「理念採用」のカギは、経営と人事のギャップの解消

組織が大きくなるにつれ、そこには様々なギャップが生じるようになります。理想と現実、経営とメンバー、管理部門と現場、部門間、世代間・・・。縦横のつながりが希薄になり、認識のずれが生じることは、企業が成長する上で誰しもが経験する成長痛とも言えるでしょう。

このようなギャップは、なぜ起こってしまうのか。また、どう解決すればよいのか。

インナーブランディング領域に携わってきたからこそ明確に見える、企業内で起こり得るギャップの原因とその解消法について、全3回のコラムをお届けします。

第1回目の今回取り上げるギャップは「経営と採用」です。

経営層「企業理念に共感している人材の採用ができていない。」 
人事「そもそも、これまでの採用基準が『優秀な人材』だけだった…。」

企業の採用に携わると、このような経営と人事のギャップに出会うことは珍しくありません。

「理念採用」という言葉が広まって久しいですが、企業理念に共感した人材を採用することが重要なのは、もはや採用の基本といえるかもしれません。しかし、その理念採用をめぐって、経営層と実際に採用を行う人事担当者の間でこのようなギャップが生まれてしまうのは、なぜなのでしょうか。

1:「理念採用」ができないのはなぜ?

求職者の応募数も面接人数も多い大企業では、目標採用人数がKPIとなる上に、人事ではない現場のメンバーやアウトソーシングされた外部パートナーが採用に加わるため、どうしても採用基準が曖昧になりがちです。その結果、理念に共感した人材が採用できない、という結果を招いてしまうというケースを散見します。

もちろん、企業によってその要因はさまざまですが、ここではありがちな3つのケースをご説明します。

①経営が求める人材について言語化してないケース

まずは経営が、求める人材についてはっきりと言語化をしていないケース。

しっかりとした企業理念があったとしても、それを経営戦略、さらには事業戦略、人材戦略にまで落とし込めていない場合はよくあります。そもそも経営戦略は、企業が日々果たすべき使命や、目指す未来を定めた企業理念に基づいて考えられるべきもの。しかしそこがうまく結び付けられず、短期的な視点や現状数値の積み上げだけで、経営戦略を立ててしまうのです。

企業理念やビジョンがないまま立てられた経営戦略は、長い目で見たときの会社の理想像が反映されていません。そうすると経営層も人事も、将来何が起こるか予測できないことから、何が起こっても良いようにとにかく“優秀な人材”を採用しようと考えがちです。

しかし、企業の将来の価値提供の方向性が見えないままでは、自社にとって必要な“優秀な人材像”が掴めず、人事としても学歴などの一般的な基準で採用せざるをえません

その結果、一般的には優秀でも、自社にとって必要な人材が採用しづらくなってしまうのです。

②人事が企業理念を人材要件に落とし込んでいないケース

2つ目の要因は、人事が企業理念を人材要件に落とし込んでいないケース。

採用活動を行うにあたり、求める人物像を明らかにした「人材要件ポートフォリオ」を作成することが一般的です。

人材要件は、人材の採用や育成について計画される人材戦略に基づいて考えられますが、そもそもこの人材戦略は、理念に基づいて作成された経営戦略をもとにしてつくられる必要があります

▼人材要件の作り方については、こちらを参照ください。
自社にマッチした人材とは?人材要件(求める人物像)の考え方

※企業理念・経営戦略(事業戦略・人材戦略)の関係について詳しくは次の章でご説明します

経営戦略の段階で企業理念に基づいていなければ前述①のケースにあたりますが、人材戦略の段階、あるいは人材要件の段階で企業理念に基づいていない場合もあるのです。

企業理念に基づいた人材要件とは、言い換えると「理念に共感した上で、新しい提供価値を生み出してくれる人材」を表したもの。これがないままでは、理念採用を行うことは難しいといえます。

③採用面接の評価基準に企業理念が落とし込まれていないケース

そして3つ目の要因は、採用面接の評価基準に企業理念が落とし込まれていないケース。

採用人数・応募人数が多い大企業では、普段は人事に関係のない部門の社員やアウトソーシングされた外部パートナーが、面接官を担当することもありますよね。

その際、合否を決める面接基準が、企業理念に基づいていないケースがあります。

人事は企業の中でも、学生に説明するため企業理念について触れたり考えたりする機会が多いもの。しかし他部門の社員の中には、日常的に企業理念を意識せずに働いている方も多くいます。

詳細な評価基準を設定していなかったり、事前の説明なしに面接を任せていては、判断は当然それぞれの社員の主観に基づいて行われてしまいます

2:「ギャップ」の原因

ではなぜ、そのような状況に陥ってしまうのでしょうか。

ここには「企業理念が浸透していない」「経営戦略と人材戦略(採用戦略)が紐づいていない」という2つの理由があります。

2-1:企業理念が浸透していない

企業理念は、策定しただけでは浸透していきません。策定後には、社員一人ひとりが理念を理解し、共感・実践を促すための浸透活動が不可欠です。

前述したような「企業理念を人材要件に落とし込めていない」状況も、理念浸透がなされていないから起こるもの。

経営層だけではなく、人事、そして全社員に企業理念の意味が浸透していれば、人材要件の作成はもちろん、人事以外の社員が面接官をする場合にも「この人材は理念に共感しているな」ということがある程度判断可能になります。

また、優れた理念企業では、求職者に対し、社員が自社の理念や事業特長を説明すること自体を理念の浸透活動、理念研修として捉えています

学生・社会人問わず、求職者はある意味、自社に興味を持ってくれている一番身近な外部であり、社会の代表とも言えます。その方々に対し、自社の説明をすることがいかに社員にとって貴重な経験になるかは、勘の良い経営者であればすぐに分かるでしょう。

しかし、実際には多くの企業が、採用人数の達成だけを考え、人手不足を理由に、採用面接官をアウトソーシングしてしまっており、社員にとっての貴重な理念研修の場を奪ってしまっているのが現状です。

理念浸透やそのための機会の設定は、本来は経営層が主体となって行うべきもの。企業の根幹となるものですから、理念浸透が充分に行われていない場合は、理念浸透のための機会を設けられているかどうかを見直してみるのもいいかもしれません。

2-2:経営戦略と採用戦略が紐づいていない

企業が今後どのような目的で、どのように事業を展開していくか。それを表す経営戦略は“日々果たすべき使命”であるミッションと、“実現したい未来”ビジョンをつなぐ現実的な道筋のこと。なので、経営戦略を策定するには企業理念をもとに考える必要があります。

その経営戦略を実現するのは、当然社員です。しかし、その従業員を採用するための採用戦略に、経営戦略が紐づいていないことが、意外とよくあるのです。

本来であれば、企業理念は経営戦略となり、その経営戦略は事業戦略や人材戦略に分割され、人材戦略がさらに採用・育成戦略にブレイクダウンされていきます。

企業理念(ミッションからビジョンへの道のり)を実現するために、組織は様々な事業を積み重ねていきます。それぞれの事業に対し、個別の顧客・マーケットがあり、個別の提供価値があり、その提供価値を創造してくれる人材が必要なっていきます。

 

上記のように、理念の基づいた経営戦略の実現には、事業戦略、人材戦略が密接に関わっていることがよく分かります。

企業として目指す姿を実現するために、どのような新しい価値を提供できる事業が必要なのか?その事業の実現のためにはどのような人材が必要なのか?その人材は、社内の人材を育成することで補えるのか?それとも新しく採用しなくてはいけないのか?などが、徐々に見えてくるはずです。

経営戦略と人材戦略を、最初から完全に紐づけることはなかなか難しいですが、変化する前提でかまいませんので、一度ストーリーを設計し、チームで共有し、共通認識を持っておくことが理念採用する上で大切です。

3:経営と人事の距離を縮める

「理念採用」をめぐって、経営と人事との間で起きるギャップ。その原因の多くは、経営と人事のビジョンの共有に費やすコミュニケーションの不足に起因します。

企業が理念に基づいて事業を行えるのは、そもそも“そこで働く人材がいてくれてこそ”。人材を採用することは、企業にとって最重要事項であり、経営と人事が同じ視座と覚悟を持って望まなくてはいけません

人材不足の現在では、世間一般のものさしでいう「優秀な人材」を大量に採用して適当な部署に配属し、必要な時が来るまで配置し続けるような企業本位のやり方は通用しなくなります。

経営戦略に沿って丁寧な採用戦略をたて、自社にとっての優秀な人材を定義し、採用するほうが離職者も少なくなり企業にとっても効率的

理念に共感し、自社の経営戦略にも合った人材を採用するために、経営と人事の距離を縮めることから始めてみましょう。

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