【パーパス経営とは?】その定義やメリット、要点をご紹介!

昨今、ビジネスシーンでよく見かける“パーパス”という言葉。本来の意味は目的や目標、意図を表すものですが、ビジネスシーンにおいては「企業の存在意義」を意味しています。パーパスの隆盛に伴い、「パーパス経営」や「パーパスブランディング」という言葉も最近よく耳にするようになりましたが、これは似て非なる概念なので注意が必要です。パーパス経営とはパーパスを掲げ、それに沿った事業を展開することで経営の現行一致を図るもの。一方、パーパスブランディングとは、掲げたパーパスを世間に認知してもらうことで、自社への共感を得るブランディングの手法です。

一見すると新しい概念のように思えるかもしれませんが、日本には古くから「三方良し」という言葉があるように、パーパスという言葉が浸透する前から経営理念を大切にする文化があります。このように、日本企業と相性の良さそうなパーパスですが、パーパスがここまで注目されるに至った背景には、2019年に米トップ企業が所属するビジネスラウンドテーブルによる「企業の目的に関する声明」の発表があります。声明の中では、株主資本主義を否定し、社会やコミュニティ全体への価値提供を目的とする「ステークホルダー資本主義」が宣言されました。企業はこれまでの拡大しすぎた資本主義や個人主義から、Common Good(共通善)やSDGs(持続可能性)の追求が必須であるとされ、そのためにもパーパスは重要であるとされているのです。

本記事は、パーパス経営を志す方が全体像を掴めるように、そのメリットや落とし穴、導入の適切なタイミングといった具体的なノウハウから国内外の事例まで幅広くご紹介していきます。

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1:パーパス経営 4つのメリット

注目度の高いパーパスですが、実際に経営に導入することで企業はどのように変化するのでしょうか。まずはパーパス経営に取り組むことで、社内外で得られるメリットを見ていきましょう。ただし、言うまでもないことですが、パーパスを掲げれば経営が上手くいくというわけではありません。パーパス経営を実現するためには、事業と組織の隅々にまでパーパスを浸透させる必要があることは事前にご理解ください。

1-1:存在意義が明確になることで一貫性が生まれ、経営が楽になる。

パーパス、つまり企業としての存在意義が明確になることで、何をすべきで、何をすべきでないかは自ずと明確になります。それにより、経営的な判断軸がブレることなく、意思決定にもスピードが出ます。

また、社員にとっても判断軸が明確になるため、パーパスに基づいて自律的に行動しやすくなるメリットもあります。その結果、マネジメントコストの削減や、ボトムアップによるイノベーションも社内で起きやすい環境となっていくのです。

1-2:意義での差別化が可能になり、パーパスが競争力になる。

パーパスを明確にすることは、企業としての社会的立場、意義を表明することにもつながります。例えば、今ヨーロッパ諸国を中心に、企業のパーパスに共感した消費者による「応援消費」という新たな流れが生まれています。モノがあふれる世の中で、類似した商品があった場合、消費者はどの商品を買うかではなく、どの会社から買うかを考えるようになってきているのです。

例として、イタリアの高級カシミアウェアブランドBrunello Cucinelli (ブルネロ クチネリ)を見てみましょう。彼らは創業時より「人間主義的資本経営」を掲げ、職人たちの給与は平均よりも高いだけでなく、会社の収益を有給制の職人学校の運営や、本社のある小さな村の整備に投資するなど、人間性を損なわずに利益を生み出すための職場環境を積極的に整えていることで知られています。高品質の製品を生み出すだけでなく、企業として独自の社会貢献を発揮することで、消費者は高額な商品に対しても半ば「寄付」のような感覚で購入を決めるのです。

▲本社のあるソロメオ村   出典:ブルネロ クネチリ

 明確なパーパスを持つことは、ブルネロ クチネリのように、「事業の拡大を優先した資本主義」か「収益よりも社会貢献を優先した社会主義」かの極端な二択ではなく、双方の実現を追い求める意志表示でもあります。

また、近年は採用市場においてもミレニアル世代やZ世代を中心に、パーパスが重要視され始めています。入社時にパーパスを重視したという人は直近5年間で倍増し、転職理由としても給与よりもパーパスを重視したことがある人は4割を超えていますさらに、パーパスに共感した人とそうでない人では、仕事に対するモチベーションが高い人の割合が2.5倍の差があるという結果が出ています。ここからもわかる通り、若い世代にとっては、自分がどのように社会に影響を与えるかというポイントが、重要な志望動機となっているのです。

▼調査詳細/出典:wantedly
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1-3:組織の求心力となり、社員のモチベーション向上につながる。

コロナ禍でリモートワークが普及し、社員同士で顔をあわせる機会も減った今、人はオフィスではなくパーパスに集うようになっていると言っても過言ではありません。企業としてどのように社会に貢献するのか、その明確な姿勢やビジョンが働く人にとって仕事の意義や働きがいとなり、モチベーション向上につながるのです。

それに加えて、最近少しずつ言われ始めているのが、企業だけでなく社員一人ひとりがパーパスを持つことの重要性です。企業と社員が互いのパーパスを重ね合わせることで、ありたい姿を叶え合うような、全く新しい組織と個人の関係性です。私たちはこれを「叶え合う組織」と呼んでいますが、おそらく今後、こういった考え方で運営される組織が多くなると考えています。

1-4:企業の市場評価が高まる。

世界最大の資産運用会社である米BlackRockのCEOであるローレンス・フィンク(通称:ラリー・フィンク)氏も、毎年投資先企業のCEOに宛てる書簡内で度々パーパスの重要性について触れています。

2022年には「気候リスクは投資リスク」とし、サステナブルな事業を重視しない企業は時代に取り残されてしまうだろうと警告。企業には短期的な結果よりも、長期的な目線での利益を優先するよう訴えています。

今後はますます社会的意義、パーパスを重視した経営が市場で求められるようになり、だからこそ、パーパス経営に力を入れている企業は投資家の目にも留まりやすくなるでしょう。

2:パーパス経営 3つの落とし穴

ここまでパーパス経営をすることのメリットを挙げてきましたが、ただ「パーパス」と名のつくものを導入しただけではパーパス経営そのものは成功しません。ここからは、特に陥りがちな3つの落とし穴を見ていきましょう。

2-1:建前パーパス

本来、パーパスは「存在意義」を示すため、経営上のプライオリティの最上位にあるはずです。しかし、昨今の「パーパスブーム」に乗っかる形で、既存のビジネスをそれらしく見せるための「建前」としてパーパスを設けている企業も少なくありません。これでは事業の実態との齟齬が生じ、結果として社員や顧客に混乱を招き、信頼を失ってしまいます。

2-2:パーパスの形骸化

上記に類似する状態として、パーパスを掲げたは良いが実践しない、いわば「パーパスの形骸化」とも言える状態も散見されます。「建前パーパス」との違いは、こちらには少なくとも実践の意志はあるものの、実際にはできておらず、結果的に形骸化してしまっていることだと言えるでしょう。パーパスを掲げたからには日々の経営に反映し、言行一致の努力をしなければ、これも結果として社員や顧客の信用を失うことになります。

2-3:顧客のニーズや社会の要望とのミスマッチ

他にはない自社らしいパーパスを掲げることは大切ですが、同時に顧客のニーズや時代の要請にあった内容であるかも重要です。ここでミスマッチが起きてしまうと、せっかく掲げたパーパスを実現するために活動をしても、誰からも支持されないだけでなく、最悪の場合には顧客が離れていき、事業継続において大きなリスクを背負う可能性すらあります。パーパスを策定する際には、自社のらしさや価値観を踏まえながらも、社会課題や顧客のニーズを注意深く観察し、取り入れていく必要があるのです。

3:パーパス経営を導入するタイミング

そもそも、「存在意義」を意味するパーパスは、すべての企業にとって必要なものです。しかし、まだパーパスを掲げられていない企業は多くあります。ここからは、今からパーパスを導入する場合の最適なタイミングを見ていくことにしましょう。

3-1:事業立上げ期・転換期

将来の見通しが難しいと言われるVUCA(Volatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguity)時代にあり、企業を取り巻く環境は刻々と変化を続けています。経営に軸がなければ、いっときの流行や外部環境の変化、聞こえやすい声に振り回され、経営にブレが生じてしまいかねません。

パーパスを策定することにより、会社としての方向性は常に明確になります。難しい時代においても、掲げたパーパスに則った意思決定を続けることで経営のブレを防ぐことができるのです。

3-2:事業承継

創業者から二代目など、経営を受け継ぐタイミングも最適です。実際に「先代ならどうしていたか」と悩む機会のある継承者は少なくないはず。しかし、本当に重要なのは「先代のように振る舞う」ことではなく、創業の背景にある志を継承し、それに則った経営を行うことです。事業を長く続くものにするためにも、パーパスを明確にしておくことは大切なのです。

3-3:周年のタイミング

〇〇周年など、区切りのいい年次もパーパスを掲げやすいタイミングです。会社のこれまでの歩みを確認し、残すべきものと変えていくべきものを精査しつつ、世代が変わっても経営判断の軸がブレないようにするためのパーパスを策定しておくと良いでしょう。

4:パーパス経営事例

ここからは、実際にパーパス経営を行っている企業の事例をご紹介していきます。

世界の事例

米スニーカーブランド all birds

出典:all birds

「ビジネスの力で気候変動を逆転させる」ことをパーパスに掲げ、メリノウールや植物由来のビーガンレザーといった自然由来の素材を開発・使用したスニーカーが特徴です。サステナビリティを非常に強く意識した経営方針で、脱炭素の取り組みとして自社開発した二酸化炭素の排出量算出ツールを公開するなど、競合企業までも巻き込んだ環境改善への取り組み姿勢が注目されています。

次世代損害保険会社「Lemonade

出典:Lemonade

2015年に世界初のP2P(Peer to Peer)型の保険会社として誕生。利益のために保険金の支払いを抑えているのではないかという業界のイメージを払拭するため、「保険を必要悪からソーシャルグッドへ転換する」をパーパスに掲げ、未請求分の保険はチャリティなどへ回すことが特徴です。年に一度、ユーザーが希望する団体へと寄付されるため、保険の契約と同時に社会貢献も可能になる仕組みが若い世代を中心に支持されています。 

国内の事例

Jリーググラブ「湘南ベルマーレ」

出典:湘南ベルマーレ Spirit book2

一つの街ではなく、「湘南」という神奈川県の地域一帯をホームタウンとする日本唯一のサッカーチーム。「人生と地域を豊かにする、スポーツ文化が根ざした世の中」を目指し、地域との積極的な関わり合いを持っていることが特徴です。老若男女問わず地域の人と関われるように総合型スポーツクラブを運営したり、年間150以上の小学校へ赴いて巡回授業を行ったりし、密に地域と関わりながらスポーツで貢献を続けています。その結果、地域とのつながりはより密になり、コロナ禍の厳しい状況でも多くのスポンサーが支持を続け、1億円を超えるクラウドファンディングにも成功しています。

ミツカングループの新会社「ZENB JAPAN」

出典:ZENB JAPAN

200年以上の歴史を持つ、ミツカンによるコーポレートベンチャー。「人と社会と地球の健康」をキーワードに、通常は廃棄となる野菜や穀物の皮や芯、種の部分まで利用したヌードルやスープなどを開発。店舗販売は行わず、あえてECサイトを販売の中心とし、ブランドとしての考え方や価値を直接顧客に伝える形をとっているのが特徴です。SDGsやフードロス問題への関心の高まりもあり、主力のヌードルは発売から3年で300万食(22年3月時点)を突破するなど、注目を集めています。

5:パーパスドリブンな組織づくりのための3つのポイント

パーパスを実現させるためには、事業と組織、そのどちらにおいてもパーパスドリブンな状態であることが必要です。そのためには、事業内容がパーパスとつながっているだけでなく、それが現場の日々の行動にまで落とし込まれていなければなりません。ここからは、実際にパーパスドリブンな組織にしていくために大切なポイントをご紹介していきます。

■ポイント①:言語化仕組み化習慣化
組織づくりのためにまず必要なのが「言語化」です。パーパス経営において、言葉が社員にとっての旗印になります。ここで重要なのが、会社がなぜ生まれたのか、そのルーツを紐解きながら、未来の社会との接続を果たすこと。会社の独自性や、大切にするべき価値観としてのSEEDS要素と社会の課題や時代の要請といったNEEDS要素の接点に、自らの存在意義を求めることが重要になります。SEEDSだけでは独りよがりのものになり、NEEDSだけでは自分たちならではの存在意義にならないので注意しましょう。また言葉は単体ではなく、ストーリーとしてまとめることで、より浸透しやすくなります。

次に行うのが、仕組み化です。たとえば、事業側では商品開発の基準や顧客への対応マニュアルにパーパスを練り込んだり、パーパスを軸にした営業ツールなども仕組みと言えるでしょう。組織側では、パーパスを体現している社員がきちんと承認される評価や表彰の仕組みなどが考えられます。日常的に触れる仕組みの中にパーパスを練り込むことで、自然とパーパスを実現に向けた社内の流れができていきます。

最後に、これらを習慣化させます。仕組みをつくったはいいがいつの間にか消えてしまった、という経験はどの組織にもあると思います。一時のものにせず、習慣化していくためには「意図的に、定期的に、地道に」行うことが重要です。この時に、一度うまくいかなかったからすぐ諦めてしまうのではなく、やり方や時間などの試行錯誤を行いながら根気強く続けることが大切です。

■ポイント②:指標(KBI)を設けて追い続ける。
パーパスを実践する際に立ちはだかる壁は、その抽象度の高さです。言葉の意味はわかるが、どのような成果を出せば、どのようなことを達成すれば、パーパスを実践、実現したことになるのかが不明瞭なままでは、実現に向けて動くことができません。だからこそ、明確な目標(定量・定性)を持つこともパーパスの実現には重要なのです。計測できないものは管理も難しく、曖昧になりがちです。そこで、私たちは、売上や利益といった財務指標的なKGIだけでなく、事業のプロセスや組織の状態にマイルストーンをおくKBI(Key Branding Indicater)を設けることを推奨しています。

例として、時代に埋もれかけた工芸の世界で、「日本の工芸を元気にする!」というビジョンを掲げ、邁進している中川政七商店の事例を見てみましょう。

出典:中川政七商店

かつて、日本の工芸はピーク時で5400億円の産出額がありましたが、それが現代では900億円ほどにまで落ち込んでいるといいます。そこで、中川政七商店は上述のビジョンを掲げました。そして、これを実現できているかどうかを数値として追いかけるため、自社の売り上げ目標を掲げるだけでなく、全国にある工芸品産地の出荷額の平均額や地域ごとのGDPなどを活用して、ビジョンへの達成度を計測しているといいます。

このように、パーパスに関わる様々な局面にマイルストーンをおくことにより、今自分たちはどの程度目的に近づいているのかを客観的に知ることが可能となるのです。

■ポイント③:クリエイティブに取り組む
「こうあるべき」「こうするべき」と分かっていても、人はそうした正しさだけではなかなか心が動かないものです。かっこいいと思えたり、面白いと思えたり、ワクワクする要素があって初めて突き動かされるものです。内容をきちんと伴った上で、常にクリエイティブであることは非常に有効であり、重要なポイントです。旗印になるパーパスはちゃんと人をワクワクさせるものになっているか。発信する情報はちゃんと心に響くものか。常にそういったことを自らに問いながら、パーパスに人をのせていくことが必要なのです。

■最後に
パーパスを持って経営をすることは、会社の軸を定めることにもつながります。これからパーパス経営を始める際には、まずは自社のこれまでの歩みを振り返り、進むべき未来を明確にするための言語化からはじめてみましょう。

【参考文献】
『なんのために経営にするのか』 著:鈴木祐介 かんき出版

『パーパス 「意義化」する経済とその先』 著:岩嵜博論 佐々木康裕 NewsPicksパブリッシング
『ビジョンとともに働くということ 「こうありたい」が人と自分を動かす』  著:山口周 中川淳  祥伝社
『パーパス・ドリブンな組織のつくり方 発見・共鳴・実装で会社を変える』 著:永井恒男・後藤照典  日本能率協会マネジメントセンター
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