサービスを考える際に、既存のものからではなく“提供価値”から発想する。バリューありきではなく顧客ありきで考えることで、本質的に求められるアイデアにたどり着く可能性が広がるのです。

▼顧客ありきでバリューを生み出したグラミン銀行の事例はこちら
マイクロクレジット、ソーシャルビジネスを生んだグラミン銀行の理念経営

6:バリューのつくりかた

ここまで読み進めて「では結局、どうやってバリューをつくれば良いの?」と思われた方もいらっしゃいますよね。

実際に企業理念の策定に合わせてバリューをつくる場合、どのようなステップを踏めば良いかを簡単にお話しします。

先述した通り、バリューは(ミッション・ビジョン・クレドも同様ですが)決して一度つくったら変えてはいけないものではありません。マッチしないと思ったら改良して、自社と顧客に対して最適なバリューを探していくことができます。まずは気軽に、言葉にしてみることが重要です。

6-1:企業理念全体の流れの中で検討する

今回はバリュー単体について詳しくお話ししてきましたが、そもそもバリューは企業理念を構成する要素のひとつ。策定する際は単体ではなく、ミッション・ビジョン・クレド(スピリット)と共につくっていきましょう。

私たちパラドックスが推奨している企業理念のつくりかたは、複数の社員でセッションを行う形式。企業理念は従業員全員が、今後もずっと大切にし続けるもの。経営層だけで決めるより、さまざまな意見を取り入れて策定することをおすすめします。

それぞれの要素について、検討する順番は以下の通り。

①ミッション
②バリュー
③ビジョン
④クレド(スピリット)

この流れに沿って、全てセッションの形式で進めていきましょう。

▼詳しい企業理念のつくりかた、セッションの方法はこちら
企業の根幹を担うミッション ビジョン バリューの意味合いと作り方

6-2:ミッション→顧客→提供価値の順で考える

企業理念全体の策定フローの中で、特にバリューのフェーズで重要なのは、先述した通りの流れに沿うこと。

ミッション(日々果たすべき使命)

顧客(ブランドパートナー)

バリュー(提供価値)

バリューを検討する時点でミッションは決定しているはずなので、ここで考えるのは「顧客は誰か?」つまり、ブランドパートナーとはどういうひとかということ。ブランドパートナーをどのように設定していくかについて、詳しくは先ほどご紹介した記事(https://prdx.co.jp/visions-prdx/loyal_customer )に記載されています。

ポイントになるのは、実際は存在しないような、自社にとって都合の良い顧客をつくろうとするのではなく、ともに歩んでいきたい顧客という意識を持って考えてみること。

そうして設定できたブランドパートナーに向けて、どのような価値を提供できるのか。この順に思考を展開して、バリューを検討していきましょう。

7:最後に

バリューが指す意味は企業によってさまざま。私たちパラドックスがおすすめしているのは、顧客や社会全体など、“世の中に約束する価値・強み”としてのバリューです。現在企業理念としてミッション・ビジョン、あるいはクレドがあるけれど、バリューはない企業の方は、ぜひ一度検討してみてください。

既にバリューが明文化されている企業であっても、そのバリューが誰に向けた言葉なのか、そのひとにとってわかりやすいかどうかを改めて確認してみてください。もしもわかりづらいと思ったら、ミッションを企業軸に落とし込んだ、顧客に対するメッセージとしてのバリューを一度考えてみてはいかがでしょうか。

そしてバリューは企業理念の中でも、最も顧客に直接つながる要素。バリューを検討していく作業の中では、商品やサービスの開発時においても、新たな発見や改良が期待できます。

あるいは現在商品やサービスに課題を感じている方も、バリューを新たにつくってみたり、いまあるバリューを見直したりしてみてはどうでしょう。解決の糸口が見つかるかもしれません。

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