クロマニョン人は知っていた。 ビジュアルに託す、組織のビジョン

本屋に足を運ぶと「ビジョン」や「パーパス」とタイトルについた本が平置きしてある。最近よく見かける風景ですよね。

この記事を読んでいる方がお勤めの会社でも、実際にビジョンやミッション、パーパスを掲げている会社も多いでしょう。しかし実際にそれが経営と結びついていたり、社員に浸透している会社がどれだけあるでしょうか。

本記事ではビジョンの実現や、そのために必要となる伝達や浸透の手段として、言葉ではなく「絵」に着目し、組織のビジョンの実現における絵の重要性を人類の長い歴史から紐解いていきます。

1:なぜ、言葉ではなく絵なのか

突然ですが、ラスコー洞窟壁画を知っているでしょうか?

ラスコー洞窟壁画とは、フランス南部に点在する洞窟壁画で、今から約4万年前〜1万4500年前にかけてクロマニョン人によって描かれた人類最古の絵画です。

人類最古の絵画は、なぜ描かれたのか。この問いを解き明かすため、これまでに数多くの研究がなされ、いくつかの説が浮上しています。そのうちの一つに「狩猟採集社会における祈りの対象だったのではないか」という見方があります。

動物を採集し、集落に住む誰もが飢えに苦しむことなく繁栄を続ける。そんな暮らしに根ざした欲求や願望を「幸せのかたち」として共有するために描いていたのではないかというのです。

農耕とは異なり、狩猟生活は狩りに失敗することもあれば、怪我を負うことだってあります。でも、それは全員が共有する「幸せのかたち」の実現のためだと、明日も狩りにでかける英気を養っていたのかもしれません。

全員が同じ目的を共有する。こう聞くと、彼らにとっての壁画は、企業でいうビジョンやパーパスのようではないですか?

では、彼らはなぜビジョンの共有を「言葉」ではなく「絵」で行ったのでしょうか。言語の起源は10万年から8万年ほど前と言われ、ラスコーの洞窟壁画が描かれるよりさらに昔のこと。交易の場ではなく、他民族との交流もないと言われているラスコーでは、ノンバーバルなコミュニケーションの重要性が低い地域だったはず。

それでも、絵でないといけなかった理由。それは「記録し、末長く伝えていくこと」だと言われています。現に今、私たちはラスコーの壁画を見て、何が描かれているのか理解することが出来ていますよね。一方で言語には習得の壁があり、地域はもちろん時代によっても変化するもの。もし洞窟に描かれていたのが「文字」であれば、現代を生きる私たちはこれを読解できていなかったかもしれません。より短期的な視点でも「幸せのかたち」を生まれたばかりの子供や、次世代へ繋げていくために「絵」を彼らは選択したのでしょう。

2:絵の伝達力が、キリスト教を世界に広めた

時代を一気に進め、中世へ。

ラスコーが「時代を超えた伝達」のために描くことを選択したならば、「広範な範囲への伝達」を目的に描かれたのが宗教画です。

現在、ヨーロッパの大半の国では国民の半数以上がキリスト教を信仰していますが、その爆発的な広がりのきっかけとなったのは392年ローマ帝国がキリスト教を国教化したことに遡ります。しかし当時のキリスト教会は、それ以前の多神教とはまったく異なる一神教の教義を正確に伝えることに大変な苦労を強いられていました。

というのも、キリスト教の本質は言うまでもなく聖書に記されていますが、当時は書物がとても貴重な時代。それに、民間の識字率はきわめて低かったため、言語での教義の伝達は得策とは言えませんでした。そこで重要な役割を担ったのが、宗教画(広義での聖堂装飾)です。礼拝の様子や宗教に関する人物、伝説や神話の世界を描き、流布することでキリスト教はイエスの教えを広めることに成功したのです。

ここで重要なのは、「言葉は絵に劣る」ということではありません。むしろ全員が同じ言語を理解することができ、繰り返し伝えることが可能な状況においては言葉の方が伝達性に優れているでしょう。

特に日本語に言えることですが、言語には「余白」があり、正確に理解するためには文脈を正しく理解し、想像する力を必要とします。その余白が生み出す解釈のブレをなくすため、多くの企業が、ビジョンなどの企業理念を社員に繰り返し説明をしたり、浸透策を講じています。

一方、社外の人にビジョンを伝えようとする時、社内と同じように浸透活動を行うことは不可能ですよね。自分たちが実現したいビジョンを言葉だけに託すのではなく、ビジュアル(絵)も掛け算することで直感的かつスピーディーに世の中に伝達することが可能になるのです。

3:ビジョンが実現した未来を、絵に描けるか

ラスコーで洞窟壁画が描かれ、宗教画がキリスト教の伝播を後押ししたように、情報をビジュアル化することによる伝達性の高さは、企業にとっても有効に使うことができます

例えば、こんなお悩みはないでしょうか。

ビジョンやパーパスを掲げているものの、漠然としすぎていて全員が同じ方向を向くことができていない。日本語でつくった企業理念を翻訳して海外でも浸透させようとしたが、うまくいっていない。他にも、ステークホルダーに自分たちが目指している未来や、サービスの価値が正確に伝わっていないという悩みもあるかもしれません。

こういった悩みを解決する手段の一つが、まさにこれまで説明させていただいた「絵」にすることです。自分たちがビジョンを実現した未来は、どんな未来なのか。それが映像として思い浮かぶくらい細部まで描けていれば、社内においては取り組むべきことが明確になり、社外にもその価値が伝わりやすくなるでしょう。

例えば、TOYOTAの「WOVEN CITY」構想。WOVENCITYを言葉で説明すると「自動運転の車と人が共存し、さらに自然豊かな道が網目のように張り巡らされるという構想」となります。しかし、この説明でどれだけの人がその全貌や展望を理解できるでしょうか。

TOYOTAが引き寄せようとしている未来とそこに向けた取り組みを、多くの人に理解させる役割を担ったのが、こちらのムービーです。

動画の中では、自動車が人を感知し自動でスピードを制御している様子や、人と小型の車が舗道を共有している様子が描かれています。

こういったイメージを見ることで、私たちはこれからTOYOTAが実現しようとしている未来の世界観や、「WOVEN CITYとは何か」を感覚的に理解することができます。

他にも、1988年にAppleが発表した「Knowledge Navigator」という未来のパソコンのイメージムービーには、今でいう音声入力や、テレビ通話の様子が描かれています。

これからパソコンがどんな進化を遂げるのか。人々の生活の中でどんな役割を担うのか。1988年の時点では、パソコンはまだモノクロの時代。そんな時代に「将来パソコン上で、離れたところにいる人と顔を見ながらミーティングができるようになります」と言葉で説明されても、きっとだれもその未来を信じることはできないですよね。それをここまで精緻にビジュアルに落とし込んだことで、Appleがこれから実現させる未来に真実味が生まれ、多くの人がワクワクしたはずです。

4:ビジョンを絵に落とし込む手順

ここまで組織のビジョンの実現における「絵」の重要性について、人類の歴史をもとにご紹介してきました。組織の具体的な未来をありありと描くことを、私たちは「ビジョナライズ」と呼び、これまで多くの企業で「ビジョンを絵にする」お手伝いをしてきました。

それぞれの組織が現状掲げているビジョンの精度やVI(ロゴやブランドカラーなどのデザイン要素)の整備状況など、置かれている状況は千差万別であり、そのため明確なステップを示すことは難しいですが、ビジョナライズを行うにあたっての基本的なステップは以下の通りです。

まずは、掲げるビジョンに至るまでのステップと、それが実現した未来の風景をセッションで紐解き、具体的なストーリーをつくりあげます。このプロセスはたとえばプロジェクト参加者全員で、未来を舞台にした小説を描く「未来小説」などがおすすめです。

なお、一人ひとりの想像の掛け合わせが、思っても見なかった未来を創造する可能性を秘めているため、このプロセスは複数の意思決定者で行いましょう。そのストーリーを元に、「一枚絵」 「映像コンテ」「空間パース」 「プロダクトパース」など最適な方法によって、共感できる 『 未 来 』をビジュアル 化 し て い き ま す 。 

そしてビジュアルをただ作って終わりにせず、次のステップとして組織でどのように実装するか検討することが重要です。それを怠ると、誰の共感も得られない「絵に描いた餅」になってしまうからです。具体的には、作成したストーリーとビジュアルをもとにマイルストーンを描き、中長期の経営・ブランド戦略へと落とし込みます。具体的なKPIなどを設けられればなおよいでしょう。

5:まとめ

本記事では「人類がなぜ絵を描いたのか?」という大きな問いからスタートし、現在も変わらない「ビジョンを描くこと」の重要性についてご紹介してきました。

今日はSDGsやESGなど企業の社会的責任と、存在意義がかつてないほど問われている時代であり、ステークホルダーも多様化している時代。

ビジョンやパーパスを言語化し、企業の存在意義を明確にすることは多くの企業が既に取り組んでいると思います。しかし、それを作って終わりではなく、実現力を高め社内外に伝えるための方法として、人類が長い歴史の中で選択してきた「ビジョンを絵にする」ことも検討してみてください。

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