“属人化”から脱却する。理念を起点とした「マネジメントポリシー」のつくりかた

社員が持っている共通の仕事への価値観やスタンスは、企業らしさや企業文化を形成する上での大きな要因の一つです。社員がどのような価値観を大切にし、どのような意識で日々の仕事に取り組んでいるかは、その会社の社員の方と話をすれば、すぐに伝わってくるもの。

一目見ただけでその価値観とスタンスに共感し、「ぜひ一緒に仕事をしてみたい」と思わせてくれる方に出会えた経験を、お持ちの方も多いのではないでしょうか。そのような場合には、自然とプロジェクト自体にも期待感を抱けるようになります。

しかし、これは裏を返せば、たった一人で会社の印象を良くも悪くもしてしまう可能性があるということでもあります。

では、どうすれば、一人ひとりが会社の価値を体現できるような人材になれるのでしょうか。

そもそも“理念に共感した人材を採用する”ということが最も大切ですが、同じくらい入社後のマネジメントも大事な要素といえるでしょう。せっかく理念に共感して入社してくれた人材も、上司のマネジメントスキル次第で成長に大きな変化が出てしまう事実は、どの組織にもみられる共通の課題です。

このような課題の解決に必要なのは、企業理念に基づいたマネジメントの指針である「マネジメントポリシー」です。今回は、マネージャーの属人的なマネジメントから脱却し、組織としてのマネジメントレベルを底上げし、自社らしい人材育成に必要な「マネジメントポリシー」の重要性とつくり方についてご説明します。

1:マネジメントがうまくいかない理由

現在多くの企業では、ある程度の経験を積んだり、大きな成果をあげたりした人材をマネージャーとして登用しています。

豊富な経験がある社員にマネージャーという役割を持たせ、次なる人材を育成する仕組みをつくることは、組織運営において欠かすことができない大切な仕組みです。

一方で、登用されたマネジメント人材は、一定のマネジメントの研修などを受けることもありますが、それ以降は各々のやり方でマネジメントを実施することが多いのが現状です。

このような組織において、よく起こりやすい課題のひとつに「マネジメントの属人化」があります。

実際の現場では、マネージャーそれぞれが自分の良いと思うやり方、あるいは自分がやりやすいやり方でマネジメントを行うために、「あちらのチームではよしとされることが、こちらのチームではやってはいけない」というような状況が生まれます。

もちろん、そこに納得のいく論理的な理由はなく、チーム間に不公平感やモチベーションの低下、最終的には顧客への提供価値の低下につながってしまいます。このようなマネジメントが続くと、最悪の場合メンバーが離職してしまうこともあるでしょう

多くの場合、マネージャー同士は独立したチームを運営しているため、横の連携は少なく、マネジメントに関して意見を交わす機会はほとんどありません。

特に数年間続くコロナ禍においては、リモートワークの拡大によって一層周囲の状況が見えず、マネジメントの属人化が加速してしまう傾向があります。

このように、組織の価値観が定まらず、人材育成が安定しないという企業は多く、その原因の一つがマネジメントの属人化なのです。

ではこんな状況を打破するためには、何をすれば良いのでしょうか。それが、「マネジメントポリシーの言語化」です。

2:マネジメントポリシーとは

マネジメントポリシーとは読んで字の如く「マネジメントの方針」のことを指します。組織をどのような方針でマネジメントするか、ということです。

最も重要な「方針」とは、もちろん「企業理念」。つまりマネジメントポリシーとは、「企業理念を起点にしたマネジメントの方針」のことなのです。

ここは重要なポイントなので、もう少し詳しく説明させてください。

サイモンシネックの、「ゴールデンサークル理論」をご存じでしょうか。人は「WHY(なぜ)→HOW(どのように)→WHAT(なにを)」の順番で考え行動することによって、最も動機付けされ、成果をあげることができるというものです。

企業活動において、私たちは「WHY」を「企業理念」だと位置付けています。そして具体的な施策が「WHAT」その間をつなぎ、WHYをWHATに反映させるために必要なのが、「HOW」です。

企業理念とは、企業のあり方や存在している理由・目的を示すもの。存在意義のことです。企業が行う活動のすべては、この企業理念に基づいて判断され、実行されている必要があります。

一方で、企業理念は抽象的な言葉になりがち。ひとりのメンバーとして仕事をしている場合、企業理念に共感はしていても、自らがどう動けば企業理念を体現していることとなるのかはわかりにくいものです。

そこで必要なのが、マネジメント。企業理念に基づいた判断、行動を取れるようになるために、部下を導いていかなければなりません。

しかしマネージャー自身も、企業理念を体現する部下を育てるために何をすれば良いか、自ら考えて正解に辿り着くことは難しいですよね。

そこでそのマネジメントを、どのように行えば良いかを示すものが、マネジメントポリシーなのです。

ここまで読むと、マネジメントポリシーは、“部下をマネジメントするために必要な事柄一つひとつを明確に定めたルールブック”のようなイメージを持つ方もいるかもしれません。

しかしマネジメントポリシーは、メンバーを従わせるためのルールではありません。具体的な指導方法を定めることでもありません。先ほどのゴールデンサークルにおける「HOW」の部分であり、マネジメントをする上で大事にすべきスタンスを示したものです。

部下をマネジメントする際に、「どのような価値観やスタンスを大事にしながらマネジメントするか」までを定めたのがマネジメントポリシーであり、言い換えるとマネージャーにとっての行動規範のようなものだと言えるでしょう。

これを習得することで、日々のメンバーとの関わりの中でも、メンバーと理念にそった価値観や基準を共有することができるのです。

3:マネジメントポリシーを言語化するメリット

マネジメントポリシーを言語化し、マネージャーにインプットすることで得られるメリットは、マネジメントの属人化の解消だけではありません。

部下を評価する際、マネージャーの考え方やメンバーとの相性によって評価するポイントがずれてしまうのは、どの企業にも共通の課題。

しかしマネジメントポリシーを策定し、それに基づくマネジメントの実践と、マネージャー同士による定期的な情報共有を続けていくことで、マネージャーの目線が揃ってきます

その上でメンバーのどのような状態をどう評価するかという、具体的な事例をいくつも共有しあうことで、自ずとマネージャー間での評価の差が生まれづらくなります

またマネジメントポリシーに基づくマネジメントによって成果をあげることで、マネージャー自身の自信にもつながります。チームの成果がわかりやすくマネージャーの成果につながることで、マネージャーもまた、モチベーションを高く維持することができるようになるでしょう。

4:マネジメントポリシーのつくりかた

基本的な人事機能といわれる、6つの項目をご存じでしょうか。

採用・・・人材採用と採用後のフォロー

育成・・・人材育成

評価・・・人事評価

配置・・・配属、ポジションマッチング

報酬・・・給与、福利厚生、社内環境

退出・・・離職、転職

マネジメントポリシーは基本的に、この6つの項目について議論し、定めていきます。人材を採用し、その人材が離職するまでの6つそれぞれのフェーズで、マネージャーがどのような方針でマネジメントするかということです。

マネジメントポリシーの完成形は、この6つの項目と、マネジメントポリシーをつくるそもそもの目的を示した「大目的」を初めに加えたものになります。

参考のため、パラドックスのマネジメントポリシーを一部ご紹介します。

【大目的】

 

志と誇りにあふれた組織をつくる。

 

メンバー一人ひとりが自分のらしさを活かし、人や企業の志の実現に貢献するパートナーとして。成長しつづける。
そのための場と機会にあふれた組織であると同時に、メンバー地震の志の実現に貢献する組織でもあります。
常に must want can のフレームで考えながら、パラドックスとメンバーの「志の接点づくり」を行うこと。
それがマネジメントの基本です。

 

だから、パラドックスのミッションや仕組みは、すべて・・・・・・

まずはこのような「大目的」から、マネジメントポリシーが始まります。そして以下のような内容が、6項目続きます。

【採用】

 

将来、自分を超えていきそうな人を採用する。

 

まずは、バイアスをかけずに、対等な立場でフラットに判断することが第一。一人ひとりの独自性や価値観へのリスペクト。多様性を尊重する。新卒採用は、組織を下から突き上げ、若手層の危機感を醸成してくれるような人材を。中途採用で求めたいのは即戦力と、その方が入社することによってパラドックスのビジネスが広がるイメージを持てるかどうか。パラドックスの事業の進化に貢献してくれるか、という視点でも評価しよう。いずれも、戦略的成長を意識しながら、入社はゴールではなく通過点という視点で考えることが、その後の彼ら彼女らの活躍につながっていく。

 

※以下に3段落続きます

それでは詳しく説明していきましょう。

4-1:「大目的」を定める

具体的な内容に入る前に、定めておかなければならない最も重要なことが、マネジメントポリシーの「大目的」。マネジメントポリシーを策定し、実践することにより、どういう組織にしたいかを言語化することです。

この「組織のありたい姿」と、「現在の組織」との差分を埋めるために、どうすれば良いかをマネジメントポリシーに表します。4-2以降はマネージャー陣だけの参加でも良いのですが、「大目的」は経営層も含めて議論するようにしてください。

議論を終えたら、それらをまとめて言語化します。書き方も長さも企業によって異なるので、決まりはありません。

ただ、あまりに抽象的で解釈の分かれるものや、説明不足な短文にならないよう気をつけてください。

4-2:マネージャー同士のセッションと情報共有

新たにマネジメントポリシーを策定するといっても、ゼロから新しいマネジメントについて考えるわけではありません。

これまでのマネジメントのやり方から、「自社らしさ」や続けていきたいポイントを抜き出して集め、マネージャー全員が実践できるようにするために、マネジメントポリシーとして言語化するのです。

そこで必要なのは、これまでどのようなマネジメントを実践してきたか、どういう思いでマネジメントをやってきたかという経験の共有。そしてそれらに対する意見交換のセッションです。

ここではまず、「採用」「育成」「評価」「配置」「報酬」「退出」の6つの項目それぞれについて、意見を出し合ってもらいます。

注意していただきたいのは、一人ずつ順番に口頭で発表する形にしないこと。「前の人とは違うことを言わなければならない」「他の人のやり方と正反対のことをしている」などの考えから、本来の経験や意見を発表できなくなることがあるからです。

全員が一斉に付箋(オフラインの場合)やチャット(オンラインの場合)に書き出し、重なる部分や相反する部分も含めて共有し合ってください。

その中から、共通するやり方や今後も残していきたい文化、「自社らしさ」が表れているものは何かを、議論しながら抜き出しましょう

6項目それぞれについて、このセッションを繰り返します。一見対立するように見えるマネージャーの意見も、本質的には同じことを言っており、言い方の違いがメンバーへの伝わり方に誤差を生んでしまっていることなども見えてきます

社内の役職や経験の差、世代の差など、組織の中にどうしても存在するバイアスを取り除いて、マネジメントの純粋な共通点を見出したい場合などは、第三者の力を借りることも有効です。

理念を起点に、自社らしいマネジメントの本質を精製することを心がけてください。

 

このプロセスを通じて、マネージャー自身もまた企業理念への理解と共感が深まり、さらなる理念浸透にもつながります。

近年企業理念への共感を重要視する「理念採用」を掲げる企業も多くなってきましたが、入社後のオンボーディングにおけるミスマッチによる離職は実際には多く存在します。そのような事態を防ぐためにも、マネージャーへの理念浸透は非常に重要なのです。

 

4-3:6つの項目を言語化する

6項目について、共通するやり方や今後も残していきたい文化、「自社らしさ」が表れているものを抜き出せたら、それらを言語化していきます。

全員で話し合ってまとめるのが難しい人数の場合は、数名で行うか、6つにグループ分けして分担してください。

要素がきちんと含まれているか、これからマネージャーになる次世代が読んでも理解できるか、注意しながら進めましょう。

マネジメント共有会を実施しましょう

マネジメントポリシーが完成したら、いよいよ実践です。運用後は、定期的にマネージャーでの共有会を実施し、マネジメントポリシーをどう実践しているか、疑問に思う点はないかを確認し合いましょう

この共有会を実施することで、マネージャー同士の目線を揃えたり、マネジメントポリシーへの理解を深めたりすることができます。また実際に運用してみると、組織にマッチしていないと気付くことがあるかもしれません。その際は適宜変更していきましょう。

5:最後に

企業理念を起点にして、マネジメントの方針を定める「マネジメントポリシー」はいかがだったでしょうか。企業理念を起点にすべてのマネージャーが一貫したマネジメントポリシーを持つことで、全社員への理念浸透につながったり、マネージャー陣の目線が揃ったり、新入社員とのミスマッチが減ったりと、多くのメリットがあります。

ただひとつ覚えておいていただきたいのは、マネジメントポリシーは、絶対的な聖典ではないということ。企業として守るべきところは守りつつ、時代や組織の状況に合わせて変化させていくことも必要です。

違和感を感じることや、組織にマッチしなくなってきたと思うことがあれば、どんどんアップデートしていきましょう。

「マネジメントポリシー」策定のご案内

今回は、自社内でも可能なマネジメントポリシーの策定をご説明しました。しかし自社内だけで実施すると、どうしても社員同士の関係性から、ファシリテーションがうまくいかなかったり、言語化がうまくできなかったりするもの。途中でプロジェクトが頓挫することや、曖昧なマネジメントポリシーが仕上がってしまうことも珍しくありません。

数多くの企業ブランディングを手がけてきた私たち株式会社パラドックスでは、企業理念の策定と共に、企業理念に基づくマネジメントポリシー策定も承っています。

自社内では実践が難しいと感じたら、ぜひ一度ご相談ください。

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