上司と部下とのギャップを埋める「共通言語」とは?

組織が大きくなるにつれ、そこには様々なギャップが生じるようになります。理想と現実、経営とメンバー、管理部門と現場、部門間、世代間……。縦横のつながりが希薄になり、認識のズレが生じることは、企業が成長する上で誰しもが経験する成長痛ともいえるでしょう。

このようなギャップは、なぜ起こってしまうのか。また、どう解決すれば良いのか。

インナーブランディング領域に携わってきた私たちだからこそ明確に見える、企業内で起こり得るギャップの原因とその解消法について、全3回のコラムをお届けします。

第2回目のギャップは「上司と部下」。

上司「最近の若者は、歩み寄って話を聞いても本音を話してくれない」
部下「相談しても、結局持論を展開されてしまい、本当に話を聴いてくれてはいない」

どれだけ時代が移り変わっても、上司と部下の関係で生まれる悩みのひとつです。

昨今の退職の理由のほとんどは、職場での人間関係の悪さから来るといわれています。こうしたすれ違いが積み重なった結果、上司部下の雰囲気は悪くなり、ゆくゆくは離職につながっていくのです。

全く価値観が合わない人材を無理に組織に留めておくことは、当然双方にとって不利益です。一方で人と人のコミュニケーションによる誤解やすれ違いによる離職は、組織として必ず解決しなくてはいけない課題です。

では、上司と部下との間に生まれてしまうギャップを解決するためには、どうすれば良いのでしょうか。

1:数字を追う上司、意義を追う部下

若手を育成する上司(部課長クラスと想定します)は組織の中で「部署やチーム内における数値目標を達成する」というミッションを担っています。

多くの部課長にとって、会社から割り振られた数値目標を達成することは最も重要な責務のひとつ。それ自体の達成を自身の第一のモチベーションに掲げている方も多いはずです。

その数字はもちろん一人でつくることはできず、一緒に働いてくれるメンバーの存在が必要不可欠。しかしかつての自分たちのように、数値目標とその達成による報酬だけで、モチベートすることができなくなっているという現実に、部課長の方々は直面しているのです。

近年よくいわれるように、若い世代が仕事に求めているのは、数字を達成するためだけの作業ではなく、やりがいや働く意義、自己実現です。

その仕事が会社や社会にどんな意義をもたらすか。また自分のやりたいことや大切にしている価値観とどうつながるのか。それらが満たされることに、モチベーションを感じるのです。

この「働く意義」へのギャップが生まれてしまうのは、それぞれの世代が育った環境に関連しています。

かつては公務員や大企業への就職が安定を意味し、高い給与を得たければ商社、より安定を求めるなら公務員、のような基準で就職先が選ばれ、おおよそ学歴の優秀な順に望む場所へ就職ができました。

その後は上司のいう通り仕事をこなし、飲み会や付き合いの席に積極的に参加し、目の前のことにがむしゃらに取り組んでいるうちに、地位と給与が順調に上がってきたのが現在大企業で部課長を務める世代です。

一方で現在の若い世代は、生まれてからこれまでずっと、不確実な時代を生きています。

就職活動時点では「大企業も公務員も安定しているとは限らない」といわれ、退職金などの制度も続く確証がなく、学歴が全てではないという価値観も強まっています。

どうせどこへ行っても不安定ならば「自分のやりたいことを実現できる企業に就職したい」という観点から企業を選ぶようになっています。ある意味、企業や組織に依存しない生き方をしようとしているともいえます。

そのような中で、個と組織が人生を通じて本当の意味での共感を得て働くために、改めてどちらも正直な理念やビジョンで会話をすることが大事になってきています。

2:企業選びの「価値観」の変化

企業理念の重要性が注目され始めたのは、2010年代頃。それまでも企業理念や社是・社訓を掲げる企業はありましたが、近年では理念と実態が一致しているかが、企業の評価基準として定着してきました。

それにより多くの企業が企業理念を見直すとともに、企業体質や働き方を理念と一致させるよう動き始め、既存の社員に対しても理念浸透を実施するようになりました。

現在40、50代の部課長世代の多くは、企業理念に共感して入社したわけではなく、入社時に人事から聞いたこともなかったという人がほとんどでしょう。

そのため理念浸透を研修などで経験しても、課されている目標に対する結果を出すことが全てで、自らの価値観と企業の価値観とのマッチングをそこまで重要視していません。あるいは、必要としていないともいえます。

しかし時代は変わり、採用や定着が難しくなる中で若い世代に活躍してもらうためには、企業として明確なビジョンを掲げ、一人ひとりのやりがいを会社の力に接続し、エンゲージメントを高める企業運営を目指す必要が出てきました。

そのために理念浸透やインナーブランディングを推進することになるのですが、そこで意外と、これまで会社を支えてきたエンジンともいえる部課長世代が、あまりピンときていない実態が露呈するのです。

これまで企業理念がなくとも、目標に対してしっかり成果を出してきた部課長世代にとって、理念への共感の重要性やその価値がわかりにくいことも、これまでの会社のあり方からすると当たり前ともいえます。

組織内の上司・部下のギャップの原因はおおよそ、下記の2パターンに分けられるように思います。

パターン①:理念と実際の仕事とを紐づけたコミュニケーションやマネジメントができていない

企業理念に共感して入社したわけではなくとも、働き続けるうちに自然と企業の価値観が浸透し、充分に理念を理解し共感している部課長世代の方々は多くいます。しかし実際に日々のコミュニケーションにおいて、仕事の意味や意義からメンバーに説明できているケースは多くありません。

最前線で活躍している部課長の方ほど、企業存続のための数値目標の達成にコミットしているため、企業理念をベースとした部下とのコミュニケーションができていないことがあるのです。

そもそも、設定された数値目標を達成する理由は、企業として果たすべき使命と目指すべき未来(=企業理念)を実現するためのはずです。しかし日々の仕事の忙しさの中で、メンバーの活動に対する効率化を求めるあまり、コミュニケーションの優先順位が入れ替わり、目的と手段が逆になってしまうことは多々あります。

上司が結果を出すために良かれと思ってしているアドバイスやコミュニケーションでさえ、メンバーから見ると自らの価値観や働く意義がないがしろにされていると感じてしまうことになります。

パターン②:そもそも、上司が企業理念に心からは共感していない(重要視していない)

部課長世代の中には、これまでの自身の社会人経験から、そもそも企業理念への共感や実践を心から大切だと本質的に理解することが難しい方も、一定数存在しています。

しかし会社の方針ではあるので、当たり障りのない範囲で、理念浸透活動はなんとなくやっている。実はこのようなスタンスの方とは、実際の理念浸透プロジェクトにおいてもかなりの高確率で出会います。

実際には理念に共感していないことは、間違いなく部下の方にも伝わってしまうので、あえて伝道師となる部課長をペアにすることで、メンバーへの浸透のクオリティを担保するなど工夫をすることもあります。

また、他の部課長がメンバーと意義ややりがいによるコミュニケーションをし始め、その効果が見え出すと、それまで乗り気ではなかった方々も、徐々に理念のご利益を感じて動き始めることもよくあります。効果の体感速度を早めるためにも、部課長間での理念浸透の成功体験をシェアすることは非常に効果的です。

3:解決策は「企業理念」という“共通言語”

これまで数多くの企業でインナーブランディングをお手伝いしてきた私たちの経験上、企業内の理念浸透の鍵を握るのは、実はこの部課長世代といっても過言ではありません。

経営層が大切にする価値観を若手メンバーにしっかりと届けるには、間にいる部課長が理念に共感し、理念を体現することが重要。それを見て若手は理念への理解と共感を深めるとともに、上司や会社全体への信頼を増すのです。

上司と部下とが企業理念という共通言語と、共通の価値観を持ち、お互いの仕事のやりがいや人生の目的を知ることができれば、両者の関係性はグッと縮まります。

最近よく聞く企業内の話題の中で、会社や研修講師から「上司は若者に昔話をしてはいけない」といわれる、というものがあります。これも実は「昔話」の定義が定まっていないため、企業に残る大事な価値観や文化の断絶に繋がってしまうケースのひとつ。

若い世代は、上司の自慢話を聞きたくないだけで、会社の先人が培ってきた価値観や判断基準については、むしろ知りたがっています。

会社が上司と部下の会話の実態を理解せずに、コンプライアンスという名目の元に一様のルールを設定してしまったため、上司と部下のギャップを助長させてしまっている要因にもなっているように思います。

若い世代は上司の経験を軽視しているわけではありません。

嫌だと感じるのは「とにかく前例通りにやれ」「自分はこれで出世した」という合理性のない押し付けや、上から目線の自慢話

なぜそうする必要があるのかを、企業理念という共通テーマを介して、経験と共にその意義から紐解くことは、むしろ若い世代の求めている情報でもあるのです。

世代間で存在する差を、スムーズにつなげる共通テーマとして企業理念を捉えてみると、新たなコミュニケーションが生まれるかもしれません。

 

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