組織が大きくなるにつれ、そこには様々なギャップが生じるようになります。
理想と現実、経営とメンバー、管理と現場、部門間、世代間……。縦横のつながりが希薄になり、認識のズレが生じることは、企業が成長する中で誰もが経験する成長痛ともいえるでしょう。
このようなギャップは、なぜ起こってしまうのか。また、どう解決すれば良いのか。
インナーブランディング領域に携わってきた私たちのこれまでの知見から、企業内で起こるギャップの原因とその解消法について、全3回のコラムをお届けします。
第3回目のギャップは「責任者の在任期間が短いことで生じる、長期施策・方針の断絶」です。
多くの大手企業では、社員に様々な経験を積ませることにより、オールラウンダー的な人材を育てる傾向があります。部長クラスになるにつれ、在任期間は比較的長くなりますが、現場での施策やプロジェクトの責任者クラスのマネージャーは、1〜2年で異動となるケースがほとんどです。
この短い在任期間のメリットは、外的要因に合わせて組織を変化することができ、柔軟な方向修正が可能になること。しかし一方で、目先の課題解決ばかりに着手し、結果を出すのに時間がかかる長期的な施策の優先順位が下がる傾向にあります。
人材の採用・育成や企業の文化づくりといった、企業の根幹でありながら一朝一夕ではできない経営課題であればなおさら。経営陣は一刻も早く手をつけねば!と思っていても、現場では始めることも、続けることも難しいのが実情と言えるでしょう。
今回は、責任者が変わっても、組織として必要な施策を継続するためにどのようなことができるかを、私たちの経験を踏まえてご紹介していきます。
1:人が代わると、すべての施策が変わってしまう
責任者の交代は、組織内において効果が出ていない施策や、無駄な慣習を見直す良い機会ともいえます。状況を正しく理解し、調整・改善を行うことで、既存施策に対してより大きな成果を出すことが可能です。
また特定の人物がそのポジションに長期で留まると、マネジメントラインが限定され、メンバーの成長に影響が出てしまったり、外部との癒着が生まれてしまったりすることも。それを防ぐという意味でも、一定の在任期間を定めることは必要なことです。
一方で減点主義傾向が強い組織では特に、責任者は自分の在任期間はできる限りミスをなくすために、リスクのある施策は打ち出さず、前任者の既定路線を引き継ぐだけの現状維持にこだわるケースもあります。
あるいは逆に、前任者の施策を否定し、自らが発案した施策の成果を出そうとするケースも。その場合、将来的には大きな効果が期待できる施策や、実施途中の良い施策まで、大幅な方向転換を余儀なくされたり、打ち切られたりすることもあるのです。
どちらも両極なケースですが、せっかく良い取り組みをしていても、責任者が変わることで取り組みが断絶してしまうケースは多いのが事実です。
そもそも長期的な計画に基づいて進めるプロジェクトや、理念浸透などの続けること自体に意味がある施策のような、地道な継続が求められる施策は、ほとんどの場合効果測定が難しいのが、その理由です。
2:人が代わっても、変わらないビジョンを持つ
ではどうすれば、責任者が代わっても、継続すべきことが続けられる組織になれるのでしょうか。
そこには大きく2つのアプローチがあります。
2-1:組織でビジョンを共有する
まず最初にすべきは、経営トップから現場までの縦の階層や、横の組織・機能の枠を超えて、目指すビジョンを共有することです。
また組織としての大きなビジョンに加え、そのビジョン実現のためにどうするか、各部署や各事業ごとのコミットメントにブレイクダウンしていくことが理想です。
さらに、現状と理想のギャップ、ビジョン実現のために不足していることまで言語化して共有できれいれば、もう言うことはありません。
“人を追いかける経営から、ビジョンを追いかける経営へ”
経営トップが代わる毎に大きな方針転換があり、全社が右往左往するケースをよく目にします。一方で、トップが代わっても何も変わらない組織より、四苦八苦しながらも変化し続ける企業の方が、最終的には価値を生み続ける組織とも考えられます。
よく現場レベルの社員の方から、「経営トップはいつも思いつきで物事を始めるので、現場は疲弊しています」というお話を聞きます。一見ただの思いつきに見えるような方針でも、その背景に大きな経営のベクトルや価値感がしっかりとあるはずなのですが、それが現場メンバーに見えていなかったり、伝わっていなかったりすることが原因です。
この場合大切なことは、理念に紐づいたビジョンと各施策の関係性について、経営と現場がコミュニケーションを取れているかどうかです。言い換えると、経営者個人を追う経営から、みんなでビジョンを追う経営になれているか、ということ。
経営者の個人格ではなく、法人格としてのあるべき姿や価値観をベースに、普段から企業運営を行えていれば、経営トップが代わり、方針が変わったとしても、組織や現場も納得感のあるスムーズな方向修正や改善ができるはずです。
2-2:ビジョン実現の長期的プロセスをつくる
次にすべきは、その施策について、掲げたビジョンの実現に向けてどれくらいの期間で実施されるべきもので、どれくらいの効果を想定しているのか。どれくらいの効果が出れば成功といえるのかについて、長期的な方針(KPI)を定めていくことです。
そもそも1〜3年で実現できないものや、やり続けることに意味があるテーマに関しては、既存の長期計画をベースに、前任者と後任者が引き継ぎのタイミングで、現在地や課題、修正の方向性まで綿密なコミュニケーションが取れていることが理想です。
この種の取り組みは、自分だけのプロジェクトではなく、もちろん自分だけがあげた成果でもありません。前任者、後任者が一緒になって成し遂げるプロジェクトであるという認識を、お互いが持つことができる信頼関係が前提になります。
2-3:プロセスの進捗に全員で責任を持つ
意外と組織で多いのが、異動をした途端に「そのプロジェクトは自分とは関係がないので、責任もない」というスタンスの方。ここだけ急に、欧米のジョブディスクリプション的な考え方をする方もよく見かけます。
もちろん異動先には新しいミッションがあり、その解決が最重要課題ですが、人的資源や文化づくりは、全社的に取り組まなければ解決できないテーマ。プロセスや役割が変わっただけで、目指すべきゴールは一緒です。そこに本来、利害関係はありません。
部署を越え、役割を越えて、相互に成功をサポートし続けるという意識を持たなければいけません。
3:まとめ
在任期間中はひたすらリスクを避けて、目立ったことを何もしない。または、現状を批判し、差別化ポイントをつくって自らの優位性を示す。責任者が変わるタイミングには、普段と異なった力関係が働きます。これは組織の中だけに限ったことではなく、社会、例えば政治の舞台でもよくあることといえるかもしれません。
しかしこのようなやり方では、成果が積み上がらず、組織としての経験も、実績も文化も生まれません。最終的に企業全体にとっての損失となってしまうことでしょう。
責任者が誰かに左右されず、効果のある施策は継続し、そうでないものは終了する。部署の在り方や施策の是非について、上司部下関係なく建設的な意見を言い合い、チームとして良い循環を生める組織でありたいものです。
本来組織運営は、責任者の属人的な能力に頼るのではなく、企業理念に基づいてなされるべきもの。
メンバーが管理職に従う構図ではなく、5年後、10年後にどのような組織・企業になっているのかを見据えて定めた方針に、管理職も含めた全員が目線を揃えられる体制づくりが大切です。
それらが整った上で、責任者になった人材それぞれの個性とクリエイティビティによって、さらに良い文化や施策を取り入れていくのが理想的です。
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