「提供者によって、サービスの質が全然ちがう」
「出てくる事業アイデアが企業方針と全然ちがう」
「評価者によって、評価のポイントが大きくちがう」
「誰の下に配属されるかによって、人の育ち方が全然ちがう」
日々無数にあるこういった組織にまつわる問題。これらは、なぜ起きるのでしょうか。それは、組織にポリシーがないことに起因しているかもしれません。ポリシーと聞くと、その人独自の「こだわり」のようなものをイメージするかもしれませんが、マネジメントポリシーとはまさに、その企業が組織をつくる上で「何を大事にするか」という独自の「方針・指針」を言語化したものと言えます。
今回は「理念経営にはなぜポリシーが必要か」ということについて、お伝えしていきたいと思います。
1:マネジメントポリシーとはなにか
この章では、まずマネジメントポリシーの一般的な定義をご説明したのち、さらに深堀りした意義や、マネジメントポリシーはどうあるべきかについて、お話していきます。
1-1:マネジメントポリシーの一般的な定義
さきほどお伝えした通り、ポリシーとは「方針・指針」を意味する言葉です。
つまりマネジメントポリシーとは、その企業が「事業や組織をどのような方針でマネジメントするか」を明確に言語化したものと言えます。
なお、マネジメントポリシーは一般的に人材領域の言葉だと考えられており、その理由は「人材ポリシー」や「HRマネジメントポリシー」といった使われ方をすることが多いからだと考えられます。その場合は、組織、人材に関わる6つの要素「採用」「育成」「評価」「配置」「報酬」「退出」が挙げられます。
1-2:マネジメントポリシーは、理念の実現を可能にする、組織の羅針盤
今ご説明したのは、あくまでも一般論。
私たちはマネジメントポリシーを「理念の実現を可能にする組織文化(カルチャー)を育み、戦略の遂行を可能にするもの」であると考えます。
経営戦略は主に、「事業戦略」と「組織戦略」に大別されますが、ポリシーとは何を優先し、どのような意思決定をするか、その戦略を立てる上での「方針・指針」となるものです。世の中には「理念はあるが、実際の戦略や実務とかけ離れている」企業が散見されますが、その多くは、理念と組織をつなぐものが存在せず、理念と戦略、計画と実行、経営と現場が、それぞれ断絶されていることに起因しています。
理念を掲げることはもちろん重要なことですが、掲げるだけでは現実は何も変わりません。そこには「理念」を実現するための「組織」が必要であり、そこに近づくためのガイドラインが必要不可欠なのです。マネジメントポリシーとは、まさにその「理想の組織像」と、そこに至るまでの道筋が記された「ガイドライン」がセットになった、組織の羅針盤と言えるでしょう。
上記の通り、マネジメントポリシーには「事業ポリシー」と「組織ポリシー」があります。
事業ポリシーは、たとえば(事業・商品)開発ポリシー、製造ポリシー、営業ポリシー、サポートポリシーなど、事業のバリューチェーンに沿って、必要なファンクションごとのポリシーが策定されているのが理想です。
一方で、組織ポリシーの中には、組織の設計思想を言語化した組織設計ポリシーや前述の人材ポリシーなどがあります。また、会社によってはコミュニケーションやワークスタイルに言及している場合もあり、その内容は企業によって千差万別です。
1-3:マネジメントポリシーはどうあるべきか
内容こそ千差万別ではあるものの、そこには抑えておくべきポイントがあります。
なぜなら、マネジメントポリシーは「組織の羅針盤」であるため、その羅針盤が指す方向が、社員の共感を得られる方向を向いていなければ、いい組織ができるはずがないからです。また、間違った方向に向かって組織づくりを行った結果、事業成長のスピードが鈍化し、理念の実現から遠のいてしまっては、元も子もないでしょう。
そういったことを避けるためにも、ポリシーを策定する際に2つのポイントを意識する必要があります。ひとつは「DNAに根ざした差別性」であり、もうひとつは「競争優位につながる卓越性」です。それぞれのポイントについて、以下で説明していきます。
①DNAに根ざした差別性
ひとつめのポイントは、そのポリシーがDNAに根ざしたものになっているかどうか、ということです。
企業にはそれぞれ独自の歴史があり、そこにはDNAレベルで刻み込まれ、現在の組織風土を形成している独自の原理原則があるはずです。マネジメントポリシーを考えていく際には、これまでの重要な意思決定のプロセスや成功体験を振り返り、資産として棚卸ししながら、その裏側にある「成功のメカニズム」を明らかにし、意図的に練り込んでいく必要があります。
結果的にできあがったその会社らしい独自のポリシーは、社員からの共感を生み、より強固な組織文化を形成する一助となるはずです。
②競争優位につながる卓越性
もうひとつのポイントは、そのポリシーで事業や組織をマネジメントしたとき、強みに磨きがかかる設計になっているか、ということです。
組織とは、事業以上に模倣が難しく、それゆえに強い組織文化を醸成できれば、決して他社には真似できない大きな競争優位性につながります。ゆえに、何をどのようにマネジメントすると企業の卓越性が磨かれ、理念の実現に近づくかという問いに向き合い、そこから逆算して、ポリシーを策定する必要があるのです。
2:マネジメントポリシーをつくるメリット
次にマネジメントポリシーを持つことで、経営活動にどのようなメリットがあるのかということについて、「組織文化醸成」と「自律的な組織の形成」という2つの観点から見ていきたいと思います。
が、まずその前に、ポリシーをつくるべきはどういった企業なのか、ということから話をはじめていきたいと思います。
2-1:ポリシーをつくるべき企業とは
あらゆる会社に明確なポリシーがあったほうがいいのは間違いありません。ですが、中でも特に必要だと考えられるのは、「特に何も施策を打つことなく、顔と名前が一致しなくなる規模感に成長してしまった(あるいはしようとしている)企業」です。
こういった会社では、事業成長に伴い組織が拡大していく際(特に100名以上の規模感になっていく場合)、マネージャーも含めて外部から人材を採用する必要も出てきているはず。自社のポリシーを明確にしないままに人が増えていくと、さまざまなカルチャーの人材が入り乱れ、マネジメント不能になるのは火を見るより明らかでしょう。
だからこそ、企業として「事業や組織を、どのような方針でマネジメントするか」というポリシーを明確にすることで、アラインメント(意識統合)を行っていく必要があるのです。
2-2:組織文化醸成
ではここから、あらためてマネジメントポリシーをつくるメリットを説明します。冒頭にも述べたように、ポリシーは組織文化の源泉になります。なお、組織文化は構造上、大きく2つに分けることができます。
①自然発生的に醸成されている組織文化
②意図的(戦略的)に醸成する組織文化
たとえば、会議のスタート時間になっても人が集まりきらなかったり、提出物の締め切りがきちんと守られない「時間にルーズ」な会社があったとしましょう。
これは想像するに、マネジメント層のメンバーが時間にルーズで、会議などにたびたび遅れてきたり、提出物の期日を守らなかったりすることで、下のメンバーもそれが当たり前であると認識し、やがて「ルーズ」な組織文化が醸成されていったということであり、上記のうちの「自然発生的に醸成されている組織文化」であると言えるでしょう。
また、逆もしかりで、たとえば会議の開始5分前には必ずメンバーが揃っている状態が当たり前だったり、たとえ遅れるとしても、必ず一報を入れることをよしとするなど「時間意識の高い」組織でも、それが自然発生的に醸成されている場合は、①に該当します。
一方で、たとえば「失敗を恐れず挑戦しつづける組織文化」を目指している会社があったとします。
彼らはそれを体現するために「失敗は、資産だ」というポリシーを掲げ、果敢に挑戦したが、最終的な結果として結びつかなかったプロジェクトの内容を共有し、称賛する場を月に一度の頻度で設けています。その場では、ただ単に賞賛するだけではなく、失敗を資産に変え、次につなげていくためには何が必要か、ということをみんなで議論し、そこで生まれたアイデアを実際の事業につなげていきます。これによって何が起きるかというと、社員一人ひとりが失敗を恐れずに挑戦するようになり、そこから常に新しい可能性が生み出される組織になるでしょう。
こういったケースは、意図的、戦略的に醸成された組織文化であると言えます。
このように、ポリシーとは「何をよしとするか、何を大切にするか」という価値観であり、それに沿った行動事例が組織内に蓄積・共有され、組織知化され、当たり前のものとして根づいていく。そういった蓄積こそが、組織文化になっていくのです。
2-3:自律的な組織の形成
ポリシーを持つことのもう一つのメリットは、社員一人ひとりが自分で判断する機会を創出し、自律的な組織をつくることができるということです。
ポリシーは意思決定や状況判断の際の判断軸となるもの。つまり、社員はそれにしたがって意思決定し、行動する限り、その会社が向かう方向とずれていないことを意味することになります。
ひとつの象徴的な事例を見てみましょう。
“ネットフリックスの事例”
世界的な定額制動画配信サービスの運営企業ネットフリックスでは、何かを購入したり投資する際、一般的な企業にはごく普通にあるような申請書に記入する必要もなければ、上司の承認を待つ必要もありません。
社員に伝えられるのは、「ネットフリックスの利益を最優先に行動する」という一文のみ。
この、ある種の「経費利用に関するポリシー」とも言える一文があることによって、社員一人ひとりは会社のお金で何かをする際「何にお金を使っていいのか、または悪いのか」と考えます。何にどの程度の額を投資するのか、自分の裁量で自由に決められる。それによって意思決定のスピードだけでなく、仕事への所有感も高まり、結果的に高い成果をあげることができるのです。
経費に関する話はネットフリックスが行っているさまざまな取り組みのごく一部に過ぎませんが、「自由と責任」を組織の原則として掲げる彼らは、あらゆる経営活動の中で、この原則を徹底しています。
このように、ポリシーは社員が意思決定をするために必要なコンテクストを明示する力があります。注意したいのは、これはあくまでもコンテクスト(文脈)であって、何かを推奨したり禁じたりするルール(規則・規定)ではない、ということです。
コンテクストを理解した社員が、それに沿って行動することで、一人ひとりの自律性が高まり、自己効力感を高めることができる。余計な仕事が減り、組織のスピードが上がり、生産性が高まっていく。ポリシーをつくると、こういったメリットを享受できることでしょう。
3:マネジメントポリシーの現場への実装例
この章では、実際にマネジメントポリシーを用いて「差別性」と「卓越性」に富んだ強固な組織づくりに成功している、株式会社グロービスの事例をご紹介します。
株式会社グロービス
グロービスは1992年の設立以来、「経営に関する「ヒト」「カネ」「チエ」の生態系を創り、社会の創造と変革を行う」ことをビジョンに掲げ、「グロービス経営大学院」をはじめとする教育・研修事業や、ベンチャー企業への投資・育成を行うベンチャー・キャピタル事業、出版ならびに情報発信事業など、幅広く展開しています。
グロービスには「GLOBIS WAY」という経営理念、事業指針、行動指針、ビジネス・ウェイという4つの要素から成り立つ、存在意義や大切にする価値観をまとめた基本的理念があります。
▲GLOBIS WAY https://recruiting.globis.co.jp/images/philosophy/globis-way.pdf
この中の「ビジネス・ウェイ」を見てみましょう。
ビジネス・ウェイ
BROAD ではなく「FOCUS」
資源集中:広範な業務領域を持たずに、重要な限られた領域群にのみ資源を集中する。
ブランド力:国際的に強いブランドネームによる強みを確立し、維持する。
相乗効果:相乗効果を発揮させて、競合他社への競争戦略を確立して、常に勝てる体制を整える。
BIG ではなく「POWERFUL」
外部資源の有効活用:アウトソーシングを徹底して、最小限の優秀な人材を擁して、最大の効果を発揮する。
NO.1指向:グロービスが定義したマーケットでは常にNO.1に。
収益性の追求:売上高拡大とともに、或いはそれ以上に収益性の拡大を追求する。
MASS ではなく「SATISFIED CUSTOMER BASE」
満足した優良顧客ベース:マス・マーケティングではなく、フォーカスしたターゲットにマーケティングして、データベースを活用しながらワン・オン・ワンにニーズを見極めながらアプローチする。質の高い サービスを提供して、満足した優良な顧客(グロービスのファン)を広げていくことに重点を置く。
CLOSE ではなく「OPEN」
外部とのオープンネットワーク指向:組織・システムを常にオープンにし、外部スタッフと内部とをボーダーレス化して、多くの方々とネットワークを組み、優秀な外部の力を有効に活用する。
組織・情報・議論のオープン性:情報をオープンにし、議論もオープンに行い、なるべく多くのスタッフ が意志決定に参加できるように努力する。
異質性:異質な人材を好んで採用して、異質と異質との融合により、クリエイティビティーを重んじる 新たな企業文化をつくる。
FIXED ではなく「FLEXIBLE」
分権化によるフラットなネットワーク型組織:理念・ビジョン・基本戦略という共通基盤をもとに、 各部門・各チーム・各人に積極的に権限を移譲し、各自が主体的に動きながらも、全体として見れば 秩序がある組織を目指す。
変化適応型組織:成長ステージ、経営環境、ビジョン・戦略の変更等に臨機応変に対応する柔軟な 組織・人事システム・企業文化を構築・醸成する。
これらの言葉を見るとわかるように、事業を開発・運営していく際に何を大事にするべきかをAではなくBという対比構造で明確に書かれています。これらは、ここまで説明してきた「事業ポリシー」に近い役割を果たす言葉であることがわかるでしょう。
一方で「グロービスが良き企業文化を醸成し、経営理念・ビジョン・ミッションを実行・実現し、ひいては世の中から尊敬され、魅力ある会社となるべく」定められたものとしてHRポリシーがあります。
これは、下記の3つの枠組みの中で、それぞれ「組織のあるべき姿」と「HRの各領域に関するポリシー」がまとめられたものです。
①組織設計の基本指針
②組織管理/コントロールシステムの基本指針
③採用・能力開発・キャリアパスに対する基本的な考え方
以下では、それぞれの言葉についてひとつひとつ見ていくことにしましょう。
①組織設計の基本指針
「変化と変革」を前提
常に「変化」を前提とし、成長ステージ、経営環境、ビジョン・戦略の変化に臨機応変に対応しながら組織設計を行いたい。
「Speed & Flexible」の重視
組織設計にあたっては、競争優位の源泉の大きな要素である「スピード」を重視したい。組織の硬直性を排除するためにも、適度な組織のゆらぎを演出するなどの「柔軟性」を持ちたい。
「Close」ではなく「Open」の追求
多くの方々とネットワークを組み、優秀な外部の力を有効に活用していきたい。そのために組織・システムを常にオープンにしたい。情報をオープンにするとともに、議論もオープンに行いたい。
「権限委譲」の推進
各部門・各チーム・各人に積極的に権限を委譲し、各自が主体的に動きながらも全体として見れば秩序ある組織を目指したい。
組織設計の基本指針においては、グロービスがグロービスでありつづけるために、大きく「どのような組織であるべきか」ということが「〜したい」という文体で明確に規定されています。
この裏側には、グロービスがこれまで歩んできた独自のストーリーがあり、培ってきた競争優位性があります。それらをさらに深く根づかせ、日々の活動の中で磨きをかけていくことで、経営理念・ビジョン・ミッションを実現することができる組織に近づいていくのです。
②組織管理/コントロールシステムの基本指針
[基本精神]
性善説に則った「自由と自己責任原則」を堅持追求し、性悪説に則った「規則/ルールによる管理主義」は可能な限り排除したい。「経営に関する専門知識をもち、バイタリティーあふれ、人の心がわかり、主体的に問題解決を図れる人材」が集まり、再生産される仕組みを作りたい。
A:組織管理
「Management by Value」
参画型、エンパワメント型のマネジメント(Management by value=価値観によるマネジメント)を追求したい。多くの企業に見られる管理統制型、上意下達型のマネジメント(Management by order=命令によるマネジメント)は極力排除したい。
「自由と自己責任」
可能な限り「自由と自己責任」の原則に則り、自己裁量の幅を広く持ってもらいたい。時間の管理は最低限にしたい。
B:処遇・報償
「成果」「能力」および「期待」に基づいた報酬
従来のアメリカ型の職務給あるいは日本型の年功給ではなく、成果主義、能力主義に基づいた報酬体系としたい。固定分の給与については、将来に向けての、その時点における絶対的な評価・期待を反映させて決定するものとし、相対評価的な対前年伸び率などは勘案しないものとしたい。
「利益還元」の原則
固定分の給与を多くするのではなく、生み出した利益が還元されることで全体としての報酬が高くなる仕組みを追求したい。利益は、利益創出に貢献した人に公正に還元される仕組みを維持したい。
「市場価値」の勘案
会社と個人との適度な緊張関係を創出するためにも、処遇の提示においては常に市場価値を念頭におきたい。
「信賞必罰」の実践
自己裁量で出された結果については、公平性/納得性を保ちながら、信賞必罰で処遇したい。
C:業績評価
「Fairness」の追求
能力が高く、頑張っているスタッフ、価値を生み出しており、高い目標を達成したスタッフが、正当に評価され、報われる仕組みにしたい。
納得性の高い評価プロセスの追求
絶対的な妥当性を求めて評価尺度を厳密にするのではなく、納得性の高いプロセスを整備することを重視したい。
「Communication」の重視
評価に際しては、一定のルールを重視しながらも、話し合いによるコミュニケーションを大切にしたい。
項目の2つ目である、「組織管理/コントロールシステムの基本方針」においては、「組織管理(マネジメント)」「処遇・報奨」「業績評価」の3つの領域に関する指針がそれぞれ明記されています。
ここで着目すべきは、「Aを追求し、Bを排除したい」「Aをするのではなく、Bをしたい」というように、「何を大切にし、何を排除するべきか」という判断基準を明確にしている点です。この判断基準があることで、いざ現場で迷ったときに、一人ひとりの判断にブレがなくなるのです。
③採用・能力開発・キャリアパスに対する基本的な考え方
D:採用
「Valueの共有」の原則
採用にあたっては、能力を重視しながらも、グロービスの価値観、ミッション/ビジョンを共有できることを最重視する。この点については一切の妥協を排して臨むものとしたい。
「異質の効用」の追求
異質な人材をすすんで採用し、異質と異質との融合により、クリエイティビティーを重んじる新たな企業文化を作り出していきたい。
E:人材配置に対する基本的考え方
「自己実現の場の提供」
本人に能力があり、また経営としても望む場合は、可能な限り本人の希望を容れ、グロービスを自己実現の場としていくことを模索したい。ただし、個人のキャリアはあくまでも自らの責任において追求するものであり、会社が保証するものではない。キャリア開発・能力開発は基本的に個人が主体的に行うものであるという意識を徹底させたい。
「資源の最適配分(全体最適)」
配置転換/異動などは、会社の事業展開上の資源の最適配分の観点から行うことを原則としたい。個人の希望と必ずしも合致しない場合には、この原則を優先するものとしたい。
「継続性と再活性化」のバランス
適度な組織のゆらぎをもつために、継続性を重視しながらも、組織および個人の再活性化を視野に入れた人材配置を行うことを常に念頭におきたい。
3つめの「採用・能力開発・キャリアパスに対する基本的考え方」でも、前項同様に各領域の方針が明記されています。
特筆するべきはEの「人材配置に対する基本的考え方」において、職場は「自己実現の場」として定義しながらも、配置に関してはあくまでも経営資源としての全体最適が優先される、とはっきりと明記していることです。「個人の希望と必ずしも合致しない場合には、この原則を優先するものとしたい。」この一文があるだけで、人材配置への納得感は高まるでしょう。
いかがでしたでしょうか。
GLOBIS WAYはいわばグロービスの原理原則であり、これらを遵守する限りにおいて、一人ひとりには最大限の裁量が与えられています。そのことが「経営に関する専門知識をもち、バイタリティーあふれ、人の心がわかり、主体的に問題解決を図れる人材」を引き寄せ、継続的な組織の進化を生み出しているのです。
4:現実と理想からアプローチする、人材マネジメントポリシーのつくりかた
この章では、マネジメントポリシーのつくり方についてご説明します。なおポリシー策定は経営を左右する重要事項につき、決裁権を持った経営陣が中心となり、必要に応じて当事者意識の高い中堅・若手メンバーを巻き込んでいくようなチーム構成をオススメします。
ポリシー策定のステップとしては大きく次の3ステップに分けられます。
Step 01:組織の現状を棚卸し、理想を描く
Step 02:組織の理想像(あるべき姿)を言語化する
Step 03:理想と現実を踏まえ、必要なポリシーを言語化する
このように、ポリシーを策定する際には、現実と理想の双方からアプローチする必要があります。以下、順を追って説明します。
Step 01:組織の現状を棚卸し、理想を描く
いきなり理想を言葉にする前に、しっかりとやっておくべきことが現状把握です。
むやみやたらと理想だけを掲げたところで、現状との差分が見えないと埋めようがありません。ゆえに、まずは今の組織がどのような状況なのかを把握し、その上でどのような組織にしていきたいかを考えることが重要です。その際に抑えたいポイントとしては、以下のような項目になります。
①組織の提供価値について
・顧客と社員、双方にどのような価値を提供する組織なのか
②事業運営について
・どのようなことを大切にながら、事業運営に取り組む組織なのか
③組織づくりについて
・どのようなことを重視して組織づくりを行うのか
④マネージャーについて
・経営者も含めて、マネージメント層はどのような役割を担うか
⑤HRの各領域について
・採用・育成・評価・配置・報酬・退出において、何を大切にするのか
⑥働き方について
・どのような働き方を理想とする組織なのか
⑦情報コミュニケーションについて
・経営情報はどれだけ現場にいきわたっているか
・どのようなコミュニケーションがよしとされるか
こういった項目に関して考えを深めながら、組織文化の「現状」と「理想」の構成要素を抽出していきます。出そろった要素を丁寧に眺めたうえで、すべての要素を「残すべき要素」「伸ばすべき要素」「付加すべき要素」「なくすべき要素」に分類していきます。
ここで着目するべきは「残すべき要素」「伸ばすべき要素」です。なぜなら、このふたつに分類された「よい組織文化」の背景には、その企業独自の「重大な意思決定」や「成功体験」の蓄積があるはずだからです。その蓄積から「成長のためのメカニズム」(成功パターン)を抽出し、この後の工程でポリシーに練り込んでいくことで、「DNAに根ざした差別性」を担保していくのです。
なお、ひとつ注意するべきこととしては、こういった議論を通じて組織の課題が顕在化すると、ついその解決にプロジェクト全体が向かってしまうことがあるのですが、Step 01はあくまでもStep 02で言語化する「理想の組織」とのギャップを正確に把握するためのプロセスであることを理解してください。
Step 02:組織の理想像(あるべき姿)を言語化する
現状と理想の構成要素を把握したところで、次に「組織の理想像」を言語化していきます。組織の理想像とは、「戦略の遂行を可能にし、理念の実現を可能にする組織」だと定義しています。
このプロセスで重要なのは、Step 01で明確にした組織の現状に捉われずに、純粋に「組織の理想像」を考えることです。なぜなら現状からのスタートとなると、はじめから制限のある発想しか生まれないからです。ここではあくまでも、理念を実現するために必要な組織とはどうあるべきかを未来からの逆算で考えていきます。
Step 03:理想と現実を踏まえ、必要なポリシーを言語化する
組織の理想像を描いた後、次にやるべきは理想と現実のギャップの把握です。
Step 01で明確にした「組織課題」「カルチャー構成要素」「成長のためのメカニズム」という3つの要素と、Step 02で描いた「組織の理想像」を見比べながら、その差分を明確にしていきます。その上で、その差分を埋めることを意識しながら、大切にするべきポリシーを言語化していきます。
この時に重要なのは、1章で示した全体図のうち「どの領域のポリシーをつくるべきか」を見定めることです。理想とした組織に近づくためには、事業領域にポリシーをつくるべきなのか、あるいは組織領域なのか、はたまたその両方か。ここを正確に見定め、必要なポリシーを言語化することによって、理想の組織に向けた、第一歩を踏み出せることでしょう。
5:さいごに
ここまで、ポリシー策定のプロセスについて説明してきましたが、ポリシーはあくまでも「羅針盤」であり、理念同様、言語化しただけでは機能しません。
航海に例えるならば、向かう方角が決まっただけで、どんな船に、どんな人を何人乗せるのか、また、日々どのような運用で航海していくのかはまだ決まっていない状態と言えるでしょう。
ゆえに、この次のプロセスとしては、ポリシーに沿って戦略を立て、仕組み・制度・施策へと落とし込むことが必要になってきます。そういったものを準備し、日々の仕事の中で運用、改善していくことで、少しずつ「差別性」と「卓越性」が高まっていくのです。
終わりなき航路ではありますが、ポリシー策定をすることは、理念の実現を可能にする理想の組織に近づく第一歩なのです。
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参考文献
『図解 人材マネジメント入門』 坪谷邦生・DISCOVER21
『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』 唐澤俊輔・DISCOVER21
『人間心理を徹底的に考え抜いた「強い会社」に変わる仕組み』 松岡 保昌・日本実業出版社
『NO RULES 世界一「自由」な会社、NETFLIX』 リード・ヘイスティング/エリン・メイヤー・日本経済新聞出版
参考URL
グロービス採用サイト GLOBIS WAY & HR POLICY/経営理念
https://recruiting.globis.co.jp/philosophy/
GLOBIS WAY(PDF)
https://recruiting.globis.co.jp/images/philosophy/globis-way.pdf
HR POLICY(PDF)
https://recruiting.globis.co.jp/images/philosophy/hr-policy.pdf
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