共感を生むDtoCブランドとは。商品ブランディングの考え方とポイントを解説!

コロナ禍やそれに伴う店舗不振が続く昨今、DtoCもしくはD2Cという言葉を耳にする機会が増えた方も多いのではないでしょうか。

DtoCとはDirect to Consumer(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)の略語で、メーカーが商品を店頭に出すことなく、直接ユーザーに販売するビジネスモデルのこと。近年はSNSの普及、ECサイト構築のハードルが下がったことが後押しとなり、スタートアップを皮切りに、日本でも多くの企業が採用するビジネスモデルになりました。

こうした先行企業の動向を受け、新たにDtoCを始めようと考えている企業、経営者の方もいらっしゃると思います。ただ、自社のECサイトを設けるだけでは、当然商品は売れません。

DtoCブランドが成功するには、商品力やWebマーケティングの知見など、さまざまなノウハウが必要になりますが、とりわけ重要なのは「商品ブランディング」であると私たちは考えています。

この記事では、DtoCのメリットやデメリット、DtoCにおいて重要な要素である商品ブランディングの考え方について、私たちの考え方を交えながらご紹介します。

1.DtoCとは

本記事を読んでいる方はご存知の方も多いかと思いますが、まずDtoCとは何か、言葉の意味から確認していきましょう。

DtoCを国語辞典で調べると、次のような意味があります。

ディーツーシー(DtoC/D2C)

企業が企画・製造した商品を、中間業者を介さず直接消費者に販売すること。主に自社のECサイトで行う電子商取引を指すが、自社が運営する実店舗での販売も含む。

引用元:大辞泉

つまり、DtoCとは、旧来のメーカーが商品を卸や店頭で販売するモデルではなく、自社ECサイトを通して直接消費者に販売するビジネスモデルを指します。成長段階においては、顧客との接点を増やすために実店舗に展開するケースもありますが、基本的にはECサイトを用いて、消費者にダイレクトに商品を販売することだと捉えていただいて問題ありません。

DtoCというと、スキンケアやアパレルなどを商材とするスタートアップ企業を連想される方も多いと思いますが、大企業でも、クラウドファンディングでのテストマーケティングを行った後、DtoCブランドをスタートするというケースも増えてきました。

店舗中心だった小売業がオンライン中心に舵をとった経緯には、2019年末からはじまったコロナ禍が大きく影響していると考えられています。店舗での消費が落ち込む中、ECサイトで直接販売するビジネスモデルは、あらゆる企業が検討すべき課題となっていると言えるでしょう。

BtoC、CtoCとの違い

次に、DtoCと混同しやすい言葉についても確認しておきましょう。 

BtoB(Business to Business)

企業が商品やサービスを「企業」に提供するビジネスモデル

BtoC(Business to Customer

企業が商品やサービスを「消費者」に提供するビジネスモデル

DtoCがDirect to Consumerの略であることからお分かりいただけるように、DtoCとは、BtoCの一つのジャンルといえます。企業(メーカー)が消費者と行う取引であるBtoCモデルをベースに、中間の販売店などを通さずに、直接商品やサービスを提供するビジネスモデルがDtoCです。

そのほか、メルカリやヤフオクなどのフリマアプリやオークションを経由した取引は、消費者同士で行われることから「CtoC(Consumer to Consumer)」と呼ばれます。

2.DtoCが注目されている理由

前章でも少し触れましたが、ここではより詳しく「なぜ今、DtoCに注目が集まっているのか」を紹介していこうと思います。

①SNSの普及

ひとつ目は、SNSの普及です。

SNSは、企業が消費者とこれまで以上に容易にコミュニケーションを取ることができるプラットフォームになりました。それにより、これまで棚に並べているだけではできなかった、商品のコンセプトやストーリー、あるいは制作過程のような情報を消費者に発信することができるようになったのです。SNSが普及する以前、自社の認知力を上げるためには、店舗を構えるか、テレビCMをはじめとする大規模なプロモーションを展開することが一般的だったことから考えると、大きな変化と言えるでしょう。

自社の展開するプラットフォームで認知、ファンの獲得、販売までを一貫して担うことができれば、これまでのように大手ECサイトのようなプラットフォームに依存する必要がなくなります。そうなれば、ブランドの成長に焦点を絞った適切な予算投下ができるようになることも、企業にとって重要な視点です。

②ECサイト構築のハードルが低下

2つ目は、ECサイト構築のハードルが低下したことです。

オンラインでの商品販売においては、「楽天」や「Amazon」などの大手ECプラットフォームの影響力が強いのが現状ですが、近年では以前よりも手軽にECサイトを構築できるサービスや、運用効率化のためのクラウドサービスが普及してきました。それにより、これまでよりもずっと気軽にECサイトを導入、運用できるようになったこともDtoCを加速させるひとつの大きな要因でしょう。

③消費者のニーズ・行動の変化

3つ目は、消費者のニーズ・行動の変化です。

「物が売れなくなった」と言われて久しい今の時代ですが、一方で、独自のコンセプトやストーリーといった情緒的な価値や、そのブランド独自のユニークな体験を求める人が増えている傾向にあります。それはミレニアル世代(1980年代前半から1995年頃に生まれた層)やZ世代(1995年頃から2010年頃に生まれた層)に顕著な傾向と言われています。

とりわけZ世代は、物心ついた時からスマートフォンとSNSが身近にあるデジタルネイティブな存在で、それ以前の「アナログ世代」とは購買に至るまでの行動が明らかに異なります。というのも、彼らはSNS上で商品を見つけると、すぐにWEB上でクチコミを確認し、他の商品と比較した上でその場で(ECで)購入する、といったようにWEB上で全ての購買行動を完結させることも少なくないのです。

今後、デジタルネイティブの時代が続くことを考えると、

・ブランド認知から、購買、アフターサービスまで、一貫したメッセージと世界観でコミュニケーションを取りつづけること 
・消費者とのあいだに親密、密接な関係性を築き、彼らから直接ニーズを聞き出すことで、自社商品を改善・改良しつづけること

といったことが一層求められるようになるでしょう。それらを達成できる合理的な手段として、DtoCブランドが拡大することは、時代の流れと消費者の行動を捉えた必然的な流れのように思います。

3.DtoCのメリット

消費者と直接コミュニケーションが取れる時代になり、ますますDtoCへの注目が高まっていますが、DtoCにはどのようなメリットがあるのでしょうか。

ここでは、DtoCのメリットについて詳しく見ていきましょう。

1.顧客との関係性を強化できる

DtoCはこれまでメーカーと消費者との間に存在していた、小売店などの中間業者を廃することで、物理的にも精神的にも消費者との距離を近づけるビジネスモデルです。それゆえ、企業と消費者とのあいだに双方向のコミュニケーションが生まれやすくなり、顧客との関係性の強化につなげることが可能になります

2.顧客情報の収集と蓄積が容易にできる

従来であれば消費者のニーズの汲み取りは店舗頼みの部分がありましたが、直接取引を行い、直接コミュニケーションを図ることで、顧客の志向性やニーズに関する情報の収集と蓄積がこれまでよりも格段にしやすくなりました。収集したデータやリアルな声を商品開発やマーケティングに活用することで、より顧客のニーズを満たす価値提供が可能になるでしょう。

 

4.DtoCを行う上でのハードル

企業にとってもDtoCはメリットが大きいように思えますが、一方ではwebマーケティングが必要になるなど、ハードルも存在します。

ここでは、DtoCモデルの導入において、考慮しておくべきポイントをご紹介します。

1.消費者へのラストワンマイルの設計

ひとつめのハードルは物流体制の構築です。これまで小売店や、大手ECサイトといった中間業者を入れることで、消費者へのラストワンマイルを任せることができていましたが、DtoCを始めるということは、そこの部分も自分たちで担うということ。ゆえに、DtoCを始める際には、ECサイトという入口の構築だけではなく、物流という出口をどうするかも検討する必要があるのです。

それに伴い、受注から発送、在庫管理、カスタマーケアなど、これまでには生じなかった業務も発生します。DtoCにとっては、これらは雑務ではなく、重要な顧客接点のひとつ。担当する人材の育成や採用、管理ツールの導入の検討などが適宜必要になるでしょう。

2.Webマーケティングが必要になる

ECサイト構築のハードルが低下し、クラウドサービスが普及したことにより、自社ECサイトの構築、運用の費用は格段に下がりました。店舗を持たない分、ランニングコストや販管費も下がるだろうと思われる方も多いのではないでしょうか。

しかし、そう簡単にはいかないのがビジネスの難しいところ。ECサイト構築のハードルが下がる、ということは、競合が増えやすい環境になることと表裏一体です。インターネットは情報が流れ続ける大海です。物理的な店舗とちがい、「偶然出会う」ことの確率はほぼゼロと言っていいでしょう。そのような状況のなかで、望ましい消費者にリーチし、興味を喚起し、購入してもらう。そしてリピートにつなげてファンになってもらう必要がある。そのためには、誰に届けるのか、という顧客像の設計や、彼らとの情報接点づくり、そして魅力的なコンテンツの継続的な発信が必要であり、そのためにはWebマーケティングの知識が欠かせません

5.DtoCを成功させるための商品ブランディングのポイント

DtoCを成功させるためには、商品力はもちろん、Webマーケティングの知見、販売スキームの確立など、じつに多くの条件があります。ここでは、なかでも私たちがもっとも重要だと考える、「商品ブランディング」にフォーカスしてご紹介します。

先ほどもご説明したように、インターネット上では、多くの企業や個人が日々情報発信を行っています。そのなかで自分たちが望むかたちで認知され、関心を持ってもらい、購買につなげるハードルは、店舗よりも高いはず。一方で、うまく顧客にアプローチできれば、自社ブランドのストーリーや世界観を過不足なく、しかも継続的に伝えることができるようになります。だからこそ、商品として目指すブランド像を明確に持ち、それを起点としたコミュニケーションを取ることで、ブランド価値を高める必要があるのです。Web上では、店舗よりも簡単に類似商品の機能や価格の比較が可能です。望まない価格競争から逃れるという意味でも「このブランドで買う意味」をつくる商品ブランディングが重要になります。

以下では、そのポイントについて説明していきます。

1.ブランドに込める想いを明確にする

DtoCにおける商品ブランディングを行うためにまず明確にするべきは「商品を通して、どんな社会課題に貢献し、どんな世界を実現したいと願うのか」という想いの部分です。現代はモノがあふれる時代です。だからこそ、ブランドが生まれた背景や提供価値をストーリーとして明確に語ることで、機能的な価値を超えた「意味」や「意義」を消費者は感じてくれます。

ブランドに込める想いを明確にし、それをきちんと伝え、共感してもらうことができれば、その共感が消費者にとっての「購買する理由」になります。実現したい世界に対して愚直に貢献することで、「このブランドではなければいけない」という無競争の状態をつくることができ、根強いファンの獲得につながるでしょう。

2.ゴールデンサークル理論をうまく活用して伝える

自分たちの想いをブランドの核に据え、世の中とコミュニケーションをとっていく際に意識するといいのが、ゴールデンサークル理論というフレームワークです。

ゴールデンサークル理論とは、物事の本質を説明する際に重要となるフレームのことであり、Why、How、Whatの3つの要素で構成されています。

【ゴールデンサークル理論の要素】

  • Why(なぜ):ミッションやビジョン、パーパス
  • How(どうやって)  :Whyを実現するための方法(戦略など)
  • What(何を)    :Howを実行する手段としての商品・サービス

この理論において重要なポイントは、「人はWhyに心を動かされる」ということです。だからこそ、ブランドのストーリー(ミッション、ビジョン)をつくり、ECの構成も、What(商品そのもの)ではなく、Whyから語りかけることで、共感を生み、そのブランドを支持する理由を作り出すことが重要なのです。

DtoCにおいてはマーケティングや商品力ももちろん重要ですが、その手前で「なぜ、この商品を世の中に出すのか」「なぜ、この事業をやるのか」を明確にしたうえで、顧客に届くかたちで発信していくことが、とても重要な要素なのです。

6.Whyから考えるブランド事例

前章では、ゴールデンサークル理論を参考に、商品ブランディングの考え方をご説明しました。本章では、ゴールデンサークルのフレームワークを活用して、具体的なD2Cブランドの事例を3つご紹介していきます。

Warby Parker:誰もが財布の中身を心配せずにワクワクしながら選べるメガネを

Warby Parkerは、2010年にニューヨークでスタートしたD2Cの先駆けとも言えるアイウェアブランドで、ファッショナブルなデザインながら手に取りやすい価格で若者に人気を博しています。なぜ、Warby Parkerは「安さ」にこだわるのか。それには、創業者のこんな学生時代の原体験が大きく関わっています。

“バックパッカーとして旅行中にメガネを失くしたが、おしゃれなメガネは価格があまりにも高くて買えなかった。とはいえ、量販店で売っているメガネはカッコ悪い。だから、旅行から帰ってきた後もしばらくの間メガネなしで大学の授業を受けていた。”

この体験をきっかけに「アメリカのメガネの値段の高さ」を解決すべく、「安価で」「ファッショナブル」なメガネを提供することをミッション(Why)に掲げ、ブランドはスタートしました。

彼らはWhyを実現するために「中間業者を一切省き、デザイン、製造〜販売まですべて自社で行うことで、価格をお手頃におさえる」「メガネ購入時の失敗をなくすため、Home Try-on(ホーム トライオン)という好きなアイテムを最大5つまで無料で5日間借し出し、『似合っている』ことを充分確かめた上で購入してもらう」といった戦略(How)を取り、大きな成功を納めています。

Warby Parker HP
https://www.warbyparker.com/

ALL YOURS:「あたりまえを、あたりまえにしないモノづくり」

ALL YOURSは、仕事でも日常でもリラックスして着ることができる「インターネット時代のワークウェアブランド」として、2015年に創業したアパレルブランド。創業者である木村氏は、アパレルビジネスが「業界が作ったトレンド(価値観)をみんなで模倣していく商売であること」に疑問を持ったと言います。例えば、洋服の耐久性が機能ではなく、トレンドによって決まっていること。ブランドがつくり、ユーザーは選ぶという関係性が固定化されていること。そうした業界の「あたりまえ」を変えるべくブランドを立ち上げました(Why)。

このミッションを実現するため、ALL YOURSは商品開発にユーザーを巻き込む施策を多く行っています。例えば、製品になる前のデザインや、製品会議の様子を社外に公開することもその一つです。日々暮らす上で、多くの人が洋服に感じる悩みや課題を直接ユーザーから取り入れ、ALL YOURSはそれを形にする。Whyを明確にすることで共感するユーザーが生まれ、それを戦略に落とし込むことで、ブランドとユーザーの新しい「協業」のかたちが形成されました。

ALL YOURSは「協業先」であるユーザーに自分たちの考え(Why)を積極的に広めるため、24ヶ月連続でクラウドファンディングの企画をする(How)など、デザイナー、ブランドを中心とするプロダクトアウトが当たり前だったアパレル業界に大きな変革を起こしています。

■ALL YOURS HP
https://allyours.jp/

Minimal:「チョコレートを新しくする」

Minimal(ミニマル)は、2014年にローンチされた“bean to bar”チョコレートブランド。bean to barとは、カカオの豆(bean)を仕入れ、最終的に板チョコ(bar)にするまで全ての工程を、自分たちで一貫して行うチョコレート製造のスタイルを指します。一般的なチョコレートの製造は、豆を仕入れて生地を量産する一次加工メーカーと、その生地を仕入れて製品にしていく二次加工メーカーの二段階に分断されていました。

創業者である山下氏は、二次加工の段階でミルクやバター、香料やデコレーションなどを加え、“足し算”の考え方で大量の商品を均質につくることで「カカオ豆の個性」が消えてしまうことに疑問を持ちました。本来豆が持つ多種多様で豊かなフレーヴァーを生かすため、通常のチョコレートとは真逆の“引き算”の考え方で、素材の味を大切にしたチョコレートをつくろうと考えました(Why)。

素材の味を活かしたチョコレートの味を大きく左右するのが、カカオ豆のクオリティ。そのカカオ豆の産地であるアフリカの生産者の多くはこれまで、消費者に届くチョコレートの味を知らないことが当たり前でした。生産者の方に自分たちのやりたいことを理解してもらうには、「カカオ豆の質による味の違い」を理解してもらう必要がありました。それからMinimalは、直接生産地まで赴き、生産者の方と「カカオ豆をチョコレートにして味わう」というワークショップを地道に続けることで、クオリティの維持・向上を徹底して行っているのです(How)。

また、そんな生産者の方の思いを、自社HPをはじめ各種SNSを使って継続的に発信をしたり、「Minimal Collective(ミニマルコレクティブ)」というメンバーシップ制度を設け、積極的にファンと相互交流できる場を形成することで、「美味しいだけではないチョコレートブランド」として多くのファンを生み出しています。

■Minimal HP
https://mini-mal.tokyo/

7.まとめ

今回は、DtoCを成功させる重要な要素である、商品ブランディングの考え方やポイントについて、ご紹介しました。みなさんもすでにご理解いただいていると思いますが、ECサイトを構築しただけでは、望み通り商品が売れるわけではありません。ECを主戦場にするからこそ、商品ブランディングは重要であり、ゴールデンサークル理論を上手く活用して「なぜ自分たちがやるのか」からあらためて考えるきっかけになれば幸いです。

【出典】
WHYから始めよ! インスパイア型リーダーはここが違う 2012/1/25 サイモン・シネック (著), 栗木 さつき (翻訳)

 

 

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