会社の成長を加速させるための、失敗しない理念浸透のコツ。

企業理念を作ったまでは、よかったけれど、理念浸透でつまずいてしまった。というお話はよく聞きます。

そうなんです。企業理念というものは、つくったら終わりではありません。むしろ、つくったところがスタート地点。理念が生きた言葉となって社員一人ひとりに浸透し、一人ひとりが体現できるようになって、ようやく意味をなすものです。

しかしながら、盛大にお披露目した後は、綺麗な額にしまい込まれて、いつの間にか、誰も見向きをしなくなり、いつしかホコリをかぶってしまう・・・そんな「額縁理念」になってしまっているケースが、多いのが実情です。

理念を軸に、企業文化を醸成していくインナーブランディングにおいて、パラドックスにご相談いただくほとんどのお客様が、理念浸透に課題をお持ちでいらっしゃいます。

今回は、これまでいくつかの企業のインナーブランディングをお手伝いしてきたパラドックスの経験に基づき、理念浸透のあり方について、ご紹介させていただきます。

かくいう筆者は、その昔、パラドックスで理念浸透が始まるやいなや、「なぜやるの?」と?マークで頭がいっぱいになり、ややもすると否定的に捉えてしまった一人。

変わることは、人間誰しも怖いもの。理念を策定、浸透しようとすると「変化を恐れる抵抗力」は、一定数うまれてしまいます。

私がいうのもなんですが、大丈夫。安心してください。筆者自身も遅まきながら変わったようにコミュニケーションの方法さえ間違わなければ、「変化を恐れる抵抗力」はやがてビジョンの推進力へと変わっていきます。

理念浸透問題にご苦労されている経営者の方やご担当者様にとっても、何かしらヒントになるような情報を今回お届けできたら幸いです。

1:理念浸透、なぜやるの?

理念浸透の重要性。頭ではわかっていながらも手をこまねいている経営者の方、人事総務の方、少なくないのではないでしょうか。

理念浸透を、なぜやるか。一口に言うならば、「同じビジョンに全員のベクトルを揃えるため」ですが、その波及効果たるや、はかりしれないものがあります。

さらにリモートワークなどの働き方の選択肢が増える中で、理念浸透ができている企業とできていない企業では経営に大きな差が生まれています。

理念浸透の目的とは?まずは、そこに立ち返って考えてみましょう。

1-1 理念浸透の目的

なぜ、理念浸透をするのか。

<一体感の醸成>

・全員が、大切にする価値観を共有するため。

・困難があってもぶれない指針を共有するため。

・社員の志と会社の志のベクトルを合わせるため。

<成長の加速>

・組織としてさらにパワーアップするため。

・意思決定のスピードを早くするため。

・メンバーが成長しやすくするため。

・リーダーがマネジメントしやすくするため。

<定着率の向上>

・採用のマッチング率を高めるため。

・不幸な離職を防ぐため。

ここでは挙げきれないくらい、さまざまな目的があり、さまざまな効果があると思います。事業戦略にも、マネジメントにも、採用にも。経営において全方位的に効果を発揮するもの。それが理念浸透なのです。

では、そんなに重要なのに、なぜ多くの人が手をこまねいてしまうのか。それは理念浸透が、「実行がすごく大変にも関わらず、すぐには目に見える効果が現れない」ということに尽きるのではないでしょうか。

1-2 理念が浸透しない根本的な理由

どんな会社にも、楽に素早く理念が浸透する。夢のような特効薬は、この世には存在しません。どんなに理念が浸透しやすい土壌のある会社でも、浸透したといえるまで、少なくとも1年、いや、それ以上の年月がかかるでしょう。

なぜ、そんなにも時間がかかるのか。そこには、理念浸透のメカニズムが関わっているのです。理念浸透には、大きく4つのフェーズがあります。

風土づくりとは?

「心のコップ」がちゃんと上を向いている状況をつくる、ということです。

下を向いたコップに水が入らないのと同じように、下を向いた「心のコップ」にはどんな言葉も響きません。いかに素晴らしいビジョンやミッションが出来上がったとしても、社員の心にはちっとも響かない。こんな残念なことはないでしょう。

社員の「心のコップ」が上を向いている状況をつくること。会社の言葉に耳を傾けて、心を開いている状態をつくること。これが風土づくりのポイントになります。

※詳細はこちらの記事をご参照ください。
リモートワークでも社員の意思統一をするために!インナーブランディングによる企業文化の作り方。( 4:風土づくりフェーズ)

相互認知とは?

相互認知は、理念をお披露目するフェーズで大切になるキーワード。

アタマで理解するだけではなく、ココロにも訴える。そのためには、理念のリリースの仕方がとても重要になります。なぜなら、リリースのやり方ひとつで、会社からの一方的なメッセージになってしまいかねないから。実際にトップダウンでメッセージを発信して、肝心な社員に響かずに終わってしまうケースが多いのも事実です。

会社と社員。送り手と受け手。相互に認知を進める上でカギを握るのが、ココロへのアプローチ新しいことが始まる期待感。そこに参加したい!と思えるワクワク感。そんな気分を醸成させる工夫があるだけで、受け取り方、伝わり方は変わります。

また、理念策定プロセスをプロジェクト化し、メンバーを巻き込む理由のひとつが、この理念リリースにも関わっていきます。トップダウンの決定ではなく、プロジェクトメンバー自らが経験した理念策定プロセスを踏まえて、自らの言葉で発信の主体を担っていくことで、他のメンバーにとっても共感を持って受け入れられるのです。

※詳細はこちらの記事をご参照ください。
リモートワークでも社員の意思統一をするために!インナーブランディングによる企業文化の作り方。( 5:相互認知フェーズ)

相互共感とは?

企業理念は、時間をかけて磨き込まれた言葉たち。だからこそ、その背景や意図、想いに共感してもらうプロセスを、おろそかにしてはいけません。

言葉の一つひとつの意味合いがしっかり伝わり、企業理念と仕事を通じた自分の目標が結びつき、「自分ごと化」できるようになるまで、じっくり理念浸透を進めていくことが必要なのです。

また、このフェーズでは、会社と社員の間における相互共感だけでなく、社員同士の相互共感も起こしていきます。一人ひとりの夢や目標を、お互いが共有することで周りの仲間がどんなことにやりがいを感じ、どんな人生を送りたいのかを理解することができる。

会社と社員だけでなく、社員と社員。この相互共感が生まれ始めると、次のステップである相互貢献というフェーズに組織のステージは上がっていきます。

※詳細はこちらの記事をご参照ください。
リモートワークでも社員の意思統一をするために!インナーブランディングによる企業文化の作り方。( 6:相互共感フェーズ)

相互貢献とは?

そして、いよいよ理念浸透の最後のフェーズ。それが「相互貢献」です。これまでの「風土づくり」「相互認知」「相互共感」の地道な取り組みの積み重ねの上に初めて誕生する文化です。

会社と社員、社員同士がお互いの考え方に共感し、上下関係や部門を越えて、自発的にサポートし合う。お互いの夢を知っているからこそできる叶え合いともいえるでしょう。

ここまでくれば、理念は企業に根付いていると言ってもいいかもしれません。もちろん、油断して全部やめてしまっては、元に戻ってしまいますが、社員の成長、組織の成長とともに、理念は浸透し続けることでしょう。

※詳細はこちらの記事をご参照ください。
リモートワークでも社員の意思統一をするために!インナーブランディングによる企業文化の作り方。( 7:相互貢献フェーズ)

 

ここまでお読みいただいた方は、うすうすお気づきかと思いますが・・・

理念浸透には明確な「終わり」があるわけではありません。会社が進化し続ける限り、組織も人も成長していく限り、新しい課題や問題が、現れ続けます。時代ごとの壁に対し、その時のメンバーで乗り越えるための判断基準となる価値観を理念浸透を通じて、磨き続けていく必要があるのです。

新しいメンバーが増えてきたら、何度でも「相互共感」のフェーズに立ち返って、個別にプロセスを進めていく必要があるでしょう。そのくらいの時間とパワー、「なんとしてでも理念を浸透させる!」という熱量が理念浸透には求められるのです。

あらためて、はっきり申し上げましょう。理念浸透には、経営者の覚悟と資質も問われます。代表自らが先頭に立ち、旗を振り、本気でやりきる。それができなければ、理念浸透はうまくいきません。トップの本気が成否を大きく分けるもの。それが、理念浸透なのです。

 

2:多くの会社が陥りがちな、理念浸透の落とし穴

ここまで理念浸透の大変さを、切々とお伝えして来ました。「理念が浸透しない根本的な理由」は、ご理解いただけたことと思います。

ここでは、より具体的な失敗例をご説明していきましょう。先人の経験を活かし、同じ過ちを避けるべく、ぜひ失敗例もご参考にしていただければ幸いです。

<落とし穴 その1>組織のタイプを考慮せず、教科書的な施策を展開する。

理念浸透の施策として、真っ先に上がるのが「理念唱和」ではないでしょうか。

朝からスタッフ全員で接客用語を復唱するサービス業の会社や、仕事の前に点呼が欠かせない建設業の会社など。朝礼での声出しがふだんから習慣となっている企業では、「理念唱和」をスムーズに実施できるでしょう。毎朝繰り返し声に出すことで、言葉が一言一句、体にしっかり染み込み理解できるだけでなく、相互認知・相互共感を生み出します。

そういった意味で、唱和は理念浸透において非常に有効な手段なのですが、ひとつ問題点があるとすると、組織によってはアレルギーがある、ということ。

たとえば・・・

人と同じことをしたくない自由人が集まるクリエイティブ系の組織や、ロジックがないと納得しないコンサル系の組織に「右向け右!」と言わんばかりに理念唱和を強制すると、どうなるか。

このようなケースでは、相互認知・相互共感が進むどころか、「変化を恐れる抵抗勢力」が爆誕してしまいます。

<失敗を防ぐには・・・?>

クリエイティブ系の組織やコンサル系の組織の場合は、社員に自分たちで考えさせるワークの方が有効です。ドラッカーもいっていますが、「計画と実行を切り離してはいけない」ということですね。いかに議論をさせて、所有感を高めてもらうかが勝負。たとえば、ビジョンを実現させるための事業アイデアを募ったり、理念浸透の仕組み自体を考えて守ることも効果的です。

<落とし穴 その2>スピード・効率重視で、経営幹部だけで進める。

理念浸透の手前、理念策定のフェーズで、どんなメンバーを巻き込むか。その時点で、もし仮に経営幹部や幹部候補ばかりがアサインされていたら、ちょっと黄色信号です。もちろん、一概にNGとは言えません。普段から社長と目線が揃っているメンバーだけで進めれば、理念策定自体は、確かにスムーズに進むでしょう。

ですが、そこには大きな落とし穴が。

理念はつくったところがスタート地点。リリースのポイントでもお話しましたが、そのあとの理念浸透がスムーズに進むかどうか、までを見越して現場の感覚に近い社員や、「変化を恐れる抵抗力」になり得そうな社員をあえて巻き込んだ方が、最終的には目的地に早く着きます。

当然のごとく、組織には社長と目線が揃っているメンバーばかりではありません。理念の重要性がわからない社員、わかろうとしない社員。さらには、そもそも話を聞く姿勢ができていない(心のコップが下を向いている)社員が逆に結束し、大きな抵抗勢力になってしまうケースもあります。

<失敗を防ぐには・・・?>

経営層や幹部候補生だけで話を進めず、できれば理念策定のフェーズからエバンジェリスト(伝道師)としての適性を見越した、多様性のあるメンバリングを心がけましょう。異論を唱えそうな社員、腹に一物抱えている社員ほど、会社への想いが強く理念浸透の際のキーパーソンになり得ます。また同様に、立場やポジションは高くはありませんが、人望があり、周囲への影響力が大きなリーダー的な社員も早いうちに仲間に招き入れていくことも大事です。

<落とし穴 その3>経営者が現場に丸投げ。完全に人任せ。

幸いパラドックスにご相談いただくケースでは上記のようなことは、まずあり得ません。それは、私たちが必ず経営者ご同席の上で、議論を進めているためです。ですが、経営者が現場、あるいはコンサルなどの外部にインナーブランディングを丸投げしてしまうケースも目にします。

理念浸透とは、冒頭でも申し上げた通り、大きなパワーと時間がかかり、さらにはすぐに効果が現れない。根気のいる仕事です。ただでさえ忙しい経営者が、「後回しにできるなら、後回しにしたい」「誰かに任せられるなら、任せてしまいたい」と思うのも当然のこと。

しかしながら、トップのその姿勢を、社員は見逃しません。自ずと、会社全体として理念浸透の優先度が下がり、いずれ理念自体が、見向きもされなくなる。そんな残念な結果になることが、目に見えています。

<失敗を防ぐには・・・?>

経営者が理念を本気で信じていなければ、経営者が理念浸透に本気でなければ、まず、うまくはいきません。逆に言えば、経営者が本気であれば、想いの強いメンバーほど、組織やポジションを越えて参加してくれるとも言えます。普段は目立たない社員が、急にリーダーシップを発揮したり、視座が上がり経営者視点で会話ができるようになる。売り上げや利益といった目に見える数値だけでは得られない社員の成長を目の当たりにすることもあるのが、理念浸透の醍醐味でもあります。これを読んでくださっていて、理念浸透を考えている経営者の皆様は、まずはご自身の胸に手を当てて、その覚悟を問いてみてください。

<落とし穴 その4>理念で叱ったり、縛ったりする。

理念浸透において大切なのが、日々の会話やマネジメントにおいて理念を活用すること。現場レベルで最も活用しやすいのが、社員の行動指針となるスピリットでしょう。

もし仮に「挨拶は笑顔で元気よく」というスピリットがあったとしたら。こんなシーンが、容易に想像されます。

ある朝、元気な挨拶で出社してきた社員に上司が一言。「君は“挨拶は笑顔で元気よく”がバッチリだね」。そう言われた社員が気持ちいいだけでなく、褒められている様子を見て、他の社員の意識も変わるはずです。

ところが、ある朝、挨拶もなしに自席についた社員に上司が「君は“挨拶は笑顔で元気よく”が全然できていない。このスピリットの意味、わかってる?」などと、お小言をいったとします。

上司の指摘はごもっともなのですが、これは逆効果。理念で叱ったり、縛ったりすることで、一時的に社員の行動が変わったとしても、社員が自発的にスピリットに共感し、自分ごと化することは、永遠にないでしょう。叱ったり縛ったりしても、本人の主体性は促せません。むしろ、萎縮する一方なのです。

<失敗を防ぐには・・・?>

理念で褒めること、承認することが、理念浸透の鉄則です。褒められた社員だけでなく、褒められた社員を見た他の社員も理念をポジティブに捉えられれば、自然と普段の会話に中でも理念の出現率が上がっていきます。いつの間にか、理念が会話の中で、褒め言葉として使われている状態。それが最高の状態といえるでしょう。

<落とし穴 その5>経営陣が信用されていない。

これは、珍しいケースですが、なきにしもあらずなので、触れておきます。冒頭にご説明した理念浸透のフェーズのうち一番最初の「風土づくり」をおろそかにしてしまうとこんな悲劇に発展してしまうことがあります。

実際に筆者が知っているとあるお客様は、会社の統合や社長の交代が度重なり、まさに「経営陣が信用されていない」状態。このお客様がインナーブランディングを行うにあたって真っ先に取り組まれたのが「社員の心のコップを上に向ける」取り組み。

手始めに、長時間労働が当たり前になっていたところを大幅に改善し、有給休暇取得率も向上させ、会社の本気を見せることで、まずは社員の信頼回復に努めました。

「あ、今度の社長は、ちゃんと僕たちのことを考えてくれる」
「口約束ではなく、実際に会社を良くしてくれる」

社員の気持ちが徐々に変わってきたところで、理念策定、理念浸透へスムーズに移行していったのです。

<失敗を防ぐには・・・?>

理念をつくる前に、会社と社員の信頼関係をつくりましょう。理念浸透の第一段階、「風土づくり」をおろそかにしないこと。社員の心のコップが、上を向いているかどうか、自らのこれまでの経営を、厳しく見つめ直しましょう。

3:理念浸透でズバリ成果を上げている2社の成功例

ここまで、理念が浸透しない根本的な理由や、失敗例をさんざんお話ししてきましたが、なかには、非常に上手に理念浸透を進めているお客様もいらっしゃいます。

具体的には、どのように行っているのか。成功例のケーススタディとともに、見ていきたいと思います。

<事例1>徹底度と本気度がピカイチ(内海産業 株式会社)

1972年に創業して以来、セールスプロモーション業界を牽引するリーディングカンパニー。家電、自動車、住宅、化粧品など、さまざまな業界でノベルティグッズやプレミアムグッズを手がける会社です。

同社の企業理念策定やビジュアルアイデンティティの刷新からパラドックスは伴走してきました。ご要望としていただいたのは、経営の世代交代のタイミングで、同社の「らしさ」を見直し、時代にあったアイデンティティを確立したい。従来のトップダウンの社風を変え、社員一人ひとりが主体的に考え、行動する“社員が主役”の組織へと変えたい、というもの。

ここでは、理念浸透の4つのフェーズに分けて、理念策定後、どのような施策を実施したのかをご説明します。

<風土づくり>

・伝道師集団 「THE ビエルズ」結成

地方の各支店から理念の伝道師となる社員を集めて、数ヶ月単位のワークを実施。理念浸透の原理原則をコーチングしながら、理念策定のプロセスの振り返りや目標設定、行動内容を定めるワークショップを開催しました。社員のみなさんが積極的に意見を出しながら施策を考えることで、このワーク自体が理念浸透になるような仕立てに。

・「褒めバッジ」の送り合い

褒め合う風土を定着させて理念を浸透させるために、理念を体現した仕事に対し、Salesforce上のコミュニケーションツールでバッジを贈る「褒め活」を開始。

「いいね」ボタンのように、誰でも手軽に贈れるバッジは、企業理念のキーワードに紐づいた全10種類。たとえば、ユニークなアイデアを形にした社員の日報には、スピリットにある「自由に発想し、本気でユーモアを考えよ」に紐づいたバッジを贈り、褒め合うといったように運用をスタート。承認文化の醸成にもつながっていきました。

<相互認知>

・理念浸透調査を実施

理念をリリースした直後に調査を実施し、相互認知において何が課題になっているかを洗い出しました。そこで浮き彫りになったのは、「“購買促進”を、日本の常識に。」というビジョンの理解度の低さでした。

・ビジョン実現までのプロセスを言語化、ビジュアル化

ビジョンへの理解を促すための社内ラボ、「購買促進ラボ」を立ち上げ、同社とパラドックス、一橋大学大学院の楠木建教授にもご参画いただき、数ヶ月に渡る議論を通じて、販売促進と購買促進の違いを明確に。

ビジョンが実現されるまでの道のりを、未来作文として創作するというワークも実施しました。ビジョン実現までのプロセスを明確に言語化、ビジュアル化して全社に共有することで、ビジョンの理解不足という課題を払拭。また、その内容はビジョンムービーに収め、後述の理念共有イベントで使用しています。

<相互共感>

・年に一度、理念共有イベントを開催

ビジョン実現のため、年に一度開くことになった決起集会「買促フェス」。同社の社員が一堂に会し、ビジョンムービー(前述)の上映や、ワークショップ、レクリエーションなどを行うことで、社員の結束を強める集まりです。パラドックスは、社員一人ひとりのビジョンを集めたオープニングムービーやワークショップなど、会のコンテンツづくりをサポートしました。

<相互貢献>

・ビジョン実現に向けたサービス開発

ビジョン実現に向けて、社内ラボ「購買促進ラボ」の議論で出てきたビジネスアイデアを、いかに実ビジネス(商品やサービス)に落とし込むかを念頭に議論を重ねて、実際の新商品を開発していきました。
※継続的なプロジェクトとして現在も運営されています。

<成果>

毎年実施している理念浸透調査では、ミッション、ビジョンへの理解、共感はもちろん、働きがいに関する数値も年々改善しています。

トップダウン型の組織から、“社員が主役”の組織へ、社内の雰囲気も見違えるように変わり、多くの社員が生き生きとした表情で、楽しそうに働くようになりました。

理念策定前は15%ほどあった離職率も、2019年の段階で約4%と約1/3以下まで低下。「働きがいのある会社」のランキングを発表している研究機関、Great Place to Workでも好事例として取り上げられ、理念浸透の効果を実感できるプロジェクトになっています。

成功の秘訣は、旗振り役の社長を筆頭に全社横断で立ち上がったいくつものプロジェクトチームの「徹底度」と「本気度」。たとえば、毎日日報を書く。その日報に「褒めバッジ」を送る。一つひとつは、基本的なことですが、同社の場合は、その「徹底度」と「本気度」が抜群でした。一度決めたことは必ずやりきる。その姿勢を貫くことが、理念浸透の成功の秘訣といえるのではないでしょうか。

<事例2>内定者研修から始める(石坂産業 株式会社)

産業廃棄物を資源に変える取り組みで、国内外から注目を集める会社。理念策定のタイミングが、新卒採用を始めたタイミングとも合致していたこともあり、新卒向けに内定者研修を行うことから理念浸透をスタートさせました。

理念浸透の他に、もうひとつテーマとしてあったのは、入社後のギャップをなくす、というもの。

「自然と共生するつぎの暮らしをつくる」という理念を掲げる同社。実際に産業廃棄物の減量化・再資源化98%を達成されている実績があり、環境問題に意識の高い学生から支持を集めています。

一方、入社後の配属によっては、プラントでの現場作業など、地道な重労働もあり、「自然と共生するつぎの暮らし」に目の前の仕事がつながっていることを入社後に実感できるかどうか、ギャップが生まれないか、懸念がありました。

そこで、理念の理解・共感を進めるとともに、仕事の理解・共感を進め、理念を「自分ごと化」してもらうプログラムを実施したのです。

<ある年の内定者研修の流れ>

理念を知る(座学)→自分を知る(座学)→仕事と理念の結びつきを知る(先輩インタビュー)→企画を考える(グループワーク)→発表(役員プレゼン)
・理念を知る(座学)

企業理念の内容そのものをレクチャーしても、なかなか身にはつかないもの。そこで、理念策定のプロセスを疑似体験できるように実際に行ったワークショップを模した、簡易的なワークを実施。ビジョン、ミッション、バリュー、スピリットなどの言葉がどのようにして決定されたか、その言葉が選ばれた背景などをワークを通して学びます。

・自分を知る(座学)

組織に今後どのように貢献できるかを考えるために自分の強みを探るワークを実施。これまでの人生を振り返ったモチベーショングラフを用いながら、強み弱みを言語化。その内容をグループで共有し、自分の強みを生かしてどんな活躍がしたいか発表します。

・仕事と理念の結びつきを知る(先輩インタビュー)

理念が実際の仕事にどのように結びついているか知るために、現場社員のインタビューを実施。さまざまな部署をまわり、20人近くにインタビュー。入社後のギャップを防ぐためにも、仕事の魅力だけでなく理念を実現させるにあたって、どんな課題があるかリアルな声をヒアリングします。

・企画を考える(グループワーク)

先輩インタビューを通して把握した課題をふまえて改善策をプランニング。自分たちに入社後何ができるか、という観点で、グループで企画を考えます。

・発表(役員プレゼン)

グループで考えた企画を役員にプレゼン。入社前から、社員の一員として、組織をより良くする施策を考えることで、入社意欲を高めるとともに、入社後の活躍を促します。

<成果>

5年ほど前から、改善を図りながら毎年実施ししている内定者研修。現在は新卒五期生が活躍している状況です。毎年継続するうちに、2期上の先輩社員が後輩の研修をサポートする体制も出来上がり、継続した取り組みになっています。

なお、過去五年間の新卒社員の離職率は0%。入社前から理念浸透をはじめることで、理念への理解・共感ができていること。入社後の配属はバラバラになっても、研修を通して、横のつながり、同期の結束を高めることができていること。内定者研修による、さまざまな効果が、同社の新卒社員の高い定着率につながっています。

成功の秘訣は、内定者研修の段階から理念浸透を組み込むという、「逆転の発想」。理念の策定と新卒の受け入れが、タイミングとして重なり、通常のフェーズで理念浸透ができない不利な状況の中、それを逆手にとって、入社前の段階から、見事に理念浸透を成功させています。

4:浸透策で失敗しないために、押さえておきたい大事なポイント

ここまで、さまざまな失敗例や成功例を見てきましたが、最後に、理念浸透において大事なポイントを、おさらいしたいと思います。

4-1 長期戦に備えましょう

繰り返しになりますが、理念浸透は長期戦です。長期戦に備えるためには、理念浸透の仕組み化が大切になります。

たとえば、成功例でご紹介した内海産業様のように、「褒めバッジの送り合い」を仕組み化する。「理念共有イベント」を仕組み化する。石坂産業様のように、「内定者研修」を仕組み化する。一つひとつの取り組みを、長く継続できるものにするために、自社にあった仕組みを、構築していく必要があるでしょう。

無理なく自然に継続できる仕組みとして、社員一人ひとりが日々の出来事、仕事の学びや気づきを発信し合える社内SNSの活用がひとつ例にあげられます。社内SNSのサービス自体はたくさんありますが、たとえばパラドックスでは、理念浸透に特化した社内SNSVisions」をご用意しています。

“社内SNS「Visions」とは”

働く上で一人ひとりが大切にすべき企業理念を項目ごとにスタンプ化。理念を体現するような行動やエピソードには、「Visions」上で相手にスタンプを送ることができるので理念で褒める、承認するといった理念浸透において大切なアクションが自然に促されます。

 

※詳細はこちらをご参照ください。

価値観を共有し、一人ひとりの働きがいを高める。「心でつながる」ブランディングツール、「Visions」のご紹介

また、理念を評価制度に落とし込む、という手法もオススメです。理念を体現する社員の行動を評価し、昇格や昇給といった査定の際にも、理念と照らし合わせて考慮する。そのように理念で褒められる、理念で認められるという体験をすると褒められた社員だけでなく、周囲の社員にも良い刺激になります。

理念を踏まえた評価制度の再構築など、自社のリソースだけで実施することが難しい場合、外部パートナーの協力を仰ぐことで、解決できることもあります。

4-2 年単位で、定点観測しましょう

理念浸透を継続していくにあたって、ひとつの指標になるのが、年単位で行う定点観測。理念の浸透度合いや、従業員のロイヤリティなどを定点観測をすることを、おすすめしています。

さまざまな観測方法がありますが、ここでは、パラドックスで実施している「同志サーベイ」を例に挙げてご説明します。

“同志サーベイとは?”

グロービス経営大学院の研究科長の田久保善彦氏と、社会心理学の専門家である渡部幹氏の協力のもと、パラドックスが独自に開発したインナーサーベイ。

このサーベイを実施することで、理念の「理解・共感・実践・実感」の度合いが計測できるほか、組織風土が抱える問題点を抽出することができます。つまり、理念浸透を始めた初年度から、毎年継続してサーベイを実施していくことで、理念浸透のどこに課題があるか、さらには組織のどこに課題があるか定点観測することができるのです。

調査結果を踏まえて、定期的に振り返りを行うことでより効果的な浸透策へ、ブラッシュアップすることができるでしょう。ただし、その役割はあくまでも「現在地」を明らかにするもの。次の施策を考えるためのひとつの手段です。

目に見える効果をすぐに求めるのではなく、一つひとつの施策に、根気よく取り組んでいけば、ゆっくりと、しかし着実に、理念浸透の効果は現れていくもの。

早くても1年、遅ければ数年。地面の下で、ゆっくりじっくり根を張った木は、やがて大木になるように、時間をかければかけるほど理念浸透は、組織の幹を太くしてくれるはずです。

5:まとめ

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。理念浸透の失敗例、成功例をご紹介させていただきましたが、いかがでしたでしょうか。

理念浸透=大変なもの。そういう印象を強く持たれた方も少なくないでしょう。けれども、こういう言い方もできるはずです。理念浸透=大変だからこそ、得るべき価値があるもの。

多くのお客さまが苦労されるものの、苦労された末に、組織風土がより良い方向に改善したり、ひさしぶりにお会いすると、驚くほど成長されているケースも目にします。

会社に一歩入った瞬間に空気が明るくなっている。それは、社内はもちろんお客様やパートナー、採用候補者にも伝わり、いい波及効果を生みます。理念浸透を根気よく続けている会社は、どの会社も例外なく、その効果を実感されています。

「理念浸透なくして、会社の成長はない」

筆者も、今ではインナーブランディングに携わるたびに、そう思うようになりました。理念浸透という長い長いトンネルの入り口で迷っている方、あるいはトンネルの真っ只中で悩んでいる方に、この記事が少しでもお役に立つことができていれば幸いです。

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