日本国外でもビジネスを展開したい。事業をいっそう活性化するため、多様な経験や価値観を持つ人材が欲しい。事業の拡大に伴い、グローバル人材や留学経験者の採用を考えている企業や、採用担当者の方も多いのではないでしょうか。
一方でグローバル採用は、経験がない企業からすれば、何から手をつけるべきか悩ましいものでもあります。どのようなターゲットを想定して採用活動を行えばいいのか。どのようなことを訴求すると振り向いてもらえるのか。グローバル人材にどのような期待をすればいいのか。重要なポイントを定められずに悩んでしまうこともあるのではないでしょうか。
当サイトを運営する私たちパラドックスも、ブランディング事業を国内のみではなく海外にも広げ、より多くのお客様に価値を届けるためグローバル採用を行っています。本記事では、私たちパラドックスの採用活動経験をもとに、グローバル人材採用や留学経験者採用を行う際に重要なポイントについて解説します。
1:バイリンガル向け説明会での私たちの体験談
事業の拡大に伴い、グローバル採用を開始した私たちパラドックスですが、企業としての規模や学生からの知名度もまだまだです。そんな私たちも、グローバル人材(日本出身で海外留学を経験した学生、海外から日本に留学している学生)との接点を持ちたいと以前から考えていました。
ぜひ一緒に働きたいと感じる人材と出会うためには、いくつかのポイントがあります。それに気づいたのは、株式会社ディスコが主催する留学経験者向けのキャリアフォーラムに出展したときのことでした。
先にも申し上げたように、私たちパラドックスは、名前だけを聞いて学生がすぐさまブースへ駆けつけてくれるほどの知名度はありません。正直なところ、出展前はどれだけの学生がブースや説明会に来てくれるか不安もありました。
しかし、フタを開けてみれば、キャリアフォーラム2日間で5回開催したブース説明会は毎回満席となり、立ち見でも参加してくれる方もいました。学生同士の口コミで駆けつけてくれる方、期間中に複数の社員と話すために何度も足を運んでくれる方もいたほどです。
出展に際して私たちも様々な試行錯誤を行いましたが、重要となるポイントは以下のふたつです。
グローバル採用において意識したいポイント
・「WHAT」だけを語らない
・「WHY」を軸にしたメッセージ制作
ひとつ目は、条件や仕事内容などの「WHAT(どのような仕事をするのか、働き手にどのようなメリットがあるかなど)」だけを語らないこと。もうひとつは、企業理念などの「WHY(なぜその事業をするのか、なぜそこで働くのか、など)」を軸にメッセージを伝えることです。
次の章から、それぞれについてより具体的に解説します。
2:WHATだけを語らない
ひとつめのポイントは「WHAT」だけで企業を説明しないことです。WHATとは、企業として伝える「何を」の部分です。たとえば、入社後は何の仕事をするのか、福利厚生などの条件や待遇は、といったことがWHATにあたります。
WHAT
事業内容や仕事内容、条件、待遇など。具体的な「何を」の部分。具体的で伝わりやすい一方、他社と比較されやすい。
最も説明しやすく、学生が最も知りたい部分かもしれないWHAT。しかしここだけを伝えていくのは、双方にとって大きな落とし穴があるのです。
最近では「ジョブ型雇用」が話題となったり、学生が働く環境をより重視する傾向があると言われたり、これらを訴求したほうが有効なのでは?と思う方もいるかもしれません。特に海外においてはジョブ型雇用が一般的で、その常識に則ってグローバル採用を行う企業も多いと感じます。もちろんWHATの訴求は有効ですが、「それだけ」ではいけないのがポイントです。
WHATだけをアピールした場合に起こり得ることを考えてみましょう。たとえば当社が、以下のように打ち出したとします。
・「パラドックスはブランディングを行っている会社です」
・「自社のクライアントとプロジェクトを推進できるプロジェクトリーダーを採用しています」
・「当社の待遇・福利厚生の特徴は〇〇と〇〇です」
同じ事業や職種であれば、他の企業にもあります。実際に、私たちが参加したバイリンガル向け説明会でも、ブランディング事業を展開する企業が数社は出展していました。
そうなったとき、他の企業がよりよい条件を提示すれば、学生や採用候補者はWHATの要素だけで他社を選んでしまうことも大いにあり得ます。
条件だけの競争になれば、より好条件を提示する他の企業へ流れてしまうリスクや、入社後も条件で他社と競い合うこととなり、自社にとっても大きな負担となる可能性が考えられます。
3:WHYを軸にしたメッセージ制作
私たちがWHAT以上に伝えるのが重要だと感じるのは、企業の「WHY」です。
WHYとは、「なぜ」の部分。企業が、なぜその事業を行っているのか。なぜグローバルで活躍できる人材を採用したいのか。その意味や必然性を訴求することが大切です。
WHY
企業理念の背景や事業への想い。働く人にとって、その企業で働く理由。繊細な言語化が必要な一方、他にはない唯一無二の要素となる。
WHYは自社の存在意義であり、理念とも通ずる部分ですから、他社と比較しづらいものになります。例えば、「顧客に最上のおもてなし体験を提供する会社」と「クリーンなエネルギーで、持続可能な社会をつくる会社」どちらが上か比べることはできないですよね。それに、自分たちにしか語れないストーリーを必然性をもって訴求するからことで、「WHAT」のみの語り口に比べ相手の心に刺さりやすくなるのです。
WHYの根幹は、一般的な国内採用でも、グローバルを対象とした採用でも、基本的には同じです。メッセージを制作する具体的なステップについては、次章でご紹介していきます。
その前に、ジョブ型雇用が主流である今、WHYは不要なのでは。日本では通用してもグローバル採用で機能するのか。そんな疑問を持つ方は、ぜひ次のコラムをご覧ください。
【コラム】WHYは世界において、注目度が上がっている。
2章と3章で扱った、WHATやWHYなどは、サイモン・シネック(Simon Sinek)氏による「ゴールデン・サークル」という理論モデルに登場する要素です。簡単に説明すると「WHY→HOW→WHAT」の順番で説明することが、最も人の心を動かすという理論のこと。難しい理屈や具体的な手法は最後にし、直感的な内容から伝えることで聴く人を引き込みやすくなるのです。
採用コミュニケーションにおいては、WHYからメッセージを伝えることで学生や採用候補者から比較されるのではなく、企業がもつ独自の立ち位置が伝わりやすくなるでしょう。加えて、WHY=企業の存在理由は世界的にも非常に注目されるポイントだということです。企業が社会的責任を果たすことや、社会課題の解決へどのように取り組んでいるかが、より問われるようになったことが背景としては大きいでしょう。
ダノンやP&Gなど、企業としてのWHYが明確な企業の発信も参考になるかもしれません。
ダノン:https://www.danone.co.jp/impact/opoh/
P&G:https://jp.pg.com/policies-and-practices/purpose-values-and-principles/
社会的責任や社会課題への注目度が高いことは、国連の定めるサステナビリティーゴール(SDGs)や米国のB Corpといった国際認証制度を企業が強く意識していることにも表れています。学生から「御社はSDGsについてどんな取り組みをしていますか?」といった質問が増えたと感じる採用担当者の方も多いのではないでしょうか。
B Corpは日本ではまだメジャーではないかもしれませんが、パタゴニアやダノン、THE BODY SHOP、イソップ、ベン&ジェリーズなど、日本で知名度が高い企業も取得している国際認証です。
▼ゴールデン・サークルについてより詳しく知りたいと思った方は、こちらの記事もぜひご覧ください。
ゴールデンサークル理論をブランディングに活用するポイントや具体例を解説!
4:グローバル採用のメッセージを制作するステップ
それではいよいよ、グローバル向けに発信するメッセージをつくるための、具体的なステップについてご紹介します。
ステップ1:自社の理念とグローバル戦略の把握
まずは企業理念(ミッション、ビジョン、バリューなど)に立ち返り、自社のWHYとは何か見つめ直してみましょう。自社の存在意義は何なのか。社会にどのような価値を提供しているのか。どんな未来を描いているのか。このとき重要なのは、受け手である学生にとってわかりやすい言葉でこれらを紐解いていくことです。
その企業理念を踏まえ、次に今後のグローバル戦略について具体的に言語化していきます。この作業は採用担当者だけで行うのではなく、事業の未来を具体的に話すことのできる経営層や事業責任者とともに取り組むのがおすすめです。
たとえば、下記のようなことはとくに明確にする必要があるでしょう。
・自分たちの企業は、誰にどのような価値を提供しているのか?
・その結果、どのような未来を描いていくのか?
・グローバルに事業を展開する意義とは何なのか?
例えば、わたしたちパラドックスのミッション(使命)である「志の実現に貢献する」は私たちが企業活動を行う独自の目的です。それは、ブランディングやクリエイティブといった手段を通して人や企業独自の存在意義や未来のありたい姿を明らかにし、伴走するパートナーとしてともに道筋を考えて実現していくことを意味しています。
当社のクライアントに海外で事業を展開している企業があることはもちろん、これからは日本企業に限らず、海外企業の力にもなっていきたい。そして「志」という考え方をより多くの人や企業に広めることで、世界中で1人でも多くの方が存在意義やはたらく意味を感じ、今よりもイキイキとした社会をつくることができると考えています。
以上のように、自社の理念をもとに、WHYからメッセージを作り上げることをまずは着手してみましょう。
ステップ2:グローバル人材への期待を明確にする
次に、理念の実現や向かうべき未来に向けて、なぜグローバル人材が必要なのか。グローバル人材へどのようなことを期待しているのかをできるだけ明確にします。
とくに明確化したいのは、下記のような点です。
・グローバル人材に対してどのような活躍を期待しているのか?
・グローバル人材には、どのような行動やスキル(DOING)・在り方(BEING)を求めているのか?
あらためて、自社を例に取ります。前述の通り、パラドックスはグローバルにおいて活躍するクライアントの力になっていくことを目指しています。その中でも現在は、海外でも活動している日本企業のブランディング支援をすることに力を入れています。そのため、グローバル人材に期待するのはその事業の推進者になること。そこで、当社のグローバル採用ターゲットを「世界に羽ばたく日本企業を支援できる人材」と定めました。
このようなターゲットを設定することで集まってくる人材は、単に留学経験を持っていて、ブランディングやマーケティングに興味のある人材ではありません。日本や日本企業が体現する強みや魅力に共感し、それを広めていきたいと思っている人材です。
以上のように期待を明確化できると、自社がターゲットにすべきグローバル人材に必要なマインドやスキルも自然と見えてきます。
<例:パラドックスのグローバル人材への期待>
日本の企業・団体の存在意義、強み、魅力に共感し、ブランディングやクリエイティブを通して、グローバルにおいて効果的にコミュニケーションしていくこと
<例:パラドックスのグローバル人材のターゲット像>
・日英(またはそのほかの言語)において語学能力がある
・複数の国や地域で暮らした経験がある
・「言葉」を越えて「意味」や「意義」の翻訳ができる
・相手を共感させるコミュニケーションができる
・新しいことに飛び込む力がある
・不確定要素がありながらも物事を前に進められる
このように「なぜ」「誰を」「何を期待して」採用したいのかということは、採用候補者を惹きつけ、入社後もモチベーションを高めていく上で欠かせない要素と言えます。
ステップ3:グローバル人材に提供できる価値を明確にする
次に、企業としてグローバル人材へ提供できるものは何か言語化してみましょう。ここでようやく、条件や待遇などWHATの部分についても考える必要がでてきます。
具体的には下記のようなことを考えます。
・どのような仕事・責任を担えるのか?
・どのような経験ができるのか?
・長期的にどのようなキャリアを描けるのか?
・どのような待遇や福利厚生があるのか?
入社後の仕事内容、経験、キャリアに関しては、なるべくステップ1とステップ2で明確にしてきた「自社の理念」「グローバル戦略」「グローバル人材への期待」などと接続し、必然性があるように伝えるのもメッセージングのポイントです。
ステップ4:魅力的なメッセージへと落とし込む
これまでの3ステップで言語化されたことが、企業としてのWHYを根幹にしたグローバル向けのメッセージとなります。
再び私たちを例にとります。前途の理念やグローバル戦略を見据えて、自社の立ち位置を「日本の志を世界に広めていくブランディングエージェンシー」とし、「世界に羽ばたく日本企業を支援できる人材」を採用するために以下のようなストーリーを考えました。
以上のようなメッセージを通して、採用ホームページなどの各種ツール、採用説明会、学生との1on1でのコミュニケーション、内定時・入社後研修などにおいて、WHYを一貫性を持って訴求していくことが重要です。
5:入社後も重要。WHYを軸にしたコミュニケーション
ここまでは、グローバル向けの採用活動を開始する際、あるいは見直す際に大切なことを紹介してきました。しかし注意していただきたいのは、WHYが重要なのは採用活動時だけではないということ。入社後も同じように、企業の理念やWHYの部分を軸にしながら社員・メンバーとコミュニケーションをしていくことを忘れないでください。
たとえば、採用時とはグローバルにおける事業計画が変わったり、市場環境が変わったりすることで、戦略が変わることは十分にあり得ます。その際一部のメンバーにとっては、入社時に期待した仕事内容や条件が叶わなくなってしまうこともあるでしょう。実際にパラドックスのクライアントでも、そういった事情からグローバル人材の退職者が出てしまったケースがありました。だからこそ、仕事内容や福利厚生(WHAT)ではなく、なぜこの仕事をするのか(WHY)で心をつかむことが大切なのです。
企業を取り巻く状況は、変化していくもの。だからこそ変わりゆく部分は、一つひとつ丁寧にメンバーとコミュニケーションをとる必要があります。どういった理由で期待してもらった部分に応えられないのか。その中でも応えられる部分や、企業とメンバーが共感し協力できる部分はどこなのか。企業とメンバーの真ん中に理念をおいて会話し、大切な要素を伝え続けることを忘れないでください。
理念を丁寧に伝えるため、私たちが実際にクライアントにも提供している具体的な手法をいくつか挙げました。ぜひご参考にしてみてください。
・グローバルの全社員に理念や行動規範を共有する、入社時研修を実施する
・理念や行動規範をグローバルの全スタッフが理解できるように複数言語に翻訳する
・行動規範を言葉として掲げるだけではなく、その裏にある意図や想いを添える
・求めるスタンス・行動が言葉や国境を越えて伝わるように、行動規範の模範となっている世界中の社員 やプロジェクトを紹介する
6:まとめ
最後に、本記事の重要なポイントをおさらいしましょう。
まずグローバル人材の採用にあたっは、通常採用と切り離して考えてはいけません。海外の潮流だからといって、WHATから入らず、共通となるWHYから伝えることが重要です。
WHYを伝えるにあたっては、企業理念やグローバル戦略を踏まえ、グローバル人材にフィットするメッセージの制作やコミュニケーション施策へ落とし込む作業を行いましょう。
そしてメッセージは採用時に伝えて終わりではなく、根幹の理念までしっかりと共有・浸透できるようにすること。入社後もコミュニケーションを取り続け、理念を共有することをぜひ大切にしてください。
▼グローバル採用に限らない採用ブランディングについてより詳しく知りたい方は、ぜひこちらの記事もご覧ください。
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