「採用媒体のエントリー数が減っている。」
「ターゲットに設定しているような学生となかなか出会えない。」
「内定辞退率が下がらない。」
「採用媒体に頼らない採用はできないだろうか。」
売り手市場がますます加速している今、多くの企業が採用の課題に直面しており、私たち株式会社パラドックスにも、上記のようなお問い合わせを数多くいただきます。
採用市場は激動で毎年のように変化の波が訪れます。たしかに、その波に乗り遅れないことも大切です。しかし、一方で流行にとらわれず、数年来変わることのない「軸」、すなわち不動のメッセージを確立できれば、どれほど採用が楽になるでしょうか。
さらに、エントリーしてくれる求職者が、その企業の進化を加速させる人材であれば、どれほど素晴らしいでしょうか。
今お持ちの課題を解決しつつ、これからの採用活動を本質的に、そして劇的に改善させる方法が「採用ブランディング」です。
採用ブランディングをしっかり実践すれば、予算や人的リソースが少ない企業も、自社ならではの魅力がどこにあるのか悩んでいる企業も、その企業らしい採用メッセージを打ち出した活動をすることができます。そこには、会社の規模感も関係ありません。
実際に、パラドックスがお手伝いさせていただいた企業様にも「有名企業からも内定をもらっていた学生が、知名度や規模は関係なく、うちの会社に入りたいと言ってくれた」といった声をいただいた事例や、「採用ブランディングを行った年以降に入社した社員の離職率が一気に下がった」といった「採用後」にも結果が現れた事例も多く存在します。
筆者もパラドックスのディレクターとして様々な企業様の採用に携わる中で、採用ブランディングの重要性とその効果を実感しました。
この記事では、そもそも採用ブランディングとはどのようなものか、そして、どのように実践していけば良いのかをお伝えしていきます。
この記事を最後まで読んでいただければ、どんな企業でも取り入れることのできる採用ブランディングの本質や手法が理解できるはずです。
少しでも、採用に悩む経営者や人事の皆様のお役に立てつことできれば嬉しいです。
1:【理解編】すべての企業がすべき「採用ブランディング」とは?
採用ブランディングをやるべきなのはある特定の企業に限ったことではありません。どの企業およびサービスにもブランディングが必要であるのと同じように、採用にもブランディングが必要なのです。
たとえ、ビジネスの内容自体は同業他社と大きく変わらなくとも、その会社がなぜそのビジネスをやっているかという目的や実現したい未来のストーリーには必ず独自性があるはずです。
その企業にしか語れないことを採用にも落とし込み、求職者とコミュニケーションをすることは、どの企業も実践する価値があります。
1-1:採用ブランディングとは、「その企業の理念や独自性を軸とした、その企業ならではの採用活動」
私たちパラドックスは、採用ブランディングをこのように定義しています。
採用ブランディング = その企業の理念や独自性を軸(採用コンセプト)とした、その企業ならではの採用活動
- 採用コンセプトとは
- 採用コンセプトとは、すべての採用コミュニケーションの軸となるメッセージ。その企業にしか語れない理念をベースに、「何を提供しているのか」ではなく「何のために事業を行っているのか」という企業の社会的意義を求職者が理解しやすいにメッセージングします。もともと、求職者の共感を呼ぶ理念を持っている企業は、理念と採用コンセプトを同じにするという場合もあります。
そもそも採用活動とは、
「“経営”と“組織”をつなぎ、企業のビジョンを実現するための同志集め」です。
単に優秀な人材を集めるのではなく、企業が解決したい社会課題、
実現したい未来に向かって一緒に歩んでもらう人材を集めるのが、
採用活動の一番の目的であるはずです。
採用活動のゴールをただ「優秀な人材を採ること」
と考えている方は、まずはその考えを取っ払いましょう。
そして、経営と組織のつながりを考え、
会社をどのようにしたいかという強い意志を持つことを大切にしてみてください。
同志を集めるために重要なのが、
ターゲット(求職者)に「企業の理念やビジョン、志に共感してもらう」ことです。
そのためには、採用ブランディングを行うにあたって
最も重要な「採用コンセプト」が必要不可欠です。
「なぜ、その企業は存在しているのか」「どのような未来を実現したいのか」といった、
その企業にしか語れない存在意義や独自性、ビジョンを「採用コンセプト」として策定し、
それを軸に一貫した採用コミュニケーションを継続的に行うことが重要です。
その継続した積み重ねが、その企業の採用におけるブランドを創り出し、
結果その企業の同志が集まってきます。これが、採用ブランディングの本質です。
言い換えると、その企業独自の「採用ブランド」をつくっていくこととも言えます。
「採用ブランド」とは、企業ブランドや事業ブランド、商品ブランドと同じように、
その企業の特徴やらしさを形成する重要なものです。
企業ブランド・事業ブランド・商品ブランドについては、以下の記事をご参照ください。
→「ブランドとは『自分にしかできない世の中への役立ち方の約束』。」
異なる企業が、同じ考えのもと同じやり方で同じ商品を売っているということはありませんし、
まったく同じブランドは世の中には2つと存在しません。
私たちパラドックスは、「ブランド」を「自分にしかできない世の中への役立ち方の約束」
と定義していますが、採用ブランドについても同じことが言うことができ、
他の企業と全く同じやり方で採用活動をしていては、本当に必要な人材は採れないのです。
1-2:採用ブランディングがもたらす4つのメリット
採用ブランディング = その企業の理念や独自性を軸(採用コンセプト)とした、その企業ならではの採用活動
これを踏まえた上で、採用ブランディングを行うことで、主に以下4つのメリットを得ることができます。
①その企業にふさわしい人材を獲得できる。
②中長期的な採用コストを削減できる。
③競合との獲得競争に巻き込まれにくくなる。
④社内の活性化、社員のモチベーションアップにつながる。
①その企業にふさわしい人材を獲得できる
企業に「ふさわしい」人材とは、先にも述べた通り、「企業の志の実現をともに目指せる」人材です。
会社の規模感やお給料、福利厚生といったどの企業とも共通で比べることができるモノサシだけで入社した社員は、大きな壁を感じたときに辞めてしまったり、やがてもっと待遇のいい企業が出てきた際には、そちらにいってしまったりする可能性も多くありますよね。
しかし、会社のミッションやビジョンそれに紐づいた事業内容に共感した上で、入社を決めた社員はどうでしょうか。きっと、困難があろうとも、ビジョンの実現に向けて奮闘するでしょうし、多少の待遇の違いだけで転職してしまうというケースも少なくなります。
また、こういった社員は自社の目的にとても共感しているので、あらゆる場所で自社の存在意義やビジョンを語ってくれます。
同志が同志を呼ぶ形で、また企業のビジョンの実現を加速させてくれる人が集まりやすい土壌ができてきます。
②競合との獲得競争に巻き込まれず、新しいマーケットの開拓
あらゆる商品やサービスがコモディティ化している時代において、価格競争から逃れるためには、そのブランドのストーリーが重要だと言われています。
たとえば、スマートフォン。見た目も機能も大きな違いはないので、価格競争が激化していると言えますが、価格が高くてもiPhoneを使用している人は多くいます。
そこには、製品自体の魅力以上に、Appleやスティーブ・ジョブスの考え方や企業理念といった、Appleのこれまでのストーリーへの共感やそこから生まれるApple製品への信頼があるのではないでしょうか。
採用もこの構図と一緒です。ストーリーのない事業内容のアピール勝負では、近しい業界の中でコモディティ化してしまい、お給料や福利厚生といったこれまた少しの違いでのターゲットの獲得競争になってしまいます。
そこで、採用ブランディングでは採用にもミッションやビジョンといったストーリー、つまりその企業の存在意義の深さや目的の大きさを付加していくことによって、採用の獲得競争から離脱することを狙っていきます。
たとえば、ウエディング企業の株式会社Plan・Do・Seeは、以前採用のメッセージとして「質の高いウエディングを提供する」ということを掲げていました。
しかし、質の高いウエディングだけでは、他のウエディング企業と言っている内容が同じになってきてしまいます。
そこで、Plan・Do・Seeが事業を通して実現したいことである「日本のおもてなしを世界中の人々へ。」に採用メッセージを変更しました。
結果、これまで通りのブライダル業界志望者の多くが共感してくれただけでなく、「日本文化を世界に広めたい」という志を持って商社や航空会社などを受けているグローバル志望の学生からの応募も生まれました。
その企業の根にあるストーリーで採用ブランディングを行うことは、獲得競争からただ逃れるだけでなく、その企業にとっての真の同志と出会う新しいマーケットを開拓することにも繋がるのです。
③中長期的な採用コストを削減できる
本質的な採用ブランディングを行うには、採用コンセプトを考えたり、採用サイトやパンフをリニューアルしたり、新しいツールをつくったりと、ある程度のコスト(お金、労力、時間)を要しますが、これは一時的なものです。
一度ベースを築いてしまえば、複数年度の採用活動に活かせるため、投資額以上の恩恵を確実に受けることができます。
毎年ツールをつくり変える企業も少なくありませんが、採用ブランディングを実施して制作したツールは1年でリニューアルということはまずありません。
業界の潮流や会社の方針によほど大きな変化がない限り、例えば採用サイトなら、3〜5年は同じコンセプトのまま、コンテンツを追加したり、登場する社員を入れ替えたりする程度に抑えることができます。
また、採用ブランディングが成功すれば、求人広告や人材紹介に頼らず、自社ツール、自社のリソースだけで採用活動をすることも可能になります。
④社内の活性化、社員のモチベーションアップにつながる
採用ブランディングによって社外から「魅力的な企業」と認識されることは、すでにその企業で働いている社員にとっても非常に嬉しいことです。
また、採用ブランディングの過程では、社員へのヒアリングやインタビューも行うので、人事だけじゃない多くの社員が採用にコミットすることになります。
そうして出来上がったメッセージやツールを見て、「帰属意識が芽生えた」「モチベーションが上がった」などの効果が見られた事例も多くあります。メッセージに共感し入社を決意した人はもちろん、既存社員の辞職率低下にもつながるのです。
2:【理解編】採用ブランディングのカギは、「伝えるべき情報」と「情報の伝え方」
現代はとにかく情報があふれています。特にSNSの台頭により、情報の受け手側だった生活者が発信者になり情報量が大幅に増加。
2020年には、35ZB(ZB:ゼタバイト。1ゼタバイト=世界中の浜辺の砂の数)もの情報が流通していると言われています。
もはや、情報は届けたい相手にはそう簡単には届かないのです。しかし、これは全ての企業にとって共通の問題にも関わらず、その中で企業規模・知名度に関係なく、採用活動を成功させている企業はあります。
そこで、採用ブランディングを行う上で、まず知っておいていただきたいのが「伝えるべき情報」と「情報の伝え方」です。
企業のどういった情報をいつ・誰から・どのように求職者に届けるかは、採用の成功においてとても重要な要素になります。
2-1:「伝えるべき情報」について
採用ブランディングのひとつ目のカギである「伝えるべき情報」とは、企業から発信する情報にその企業の本質やらしさがあるかということになります。
採用ブランディングにおいて最も重要な採用コンセプトを策定する際に大切にしてほしいことは、その企業にしか語ることができない「理念、存在意義、独自性、ビジョン、志」を中心に据えることです。
「何を提供しているか(What)」という要素ではなく、「何のために事業を行なっているのか(Why)」という存在意義やビジョンを語ることで、他の企業との違いが明確になり、結果的に採用ターゲットの強い共感を呼ぶことができるようになります。
たとえば、先ほどの株式会社Plan・Do・Seeで言うと、
「何を提供しているか(What)」:ホテル・レストランの展開。ウエディングの提供
「何のために事業を行なっているのか(Why)」:日本のおもてなしを世界中の人々へ
となります。
企業の本質は「企業理念・思想・価値観」に、下記の7つの切り口をかけ算することで抽出することができます。
たとえば、オフィスがとても「開放的」という特徴があったとします。そのときに、ただ単にそのオフィスの特徴を捉えるのではなく、なぜその企業のオフィスは開放的であるのかということを、
企業理念・思想・価値観に照らして考えてみてください。
きっと、大切にしている想いをオフィスという場で体現するにあたって「開放的」というアウトプットになっているのだと思います。
2-2:「情報の伝え方」について
採用ブランディングのふたつ目のカギである「情報の伝え方」。ここでは知っておいていただきたい点が4つあります。
①伝達経路の信用度を上げる
②実体験・リアリティを伴った情報を届ける
③コミュニケーションの全体に統一感を持たせる
④採用以外の見え方にも気を配る
ひとつづつ詳細を見ていきましょう。
2-2-1:①伝達経路の信用度を上げる
あるアンケート調査のデータによると、「信頼するメディアは?」という質問に対して、78%の人が「友人や家族からの推薦」と回答しています。
リアルな顧客体験がソーシャルメディアを通して日常的にシェアされる時代において、人々は自然と価値観や環境が近い友人・知人が自分に合う情報を提供してくれるのを期待していることがわかります。
▲出典:Nielsen Global Online Consumer Survey 2015
マスメディアよりも先輩、友人、知人といった身近な人々の方が強い影響力を
持つマンメディアの時代においては、口コミやSNSでシェアされるような採用コミュニケーションを展開することも大切になってきます。
2-2-2:②実体験・リアリティを伴った情報を届ける
①の伝達経路の信用度と併せておさえてほしいのが、情報および経験のリアリティです。
情報が溢れる時代だからこそ、自分がリアルに体験した情報が貴重であり、非常に重要視されます。
そのため、採用コミュニケーションでは、採用媒体や採用サイトといったオンラインの情報だけでなく、インターンや会社説明会を通じてリクルーターや人事、働いている社員たちとの会話から得られるオフラインでの体験もとても大きな意味を持ちます。
2-2-3:③コミュニケーションの全体に統一感を持たせる
企業と求職者には、いくつものタッチポイントが存在します。
たとえば、オンラインでのコミュニケーションであれば、ナビ媒体・コーポレート、採用サイト・パンフレット・採用フロー・内定フォローツール。
オフラインでのコミュニケーションであれば、先輩、社員の声・説明会、インターン・リクルーター・面接官・経営層。といったことがあげられます。
ここで大切なのは、この採用コミュニケーションにおける全体の内容に統一感があるということです。
場所や相手によって言うことがコロコロ変わる人が信用されないのと一緒で、採用の各局面で言っていることややっていることが異なって伝わると、求職者の信用が貯まっていかず、結果として選考離脱に繋がってしまうのです。
会社の本質やらしさを踏まえた一貫したメッセージや世界観で採用全体が設計されているか。また、広報やイベント集客、面接官といった採用に携わる人たちの意識もそれと一致しているか、といった視点が重要になります。
2-2-4:④ 採用以外での見え方にも気を配る
インターネットの進化やSNSの登場によって、企業は360°あらゆる角度から見られる時代となりました。それはつまり嘘をつけないということです。
採用面の見え方だけをとびきり良くしても、その他の部分がそれに伴っていないと信用は積み重なっていきません。
たとえば、いまこの記事をお読みになっている皆様も、これから自分が働く企業を探すとなったら、採用サイトやパンフレットはもちろんのこと、その企業のコーポレートサイトやSNS、最近のニュース、そこで働いている人の話なども要チェックするのではないでしょうか。
採用という角度だけでなく、どの角度から見られても魅力的な会社であることを世の中へ日々発信するということも、良い採用を継続的に行う上で非常に大切になります。
3:【実践編】採用ブランディングの手順
いよいよ、採用ブランディングの実践編です。
採用ブランディングは下記の6つのSTEPで行うことが効果的ですので、まずは全体像を把握してみてください。
STEP1:360°ヒアリング
STEP2:求める人物像の明確化
STEP3:採用コンセプトメイキング
STEP4:採用全体設計
STEP5:クリエイティブ
STEP6:分析・改善
それでは、各STEPについて細かく見ていきましょう。
3-1:STEP1.360°ヒアリング
STEP2で求める人物像の明確化、そしてSTEP3で企業の本質を捉えた採用コンセプトをつくるためには、今一度自社を理解することが非常に重要です。
そのために行うのが360°ヒアリングです。これは、経営者、人事担当者、広報担当者、現場社員、学生(ターゲット)といったその企業を取り巻く人たちへのインタビューです。企業も法人というように人格があります。
一人の人物をくまなく把握するように、様々な側面からインタビューを行うことで、法人のキャラクターをカタチにしていきます。
企業のあらゆる側面をあぶり出すために、たとえば下記のように、取材対象者に合わせたヒアリングを行うようにしましょう。
経営者:その企業のビジョンやそれを叶えるために必要な人物像について
人事担当者:人事として現場で感じている企業の強みと弱みについて
現場社員:実際の仕事の中で感じるその企業の強み、弱み、特徴について
学生(ターゲット):学生視点ではその企業がどう写っているのかについて
3-2:STEP2.求める人物像の明確化
STEP1の360°ヒアリングで得た情報をもとに、その企業が本当に求める人物像を明確にしていきます。
具体的なやり方としては、下記の2つがあります。
①人材ポートフォリオで考える
②「スキル」「人間性」「MUST」「WANT」で考える
①人材ポートフォリオで考える
その会社が社員に求めている要素で4象限をつくり、どういった人材を採用したいのかを検討します。
この時、各象限における人材を採用人数全体に対して、現在何%採用しているのか。そして、これから何%にしていくのか。
その時の会社の状態を鑑た上で、ターゲットのボリューム層も設計することを意識してみるとより効果的です。
②「スキル」「人間性」「MUST」「WANT」で考える
①の人材のポートフォリオは企業ごとに4象限をつくりますが、
②では「スキル・能力」「人間性・志向性」「MUST」「WANT」で
固定された4象限で求める人材を検討していきます。
-スキル・能力:どういったことができるのか。
-人間性・志向性:どのような性格か。どのようなことを好むか。
-MUST:その企業がMUSTで大切にしている要素は何か。
-WANT:その企業にとってMUSTの他にどんな要素があれば嬉しいか。
このフレームで考えることで、採用する人物の
どこを重要視しているのかを改めて知ることができます。
▼
①や②で求める人物像がある程度見えてきましたら、
よりその人物を理解するために、ペルソナを設計しましょう。
-幼少期からこれまでどういった歴史を歩んできたのか。
-仕事に対して何を求めているのか。
-どういった価値判断で行動を決めているのか。
-どのようなスキルを持っているのか。
とにかく詳しいペルソナをつくることで、
ターゲットの理解を深めてみてください。
3-3:STEP3.採用コンセプトメイキング
ヒアリングから抽出した情報やターゲットが整理できてきたら、
採用ブランディングの中核を担う採用コンセプトをつくっていきます。
ここで、一番大切なことはその企業にしか語れない「理念・思想・価値観」を
採用コンセプトの中心に据えることです。
「何を提供しているか」ではなく、「何のために事業を行なっているのか」という
企業理念や社会的意義をベースに、求職者に寄り添ったメッセージングを行いましょう。
仮に、「何を提供しているか」という観点では同業他社と大きな違いがなかったとしても、「何のために事業を行なっているのか」という点はどの会社も独自のストーリーがあります。そのストーリーこそが、採用ターゲットの強い共感を呼ぶのです。
3-4:STEP4.採用全体設計
採用コンセプトを上手に活かすには、採用コミュニケーション全体をしっかりと設計することが大切です。
採用パンフレットや採用サイトといった採用にまつわるツール一つ一つを点として捉えるのではなく、一本の線として考えるようにしてみてください。
採用にコンセプトに則った上で、どのフェーズで、
どの媒体で、何を伝えるのかを考えてみましょう。
また、せっかくつくったコンセプトをより効果的に機能させるためには、現場のオペレーションに気を配ることも大切です。
インターンや説明会に登壇してくれる現場社員、面接官といった一人一人が採用コンセプトに即した行動をしていることが、求職者からの信頼獲得に繋がっていきます。
また、採用コミュニケーションは内定出しを行った後についてもしっかりと設計をしておくことが大切です。
近年、売り手市場が続く中で、内定出し後の辞退が増加しています。ただ、このような状況を念頭に、内定者に効果的なフォローを行うことができれば、内定承諾の意思決定までのスピードは早まり、内定辞退のリスクを軽減することができます。
フォローにおける具体的なポイントは下記の2点。
①さらに会社のことを理解してもらう
→自分がこれから働くかもしれない会社の理解がさらに深まる
→選考過程では気づけなかった新たな魅力を発見する
②横(内定者同士)、縦(社員)との繋がりをもってもらう
→内定者と繋がりができ、安心感や一体感が生まれる
→社員との繋がりができ、会社への共感値が高まる
こちらの2点を意識した内定者研修や内定者フォローツールを設計および制作することで、内定後も密なコミュニケーションを継続して行っていきましょう。
3-5:STEP5.クリエイティブ
合同説明会のブース、パンフレット、webサイト、内定者向けツール…など、採用活動においてはいくつかのクリエイティブが発生します。
これらクリエイティブを自社で行う場合も、外注する場合も、採用ブランディングにおけるクリエイティブで大切にすべきことは、採用コンセプトを軸とした一貫性です。
その時々で目にするツールによって、中身も見た目もチグハグだと、求職者はどうしてもその会社の真髄がつかみづらく、選考の途中離脱に繋がってしまいます。
どこを切っても同じ顔が出てくる金太郎飴のように、どのツールを見ても、一貫した内容が語られ、見た目にも統一感があると、理解と信用がどんどん積み重なっていきます。
3-6:STEP6.分析・改善
採用活動が一通りしたタイミングで、必ず振り返りと改善を行いましょう。
・採用コンセプトは学生に届いたか。
・自社の事業内容や意義はしっかりと理解されただろうか。
・説明会の設計(時間やスライド枚数)はベストだったか。
・面接官や協力してくれた現場社員の対応は適切だったか。
内定者や内定辞退者といった求職者の意見も取り入れながら、良かった点/悪かった点を分析し、次の採用活動のアップデートにつなげていきましょう。
4:【事例】採用ブランディングの成功事例
これまでご説明させていただいた採用ブランディングを上手く活用し、採用を成功させている事例をいくつかご紹介いたします。
<事例①>日鉄鉱業株式会社〜採用コンセプトの世界観で統一されたコミュニケーション〜
企業について:
鉱業(石灰石、タンカル、砕石などの採掘販売)を中心とした銅ほか鉱産物の
加工・販売及び輸出入業、石炭・石油製品の仕入販売機械・環境関連商品等の開発及び
販売、不動産業、自然エネルギーを利用した発電業などを展開。
採用における課題感:
・本社は丸の内のおしゃれなビル。
資源・エネルギー事業のダイナミックさというイメージで入社してくる。
採用ブランディング導入前の採用ツールは商社寄りの会社や働き方に見えるようなツールを使用。
・しかし、実際は鳥形山(高知の鉱山)で暮らす仕事。
中にはその山で30年以上を過ごす社員もいる。
・入り口のイメージと仕事の現実とのギャップが大きく、社員はすぐに辞めてしまう。
施策①:採用コンセプトの策定およびツールのトーン&マナーの統一
日鉄鉱業で働くことは、山で暮らすことでもある。山と共に生きる人生、大きな意味で懐の深い生き方に共感をしてくれる学生にターゲットを絞り、「大きな人になろう」という採用コンセプトを作成。ツール類も採用案内ではなく、生活案内をつくりを目指した。
★採用パンフレット
山で働くという大きな世界感に共感してもらえた学生に、実際の仕事内容や入社後の成長を理解してもらうためのツール。
入社を入山と置き換え、山登りに例えながら、キャリアステップを紹介していく。
★採用タブロイド・ポスター
学内説明会や研究室に配布。大きなスケール感を表現するために極大サイズのポスターで印刷。
タブロイドでは、山での四季折々の暮らしを紹介しながら、仕事内容だけではなく、仕事の概念を再定義するような山の働き方の豊かさを伝えている。
★採用サイト
働く山の壮大なイメージを全面に、その中での暮らし。
都会などの便利さとは縁遠い環境を魅力に感じるか、どうか。採用HPのイメージがピンと来ない学生は、すでにターゲット外でもあるというフィルター効果も含め企画を展開。
結果:
・採用難易度が高い機電系の学生15名の採用に成功。
・母集団のエントリー数の変化はなかったが、日鉄鉱業で働きたい、という強い志望動機を持ったターゲット学生が集まるようになった。
・入社した人材の離職率も低く、この採用ブランディングを導入してからの5年間ではほとんど出ていない。(3名以下)
・機械・電気系の学生でエネルギーに興味がある学生にとっては、先輩経由ですでに存在が知られ知名度は局地的に高まっている。
<事例②>株式会社エー・ピーカンパニー〜採用フローにも採用コンセプトを貫く〜
企業について:
塚田農場や四十八漁場の運営をはじめとする六次産業のリーディングカンパニー。
生産から販売までをつなげ、日本の食産業のALL-WINを追求する。創立10年足らずで東証一部に上場。
採用における課題感:
・新卒採用難易度が高い飲食業界。(アルバイトの延長と捉えられてしまう傾向)
・「不人気業界」というイメージ
・母集団形成と歩留まりに課題(採用ブランディング導入前:110名採用目標で80名採用)
・中、長期的な事業の広がりも視野に入れ、ミッションに共感した人材と出会いたい
施策①:採用コンセプトの策定およびツールのトーン&マナーの統一
「生産者と消費者を直接つなぎ、一次産業を活性化させる」。
そんなエー・ピーカンパニー独自の志を『「つなげること」に、ハングリー。』という採用コンセプト&ビジュアルとして策定。
各採用ツールも採用コンセプトを軸にして、「つながる」というキーワードとしたコンテンツ、統一感のあるビジュアルを展開。エー・ピーカンパニーが行っている社会的な意義が伝わるようになっています。
★採用パンフレット
「つながる」をキーワードにコンテンツを展開。
生産者から、本部社員、そして居酒屋店員までが一堂に会し、農産物が消費者に届くまでのサプライチェーンを一枚の写真で表現。それぞれの役割ごとの仕事の価値や必要性を伝える事で、エー・ピーカンパニーの社会的な意義を伝えられるような構成にしている。
★採用サイト:
採用サイトでは、求めるターゲットにおけるタイプ別の活躍人材を「before/after」の形で掲載することで、「過去と現在のつながり」を表現した。それにより、ターゲットにキャリアイメージを抱きやすくすると同時に、理想の先輩像を印象付けた。
また、各種コンテンツもコンセプトに同じく、下記のように「つながる」をキーワードに展開。
・つながる市場・ビジネスモデル(生産者と消費者)
・つながる成長・キャリアマップ
・つながる仕事・メンバー紹介
(学生の頃の想いが仕事につながっているメンバーの強さ)
・つながる学び・教育制度
施策②:ツールだけでなく、採用フローでも採用コンセプトを貫く
採用コンセプト『「つなげること」に、ハングリー。』を採用フローでも体現するべく、独自の採用方法を二つ行った。
★類友大作戦
内定者インタビューの結果、活躍人材に数種類の傾向があることが判明。「飲食志望」「農業志望」「体育会系」といった複数のターゲットを設定し、内定者の大学の先輩、後輩や、店舗アルバイトの“つながり”を利用して、一定ルートから人が流入する仕組み「裏口採用」を実施。
★裏口採用
上記ターゲットや魚検定保有者には、課題のみで、即最終選考に進める特別選考フローを用意。
施策③:現場社員を巻き込んでの採用
細分化したターゲットのうち「体育会系」の学生には元体育会系の先輩社員、といったように、属性の近い先輩社員をリクルーターとしてアサイン。歩留まり率の向上を図った。
結果:
・前年度80名、目標110名の採用目標のところ146名の入社を達成
・採用時期のバッティングによりエントリー母数は減少。
・ターゲットを絞ったメッセージングにより、来る学生の母数は減少したものの、質は格段に向上。
・当初の目標が110名のだったところ、目標は早々に達成し、150名に上方修正。
・「裏口採用」の課題に挑むうちに、企業理解が深まる効果。結果、46名が裏口採用から内定承諾。
・目標をハイ達成した採用チームは、後日、社長賞を受賞
<事例③>株式会社マイプリント〜コーポレートアイデンティティから策定〜
企業について:
婚礼・年賀の印刷会社さんで、婚礼年賀部門では、日本NO.1のシェアを誇る。
採用における課題感:
・年賀状の投函数の減少により業界的には向かい風。
・若手とベテランの2層で構成されてしまっている。
・働く社員のモチベーションの差があり、年賀事業と婚礼事業間でのセクショナリズムが強い。
・男性社員が集まりにくい。
・年功序列で若いうちは給与が上がらない。
施策①(コーポレートスローガン策定):
この企業は、ただの印刷会社ではない。年賀・婚礼事業を通じて、日本が大切にすべき人を祝う気持ち、つまり“おめでとう”を交わす文化をつくっていく会社であるということを表す企業スローガン「おめでとうは、日本の文化だ。」を設定。
施策②(コーポレトスローガンを採用メッセージに落とし込む):
社員さんにヒアリングをしてみると、ほとんどが年賀・婚礼という人の人生の節目に関わるめでたい瞬間に
携わることへの意義を感じていました。
そこで、祝い事を仕事にすることの魅力を伝えるメッセージ「祝いゴトを仕事にしよう。」を策定。
メインビジュアルは、オフィス内で正月と結婚式の風景を撮影し、日々の仕事がお客様の祝いごとにつながっていることを表現しました。
結果:
上記のメッセージをコアに採用活動をした結果、例年に比べ採用人数は大幅アップ。もともと企業への共感値が高い母集団が形成されていたこともあって、辞退者もゼロ。また、ポテンシャルも高い学生も多く集まりました。
・採用目標人数18名達成。辞退者0名(昨年採用2名・辞退者8名)
・卒業大学群のレベルが上がり、先輩社員を上回るポテンシャルを発揮している。
・従来の営業職から経営企画層に切り替えて、より難易度の高い採用方針に上方修正を行っている。
5:採用ブランディングを行うには、企業の理念が明確になっている必要がある
採用ブランディングの要となる採用コンセプトは、あくまで企業理念や思想・価値観といった企業の存在意義をベースにつくるものです。そのため、企業の理念が不明確な場合は、残念ながら採用ブランディングを行うことができません。
予算や時間の都合上、まずは採用パンフレットや採用サイトのリニューアルから始めるといったケースもありますが、あくまでそれは “応急措置” であって本質的な採用ブランディングとは言えません。(ただ、どうにもならない状況で取り急ぎパンフやサイトのみをリニューアルするといった場合は、そのツール制作だけでも企業の理念に基づいた企画・クリエイティブ考えることをおすすめします。)
もし、採用ブランディングをすぐにも行いたいのに、企業の理念が不明確といった場合は、まずコーポレートアイデンティティ(CI)の策定を考えてみてください。
コーポレートブランディング(CI)とは、企業の理念(ミッション、ビジョン、バリューなど)を策定し、その企業の志を言語化および視覚化するもので、これを行うことにより、採用ブランディングの際のコンセプトづくりやコミュニケーション設計がスムーズになります。
結果、その企業が目指している未来へ向かって共に歩んでいける同志への訴求力がアップします。
コーポレートアイデンティティの策定については、下記の記事に詳細をまとめてありますので、併せてご覧ください。
→「会社のらしさを一発で伝えるコーポレートアイデンティティ(CI)の作り方」
→「企業理念とは?100年続く企業になるために必要な企業理念を徹底解説」
6:まとめ:採用活動は企業にとって最大の経営課題
いかがでしたでしょうか。
採用ブランディングがどういったものなのか、そしてまず何をすべきなのか、少しでもお役に立てていますと嬉しいです。
採用活動は文字通り人を採用することではありますが、その大目的は“経営”と“組織”をつなぎ、企業のビジョンを実現するための同志集めです。
企業が目指す未来を共につくっていく人材を確保できないと、企業は存続できません。つまり、採用は企業にとっての最大の経営課題と言うこともできます。
採用活動を目標人数通りに人を採るだけと捉えずに、この会社をどうしたいのかという強い意志を採用担当者および社員一人ひとりが持ってみる。その意識の変化が採用ブランディングのはじめの一歩です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。みなさまの採用活動がより良いものになることを願っています。
コメント
「「採用ブランディング」を成功させるメソッドを事例とともに解説!」に対する4件のコメント