【メンター制度】メンターが意識すべきポイントや制度設計について解説

主に新入社員の相談役として、先輩社員が割り当てられる「メンター制度」。スムーズに職場に馴染むとともに、発生した悩みをいち早くキャッチアップするために、近年普及してきた制度です。

一方で「メンター」と検索すると、キーワード候補には「うざい」「いらない」「意味ない」といった検索結果が上がってきます。もしメンターがこのように思われてしまっている場合、制度として得たい効果とは真逆の効果を生んでしまっています。

このような事態に陥らないために重要なのが、適切な制度設計とマッチング。

この記事ではメンター制度と、“意味のある”実践方法についてお伝えします。

1:メンター制度とは

メンター(メンタリング)制度とは、主に新入社員の相談役として、先輩社員を配置する制度のこと。対話を通じて仕事やプライベートの相談ができ、仕事や生活のサポートを行います。指導やサポートをする社員をメンターされる社員をメンティーと呼び、メンターが行う指導をメンタリングと呼びます。

同じ業務や同じ部署に限らず、一般的には新入社員に対して年齢の近い先輩社員が選ばれることが多く、直属の上司や利害関係のある業務に就いている社員は除きます。

OJT(オンザジョブトレーニング)と混同されることもありますが、こちらは先輩や上司が部下や後輩に対して、業務の指導を実践しながら教えるやり方で、メンター制度とは目的が異なります。

メンターに求められる役割は、主に以下のようなものが挙げられます。

  • 人材育成のサポート
  • プライベートも含めた相談相手
  • メンティーのロールモデル

業務や上司に疑問を持った際、自分がその仕事に向いていないと思ってしまったときなどに、メンターに相談することでアドバイスをもらえる。地方への就職や転勤などで、プライベートも含めた生活の相談ができる。自分が目指したい将来像として、ロールモデルになる。などさまざまな役割があります。

1-1:メンターの歴史

メンターの由来は、古代ギリシャの詩人ホメロスの叙述詩「オデュッセイア」に登場する人物の名前、「Mentor(メントール)」。王の息子にとって、良き指導者、理解者、ロールモデルとしての役割を果たした人物です。

歴史上、メンター制度の名ではなくとも、スポーツや政治、経営の分野において、師弟関係や先輩後輩関係として、メンタリングのようなものは行われてきました。

メンター制度が注目されるようになったのは、1970年代のアメリカで、経営層が自主的にメンターを持っていることや、その効果が研究されるようになってから。それ以降研究が盛んとなり、企業へも導入されるようになりました。

日本国内では1990年代の後半から、主に外資系企業において導入されるようになり、徐々に注目され始めました。

国内で大きく注目を集めるようになったのは、2010年代の前半。厚生労働省が女性活躍推進を目的に、女性社員へ向けたメンター制度の導入推進を打ち出したことがきっかけです。

男性中心社会の中で、結婚や出産を理由に退職せざるを得ない女性を減らし、女性管理職となる人材を育成するためにも、ロールモデルとなる女性社員をメンターとすることを推進しました。

その後メンター制度は女性のみならず、新入社員の定着を主な目的とし、2019年には厚生労働省も助成金制度を開始(現在は休止)。メンター制度は、一般的なものとなってきました。

2:メンターが求められる背景

現代の日本において、新入社員の定着を目的としたメンター制度が広まってきたことには、いくつかの背景があると考えられます。

  • 個性を大事にする時代
  • キャリアの多様化
  • 人材不足における離職の抑制
  • 社内コミュニケーションの活性化

学校教育に始まり企業にいたるまで、現在は個性を尊重し大切にする時代。その上でキャリアが多様化し、一人ひとりが求める職場環境やキャリアプランも異なります。また人材不足もあり、できるだけ離職率を下げたいというのが企業の本音

新入社員の個性に合わせ、それぞれ異なる悩みへのフォローを丁寧に行い、キャリアプランの実現をサポートすることで、新入社員のエンゲージメントを上げて成長を促進する。なおかつ会社への不満をためないことで、離職をふせぐ。そのためには、一人ひとりにメンターをつけることが、ひとつの適した手段となっているのです。

またコロナ禍を経てリモートワークが増えた現在、メンター制度を実施することで、社員同士の雑談を含めた交流を促進することができ、コミュニケーションの活性化にもつながります。

メンターをつけることで、企業と社員にはそれぞれこのようなメリットもあります。

  • 企業:職場の心理的安全性が向上
  • メンター:メンター自身の成長につながる
  • メンティー:職場に馴染みやすい

直属の上司ではないメンターだからこそ、メンティーは業務上の不満や疑問を伝えることができます。不満や疑問をためないことで、結果的に風通しが良くなり、職場の心理的安全性の向上が期待できます

また後輩への適切なアドバイスに苦心することや、後輩の成長につなげるにはどうすれば良いかを真剣に考えることで、メンター自身の精神的・社会的な成長にもつながります。

メンティーははじめから色々と相談できる相手がいることで職場に馴染みやすく、メンター制度はオンボーディングとしても有効です。

3:メンター制度実施のポイント

では実際にメンター制度を実施するには、どうすれば良いのでしょうか。

ただ年次の近い先輩を新しく入ってきた後輩にあてがうだけ、という方法は非常に危険。当然ですが、同じ企業内とはいえ人と人。相性が大切です。

メンターとメンティーの相性が悪いと、互いの生産性も下がりますし、離職につながるリスクが双方にあります。また特にメンティーがメンターに不満を感じている場合、本来の相談相手に相談することができないため、誰にも言えないまま、大きなトラブルに発展する可能性があります。

そのような形だけの制度になってしまわないためには、しっかりとした制度の設計と、ンターとメンティーとのマッチングが重要です。

3-1:メンター制度の設計

メンター制度を導入することを決めたら、まずは運用の設計やメンタリングにおけるルールを設定をします。企業によって定める項目や内容はさまざまですが、主に以下のような項目について検討していきましょう。

【メンタリング制度について】

 

  • 研修の実施
    メンターになる社員には、あらかじめ研修を実施しましょう。メンター制度実施の目的や役割を説明するとともに、守秘義務の遵守をはじめとする、以下のような項目について理解してもらいます。またメンタリングで重要なのは「対話」です。3-3も参考に、おさえておくべきポイントを説明しましょう。

  • メンターへの報酬
    人材育成が評価項目にある企業では報酬がつくこともありますが、メンターになることでの報酬は発生しない企業が多いようです。新入社員時代は自分もやってもらったものだからと、年次が上がることで増えていく仕事の一環としてとらえてもらう必要があるでしょう。

  • 人事評価に反映しない
    ペアの相性についてや、メンター制度自体へのフィードバックと評価は必要ですが、メンター、メンティーそれぞれの人事評価(給与)に反映する形での評価はしないことをおすすめします。お互いに良く思われるような行動や言動をしあう関係性や、給与のためと割り切った関係をつくることは、本来の目的にそぐわないからです。
  • 問題発生時の窓口
    メンタリングの内容は基本的に外には出ないことから、ペアの関係性について、周囲からは良し悪しが見えにくいもの。不満やトラブルがあった場合に相談できる窓口や、定期的なモニタリングの設置を併せて検討してみてください。

【メンタリングのルール】

 

  • メンタリングの期間
    3ヶ月〜3年ほどと、企業によってばらつきがあります。自社のニーズや社風に合わせて決めていきましょう。

  • 面談の頻度と時間
    1回に30分〜1時間程度を、週1回〜月1回のペースで行うことが多いです。メンターとメンティーのペアに任せる場合もありますが、制度運用の初期では、意識づけのためにもある程度決めてしまうほうが良いかもしれません。

  • コンタクト方法
    面談は対面を原則とし、企業によってはオンラインも含みます。原則は勤務時間中に社内で行い、業務終了後に飲みながら、といった方法はトラブルにつながるため、基本的には避けましょう。

  • 話し合うテーマ
    基本的にはペアに任せて、自由に対話してもらうことが望ましいでしょう。ただしメンティーの個性によっては会話が進まない場合もありますので、その場合はメンター側がテーマや質問を用意しておきます。面談時に参照できるように、会社側からテーマをいくつか用意しておくのも良いでしょう。

  • 守秘義務の遵守
    メンタリングにおける会話の中には、プライバシーに関わるものが含まれることがあります。ただの悩み相談だと軽く判断せず、個人情報漏洩やプライバシー侵害には充分に気を付ける意識づけを徹底しましょう。

“コラム:メンターは誰のためにいる?”

メンターは離職防止などの目的で会社側が実施する制度のため、会社の利益に寄与するもの、と考えてしまう人事や経営層の方も多くいます。しかしメンターはその性質上、メンティーの利益に寄与するのが第一目的であり、企業の意思の伝道師やスパイのような役割を担うものではありません

メンターに「メンティーが離職を考えている場合は教えてほしい」「昇進(昇給)させるべきかどうか判断してほしい」のような報告を求めることは、ペアの信頼を壊す可能性があるため、避けたほうが良いでしょう。

給与や離職については、業務上の関係性があるOJTや上司の役割です。最も近い関係性のメンターに、会社にとって都合の良い役割を期待してはいけません。

3-2:メンターとメンティーとのマッチング方法

では実際にメンターとメンティーをマッチングする際は、何を基準にしてマッチングすべきなのでしょうか。

日本よりもメンター制度が根付いている欧米では、メンティーがメンターを指名したり、変更したりすることが可能なようですが、日本ではなかなか難しいですよね。

そこでマッチングの参考にできそうな、2つのポイントをご紹介します。

【ロールモデルとなる社員を選ぶ】

経験した部署や業務、担当している案件、あるいはライフイベントも考慮したキャリアプランなど、メンティーにとって理想とするロールモデルがあれば、それに最も近い社員を選定するのがひとつの方法です。

その場合は採用時や採用後の面談で目指す姿を聞き、できるだけ近いキャリアを歩んでいる人材を探しましょう。

【MBTIの相性から選ぶ】

MBTI(Myers–Briggs Type Indicator)とは、世界45ヶ国以上で活用されている、国際規格に基づいた性格検査です。詳細な質問項目により個人を16の性格タイプに振り分け、その特徴から強みや課題を知り、自己理解や企業のチームビルディングにつなげて活用されています。

16タイプの中で相性の良いペア、良くないペアも決まっているので、一人ひとりのメンター・メンティーの特性を人事側が把握しきれない場合は、この相性を参考にすると良いかもしれません。

MBTIについて調べると、無料で受けられると謳ったものが多くありますが、実際は訓練を受け資格試験に合格した認定ユーザーから、支援を受けながら行うものです。

メンター・メンティーのマッチングにとどまらず、さまざまな効果が認められていますので、これを機に全社員で実施してみるのも良いのではないでしょうか。

3-3:メンターが意識すべきポイント

ただ相性の良い社員同士をマッチングするだけでは、メンタリングは成り立ちません。度々お伝えしているように、メンタリングには「対話」が重要だからです。

「対話」とは、お互いの立場や意見の違いを理解し、認め合って成立する対等な関係性でのコミュニケーションのこと。メンタリングにおいては、対話を通じてメンターがメンティーへ解決のきっかけを与えることが重要です。

このためには、メンターがおさえておきたいポイントがいくつかあります。

  • 傾聴力
    目、耳、心を傾けて“聴く”ことを意味するのが傾聴。メンティーの話に対して否定や善悪の判断をせず、すぐに自分の意見を挟まずに話を聴くことです。メンターはメンティーの話に関心を寄せ、なぜそう思ったのかなどの質問をしながら、メンティーの仕草なども含めて伝えたいことを聴くようにしましょう。多少常識から外れた意見だったとしても、まずは話を全て聴くことが大切です。

  • 命令や説教をしない
    メンターはあくまで相談役であり、OJTのように業務を教える立場ではありません。たとえメンティー自身に過失があることへの愚痴だったとしても、説教をして分からせるのではなく、まずはメンティーに共感の姿勢を示しましょう。また「そうなりたいならこれをやれ」のような命令もせず、あくまで一緒に考えるスタンスでいることが、信頼関係構築の秘訣です。

  • 解決策は一緒に考える
    前項と重なるところもありますが、先輩だからといって、メンターが常にメンティーに解決策を提示すれば良いというわけではありません。正解の場所まで手を引いてあげるのではなく、自力で辿り着くためのサポートをするという認識で、メンタリングを実施すると良いでしょう。

“コラム:相談内容を分業化するのもアリ”

メンターはキャリアについても相談にのることが多いものですが、企業によってはキャリアのサポートがメンターには難しい場合もありますよね。その場合は、HRBP(Human Resource Business Partner)を設置するのも選択肢のひとつ。HRBPは、ひとことで言えば事業を成長させるための戦略人事のプロ。そのため経営目線をもちながら、一人ひとりの社員のキャリアについて相談に乗ることが可能です。

業務についてはOJT、キャリアについてはHRBP、全般的な相談はメンターなど、分業することでメンターの負担も減りますし、メンティーはそれぞれで的確なアドバイスをもらえるメリットがあります。

4:定期的な効果測定を実施しよう

メンター制度を設計し運用を始めたら、定期的な効果測定を実施することがおすすめです。

メンターとメンティーそれぞれに、メンタリングの必要性をどれくらい実感しているかや、実践してみての感想、マッチングへの納得感など、アンケートや対面で話を聞きます。

あくまでもメンター制度へのフィードバックとし、それぞれがメンター・メンティーとなることに対してモチベーションを下げない、個人の人格を評価しない内容にするよう気をつけましょう。

制度自体の信頼が揺らぐため、くれぐれもこの評価を人事評価(給与)に反映してはいけません。

また人事などの運営部門による観測のほかに、OJTや直属の上司などとも定期的な1on1が実施される状況をつくり、メンター任せにしすぎない、メンター以外にも相談できる環境を整えることも重要です。

さまざまな方法でメンターとメンティーの関係性を定期的にモニタリングし、相性が良くない場合はペアの変更も検討してみてくださいね。

さらにメンティーだけではなく、メンターへのケアも大切です。受け持ったメンティーによっては、最悪の場合メンター側が離職につながるケースも。ただでさえメンターは負担が大きいので、日頃から周囲の協力体制を整えておくことを意識することが必要です。

メンター制度は給与につながらない、ある程度善意に任せたものになってしまうため、お互いにとって有益なものにならないと、メンティーがメンターになるときのモチベーションも下がってしまいます。

制度をしっかりと設計し、マッチングも丁寧に行い、フィードバックを活かして改善する。これらの繰り返しで、自社にフィットしたメンター制度をつくりあげていってくださいね。

 

 

 

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PARADOX創研 メディア編集部
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