一人ひとりの個性が尊重され、多様な価値観や働き方が認められつつある時代。
部下を持つマネージャーとして、メンバーそれぞれに対してどう接すれば良いのか。成果を上げるにはどうすれば良いか。そんなお悩みを持つ方も少なくないのではないでしょうか。
マネジメントは、多種多様なバックグラウンドを持った人材を扱う分、非常に複雑で難しい仕事です。これだけやればOK!というコツも、正解もありません。
しかし「これだけは知っておいたほうが良い」いくつかの考え方はあります。今回はマネジメントの基本的な知識や“マネジメントの父”ドラッカーの考え方、マネジメントに必要な要素などをお伝えします。マネジメントについて、改めて見直すきっかけにしてみてください。
1:マネジメントとは
「management」を英和辞書で引くと、「管理」「経営」のことであると説明されています。また動詞である「manage」には、管理や経営以外に「統率する」「うまく扱う」という意味があります。そもそもマネジメントの辞書的な意味は、「組織やチームを管理して運営すること」といえます。
しかし当然、企業における組織のマネジメントは、「管理して運営する」ことだけを考えていてはうまくいきません。一人ひとりの人間から成る組織において、強みや弱みを把握したり、モチベーションを保ったりすることは、マネジメントに不可欠な要素です。
では、複雑な要素を持つマネジメントの役割を、一言でいうと何と言えるでしょうか。マネジメントの領域で最も著名なドラッカーは、マネジメントについて「個人の自立・自律を促進させ、組織に成果をあげさせる」と定義しています。部署やチームなどの組織において、成果をあげるために行うのがマネジメント。そう考えると、ただ数字や時間を管理するよりも、マネジメントはずっと範囲の広いものだということがわかります。
また、企業や企業内の各部署、その中でも各チーム……と組織を分ける際、当然それぞれの組織では「成果」の定義も異なります。つまり「組織に成果をあげさせる」ために、どのようなマネジメントを行うべきかは組織ごとに変わるもの。そのため「これをやればマネジメントは絶対に成功する」という簡単な答えは、マネジメントにはありません。
2:ドラッカーが考えるマネジメント
はじめにお伝えしておくと、この記事では、すべてをドラッカーの考えに基づいて説明しているわけではありません。
しかし「マネジメントの父」と呼ばれ、組織のマネジメントとは切っても切り離せないドラッカー。その考えを一切説明せずにマネジメントを語ることはできません。
ここでは、ドラッカーの著作からマネジメントについての考え方を抜粋し、ご紹介します。
組織が存在するのは、組織自体のためではない。自らの機能を果たすことによって、社会、コミュニティ、個人のニーズを満たすためである。
かつてマネージャーは、「人の仕事に責任を持つ者」として定義された。(中略)今日もっとも急速に増えているのが、「組織の成果に責任を持つ者」である。
複数の人間が協力して、意志を疎通させつつ多様な課題を同時に遂行する必要が出てきたとき、組織はマネジメントを必要とする。マネジメントを欠くとき、組織は管理不能となり、計画は実行に移されなくなる。最悪の場合、計画の各部分が、それぞれ勝手なときに、勝手な速度で、勝手な目的と目標のもとに遂行されるようになる。
あらゆるマネージャーに共通する仕事は五つである。①目標を設定する。②組織する。③動機づけとコミュニケーションを図る。④評価測定する。⑤人材を開発する。
以上を、簡単にまとめてご説明しましょう。
組織は組織自体のために存在するのではなく、機能、つまり目的や目標を遂行するために存在しています。その機能を果たすために、複数の人間が協力して課題を遂行する上で、組織はマネジメントを必要とするのです。
組織に成果をあげさせるのがマネジメントであり、その成果に責任を持つのがマネージャー。そして組織の目的や目標に関わらず、マネージャーに共通する仕事は以下の5つです。
①目標を設定する
短期・中期・長期でのチーム全体、あるいは個人の目標を適切に設定する
②組織する
適切な人員配置や、メンバー全体で成果をあげるための組織づくりを担う
③動機づけとコミュニケーションを図る
双方向でコミュニケーションをとり、メンバーのモチベーションを保つ
④評価測定する
個人とチームの成果に対して、適切な評価とフィードバックを与える
⑤人材を開発する
チームの成果をあげるための、人材開発を行う
ドラッカーが著書『マネジメント』を出版したのは、1974年。およそ50年も前にもかかわらず、その考えを整理してみると、現在の企業組織にも共通する重要な考え方であることがわかります。
組織のマネジメントに本気で取り組む際は、ぜひ一度『マネジメント』を読み、参考になるポイントを探してみることをおすすめします。
3:Googleが明らかにした「10の行動様式」
人材育成や組織づくりに注力し、さまざまな領域で話題を集めるGoogle。優れたマネージャーの条件とは何かを正確に突き止めるため実施された「Project Oxygen」の中で、「評価の高いマネージャーに共通する10の行動様式」を明らかにしています。
「評価の高いマネージャーに共通する10の行動様式」
①良いコーチである
②チームに任せ、細かく管理しない
③チームの仕事面の成果だけでなく健康を含めた充足に配慮しインクルーシブ(包括的)なチーム環境を作る
④生産性が高く結果を重視する
⑤効果的なコミュニケーションをするー人の話をよく聞き、情報を共有する
⑥キャリア開発をサポートし、パフォーマンスについて話し合う
⑦明確なビジョンや戦略を持ち、チームと共有する
⑧チームにアドバイスできる専門知識がある
⑨部門の枠を越えてコラボレーションを行う
⑩決断力がある
4:マネジメントに必要な要素
マネジメントを遂行するのは、もちろんマネージャー(管理職)。ビジネスパーソンとしてある程度の経験を積むと、ほぼ自動的にマネージャーに昇進する企業も多いですよね。
しかしただ社会人歴を積み上げただけで、いきなり部下を持ち、うまくマネジメントを行えるようにはなりません。
マネジメントを実施するには、起点となる考えと目的、そしてスキルが必要です。
4-1:マネジメントの起点=企業理念
マネジメント以前に、企業が運営を続けていく上では、社員が共通の目的に向かって目線を揃える必要があります。
共通の目的とは、企業理念のこと。そもそもの事業内容や採用活動、日々の行動やマネジメントの起点となるものです。
マネージャーごとに部下へ指導する内容が異なるために混乱を招いたり、マネージャーの指示に従うだけのチームになってしまったりするのは、マネジメントの方針がないことも一因です。
その組織やチームの存在意義は何か、つまり何を目的にし、どんな目標に向かって存在しているのか。企業理念を起点にして、マネジメントの方針を明らかにしましょう。
この方針は「マネジメントポリシー」として言語化することもおすすめです。詳しい作り方は、今後の記事でお伝えしますので、ぜひご覧ください。
もし、そもそも企業理念が存在しないのであれば、まずは企業理念を策定することが必要です。以下の記事を参考に、ぜひ検討してみてください。
▼企業理念について詳しくはこちら
企業理念とは?100年続く企業になるために必要な企業理念を徹底解説
▼ミッション・ビジョン・バリューの作り方についてはこちら
企業の根幹を担うミッション ビジョン バリューの意味合いと作り方
4-2:マネージャーの資質とスキル
マネージャーとしてメンバーをマネジメントするには、当然ある程度のスキルや心構えが必要です。マネージャーになった瞬間から、マネジメントができるわけではありませんよね。
そうは言っても、前述した「マネジメントの起点」が各企業で異なるように、全てのマネージャーが同じマネジメントをすればうまくいく、というわけでもありません。
ここでは、これさえあればうまくいく!というものではなく、最低限持つべきマネージャーとしての資質やスキルをいくつかご紹介します。
①真摯さ
ドラッカーはこう言います。
マネージャーにできなければならないことは、そのほとんどが教わらなくとも学ぶことができる。しかし、学ぶことのできない資質、後天的に獲得することのできない資質、始めから身につけていなければならない資質が、一つだけある。才能ではない。真摯さである。
人付き合いも大してせず、とっつきにくい上司が、しばしば誰よりも多くの優秀な人材を育てることがあります。
これはその上司が部下に一流の仕事を要求し、自らにも要求する。基準を高く定めて、それを守ることを期待する。何が正しいかだけを考えて、誰が正しいかを考えない。そして真摯さよりも、知的な能力を評価したりはしない。
このようなマネジメントを行い、好かれる上司よりも尊敬される上司であるからだとドラッカーは言います。これが真摯さだということです。
後天的に獲得することができない、という点に関して意見が分かれるかもしれませんが、マネージャーとして持つべき資質として、真摯さが重要なことは間違いありません。
またドラッカーに関連すると、前述したマネージャーに共通する5つの仕事を、遂行できる力が必要とは言えるでしょう。
②傾聴力
「傾聴」とは、もともとカウンセリングなどで用いられてきた、コミュニケーション技法のひとつ。近年ビジネスにおいても、度々その重要性が説かれています。
ただ「聞く」こととは異なり、耳を傾けて熱心に聴くことですが、これは熱意の問題ではありません。相手の話すことを否定したり、自らの価値観を挟んだりせず、相手の立場に立って、相手に共感しながら話を聴くことです。
せっかちなひとや、自らのやり方に自信を持っているひとは、相手の話の途中で「だからそれは」「それはおかしいんじゃない?」と挟んでしまいがち。そうすると相手は萎縮し、やる気を失くし、話すべきことも話したいことも言えなくなってしまいます。
部下に甘くしたり優しくする、ということではなく、相手の意見を客観的かつ冷静にしっかりと聴くことで、マネジメントに活かす手法なのです。
③ストーリーで伝える力
マネージャーに必要な「伝える」力とは、ただ事実を述べたり指示するだけではなく、相手を納得させること。つまり“ストーリー”で伝える力です。
例えば、電車の座席に土足で立つ子どもに「他の人に怒られるからやめなさい」と言っても、子どもは“怒られたくない”からやめるだけで、何が悪いかは理解できませんよね。「ここは皆が使うところだから、靴の汚れが次の人の服を汚してしまうといけないよ」と言ったほうが、何が悪いのか納得感を持って理解できるはずです。
「これを今週中にやっておいて」「この間の案件良かったよ」「次からはミスしないようにして」と、つい指示や事実だけを伝えてしまうことがあると思います。
でもここで、なぜその仕事をやらなければならないのか。今回の成功のなにが良かったのか。なぜそのミスは良くなかったのか。背景の事情や関係者の気持ちを加えて、“ストーリー”で伝えることで、コミュニケーションはずっとスムーズになり、上司への信頼感も高まります。
コラム:良いプレーヤーは良いマネージャーになるのか?
プレーヤーとして優秀な社員がいち早く昇進し、管理職になるのはよくあることですよね。肩書きや給与の面を考えると、確かにこれは当然のように思えます。しかし果たして、プレーヤーとして価値を発揮していた人材は、マネージャーとしても飛び抜けた価値を発揮できるものなのでしょうか。
経験のある方もいると思いますが、答えはそうとは限りません。プレーヤーとマネージャーに求められるものは、全く異なるからです。
1から10を学べる優秀な人材は、困難を乗り越えて成長した経験が少なく、部下に成長のプロセスを説明できないことがあります(よく例に上がるのが長嶋茂雄監督ですね)。また、とにかくがむしゃらに頑張ることで成果を上げ続けてきた人材は、部下にもそれを押し付けるマネージャーになることもあります。
プレーヤーとしての適性は高いけれど、マネージャーとしての適性はあまりない人材にマネジメントを任せると、本人も周囲も仕事がうまくいかないばかりか、会社にとっても損失です。
もし優秀な人材を評価する方法が管理職への登用しかないのであれば、そもそもの制度を変えることも検討してみてください。
5:まとめ
今回お話しした内容の多くは、具体的な手法よりも、マネジメントを行う上で最低限知っておくべきことがほとんどです。とはいえ、抽象的な考え方やはっきりした答えがないものなど、「じゃあどうすればいいの?」と思った方もいるかもしれません。
しかし、生まれも育ちも多様な「人材」を扱うのがマネジメント。絶対的な成功パターンがあれば良いのですが、そうはいかないのも仕方ありません。
マネジメントにはさまざまな考え方や意見があり、ときには「これだけやれば必ずうまくいく!」というような意見もあるかもしれません。
ただひとつ覚えておいていただきたいのは、「4-1.マネジメントの起点=企業理念」でお話しした部分。マネジメントは、言語化してもしなくても、企業理念に基づいた方針に沿っていることが重要です。
マネジメントを何のために、どのように行うかを常に意識し、ブレのないコミュニケーションを取ることが、部下からの信頼につながるでしょう。
P.F.ドラッカー 『[エッセンシャル版]マネジメント 基本と原則』 2001年 ダイヤモンド社
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