企業の理念が載ったホームページや会社案内、または壁にかかっている額縁の中でよく見ることがある社是・社訓。
誰もが一度は見たことがあるかもしれませんが、日常業務の中であまり使うことはないので、その意味をしっかりと理解している方は少ないかもしれません。
端的に説明しますと、社是(しゃぜ)とは、会社の経営方針を表す言葉であり、「社訓」とは従業員が守るべき会社の理念や心構えを示したのものであり、それぞれ意味が少し異なります。
今回は、社是と社訓の意味の違いを理解した上で、有名企業の企業理念の事例、そして私たちパラドックスの経験を踏まえて社是を浸透させるためのステップについてご紹介します。
社是や社訓を整理したい、新しく企業理念を定めたい、浸透させたいと考えている経営者の方や担当者の方にとって、役立つ内容になると幸いです。
1:社是と社訓の違い
社是は会社の企業理念をわかりやすい言葉で表現したものであり、従業員だけでなく対外的に示すものでもあるのです。
ここでは、社是と社訓の意味やそれぞれの違い、また企業理念との違いについて詳しく見ていきましょう。
1-1:社是とは
広辞苑で社是(しゃぜ)という言葉を調べると、次のように表記されています。
(参考元:広辞苑 第七版)
具体的には「会社の企業理念をもとに経営方針をわかりやすい言葉で表現したもの、その会社において最も大切なもの」です。必ずしもイコールではないのですが、あえていうなら、ミッション・ビジョンに近い役割を担っていると言えるでしょう。
社是を作る目的は、その会社が何のために社会に存在しているのかを明確にして、また会社の経営がどこに向かっているかという方向性を従業員に浸透させることになります。
社是は社内だけではなく、世の中、社会に向けられているものです。
1-2:社訓とは
社訓の言葉の意味を調べると、広辞苑には次のように記されています。
「その会社で働く社員の指針として定めた理念や心構え。」
(参考元:広辞苑 第七版)
広辞苑の言葉を分かりやすく説明すると、社訓は従業員の行動方針のもとになるものであり、従業員は社訓を心がけて日々の仕事を行うべき、という内容です。
他の言葉で表すと、クレドやスピリット、行動指針が当てはまりそうですね。
ただ行動指針に比べ、用いられている「訓」(おしえる、さとすの意)という漢字からも、経営者の教えや戒めの意味を多分に含んでいるような印象を受けますね。
1-3:社是と社訓の違いまとめ
では、改めてこの2つの意味の違いを見ていきましょう。
社是と社訓の違いは、下記の通りです。
- 社是
会社を経営する上での指針であり、「このような存在でありたい」など社内外に向けてアピールするもの
- 社訓
従業員に向けての教訓であり、「このような行動をするべし」と社内に向けての行動指針を示すもの
社是の主語は「会社」であり、社訓の主語は「従業員」になります。
社訓は従業員に向けての行動指針であるため、社是のように対外的に向けたアピールではないのです。
1-4:企業理念との違い
企業理念とは、会社にとって基本的な考え方や価値観を表したものです。
「どんな目的で経営をしているのか」、「なぜ経営しているのか」など会社の存在意義を示したものであり、「考え方」になります。
企業理念には、ミッション・ビジョン・バリュー・スピリットなどという要素が含まれ、企業における理念を言語化したものという点では、社是・社訓とほぼ同じ役割を担ってきましたが、時代の変化と共に企業理念に置き換えられている印象がありますね。
特に強力な一人のカリスマ創業社長から2代目社長への代替わりや、同族経営以外の企業の増加とも連動しているように感じます。
社訓の箇所でも説明したのですが、言葉自体に「教え」や「戒め」といったニュアンスが含まれることもあり、経営者と従業員の明確な上下関係を感じさせてしまうという理由も、社是・社訓が企業理念に置き換わってきた理由なのかもしれません。
2:有名企業の社是を紹介
社是は対外的にアピールする会社の方針や主張も込められていることが分かりましたが、実際に世の中の企業の社是を見ていきましょう。
今回改めてリサーチをして再確認したのですが、「社是」という言葉を使用している企業は減ってきているように思いますね。
ここでは、有名企業の社是を5つご紹介しますので、ぜひご覧ください。
①セブン&アイ・ホールディングス
セブンイレブン、イトーヨーカドーを経営するセブン&アイ・ホールディングスの社是は、下記の通りです。
私たちは、お客様に信頼される、誠実な企業でありたい。
私たちは、取引先、株主、地域社会に信頼される、誠実な企業でありたい。
私たちは、社員に信頼される、誠実な企業でありたい。
引用元:セブン&アイ・ホールディングス
お客様だけでなく、取引先や従業員に向けて「信頼」と「誠実」を社是で主張しています。
社是は対外的なものですが、従業員にも「信頼される企業でありたい」と主張している部分が特徴的であると言えるでしょう。
②三菱重工業
日本最大の機械メーカーである三菱重工業の社是は、下記のように制定されています。
三菱重工業の社是は、昭和45年に制定され、内容は第四代社長の発想の基づき、会社の基本態度や従業員の心構え、そして将来会社が目指すべき方向の3つの観点から簡明に表現されたものです。
創始者をはじめ歴代の経営者、従業員が残した先訓を思い起こし、将来への一層の飛躍に備えてほしいとの願いが込められています。
③日本経済新聞社
日経新聞の名称で親しまれている日本経済新聞社の社是は、下記の通りです。
社是に記載されている「中正公平」という言葉は、基本理念でも使われており、社是の意味を詳しく説明しています。
日本経済新聞社の社是の事例は、基本理念の内容をわかりやすく表現されており、経営理念と社是の違いが分かりやすいでしょう。
④キユーピー
マヨネーズやソースで親しみが深いキユーピーの社是は、下記の通りです。
「楽業偕悦(らくぎょうかいえつ)」とは、志を同じくする人が、仕事を楽しみ、困難や苦しみを分かち合いながら悦びをともにする、という考え方です。
この社是は、創始者の中島董一郎の仕事の基本的な考え方を元に制定されており、目指す姿や基本方針、姿勢などにも反映されています。
⑤ライオン
洗剤や石鹸などを手がける大手生活用品メーカーのライオンでは、下記のような社是が制定されています。
ライオンの社是では「わが社」との表記で始まっていますが、企業理念は全て「われわれ」から始まっていることが特徴です。
社是と基本理念で主語を使い分けており、社是の主語は会社であるという社是の定義がよく分かる事例の一つでしょう。
3:有名企業の社訓を紹介
続いて、社訓事例をご紹介します。社訓は従業員の心構えなどが書かれているので、改めて仕事との向き合い方を考えるきっかけにもなるでしょう。
ここでは、5社の事例をご紹介します。
①ワタミ株式会社
居酒屋など外食産業を展開するワタミ株式会社の社訓は、次の通りです。
一、笑顔で元気よく挨拶せよ
一、約束を守れ、嘘はつくな
一、全てに感謝せよ
一、常に謙虚なれ
一、恥ずかしいと思うことはするな
一、努力を継続せよ、あきらめない努力は、信用を生み、信用は奇跡を生む
一、他人の喜びや悲しみを共有せよ
引用元:ワタミ株式会社
ワタミ株式会社は、「ありがとうを集めること」を理念に掲げており、社訓以外にもグループミッション、グループスローガン、グループ経営目的、創業事業理念、社員の幸せ7項目、合言葉などが制定されています。
②ぼんち株式会社
「ぼんち揚」で親しまれるせいかメーカーのぼんち株式会社では、次のような社訓が制定されています。
一、よい商品を創ることへのたゆまざる追求を行う
一、お客様を第一とし常にサービス向上に努める
一、浮利を求めず目標に向かってねばり強い積極的な行動をする
一、互いに切磋琢磨し明朗率直で相互理解に基づく和を図る
一、常に社会的貢献を考え行動する
引用元:ぼんち株式会社
ぼんち株式会社の社是には、「創る」が制定されおり、お菓子以外に笑顔や幸福な時間を創ることが主張されています。
社訓では、従業員に対して「創る」ことへの行動指針が示されており、社是と社訓の違いがよく分かる一例でしょう。
③牛乳石鹸共進社株式会社
化粧石鹸やシャンプーなど「牛乳石鹸」で親しまれている牛乳石鹸共進社株式会社の社訓は、次の通りです。
私たちは
社会と共に 社員と共に
堅実に歩むことを誓い合い
常に遠大の理想と
不断の努力を忘れてはならない
私たちは
消費者の求めに即応し
流通業界の信頼を受け
品質第一主義に
広く社会に奉仕する
私たちは
融和の精神をたいせつにして
製品の人格化を心がけ
美と清潔 そして健康づくりに
役立つため
優れた製品を提供しよう
引用元:牛乳石鹸共進社株式会社
「私たちは」が主語として使われており、従業員に向けたメッセージであることが分かります。
企業理念として「ずっと変わらぬ やさしさを。」を掲げており、社是は制定されていません。
1909年(明治42年)に創業してから110年の歴史がありますが、創業者や経営者の教訓が社訓として受け継がれていることが分かります。
④株式会社スタジオアリス
こども写真館などを展開する専門写真館最大手の株式会社スタジオアリスの社訓は、次の通りです。
株式会社スタジオアリスでは、4つの社訓が制定されており、社是はありません。
お子様の成長を記録する写真事業において、「仕事を楽しめるようになること」の言葉の重みを感じます。
⑤ヤマトホールディングス
宅配便のシェアNO.1であるヤマトホールディングスの社訓は、下記の通りです。
ヤマトホールディングスの社訓は、1931(昭和6)年に制定されました。
創業者の小倉康臣氏は、会社を永く発展させ、社員の幸福、会社が社会から認められるためには、そこで働く一人ひとりの心がけが最も重要と考え、その教えが反映されています。
「大和」は「ヤマト」に表記が変わりましたが、社訓は変わらず創業の精神として受け継がれ続けているのです。
4:社是・社訓のつくり方、浸透のさせ方
もちろん完全一致するわけではないのですが、同じような役割ととして、社是を「ミッション・ビジョン」、社訓を「クレドやスピリット、行動指針」と置いた場合のそれぞれの作り方、浸透のさせ方はこちらをご覧ください。
5:まとめ
今回は、社是と社訓の意味や違い、有名企業の一例を挙げて解説していきました。
社是は企業のあるべき姿を主張したものであり、社訓は従業員がも守るべき行動指針という違いがあるようです。
時代の変化と共に言葉自体は変わるかもしれませんが、企業として、そこで働く従業員にとって大切にすべき考え方や価値観が必要であることは変わりません。
自社の文化や理念構築・浸透を通じて、目指したいゴールや目的に一番相応しいアプローチで最も自社らしい理念づくりに取り組むことが大切です。
今回ご紹介した内容が理念づくりに関わる方にとってお役に立てれば幸いです。
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