近年日本でも耳にすることが多くなった「エバンジェリスト」という職業。
みなさんも、ビジネスメディアなどで目にしたことがあるかもしれませんが、「どんな職業ですか?」と聞かれても明確に答えられる人は多くないかもしれません。
エバンジェリストとは一般的に、プレゼンテーションなどを用いて企業のサービスや商品の魅力や価値を伝える仕事として知られています。日本でも元Googleの〜、元Microsoftの〜といった肩書きの方を見る機会が多いように、アメリカを中心に、IT業界の新職種として注目が高まっています。
主に社外にどのような発信をするか、の側面に注目されがちですが、エバンジェリストの「伝える力」は社内にも有効で、社員の商品、企業理解はもちろん、自社の理念浸透の加速にもメリットがあります。
本記事では、企業ブランディングに長年携わり、「伝える」ことに向き合い続けている私たちパラドックスの知見を交えながら、エバンジェリストの基本知識から必要なスキル、育成するメリット、「パラドックスが考えるエバンジェリスト」についてご紹介します。この記事が経営者や担当者の方にとって課題解決のヒントになれば幸いです。
エバンジェリストとは
名前は知っているけど、具体的に何をしている職業なの…?という方も多いかと思いますので、まずはエバンジェリストとはどんな職業なのか、語源を踏まえてご紹介します。
エバンジェリストの意味と定義
エバンジェリストを和英辞典で調べてみると「福音の伝道者の意味」と記載されています。キリスト教由来の言葉で、端的にその役割は「教えを伝え、広めること」。
「製品などの啓発・宣伝を行う人」という側面が注目されがちですが、「伝えるスペシャリスト」とも言われることもあるように、エバンジェリストの本質は「あらゆる情報を伝えること」にあります。
※参照元:『エバンジェリストの教科書』 西脇 資哲
エバンジェリストの役割
一般的にはIT業界で活躍するイメージが強いエバンジェリストですが、その活動は多岐にわたっており、「社外に向けて伝える」というと、一般的に営業や広報を連想しますが、エバンジェリストはそれらの職業と少し異なります。
営業は自社の商品を消費者に買ってもらうため、広報は企業・サービスの認知、イメージ向上のため社外への発信を行いますが、エバンジェリストがそれらと異なるのは、「中立的な立場」であること。自社の商品やサービスのメリットをただ訴求するだけではなく、企業の思いや技術を丁寧に伝え、消費者や受け手の立場に立って伝えることが求められます。エバンジェリストと営業、広報、インフルエンサーの違いは下記の通りです。
エバンジェリスト | 自社の商品やサービスに限らず、中立的な立場で専門分野を説明し、消費者目線で考えて新しい価値を提供すること。社内であれば会社を継続するために企業理念の浸透を続けるため、一過性の仕事ではない。 |
営業 | 自社の商品やサービスで成約し、売上向上を目指す。 |
広報 | 企業のイメージアップを目指し、売上向上を目指す。 |
インフルエンサー | 世間一般に大きな影響力を持っているが、製品やサービスに関して詳しい知識を持っているとは限らない。一過性の傾向が強い。 |
エバンジェリストが求められる背景
中立的な立場に立って世の中に情報を伝えるエバンジェリストですが、なぜ注目を集めているのでしょうか。その理由は、人々の消費行動の変化にあります。
消費者の購買動機がモノからコトへ、はたまたイミへ変化している、と耳にしたことも多いかと思います。モノがあふれ、機能で差別化が難しくなっている今、消費者はこれまで以上に「何を得られるか」という体験を重視しています。
一つのプロダクトを購入するにしても、「この商品はこんな機能です」と無機質な情報を伝えられるか、「この商品の機能によって、あなたの暮らしは明日からこんなにも便利になります」と生活に与えるメリットを伝えられるかでは、購買意欲が大きく変わりますよね。
情報とモノがあふれる時代だからこそ、エバンジェリストのように「伝えるスペシャリスト」が求められるのです。
エバンジェリストの仕事
エバンジェリストの意味や役割が理解できたところで、続いてはエバンジェリストがどのような活動を行っているのかを見ていきましょう。
エバンジェリストの仕事内容は多岐にわたりますが、大きく分けると活動内容は以下の3つです。
- 社外:セミナーやイベントでの商品・サービスのプレゼンテーション
- 社内:社内向けの商品・サービス説明、理念の浸透
- 製品やサービスに関する調査・研究
みなさんがエバンジェリストの仕事と聞いて一番に想起するように、自社製品やサービスの魅力を伝えるためのイベントやセミナーなどの活動は、エバンジェリストの主要な業務です。また、社内での会議や社員に向けたプレゼンテーションなどもエバンジェリストが行っていることの一つです。加えて、中立的な立場で情報を伝えるため。自社の製品やサービスの魅力、技術、競合他社など、市場に存在する商品の調査・分析も行っています。
例えば、Microsoft製品すべてを扱う日本人唯一のエバンジェリストで、『エバンジェリストの教科書』の著者である西脇資哲さんは、一般のユーザーを対象としたセミナーやイベントに登壇し、製品の魅力を語ることや、社長や経営陣の講演に同行し、プレゼンやデモのサポートなどを具体的な業務に挙げています。
パラドックスの考えるエバンジェリスト
前項では一般的なエバンジェリストの仕事内容についてご紹介しましたが、私たちは、エバンジェリストの本来の意味が「伝える」だったことを踏まえ、「社内外に企業の理念を浸透させる役割」としてエバンジェリストを捉えています。
経営陣や部長らを中心にして決定した企業理念を、社員に向けて分かりやすく伝えることで、社内での浸透の加速、社外のファン獲得につながるからです。
明確に「エバンジェリスト」という職として活動しているわけではありませんが、私たちの社内では、採用担当者が求職者に企業説明会や面接の場でパラドックスという会社の志や、どんな仕事をしているかを魅力的に伝えたり、若手社員に向けて自社の理念について説明するワークショップを開催する社員もいます。
「伝える」ための活動を行なっている社員のおかげで、自社の理念に共感して“同志”と呼べるメンバーを採用できたり、若手であってもどんな意義を持って私たちはこの事業を行なっているのか自分の言葉で語ることができるのです。
エバンジェリストを育成するメリット
社外に向けて中立的に情報を発信するだけではなく、理念の伝道師でもあるエバンジェリスト。前項でも軽く触れましたが、より詳しく育成するメリットを見ていきましょう。
理念は一気に浸透しない
自社の理念がうまく浸透しない…と感じている経営者、担当者の方も多いと思いますが、理念の浸透にはステップがあります。
個人の差こそあれ、企業の向かっていく方向と、あるべき姿がいきなり一致して行動することは難しいはず。みなさんも実感していると思いますが、理念の浸透は一朝一夕でできたり、一足飛びできるものではありません。理念浸透のステップに従い、まずはメンバーが認知・理解できるように「伝える」ことが重要です。
どれだけのメンバーが認知、理解できているのか、サーベイをとることも手段として有効ですし、その結果、十分に認知できていないと感じれば、全社で集まる機会や、資料の一ページ目には必ず理念を載せるといいった施策も考えられます。
掲げている理念を認知・理解できているなら行動へ…と思うところですが、行動するために重要なのが、メンバーが理念を理解するだけではなく、共感していること。ここがエバンジェリストの腕の見せ所です。
なぜ私たちはその理念を掲げているのか、Whyから伝えることで、自社の理念を納得度高く自身の行動に結びつけ、自らも語るための土台ができるはずです。
本記事では蛇足かもしれませんが、組織として理念を体現している社員を制度として評価することも、理念の浸透には不可欠な要素です。社内でエバンジェリストを育成し、社員全員がサービスや製品の理解はもちろん、理念や大切な価値観を体現することができれば、強く、持続性のある組織になっていくでしよう。
エバンジェリストを育成する方法
私たちパラドックスでは、社内で活躍するエバンジェリストを育成するために、理念作成のお手伝いをさせていただく際に行っていることのほか、私たちが実際に行っている取り組みについてご紹介します。
企業理念のメンバー選定
パラドックスでは、企業理念を作成する段階で、現経営陣だけではなく、将来経営に携わる人材や若手社員を巻き込むことを重視しています。
企業の根幹となる理念を作成するにあたり、一般的には自社の理解と、将来を常に考えている経営層で作成すればいいものですが、若手社員も巻き込むことで、彼らの経営視点を醸成し、当事者意識を高めることにつながります。
自社のことを深掘りし、言葉を精査する作業から携わることで、決められた言葉に対する想いが強くなり、理念が確定した後も自分の口で理念を語れるようになります。経営層のみで作成した場合、浸透にあたってはトップダウンにならざるを得ませんが、この場合、ボトムアップも含めたはさみ撃ちで浸透が進められることもメリットのひとつ。特に、営業トップの成績の社員など若手の一目置かれるメンバーが理念の重要性を説くことで、他のメンバーへの浸透がハレーションなく進んでいきます。
社内研修の実施
理念を語れるエバンジェリストを社内に広げるために、パラドックスでは社内研修を頻繁に実施しています。自社の理念を知る時間を設けることはもちろん、自社のミッションやビジョン、バリューやスピリットについても理解を深めるための取り組みを行っています。
具体的には、自社のバリューやスピリットに相応しい行動をとっている人を実際のアクションと共に共有し、学びや気づきにつなげるワークショップを行っています。ただ他の人のアクションを聞いて終わりではなく、自分はどのようなアクションを取るべきか、目標の設定と、定期的な振り返りなども併せて行っています。
評価体制の整備
企業理念を浸透させるためには、若手を含む新人社員だけでなく、年齢が上の中堅層にも浸透が肝心です。特に、理念作成に携わった経営陣、そして理念に共感した新入社員を含む若手社員の共感が得られても、中堅層は懐疑的な意見を持つケースも少なくありません。
中堅層をエバンジェリストにするための取り組みとして、パラドックスでは承認する文化や理念を体現する人を評価する体制を整え、組織としての取り組みを行っています。
まとめ
今回は、私たちパラドックスの知見を交えながらエバンジェリストの基本知識から必要なスキル、育成するメリット、パラドックスが考えるエバンジェリストについてご紹介しました。
エバンジェリストはIT業界の新職種として注目されていますが、活動内容は社外だけではありません。
社内で活動するエバンジェリストの存在により、理念浸透の加速や営業活動で有利になるなど企業にとっても様々なメリットがあります。「伝えるスキル」は業界、職種問わず必要とされるスキルであり、正しく伝える人を増やすことで企業の成長にもつながるでしょう。
社内での理念浸透に困っている経営者や、担当者の方にとってこの記事が課題解決のヒントになれば幸いです。
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