行動指針とは?作り方や有名企業のユニークな事例を紹介

企業や従業員のあり方を考える上で重要な「行動指針」。

行動指針とは、「企業が経済活動を行う中で経営理念やビジョンを実現する為に従業員の規範となる行いを定めたもの」となります。企業によっては、クレドやスピリット、プリンシパルと呼ばれることもあり、リッツカールトンのクレドなどが有名ですね。

行動指針を策定し浸透させることで、組織としてどういう行動が推奨されているのかの共通認識が取れ、従業員の向かう方向を決めることによって、企業としてあるべき姿に向かっていくことができます。

今回は、行動指針について、実際の作り方や有名企業の事例なども含めて詳しく解説していきます。

1:行動指針とは?

行動指針という言葉は一般的に「行動をするための基本方針」を意味します。

ビジネスにおいては「行動を起こす際に、どうするべきかの判断基準」として使われることが多く、企業、もしくは企業に属する従業員が行動する際の指標となっています。

企業が大きくなり人が増えるにつれて、従業員やチームそれぞれの個性が突出してしまい、企業内で方向性がバラバラになってしまうということも多々あるでしょう。

そのような時に、組織が一丸となって推進するためのベースとなるのがこの行動指針です。

一つの企業でも従業員にはそれぞれの役職があり、それぞれが直面している問題の種類やレイヤーも違います。何か迷った時や疑問を持った際に、企業の共通の判断基準や価値観を定めた行動指針があることで、誤った選択をせず、常に適切な判断ができるのです。

1-1:企業理念との違い

行動指針という言葉との関係性でよく質問に上がるものが「企業理念」です。

企業理念は「ミッション」や「ビジョン」といった言い方をする場合もありますが、会社の使命であり、「会社が最も大切にする基本的な考え方」を意味します。社会に対して、企業としての存在価値を発信する起点となる言葉とも言えるでしょう。

それに対して、行動指針はあくまで、企業理念の一部です。

企業理念(「ミッション」や「ビジョン」)の実現に向けて社員が日々どのように行動すべきかを示すのが行動指針であり、実際の社員の考え方や行動にまで言及しています。少し抽象的なミッション・ビジョンと比べて、実際の行動を促せる言葉になっているかどうかが、行動指針を考える際のポイントです。

2:会社が行動指針を定めるメリット

企業が行動指針を定めることで得られるメリットは以下の3つです。

  • 従業員の行動に基準が生まれる
  • 従業員のモチベーションアップ
  • 組織の文化醸成

一つずつ解説していきます。

2-1:従業員の行動に基準が生まれる

従業員の個性や多様性は尊重されるべきですが、向かうべき方向がまとまっていなくてはせっかくの個性を活かした仕事ができません。

企業に明確な行動指針があれば、従業員にとっての「やるべき行動」の基準ができます。もちろん最初から、行動指針に即した行動ができるわけではないのですが、言語化されたものがあることで、自分自身で振り返ったり、他者とその認識合わせをすることができ、徐々にチューニングしていくことができます。

企業に存在する価値観は暗黙知になっていることが多く、時代が経つうちに徐々に薄れていったり、意味が変わっていってしまいます。また、人によって解釈がブレ、世代によってそのブレが大きくなっていくこともあります。

そこであえて行動指針を言語化し、「やるべき行動」を皆ですり合わせていくことで、企業が大事にする価値観を磨き上げていくのです。

2-2:従業員のモチベーションアップ

行動指針が定まることは、従業員一人一人のモチベーションアップにも繋がります。

行動指針が明確であれば、従業員が行動をする際の判断に迷った時「どの方向へ、どう進めばいいのか」がはっきりとします。

逆に行動指針が無いと、上司によって指示がバラバラになったり、一度決めたことが後から変更になったりすることが起こり得ます。

そうなると従業員は自分の判断が正しいのかどうかに疑問に感じ、決断をすることを躊躇してしまったり、直属の上司の顔色を伺って行動してしまい、結果としてモチベーションを低下させてしまいます。

行動指針によって、正しい行動を繰り返し行うことができ、さらにその行動が社内で評価されれば、本人も自信を持って、もっとやってみようと思うことができます。

また共に働く従業員同士が同じ方向を向いているという一体感によって、エンゲージメントも高まるでしょう。

2-3:組織の文化醸成

行動指針があることによって、企業の組織としての文化が醸成されます。

社外における従業員としての振る舞いなどは第三者からは「その企業の姿」として受け取られます。

行動指針がしっかり定着している企業なら、仕事上のコミュニケーションの取り方などからも「その企業らしさ」が表れ、取引先やパートナーから良いイメージを持たれるでしょう。

一方で、企業理念に基づき、行動指針が定まっていない企業などでは、業務中に倫理に反するような行動を動画にとって、世の中に流してしまうといった企業ブランドを損なうような問題も現れ、一時期世の中を騒がせてしまうケースもありました。

理念に基づいた明確な行動指針があり、実際に社員がその指針を意識しながら、考動できている状態。いわば言行一致した状態が自然とできるようになると、組織として良い企業文化ができつつあると言えるかもしれません。

3:行動指針の作り方~7つのステップ~

では、実際に行動指針を作る場合はどのように作ればいいのでしょうか。

作り方は主に7つのステップに分けられます。

  1. 企業としてのミッション・ビジョンを定める
  2. ミッション・ビジョン実現に必要な価値観と行動をリストアップする
  3. 現状の価値観や行動の中から「残すべきこと」をリストアップする
  4. 会社として「やらないこと」をリストアップする
  5. リストを2つの分類に分けて精査する
  6. 精査した内容を言語化する
  7. 決まった言葉に対する具体的な行動を短く書き出す


一つずつ見ていきましょう。

企業としてのミッション・ビジョンを定める

行動指針を決める際に大切なことは、企業が実現したいことは何かを明確にすることです。

現在地点と未来の目指すべき点が定まらければ、そのための行動指針は生まれません。まずは、企業としてのミッション・ビジョンを明確にすることから始めましょう。

→ミッション・ビジョン・バリューの作り方はこちら。
https://prdx.co.jp/visions-prdx/mission-vision-value

② ミッション・ビジョン実現に必要な価値観と行動をリストアップする

この時点では、行動指針そのものになるような言葉ではなくても問題ありません。

またミッション・ビジョンは抽象的なので、全社的な視点や時間軸を持っていないと
具体的な価値観に基づいた行動に落とし込むのは難しいかもしれません。

おすすめなのは、実際の自社のバリューチェーンにそって行動指針を考えることです。

お客様がどうやって自社と出会い、検討し、商品・サービスを購入し、評価をし、友人や知人に紹介するかなど、実際のバリューチェーンごとでどのような価値観や行動をすることが自社らしいかを考えてみましょう。

全社的なミッション・ビジョンといったマクロなイメージを描きながらも、自分の部署やチームの役割の中で考えてみたり、時間軸を区切ったりすることで、より自分たちが実践できるような具体的な価値観や行動に落とし込む所から始めてもいいかもしれません。

最終的にそれらの大事な価値観や行動を他のチームとすり合わせてみると、共通するポイントも実は多く見つかり、その事実を共有するだけでも、組織にとっての大きな価値となります。

③ 現状の価値観や行動の中から「残すべきこと」をリストアップする

現在、企業として既に行っている行動の中で、残すべきもの=行動指針に組み込むものをリストアップします。

行動指針を定めることは、必ずしも考え方を完全に刷新するという意味ではありません。今まで行ってきた行動の中で確実な実績があったことや、継承していきたいことなどをリストにしていきましょう。

④ 会社として「やらないこと」をリストアップする

①とは逆の考え方で、会社としてやらないことをリストアップします。もっと、直感的にやりたくないこと・避けたい行動や、自社の美意識に反することをリストアップします。

例として、

  • 効率だけを重視しない
  • 長期的にクライアントの不利益になることを提案しない
  • ルールを守ることを目的にしない
  • 利益のために法律に抵触するような仕事はしない
  • 仕事以外の時間を犠牲にする労働環境にはしない

というような内容です。

企業にとって、始めることは簡単ですが、意外と難しいのがやめることです。次から次へとルールや約束を作ってしまい、最終的に自らそのルールに縛られてしまったり、形骸化してしまうケースはたくさんあります。

新しく何かを付け足すときには、必ず何かを一つ減らすこと。これも大事なポイントです。

⑤ リストを2つの分類に分けて精査する

②〜③までで作成したリストを精査します。
これまでで書き出した行動の中から、意味が同じもの、近いものはグループ化します。
この時、以下の2つに分類するとわかりやすいでしょう。

  1. 自社の価値観・美意識を表すもの
  2. 具体的な行動を表すもの

これによってできる限りリストの内容をスリム化し凝縮していきます。

⑥ 精査した内容を言語化する

先程精査した内容は、一つの文章になっていることが多いと思います。
それをわかりやすい言葉に置き換えていきましょう。

例)

「常にお客様視点に立って必要なことを考える」

→「I’m one of customers. (自分もお客様の一人)

 

「オフィスでも、家でもない、ゆっくりできる状況をつくる」

→「サードプレイス(第三の場所になる)

 

「従業員として学ぶ姿勢を忘れず、成長を続けたい」

→「一生勉強、一生成長


できるだけシンプルで伝わりやすい言葉にまとめていきます。普段の会話や、マネージメントする場面でも、自社に一番しっくりくる言葉を選んでみましょう。

⑦ 決まった言葉に対する具体的な行動を短く書き出す

いよいよ最後のステップです。
⑥で決まった言葉に添えて、具体的な行動を短めの文章で書き出しましょう。

 

例)

I’m one of customers. 

私たちは、自分自身をお客様の一人だと考え、自分が本当に必要だと思うサービス、本当にして欲しいサービスだけをお客様に提供していきます。

 

このように、企業の仕事内容に直結した行動・考え方・存在意義をまとめ、短く伝わりやすい文章に再編したものが行動指針となります。

行動指針の数は企業によって違います。わかりやすい3箇条というような形でまとめている場合もあれば、10以上の行動指針を掲げている企業もあるようです。

もちろん正解はありませんので、それぞれの企業にあった書き方や数で行動指針をまとめることが大切です。

複数の場合は、似たような内容のものが重複しないよう、様々な視点からの行動指針となっているかを確認しましょう。

 

4:行動指針を浸透させるには?

行動指針は、ただ策定しただけでは何も変わりません。

むしろどうやって実行させるかが大事なので、策定は始まりに過ぎません。企業全体で意識すべきこととして、従業員一人一人にまで浸透させて初めて意味のあるものになります。ここでは、行動指針を浸透させる方法をご提案します。

4-1:日常業務の中に行動指針を落とし込む

特別なタイミングに限って行動指針を思い出すのではなく、毎日の業務の中で意識することが大切です。

方法として、業務日報の中に行動指針に基づいたチェックリストを設けて、達成できたかどうかを振り返る習慣をつけることも効果的でしょう。

1日ごとではなく、長期的な行動指針達成目標を設定し、上司との定期的なミーティングを行い達成率を確認するといった方法もあります。

マネージメントポリシーなどにまとめることで、属人的になりがちなマネージメント土台づくりをしていくこともおすすめです。

業務にあったスタイルで取り入れてみましょう。

4-2:評価項目の中に行動指針に対する理解・行動を含める

昇給や昇進に関連する人事評価をする際に、評価項目として行動指針への理解や行動を含めることで、意識が高まります。

行動指針を新たに取り入れる場合、すぐに従業員の考え方を変えることは難しいでしょう。目に見える形で評価されることで、行動をした人は企業からの肯定感を得られ、より行動指針にそった仕事を心がけるようになります。

4-3:表彰制度の設計

前述のような評価制度に落とし込むことが理想ですが、評価制度を変更するには時間がかかります。

そこで、表彰制度として切り出して、行動指針を最も体現したメンバーを褒めるという仕組みをつくることで、短期的に社内での認知をあげると同時に、企業の行動指針の浸透に対する本気を示すこともできます。

5:有名企業のユニークな行動指針3選

 

行動指針によって、その企業が従業員に指し示す方向性が見えてきます。

では、実際の企業ではどのような行動指針が掲げられているのでしょうか。

ここでは、

  • Google
  • サッポロビール
  • ローソン

3社が公開している行動指針を紹介いたします。

5-1:Google

Googleでは、「Googleが掲げる10の真実」という行動指針があります。

  1. ユーザーに焦点を絞れば、他のものはみな後からついてくる。
  2.  1 つのことをとことん極めてうまくやるのが一番。
  3.  遅いより速いほうがいい。
  4.  ウェブでも民主主義は機能する。
  5.  情報を探したくなるのはパソコンの前にいるときだけではない。
  6.  悪事を働かなくてもお金は稼げる。
  7.  世の中にはまだまだ情報があふれている。
  8.  情報のニーズはすべての国境を越える。
  9.  スーツがなくても真剣に仕事はできる。
  10.  「すばらしい」では足りない。

Googleらしい遊び心のある言い回しの中に、真面目な姿勢が感じられます。

行動指針にその会社「らしさ」が表れているいい例でしょう。

5-2:サッポロビール株式会社

サッポロビール株式会社は経営理念「新しい楽しさ・豊かさを お客様に発見していただけるモノ造りを」にならって、「カイタクしよう」というテーマの行動指針を掲げています。

カイタクしよう、心を動かすアイデアを

カイタクしよう、お酒の次の未来を

カイタクしよう、深く愛されるブランドを

カイタクしよう、社会との共鳴を

簡潔ですが、様々な視点からの企業としての方向性が伝わります。

声に出して読みたくなるような言葉の流れも良い行動指針の特徴の一つです。

5-3:ローソン

ローソンでは、「ローソンWAY」として5つの行動指針を提示しています。

  1. マチ一番の笑顔あふれるお店をつくろう。
  2. アイデアを声に出して、行動しよう。
  3. チャレンジを、楽しもう。
  4. 仲間を想い、ひとつになろう。
  5. 誠実でいよう。


コンビニエンスストア経営に限らず新たなビジネスにもチャレンジしているローソンらしい行動指針です。

 

6:行動指針は企業のミッション・ビジョンを実現するためにどう行動すべきかを表したもの

ここまで、行動指針の作り方や実際の企業が掲げている行動指針をご紹介しました。

「行動指針は企業のミッション・ビジョンを実現するためにどう行動すべきかを表したもの」ということであり、また重要なことは、行動指針が指し示す先にあるゴールが、その企業のミッション・ビジョン(企業理念)の実現に繋がるということです。

行動指針を策定し浸透させることによって従業員が行動の軸を持ち、一人一人が考え、行動する組織となる。また、それによって企業のミッション・ビジョンを実現し正しく発展できるよう進んでいきましょう。

 

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