株式会社パラドックス

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アートの力で、
ローカルの魅力をグローバルに発信。
地域ブランディングプロジェクト。

CLIENT:紀南アートウィーク実行委員会さま

  • カスタマーブランディング
  • 和歌山県

高野山や熊野古道で知られ、南方熊楠や長沢芦雪といった奇想天外な人物を輩出し、魅了してきた歴史がある、和歌山県紀南地域。「『籠りの文化』と『港の文化』」をテーマに、そんな紀南地域/牟婁郡の歴史や文化を再発見し、全世界に発信するアートプロジェクトが「紀南アートウィーク」です。
パラドックスでは、本アートウィークのコンセプトやV.I.(ビジュアルアイデンティティ)策定、コンテンツのプロデュース、 パラドックスのパーソナルブランディング事業であるアトリエ教室 Visions Palette“ジョンズパレット”とコラボレーションした水墨画ワークショップを実施し、地域活性とアートウィークの成功を支援しました。

1プロジェクト開始のきっかけ

紀南アートウィーク実行委員長の藪本 雄登氏とのご縁からはじまった当プロジェクト。
和歌山県南紀白浜出身で、現在はASEAN・南アジア法務特化型の法律事務所「One Asia Lawyers」を経営する彼は、長い海外生活をおくる中で「グローバリティ」と「ローカリティ」とは何か、その関係はどうあるべきだろうか、と悩むことが多くあったそうです。
そこから、現在の拠点でもあるカンボジアの現代アートの世界へと造詣を深め、その作品や創作姿勢を通して「ローカリティこそが世界における豊かさの根源であり、土着の歴史と文化を再度深く見直すことで、はじめてグローバルな世界と接合することができるのではないか」という想いにたどり着いたという、薮本氏。

この「ローカリティ=グローバリティ」の図式を、自身の故郷である紀南地域で再現し、紀南の人達にも現代アーティストのように世界にその価値を輸出していくような試みができないか?そんな志を抱き、紀南アートウィークの開催を決意したそうです。

2「籠る 牟婁(むろ)ひらく紀南」のコンセプトワークと V.I.策定

この想いを共有いただき、コンセプトワークやV.I.策定からご相談をいただいたパラドックス。
和歌山県紀南地域が所在する牟婁郡の「牟婁」という地名には「籠もる」「隠る」「神々の室」という由来があり、豊かな山林資源の中に籠り、内面的な世界を探求することに秀でた歴史的な特色を有している。高野山の信仰や熊野古道の宗教観は、社会的地位や、信仰、性別等を問わない日本における寛容性と多様性の源泉であり、南方熊楠や長沢芦雪といった奇想天外な人物を輩出し、魅了してきた歴史があること。
その一方、本州最南端の半島である紀南地域は「開放性」が特色。かつて黒潮とともに移民文化を醸成し、長い海岸線と良質な木材は、古代から高い造船技術を発達させ、物資輸送や水軍の拠点として、歴史上大きな役割を果たしていたこと。
この2つに着目し「籠る 牟婁(むろ) ひらく紀南(きなん)」という、アートプロジェクト全体のコンセプトを策定。
V. I.も、紀南アートウィークの根源にある

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・ローカリティは、世界における豊かさの根源ではないか。本質的にはローカルもグローバルも同根ではないか。地域特有の歴史と文化を再度深く見直すことで、はじめてグローバルな世界と接合するのではないか。
・「紀南」と「牟婁」は、ほぼ地理上同義ではあるが「籠もる」と「ひらく」という概念は実は「イコール」の関係にあるのではないか。
・無理に、安易に、グローバルを目指す必要はない。閉じていてもいい、開かれる前には、むしろ閉じるべきではないか。
・地域特有の歴史と文化を閉じて、再度深く見直すことで、はじめてグローバルな世界と接合するのではないか。
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という想いをカタチにした、ユニークなロゴに仕上げました。

▲紀南アートウィーク ロゴ 

3アトリエ教室Visions Palette とのコラボレーションイベント

紀南アートウィーク期間中には、紀南地域ゆかりのアーティスト、国際的なアーティストの作品展示他、さまざまなイベントが開催されました。その1つとして、パラドックスの運営するパーソナルブランディング事業 Visions Palette“ビジョンズパレット”とのコラボレーションイベント「水墨画で描こう!オリジナル神様」も実現。紀南白浜エリアで著名なアドベンチャーワールドを舞台にしたアート体験型ワークショップで、2日間で約120名を動員する大盛況となりました。

▲水墨画イベントのフライヤー

4普段の美術と違う!?子供たちが「褒めて伸ばす」を体験

高野山の信仰や熊野古道など、紀伊山地は、古来より万物の創造主が隠れ宿るとされている地域であること。また、アドベンチャーワールドが舞台ということもあり、「動物をモチーフにしたオリジナル神様を水墨画で描く」というテーマを設定した当イベント。Visions Palette“ビジョンズパレット”は、東京の目黒/世田谷で主にお子さまを生徒さんとするアート教室を展開しています。お子さん指導のノウハウがあり、コンセプトは「うまさより、じぶんらしさをのばす」。そのため、今回も、上手い下手、正解不正解はなく、墨という素材に触れることを楽しみながら、参加した子供たちの個性を引き出し、褒めて伸ばす指導で制作をサポートしました。指導スタッフは、東京藝術大学などで学んだ現役の若きアーティストたち。幼児さんから小学生までさまざまな方が体験してくださいましたが「普段は絵が嫌いな子も楽しんでやっていて、よかった」という嬉しいご感想もありました。

▲スタッフの褒めて伸ばす指導で水墨画に挑戦する子供たち

5「私が最後の作り手になるかもしれない」
 地元の希少な墨や和紙を、アートを通して次の世代へ。

イベントの企画段階で大切にしたのは「地元の名産品を活かしたワークショップにできないか?」ということ。みかん、梅、発酵、木材、備長炭などたくさんの名産品がある紀南地域。
今回は、1000年以上前からつくられている日本最古の墨「松煙墨(しょうえんぼく)」があることに注目。その原料を日本で唯一製造されている墨工房「紀州松煙」さんから墨をご提供いただき、水墨画のワークショップを企画しました。せっかくならと和紙も地元田辺市龍神村で手作業で作られた「山路紙」(戦後間もなく製作が途絶えていましたが、1984年から旧龍神国際芸術村アートセンターで紙漉きを再開し復活した伝統の和紙)を使用。
地域にある素晴らしい伝統工芸品が、時の流れとともに途絶えていってしまうというのは、残念ながら珍しいことではありません。このイベントを通じて、そのような伝統をアートを通して子供たちに触れてもらい、次の世代に受け継いでいくという決意もカタチとなりました。

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墨工房「紀州松煙」堀池雅夫氏より
「松煙墨にかかせない赤松の煤を製造する職人は、今は、私1人。今回のイベントに私の墨をご提供することで、子供たちや若いアーティストさんに知っていただけることが大変嬉しかった。ぜひ今後もコラボレーションし、紀南特産の松煙墨を1人でも多くの方に知っていただきたいです」
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▲墨工房「紀州松煙」堀池雅夫氏と、ご提供いただいた貴重な「彩煙墨」

▲すべて手作業で製作された「山路紙 紙漉き工房」の貴重な和紙

6地元のテーマパークやお寺を回遊できる企画で、プロジェクト全体を盛り上げる。

ワークショップ実施場所や展示方法も、地域を盛り上げるためにひと工夫。事前のヒアリングでアドベンチャーワールドさんから「全国からお客様がいらっしゃるが、地元のお客様にももっと来ていただきたい」というお声があったため、地元のお子様限定で、ワークショップに参加した方はアドベンチャーワールド内も散策できるという特別仕様に。アドベンチャーワールドさんの全面的なご協力もあり、イベントや予約時点で満員、飛び込み参加も出るという盛況につながりました。
また、出来上がった作品は、 Visions Paletteのアーティストスタッフが屏風にコラージュしてアートウィーク期間中に地元白浜湯崎お寺、来迎寺さんに展示することに。イベントに参加した方がお寺に見学に来ることで、地域活性にもつなげました。

▲作品を屏風にコラージュし、地元地元白浜湯崎の来迎寺に展示

▲イベント当日は白浜町教育委員会様もご来訪

7「地元の画材を初めて知った、貴重な経験に感謝」と、
すべての項目で85%以上の参加者さんから満足のお声。

〈イベント参加者様の声(アンケートより一部抜粋)〉

・初めての墨。子供も楽しみ、私も和歌山に墨や紙を作っているところがあると知ってびっくり。
 家では絵の具ばかりですが、墨もいいなぁと思いました。お寺でどんな屏風に仕上げていただけるのか、楽しみです。
・水墨画を描くことなんかなかなかないですし、子供連れにとって非常に良い機会になったのではないかと思います。動物園も楽しめましたし、コロナ禍において久々の家族でお出かけを楽しめました。
・地元の貴重な画材を楽しめました。子供もとても楽しかったそうです。ありがとうございました。
・普段お絵描きを好まない息子が集中して楽しんでいたので、参加してよかったです。家でも筆を使わせてみたいと思いました。色作りも気づきがあったようで感動していました。
・こんなイベントはなかなかないので、子供に水墨画を経験させられたことに感謝です。ありがとうございました。
・絵の嫌いな子も楽しんでやっていて、よかった。
・家ではなかなかさせてあげられないので、このような企画は大変ありがたいです。スタッフの方の丁寧で親切な対応を嬉しく思いました。ありがとうございました。
・和紙のにじみを初めて体験させてもらいました。楽しかったです。ありがとうございました。
・またイベントがあったら参加したいです。子供も楽しそうだったのでよかった。墨を使う機会がなかったので新鮮でした

▲当日イベントスクリーンに投影された子供たちの水墨画

▲参加者アンケートの結果、すべての項目で85%〜98%の方から満足(5段階中評価5)をいただきました。

8降り立った場所で根を伸ばす、「ラディカント」な存在。
紀南アートウィーク実行委員長 藪本 雄登氏

今回パラドックスさんには、紀南アートウィークのコンセプトワークから当日のイベントまで、言うなれば川上から川下まで、あらゆることをサポートいただきました。
まずコンセプトワークでは、今回のアートウィークに込めた根源的な想いをヒアリングいただいた。そこから「籠る」と「 ひらく」というキーワードに落として、言葉やロゴというカタチに可視化していただいた。僕の頭の中にだけあったものを現実世界に落とし込んでもらったおかげで、考えていることがグッと説明しやすくなり、芸術祭の広がりを後押ししてくれました。
また、Visions Palette とのイベントは、これぞ“三方よし“のプロジェクト。紀南の地で、紀南地域の名産品・職人さんとの接点を持ち、お客様も地域の人限定で実施できました。昨今の現代美術の文脈では「美的なもの」から「社会的なもの」へと、その価値が移行している流れがあります。そう考えると、私は今回のイベントは、地域のリソース、地域の人たちと社会的な関係性を築くこと自体がアートであり、実はアート作品そのものの展示よりも、ずっと重要な作業だったのではないかと感じています。
パラドックスさんのユニークなところは、請負った仕事だけではなく、勝手に(笑)どこまでもサポートしてくれるところですね。今回も、充実したブランディング支援はもちろん、イベント開催や、一部の方には会場設営やチラシ配りの集客までサポートいただき、驚きました。志の実現に貢献することならば、シームレスに取り組んでくださるのは、他のブランディング会社さんにはないポイントだと思います。
「籠る」こととも関連しますが、フランスのキュレーター、ニコラ・ブリオーという人が提唱している「ラディカント」という概念があります。「地面に根を張ること」を意味する「ラディカル」だとすれば、その対義語のような言葉が「ラディカント」。「ラディカル」は、根本的などという意味があり、言わばローカルに生き、地域に根を深くはること。他方、「ラディカント」とは、アイビーのような、つる植物が茎から根(不定根)を生じるさまをあらわします。これは、唯一の根に基づいて生長する樹木(ツリー)とは異なり、生長の過程で触れる表面に応じて、新たに根を生じ、自在に広がっていく植物という感じ。
僕のイメージでは、パラドックスさんは「ラディカント」な存在。クライアントのために、さまざまな場所に移動する身軽さがある。そして、降り立った地で、自身の根を生やすこともできる。仮に切断されても、その地でまた根を生やす力強さもある。「ラディカル」と「ラディカント」。その両者が共生してユニークなものが生まれる。紀南や熊野は、須佐之男命を祀る場所であり、「根の国」でもあるので、そんな連想をしましたね。
紀南アートウィークはこれからも続きますので、今後も継続的にご支援をいただきたいと強く感じています。

国際芸術祭「紀南アートウィーク 2021」アフタームービー - KINAN ART WEEK 2021 After Movie –https://www.youtube.com/watch?v=W5uoY74Vy0c