国内の人口減少や産業構造の変化に伴い国内の様々な地域がそれぞれが直面する課題解決に向け、独自の取り組みを行なっています。
居住者の減少や高齢化、観光客の減少、既存産業の衰退、地域を牽引する次世代リーダーの不足など…。地域が抱える課題をなんとか解決したい。しかし、そのためにどのようなアプローチから始めればいいか分からない。
いま、まさに地域ブランディングについて調べ始めた方に向けて、この記事では多くの企業ブランディングを手掛けてきたパラドックスが、地域ブランディングにも応用できるブランディングプロジェクトの進め方についてご紹介させていただきます。
そもそもブランディングとは、企業自体や商品の、価値やイメージを高めること。他とのちがいを明確にして、差別化することを指します。
▼「ブランディング」について詳しく知りたい方はこちら
ブランディングの本質とは?選ばれるブランドを構築するために知っておきたい基本
この定義を地域にあてはめると、他の地域とはちがうその土地の良さを明確にし、地域のイメージを高めること、と言えるでしょう。
「地域ブランディング」という言葉に限らず、「まちづくり」や「地域活性化プロジェクト」も目的は同じです。
地域ブランディングと一言で言っても、世の中の事例を見ると、実にさまざまな施策が行われています。新たなB級グルメを開発したり、ゆるキャラをつくったり、空き家をリノベーションしたり。その違いを生むのは、地域ブランディングの“目的”。地域活性化のために移住してもらいたいのか、観光に来てもらいたいのか、新たな産業をつくりたいのか、などです。
もちろん、それぞれの課題や目的によって、やるべきことや最終的なアウトプットは変わります。
地域ブランディングに関するネット記事や書籍はたくさん出ていますが、世の中の成功事例を読んでみても、なかなか自分たちの地域に当てはまるケースに出会わないという方も多いのではないでしょうか。
しかし、よく考えてみれば、それは当たり前の話かもしれません。なぜなら、簡単に違う地域で真似できてしまうようでは、ブランドにはなりません。
地域ブランディングにとって必要不可欠なのは、「その地域ならではの必然性と卓越性」。私たちは、必然性と卓越性を生み出すプロセスには、ある程度共通の型があると考えており、今回はそのステップをご紹介していきます。
地域活性について、なんとなく考え始めたばかり…、という方にも役立つ内容なので、ぜひ最後までお付き合い頂ければ幸いです。
1:地域ブランディングの進め方
地域ブランディングに限らず、ブランディングとは往々にして効果測定が難しいものです。わかりやすく数値化できる目標が短期的には設定しづらく、全体的にふんわりとしたプロジェクトになってしまいがちです。
そうならないために、施策の実行までのプロセスはできるだけロジカルに、PDCAを回しやすいつくりかたで進めましょう。もちろん定量的な効果が望ましいですが、すぐに成果に直結する目標数値だけでなく、力を貸してくれるプロジェクトメンバーの数や取り組みを紹介するウェブやSNSの閲覧数・フォロワー数などを、最初のステップにおいた方が自分たちにとっても、前に進んでいるというモチベーションにもつながるため、おすすめです。
ここでは、「ターゲットのニーズ」「ニーズに対する課題」「地域のDNA」をかけ合わせて施策を考える、地域ブランディングの進め方についてご説明します。
1-1:実行チームをつくる
まず重要なのは、その地域ブランディングのプロジェクトを実施するにあたり、発起人となる主要メンバーを集めること。施策を実施するにあたって必要な大規模なプロジェクトメンバーの前に、実行チームとなるコアメンバーが必要です。
実施する施策に対して決定権を持ち、成果に責任を取ることができ、互いに連携の取れる数名で構成しましょう。最終的にプロジェクトメンバー全体の人数が多くなっても、スムーズに施策を進めるためには重要な役割を担います。
私たちが地域ブランディングのお手伝いをさせていただく場合のほとんどが、地方自治体の方が主体となるケースが多いのですが、中には地域に由来を持った個人の想いからプロジェクトが始めるケースもあります。
助成金や公的な予算がなくても、地元企業同士の連携や投資家集めをしたり、最近ではクラウドファンディングによって、プロジェクトを立ち上げることも増えています。
より地域の現場や実情を知りながら、普段から明確なビジョンを持ってビジネスに関わっている経営者の方が、フットワークも軽く、素早い判断もできるので、前例に捉われないプロジェクトの立ち上げができるケースも多いかもしれません。
しかし、あくまで最終的には地域のブランデインングである以上は、そこに住む人々や地方自治体との連携は必須です。よく町おこしには“若者・馬鹿者・よそ者”が必要だと言われますが、想いと行動力さえあれば、きっかけとなる火種は誰でもいいと考えています。
ぜひ、予定調和にならず、議論を磨き合える仲間を実行チームに引き入れてみてください。
1-2:目的の優先順位を決める
ブランディングで地域を盛り上げたい!というのが、最終目標なのはどの地域も同じです。しかし、始めから「観光客を増やしたい」「産業を生み出したい」「移住者にも増えてほしい」と、何もかも欲張ってはうまくいきません。
地域ブランディングを実施するにあたっては、「観光」「移住」「産業」など細かく目的を洗い出すことが必要です。
まずは、達成したい目的を全部洗い出していきましょう。その上で、まずはどの目的から達成するのかを決めます。因果関係で整理できるものもあるかもしれませんね。全ての優先順位を決めておく必要はありませんが、核となる目的だけは明確に定めましょう。
またここで重要なのは、その目的が達成されるとはどういう状況かを決めておくこと。例えば「5年以内に年間の観光客を現在の3倍にする」など。現実的に可能なラインを見極めて設定します。
この目的に優先順位をつけるというのが、当たり前のようで実は難しいポイントです。特に公共の予算を使う場合には、さまざまなステークホルダーに利益を還元できるように、全方位的にプロジェクトを組むため、結局に全てが中途半端になってしまっているケースが散見されます。
関係者を巻き込んで、いろいろな課題を洗い出したまではよかったのですが、さまざまなステークホルダーに忖度した余り、無数のプロジェクトが生まれてしまい、結局変化が実感できずにズルズルと数年が経ってしまう。この課題を抱えている地域プロジェクトはかなり多いように思います。
どこの地域、どのプロジェクトでも、潤沢な予算があるわけではありません。この後に説明しますが、目的とターゲットとそれをつなぐコンセプトがいかにシャープになっているか?ある意味リスクを取って、変化が定着するまで一点突破できるかが問われています。
ここは、前述した“若者・馬鹿者・よそ者”の本領発揮とも言えるかもしれません。
1-3:実行チームでシミュレーションをする
ここまで設定できたら、次はプロジェクト全体の流れをシミュレーションしてみましょう。まずは実行チームだけで、これ以降に詳しく説明する一連の流れに従って、一度施策までを考えてみてください。
シミュレーションの流れ
1-5:目的を言語化する=スローガンをつくる
1-6:ターゲットのニーズを知る
1-7:ターゲットが抱える課題を洗い出す
1-8:地域の“資産=らしさ”を紐解く
1-9:ターゲット課題を地域資産を活かして解決する
そうすることで、どのようなメンバーを集めれば良いのかや、自分たちだけでは考えることが難しいのはどの部分なのか、このプロジェクトはどこまでが現実的に実行可能なのかがわかってきます。ここで出た課題や施策は、必ずしも最終的に活かす必要はありませんので、できるだけ自由で気軽に話し合ってください。
まずはなんとなくでも良いので、一度施策の実施までの見通しを立てておくことが重要です。
1-4:プロジェクトメンバーを集める
ではいよいよ、1-2で決めた目標を目指すために必要なメンバーを集めましょう。成功の鍵を握るのは、ここです。
メンバーとしてぜひ参加してもらいたいのは、その地域のことをよく知っている人たちと、他の場所からその地域に来た人たち。“若者・馬鹿者・よそ者”たちは、客観的な視点から、その地域では当たり前に思われている魅力に気がついてくれます。
目的にもよりますが、年齢層もできるだけ幅広い方々に参加してもらうと、多様な意見が得られるのでおすすめです。
またもしも地域の活性化を目指す団体や、地域に根ざしたNPOなどがあれば、その方々にも参加してもらいましょう。
地域ブランディングには、当然地域全体の協力が必要です。一部だけで盛り上がっても、地元の方々が冷めていては定着しません。地域全体で頑張ろう、という意識を持ってもらうためにも、プロジェクトメンバーはさまざまなコミュニティから集めてください。
また参加してもらう方々には、初めにこのプロジェクトの目的をしっかりと伝えましょう。
1-5:目的を言語化する=スローガンをつくる
メンバーが集まり、いよいよプロジェクト始動!……とその前に、やっておきたいことがあります。それは全員で、しっかりとゴールの認識を揃えること。このプロジェクトのゴールはどこで、何を目指して走っていくのかを明確にします。
そのために、プロジェクトチームの合言葉となる「スローガン」をつくりましょう。
スローガンとは、企業でいえば、企業理念を「合言葉」にしたもの。ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)などで示される企業の考えや在り方、目指すべき目的をわかりやすく言語化したものです。
▼「MVV」について詳しく知りたい方はこちら
企業の根幹を担うミッション ビジョン バリューの意味合いと作り方
▼「スローガン」について詳しく知りたい方はこちら
企業スローガンとは? 有名企業の30事例を企業理念から読み解きます。
ゴールをわかりやすく示したスローガンがあれば、やることが多くなりすぎて混乱したり、議論が迷走してしまったりしたとき、目的に立ち返るきっかけになります。また今後新たなメンバーにプロジェクトへ参加してもらう際にも、わかりやすいスローガンがあれば、よりスムーズにひとを巻き込むことができるでしょう。
必ずしもここでつくったスローガンを大々的に公表したり、最終的に発売する商品に記載したりする必要はありません。ここでのスローガンは、あくまでもチームのベクトルを示すためにつくるものです。
今回はひとつのプロジェクトチームなので、MVVまで定めるべきだとは言いません。ただもし主要なメンバーだけでかなりの大人数になるような巨大プロジェクトの場合は、足並みをよりしっかりと揃えるためにも、MVVなどの理念をつくることをおすすめします。
部分的にプロに依頼するなら、ここ!
最初から最後まで外部の企業に地域ブランディングを委託するには、それなりの予算がかかりますよね。でも自分たちで何もかもやりきるのは難しい、どこかはプロに依頼したい!と思ったら、依頼するのはこの部分です。
もちろんそれは、何となく良さげなコピーを1本つくってもらう、ということではありません。スローガンをつくる際には、その背景や目標としていること、今後どのようにプロジェクトを展開させていきたいのかを紐解き、しっかりと盛り込みます。
その過程で整理された内容を、最終的にスローガンに落とし込むところまでたどり着けば、あとは自分たちで何とか自走できるはず。
地域全体が納得できるスローガンが広まれば、ブランディングも自然と広がっていきます。プロに依頼するならこの部分だと、ぜひ覚えておいてください。
1-6:ターゲットのニーズを知る
さて、ここからが本題です。1−2で最初に達成したい目標と定めたことに向かって、実際に動き出していきましょう。
地域ブランディングとして何かの施策を行った場合、その先には“行動を起こしてほしい相手”がいますよね。商品を購入するひと、CMを見るひと、観光に来るひと。その相手を「ターゲット」と呼びます。
ブランディングをするにあたり、すぐに実現可能な施策や、面白そうな企画を考えたとしても、その先にどのようなターゲットがいるかがイメージできていなければうまくいきません。施策の設計がふんわりとして、誰にも刺さらなくなってしまうからです。
施策を企画する際の基本として、「たったひとりに刺さるように企画をつくる」という考え方があります。当然行動を起こしてほしいのは大勢の方々なのですが、たったひとりのターゲットに対して施策を考えることで、一貫性のある企画ができます。結果的にはそれが、大勢の心に届くということです。
ニーズを知るためにはまず、ターゲットを設定します。
ターゲットについて設定する項目
・年齢
・職業
・出身地
・既婚/未婚
・趣味
・仕事やプライベートがどのような状況にあるのか
一例ですが、このようなことを設定すると良いでしょう。その上で、ターゲットが現在、目的に対してどのような状況にあるかを考えます。
例えば、目的が「地域のブランド野菜を買ってもらいたい」だと仮定して進めてみます。
ターゲットの状況例
・健康に気を遣っているほうだ
・国産の食材にこだわって購入するタイプ
・コロナ禍で生産地を応援したいと考えている
・料理はそこまで得意ではない
このように達成したい目的に関連するような、相手の状況を考えてみましょう。
ここで1点、注意したいポイントがあります。それは「存在しないターゲットを設定しない」ということ。
「すでにこの地域に興味があって、特産品が何かを知っている」のように、都合の良いターゲットを設定してはいけません。あくまでも世の中のニーズを考え、知るために、ターゲットの設定を行ってください。
都合の良いターゲットを設定しないためには、さまざまなWebサイトやSNSを用いて、世の中の声を知る必要があります。
ターゲットとニーズの設定は、きちんと情報を得てから、現実的なものを設定しましょう。
1-7:ターゲットが抱える課題を洗い出す
ターゲットが明らかになったら、目標の達成にあたり、ターゲットが抱える不安や課題を洗い出していきます。仮にターゲットを”一度観光で訪れた若者”に対し、目的を「移住してみたいと思わせる」場合、以下のようなことが挙げられるでしょう。
ターゲットが抱える、移住に関する課題例
・地域に関する情報がない
・知り合いがいない
・魅力的な賃貸物件がない
・移住を相談する窓口がわからない
・地域の情報がWebで調べられない
・仕事があるかわからない
ざっくりとですが、このような課題があると考えられます。そうすると次は、この課題の中でもさらにどこから着手し始めるかを決めていく必要があります。移住しやすいように空き物件を整備したり、住民コミュニティーを活性化させたり、相談窓口を設置したり、仕事がなければ企業誘致を行うなど、目的に応じて解決策は様々です。
優先順位の付け方は一概には言えませんが、予算の都合上現実的なものや、課題の中でも最大の問題だと考えられるもの、多くの他者を巻き込まなくてもやりやすいものなど。リソース次第で、ひとつずつ解決しても良いですし、課題別にチームを分けても良いでしょう。
また課題を出す際は、コアの問題とは別の部分についても考えてみてください。こちらの目的は移住だとしても、移住した方にとってはその後もその土地での生活が続きます。
例えば地域住民が移住者に対して冷たかったり、買い物をする場所がわからなかったり、やっておかなければいけない手続きを知る術がなかったり。この点が解決されていないと移住者は定着せず、逆に「住みにくい場所だ」と悪い意味でブランディングされてしまいます。
目先の目標だけでなく、その先で地続きになって必ず現れてくる課題も、あわせて洗い出しておくようにしましょう。
1-8:地域の“資産=らしさ”を紐解く
企業や商品のブランディングと異なる点は、まずアピールする対象が“地域”という場であるということ。
ブランディングしたいものがひとつの商品であれば、どこが他とちがう点かを見つけやすかったり、そもそもちがいを出せるように開発したりしますよね。
しかし、地域は新たにつくったものではなく、ずっとそこにあったもの。特徴を無理矢理つくることは、なかなか難しいのが実情です。
だからこそ地域ブランディングで最も重要なのは、その土地のDNAをしっかりと活かした施策を実施すること。次のステップは、地域のDNAとはどんなものかを紐解くことです。
プロジェクトメンバーで、その地域の良いところも悪いところも含めた、”らしさ”について話し合いましょう。ずっとその土地に住んでいる方からの意見はもちろん、地元で暮らす人々にとっては、当たり前すぎで気づかないことを、新しくその土地に来たメンバーから教えてもらいます。
一般的なアプローチとしては、その地域や周辺についての文献や有識者から歴史を紐解くことも多いです。
なぜ、現在の地名になったのか?現在の収穫物が育てられるようになったのはなぜか?歴史の中でどのような役割を担う場所だったのか?どんな人々を輩出してきたのか?など、他の地域とは異なるその土地が持つDNAを集めていきます。
最終的には「地域のDNAがもつ独自性」を、「ターゲットが求める価値」といかに紐づけられるかによって、ターゲットが、その土地で暮らす必然性へと繋がっていくのです。
1-9:ターゲット課題を地域資産を活かして解決する
ここまでくればもう一息。ついに施策を考えるフェーズです。公式はこちら。
これまで考えてきたことをしっかりと踏まえた上で、地域の持つ資産や価値を再定義する発想力を加えてみてください。
もともと持っていた強みはもちろんのこと、時には弱みさえも、ターゲットの課題によっては価値になります。今は、便利な世の中だからこそ、あえて不便利さに価値を感じる人々がいるような多様な価値観で溢れる時代なのです。
2:地域ブランディング3つの成功事例
実際に施策を考えるなら、まずは参考事例を集めるところから。模倣してはいけませんが、すでに世の中にある事例を知ることは非常に重要です。
今回は、数ある事例から3つの地域をご紹介します。参考にできるポイントはどこかを探してみてください。
2-1:大阪府枚方市
とにかく知名度を上げることを優先に、ユーモラスな企画を行ったのは、大阪府の枚方市。企画は「マイカタちゃいます、ひらかたです。」
「ひらかた」が正しい読み方の枚方ですが、知らない人には大抵「まいかた」と読まれてしまうことを逆手に取ったこの企画。正しく読めるひとの割合を全国で調査し、その分布図を作成・公開しました。
その自虐的で大阪らしい企画は大きく話題になり、知名度は上昇。結果的に移住者も増えたそうです。
▼マイカタちゃいます、ひらかたです。
https://www.city.hirakata.osaka.jp/vod/0000006801.html
▼枚方市定住促進サイト
https://www.city.hirakata.osaka.jp/teiju/
2-2:新潟県佐渡島
地域の特色と観光客のニーズをうまく組み合わせて企画されたのが、新潟県にある佐渡島のバスツアー「ようま観光バスツアー」。
佐渡の方言で「夜」の意味がある「ようま」。その名の通り夜に開催されるバスツアーは、当日まで行き先が秘密。イベントの核となったのは、佐渡島に残る文化。佐渡に1,200あるという民話や伝承にゆかりのある土地を巡りながら、最先端の映像や演出も味わえます。もちろん、地元の食材やお酒も楽しめます。
従来は中高年向けのイメージが強く、行き先も有名観光地ばかりで、若者には少し魅力が見えづらかったバスツアー。夜に実施し、なおかつミステリーツアーにすることで、若者や遠方の観光客からの興味を集めました。
▼ようま観光バスツアー
https://youmakanko.com/
2-3:千葉県いすみ市
2005年に3つの町が合併して生まれた、千葉県いすみ市。都内からの絶妙な距離感を活かし、合併以降、主に移住や観光を目的とした地域ブランディングへ積極的に取り組み、大きな成功をおさめている自治体です。
移住やその後の暮らし、いすみ市での起業についてわかりやすく伝えるWebサイトには、移住した方のインタビューが数多く掲載され、いすみ市での暮らしに現実味を持たせるつくりになっています。
また千葉大学や武蔵野美術大学など、いくつもの大学と連携して、学生の学びも兼ねた地域ブランディングとしても話題。中でも注目を集めたのは、跡見学園女子大学と取り組んだ「漁港と漁師のブランド化」において発案された、「女子大生が選んだ大原漁師IKEMENカレンダー」の発売。その目の付け所は、まさに大学生ならでは。さまざまなメディアに取り上げられました。
他にも「NPO法人いすみライフスタイル研究所」が中心となって進めるブランディングの活動や、「いすみ鉄道ブランディングプロジェクト」なども立ち上がり、自治体の主導だけではない積極的な地域ブランディングが広まっています。
▼いすみ暮らし
https://uji-isumi.com/
▼NPOいすみライフスタイル研究所
http://www.isumi-style.com/
▼いすみ鉄道
https://isumirail.co.jp/
3:施策の実施で終わらない!地域ブランディングの注意ポイント
ここまでで、施策を実施するためのステップや成功事例をお伝えしました。地域ブランディングに対する具体的なイメージは湧いてきましたか?
ぜひこのままの勢いで、まずは1-1から始めていただきたいところですが、その前に必ず覚えておいてほしい注意点があります。実際に施策を始めたあとも、これからお伝えすることを絶対に忘れないでいただきたい、重要なポイントです。
3-1:ブランディングは“継続”が鍵
地域ブランディングに限らずブランディングの世界には、施策を実施したらあとは結果を待つだけ!なんてことはありません。
ターゲットもニーズも施策も、あれだけ考えたにもかかわらず、実施してみたらなんの効果も見えてこない……なんてことはよくあります。しかしそこで諦めてはいけません。
世の中の事例を見ていると、大きな一発を当てて何もかもうまくいった、というものが多く見えますよね。そういう場合もあるかもしれませんが、実際にはその裏に、地道な積み重ねがあることがほとんど。
例えばブログを毎日書くことをコツコツ続けたとしても、最初の数ヶ月、あるいは数年間は誰も見ないかもしれません。しかしあるタイミングでひとつの記事が爆発的に読まれたとき、それまで書き続けてきた他の記事を読む人が必ずいて、その内容に魅力を感じ、そこから継続的にブログを訪れてくれるようになります。
私たちが普段目にするのは、この爆発の部分だけなのですが、実際にはその前にも後にも地道な努力は続いているのです。
特に地域ブランディングの場合、一度の失敗で諦めて、その後何もしない状態を続けたとしても、課題が解決されることはありません。それでもその土地はそこにあり続けますから、いずれ廃れてしまうことは避けようがないのです。
もちろん、全く効果が出ないと判断した施策をやめてはいけないわけではありません。その失敗から学び、学んだことを活かすことを続けていれば、その経験の積み重ねがいつか素晴らしい施策を生むときが来ます。
もし短期間での結果ばかりを求める他者から、やめるような圧力をかけられてしまったら、相手にブランディングの基礎知識を叩き込んでやりましょう。
ブランディングは、その地域に対する人々のイメージを変えるわけですから、成功にはどんなに短くても数年かかります。
その事実を忘れずに、時にはそれを励みにして、根気強く続けてください。
3-2:目的達成の“その先”を見据えて動く
例えば観光客を増やすことが目的だとして、さまざまな施策の結果、訪れる観光客が増えたとしましょう。おそらく短期的に見ればブランディングの成功に見えるのですが、その後訪れる課題があります。それは、「リピート率が低い」ということ。
あるいは移住者を増やすことを目的に施策を行い、移住者が増えたとします。しかしその後訪れる課題のひとつは、「定着率が悪い」ということ。
このように新たな課題が起こってしまう要因は、「目先の目標しか見えていない」ことにあります。
せっかく観光客が訪れても、その地域に「また来たい」と思える要素がなければ、観光客の増加は一過性のもので終わってしまいます。観光客を増やすならば、同時に「何度来ても楽しめる」「誰かにおすすめしたい」と思ってもらえる地域づくりをしなければなりません。
移住者に対しても同様です。せっかく移住してきたにもかかわらず、「地域住民が冷たい」「子育てに対する支援が乏しい」など、長く住むには適していないと判断されてしまうと、またすぐに出て行ってしまいます。
例えばこれらの状況をつくらないためには、繰り返しになりますが、プロジェクトメンバーに地域住民をしっかりと巻き込むことが重要。地域全体でブランディングを盛り上げようという雰囲気が醸成されれば、訪れる人にもきっと居心地の良い場所になるはずです。
観光客も移住者も、一度その地域に対して良くないイメージを持ってしまうと、それを覆すことは新たなひとを呼び込むよりもずっと難しいことです。
反対に、一度訪れたひとや移住したひとがその地域を好きになってくれれば、口コミは何よりも強いブランディング効果をもたらします。そうするといずれは、地域で施策を打たなくてもひとが集まるサイクルが生まれるのです。
ですからブランディングを実施する際は目先の数値目標などにばかりとらわれず、ターゲットのその後についても思慮を巡らせるようにしてみてください。
4:最後に
いまや地域ブランディングには、多くの自治体が取り組んでいます。
必要性を感じ、取り組む地域が多く出てきているからこそ、ありきたりで芯のない施策も多く見られます。いわゆる箱物と言われる立派な巨大施設ができたり、不思議な巨大オブジェができてしまうようなニュースも後を経ちません。
そもそも、自分たちでは無理だと諦めて、外部に丸投げしてしまうケースもあるようです。
外部にブランディングの協力を依頼するのは、それ自体悪いことではありません。むしろプロの知見も得られ、より“面白い”企画になることもあるでしょう。
しかし、自分たちが住む地域のことを、他者に丸投げすることはやめましょう。この記事を書いている私たちパラドックスは、数多くの企業ブランディングを手がけてきましたが、当事者にビジョンや熱意のないブランディングは、絶対に成功しないことを知っています。
地域ブランディングにおいては、その土地の良い点も悪い点も含めた魅力を知り尽くしたそこで暮らす人たちの知識と、こんな良いところがあるのにもったいない!と感じる外部の価値観の両方が必要です。
もし、これから自分が暮らす地域のために何か始めようとお考えの方がいれば、これらブランディングプロジェクトの進め方や考え方をぜひ参考に、その地域だけの独自性と必然性にあふれる地域づくりに活かして頂ければ幸いです。
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