最近よく「タレントマネジメント」という言葉を耳にするという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
これは元々アメリカで生まれた考え方ですが、最近では労働人口の減少や少子高齢化、労働者の価値観の多様性などを重視する傾向から、日本でも注目を浴びています。
では、どのような考え方なのでしょうか?
「タレントマネジメント」とは、従業員の持つ能力(タレント)に注目して、採用の人事施策を統合的に実施することで、一人ひとりのパフォーマンスを最大化させるための人材管理や評価の考え方です。
効率的な人材管理を行うDX(デジタルトランスフォーメーション)の文脈から、人材管理・評価の効率化を行うシステムやサービスも昨今では急激に増えています。しかし、約18年以上、企業の採用やブランディングに関わる私たちパラドックスでは、タレントマネジメントを行う上で、最も大事になってくるのは「人事評価の起点となる企業理念」であると考えています。
タレントマネジメントは、人材管理システムを導入すれば解決するのではなく、オフライン・オフラインを組み合わせ、データ収集・活用しながら、実際の人事やHRBP(HRビジネスパートナー:組織を横断して経営戦略を実現するための人事戦略を担う)が連携し、理念を軸にしながら組織全体の人材活用・活躍までの一連の流れを作ることが大切です。
ここでは、人材戦略を成功させるためのタレントマネジメントの考え方や私たちパラドックスが取り組んでいる活用方法について解説します。
この記事がタレントマネジメントシステムの自社への導入を検討している経営者や担当者の方にとって、少しでもお役に立てると幸いです。
1:タレントマネジメントとは
「タレントマネジメント」とは、従業員の持つ能力(タレント)に注目して、採用の人事施策を統合的に実施することで、一人ひとりのパフォーマンスを最大化させるための人材管理・評価の考え方です。
ここでの「タレント」とは、「会社に貢献しうるスキルのある人材」や「優秀な人材」という意味です。
優秀な人材を適材適所に配置するだけではなく、従業員の持つ能力に注目して、採用から配置、育成、キャリア形成までの一連のプロセスを効果的に管理する仕組みが肝となり、採用から評価、育成までの人事イベントが全て関係しているため、「人事戦略そのもの」とも言えるでしょう。
ただし、人事戦略は経営戦略にも関わる部分であり、目指す目標や人事課題は企業によって異なるため、企業ごとにタレントマネジメントを実践していく必要があります。
まずは、タレントマネジメントの定義と目的についてもう少し見ていきましょう。
タレントマネジメントの定義
タレントマネジメントには、共通化された明確な定義は存在していませんが、各研究機関が独自の定義を発表しています。
ここでは、タレントマネジメントの定義として挙げられる、人材マネジメント組織(SHRM、ASTD)、リクルートワークス研究所の3つの定義を見ていきましょう。
SHRMによる定義(2006年)
「人材の採用、選抜、適材適所、リーダーの育成,開発,報酬,後継者養成等の人材マネジメントのプロセス改善を通して、職場の生産性を改善し、必要なスキ ルを持つ人材の意欲を増進させ、現在と将来のビジネスニーズの違いを見極め、優秀人材の維持、能力開発を統合的、戦略的に進める取り組みやシステムデザインを導入すること」
SHRM(Society for Human Resource Management)とは、1948年に創設された全米人材マネジメント協会のことであり、現在は約165カ国、約29万人の会員数を誇る協会です。
*参考:人的資源管理研究の新たな動向(PDF)
ASTDによる定義(2008年)
「発・配置のプロセスを通して、組織文化、エンゲージメント、能力、潜在的可能性を構築することにより組織が短期・長期の成果を獲得することを可能にする、人的資本の最適化に向けた統合的アプローチ」
ASTD(American Society for Training & Development)とは、米国人材開発機構のことであり、1994年に設立された非営利団体です。
現在は、約100カ国、約4万人の会員が所属する団体であり、2014年にはATD(Association for Talent Development:人材開発機構)に名称変更が変更されています。
*参考:タレントマネジメントの本質(リクルートワークス研究所)(PDF)
リクルートワークス研究所による定義(2013年)
「タレントマネジメントとは、組織における個人ひとりひとりの能力とリーダーシップを最速で開花させることによって、組織内のリーダーシップの総量を極大化させ、より高いビジネスゴールを達成することを目的とした、上司・本人・人事による成長促進のためのプロセスである。」
リクルートワークス研究所では、2013年にリクルートワークス研究所の石原直子人事研究センター長によって、上記のように定義されています。
一般的に、こちらのタレントマネジメントの定義として上記3つの組織団体の定義が挙げられることが多いですが、そもそも関わる領域が人事全般に至る広範囲なものなので、上記以外にも様々な定義もあります。しかし、従業員の成長やスキルを最大化させるという考え方は共通しています。
タレントマネジメントを行う目的
タレントマネジメントは人事戦略であり、経営戦略と深い関係があるため、人事課題や目指す目標は企業によって異なりますが、「企業の継続的な成長への貢献」が大きな目的となります。
従業員の能力などのタレントに注目して人事施策を行うことで、組織全体の継続的なパフォーマンスの向上につながるのです。
ここで注意したい点が、「タレントマネジメントそのもの」が目的となってしまうこと。
人事施策や適材適所への配置を実現することは、あくまでタレントマネジメントの手段であり、目的ではありません。
2:タレントマネジメントが注目されている背景
最近では耳にする機会も増えた「タレントマネジメント」ですが、クラウドで提供されるサービスのタレントマネジメントシステムも登場しており、導入検討している企業も増えています。
しかし、なぜタレントマネジメントへの注目が高まっているのでしょうか?
その答えは、大きく2つあります。ここでは、下記の2つの理由について詳しく見ていきましょう。
②テクノロジーの急速な発達による事業の変化
①労働人口の減少や労働者の価値観の変化
1つ目の理由は、「労働人口の減少や労働者の価値観の変化」によるものです。
従来の日本の雇用制度は、終身雇用や年功序列などが基本であり、人材の流動性は高くありませんでした。
従来の日本の人事制度では、人材活用の視点よりも、「従業員自身がどう会社に合わせていくのか」が重要視される傾向が強かったため、タレントマネジメントに注目されることはなかったのです。
しかし、労働人口の減少による労働市場の変化により、採用が一筋縄では行かない状況になってきました。その中で、従業員一人ひとりの能力やスキルを最大限に活用することが求められるようになりました。
また、仕事においてやりがいや社会的意義を大切にする人、家庭とプライベートの両立を目指す「ワークライフバランス」を重視する人も増え、企業も労働者の価値観の変化に対応が求められるようになっています。
②テクノロジーの急速な発達による事業の変化
2つ目は、「テクノロジーの急速な発達による事業の変化」です。
ITの発展により、従来の事業と比較するとビジネスモデルも大きく変化し、経営環境も激しく変わりました。
企業にはあらゆる問題に対してスピード感を持って対応する能力が求められ、市場の変化に対応するための経営戦略と人材活用の必要性が高まっています。
このように、時代の流れと市場の変化に合わせた人材活用の必要性から、タレントマネジメントが注目されているのです。
3:タレントマネジメントによって期待できる5つの効果
実際にタレントマネジメントを行うことによって、以下のような効果が期待できるでしょう。
①適材適所に配置できる
②計画的な人材育成ができる
③適正な評価により離職を防止できる
④従業員のエンゲージメントを高められる
⑤事業をスピーディーに展開できる
こちらの5つについて詳しく解説していきます。
①適材適所に配置できる
1つ目は、従業員個人の能力やスキルをデータで見える化することで、その能力を最大限に活用できるポストに配置することが可能になります。
「欠員が出たから適当に補充をする」「なんとなく向いてそうだから」といった感覚的な人事ではなく、データによる判断を行うことで、適材適所に配置することができるでしょう。
また、転職者が出た場合なども空いたポストに適した人材が社内にいるかをすぐに確認することもできるので、人事管理がスムーズになります。
②計画的な人材育成ができる
2つ目は、「計画的な人材育成ができる」ことです。
従来の日本の雇用制度では、長期雇用を前提としていたため、長い時間をかけて将来の経営者や経営者候補になるリーダーに適した人材を見極めていました。
しかし、タレントマネジメントは、リーダーに適した人材に限らず、企業にとって重要な職務とそこに必要な人材は異なるという考え方です。そのため、職務に重要な人材を計画的に採用、長期の視点から育成する手法を用いることで、計画的な人材育成が実現できるでしょう。
また、従業員一人ひとりの現在から過去、未来までのデータが蓄積されることにより、人材育成もデータをもとに検討することが可能になります。
従業員の経験価値やキャリア開発といった視点で個人の希望が反映される機会が増え、より主体的なキャリア開発を促進することも可能です。
③適正な評価により離職を防止できる
3つ目は、「適正な評価により離職を防止できる」こと。
適材適所で実力を発揮する従業員に対して、データに基づいた適切な評価をすることができるので、従業員も仕事への自信を深めて意欲的に取り組むことにつながるでしょう。
そして、適切な仕事で適正な評価を受けることにより、優秀な従業員の離職を防ぐことにもつながります。
④従業員のエンゲージメントを高められる
4つ目は、「従業員のエンゲージメントを高められる」ことです。
エンゲージメントとは、一般的には「契約、約束」などの意味がありますが、人事領域では、「従業員の会社に対する愛着心や思い入れ」という意味で使われます。
タレントマネジメントによって従業員一人ひとりの情報が可視化されることにより、個人管理が進み、その人に合わせた育成やキャリア開発が促進できるでしょう。
これにより、従業員がやりがいを感じられる仕事への配置が実現しやすくなり、エンゲージメントを高めることにつながります。
従業員のエンゲージメントと混合されやすい「従業員満足度」ですが、これは職務内容や待遇、職場環境などの満足度を表したものであり、「エンゲージメント=従業員満足度」ではありません。
従業員満足度の指標の一つにエンゲージメントがあると考えると分かりやすいでしょう。
⑤事業をスピーディーに展開できる
5つ目は、「事業をスピーディーに展開できる」ということです。
従業員の能力やスキルを把握しておくことで、役職に見合った人材を迅速に配置することが可能になり、事業をスピーディーに展開できるでしょう。
また、空いたポジションに相応しい人を素早く配置できるだけでなく、新規部門立ち上げの際にマッチした人材を素早く選択することもできます。
スピード感を持って事業展開を進めることも可能になるのです。
4:タレントマネジメントの具体的な進め方
タレントマネジメントの目的や効果などが分かったところで、具体的な進め方について見ていきます。ここで押さえておきたいポイントは、タレントマネジメントの起点は「自社に相応しい人事評価をいかに定められるか?」ということです。
近年ではデジタル化が進み、効率的な人材管理にsaasなどのクラウド管理などを活用する企業が増えています。
もちろん、データの収集や活用の仕組み化は必須です。しかし、私たちパラドックスでは、タレントマネジメントのポイントは、自社の活躍人材を正しく評価できるか、そして、いかに従業員一人ひとりの多様性を見極め、それぞれの可能性を活かしきれる機会が与えられるかだと考えています。そして、その起点となるのが企業理念です。
タレントマネジメントシステムを導入する前に、「企業理念→人事評価→タレントマネジメント」という大きな流れをつくり、企業理念・評価制度から準備を整えましょう。
ここでは、タレントマネジメントを進めるために必要な準備をご説明します。
①タレントマネジメントの目的を明確にしておく
まずは、タレントマネジメントの目的を明確にしておきましょう。
タレントマネジメントの大きな目的は企業の成長ですが、何のためにタレントを増やすのか、どのようなタレントを採用することによってどんな社員を率いる企業を目指すのか、を決めておく必要があります。
組織によっては、かつての欧米型のようなトップ10%の社員をいかに成長させるかといった選抜型育成を目指す場合や、すべての社員の可能性を活かそうとする全社型育成を目指す場合など、そもそも目的の違いがあるので、自社の課題解決、そして企業文化に相応しい目的設定をしてください。
タレントマネジメントの目的は事業戦略とも紐づく部分であるため、企業のミッション・ビジョンと絡めて考えることが大切です。
企業のミッションとは、「企業の存在意義、果たすべき姿」のことであり、ビジョンはミッションを行うことによって「実現したい未来」のこと。
タレントマネジメントを行う目的が「適材適所に配置したいから」などであれば、適材適所に配置することが目的となってしまい、企業の成長やミッションの達成には近づくことはできないでしょう。
企業の存在価値であるミッションに込められた「なぜ、このビジネスをしているのか」という視点から、タレントマネジメントを行う目的を明確にしておくことが重要です。
②タレントマネジメントにおける現状の課題を洗い出す
タレントマネジメントの目的が明確になったら、現状の課題を洗い出しましょう。
ミッションの達成を妨げている自社の人事課題に着目し、優先順位をつけてタレントマネジメントを行う必要があります。
例えば、優秀な人材のポテンシャルが活かせていない配置であることに課題を感じているのであれば、人事配置と能力分析をメインにタレントマネジメントに取り組みます。
現状の課題を全て解決することは難しいですが、優先順位をつけて取り組むことで効率よく課題解決を進めることができるでしょう。
③従業員の情報を見える化する
タレントマネジメントの考え方を活用して課題解決を進めるために、従業員の情報を見える化します。
・氏名や経歴などの基本情報
・業績
・資格
・評価履歴
・興味
・価値観
・キャリア志向
・過去に関わったプロジェクト履歴
・個人のミッション・ビジョン
上記の情報をデータとして収集することで、会社の現状を見える化することができます。上記以外にも、住んでいる場所や日報などと組み合わせて独自の項目設定をしている企業もありますが、すべては目的のために何が必要かという軸で、企業ごとに設定する項目は異なります。
データの見える化を行う際には、Excelファイルでの管理も方法の一つですが、今後は人事管理システムを活用することで効率化を図ることができるでしょう。
人事管理システムの中には、人事評価と連動できたりするものもあるので、従業員数や自社に合わせた運用システムを導入することがポイントです。
④必要な人材を採用したり適材適所に配置する
従業員情報を見える化したら、データをもとに必要な人事を採用したり適材適所に配置します。
ここでの注意点は、「社員の動機づけ」に重きを置くこと。
マネジメント自体は会社が行うものですが、最終的には配置された従業員自身の意思が伴わなければ意味がありません。
データでの判断では適正と評価した場合であっても、従業員自身が適正と感じなければ、エンゲージメントを高めるなどのプラスの効果には働かないでしょう。
データはあくまで参考情報であり、最終判断をするのはあくまで血の通った人間です。従業員が心の面でも受け入れやすく、参加しやすい仕組みを作っていくことが大切です。
⑤評価を行う
従業員の適材適所への配置ができたら、タレントマネジメントに取り組む際に洗い出した課題が解決できているか、の評価を行います。
例えば、施策実施前と後を比較して業績や行動などの結果から、できた部分とできなかった部分の評価を実施しましょう。
タレントマネジメントは実施したら終わりではなく、実施後にどのような変化があったのか、を把握することで次の改善策や人事施策にもつながります。
⑥PDCAサイクルを回していく
タレントマネジメントは、1回の取り組みで終わりではなく継続的な運用が必要になります。
計画だけでマネジメントが実施できていなかったり、振り返りができていなければ、戦略的な人事計画として活かすことができません。
適材適所への配置などの施策を行ったら、必ず社員を交えて振り返りを行い、改善点を洗い出して再度計画を立てて実施する、というPDCAサイクルを回していくことが重要です。
5:タレントマネジメントを成功させるためのポイント
ここまで、タレントマネジメントの進め方について解説してきましたが、タレントマネジメントは導入することがゴールではなく、課題を解決するための考え方です。
また、人材管理をすることが目的ではなく、従業員のポテンシャルを最大化させるためのプロセスであり、従業員の参加が不可欠になります。
タレントマネジメントを成功させるためには、従業員が参加しやすい体制を整えることが大切。
例えば、情報管理システムに従業員自らが情報を登録できたり、従業員同士の情報が自由に閲覧できたり、キャリア開発にも積極的に関われるなどの体制を整え、マネジメントに参加しやすい環境を作ることが望ましいです。
6:まとめ
今回は、人材戦略を成功させるためのタレントマネジメントについて、私たちパラドックスの考え方を交えながらご紹介しました。
タレントマネジメントとは、従業員のポテンシャルを最大化させるための人事施策の考え方であり、人事管理を行うことが目的ではありません。
約18年以上企業の採用をサポートしてきた私たちパラドックスでは、タレントマネジメントの起点は人事評価であり、人事評価の基準は企業理念であると考えています。
事業成長につながるタレントマネジメントを行うためには、企業のミッション・ビジョンに沿ったタレントマネジメントを心がけましょう。
これからタレントマネジメントシステムの導入を検討している経営者や担当者の方にとって、この記事の内容が理解を深めるきっかけになると幸いです。
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