商品・サービスを世の中に広めるためには、商品・サービス自体の魅力以外にも重要な要素がいくつかあります。消費者がそのブランドに対してどういう認識を持っているか、などの「ブランドの価値」もそのひとつです。
ブランドの価値を向上させることは、消費者の商品購入の際の後押しになるだけでなく、商品を生み出す企業の採用における優秀な人材の確保にもつながります。
そういったブランドの価値という目に見えないものを資産として評価する考え方が「ブランドエクイティ」。
マーケティングに携わっていてよく耳にはしていても、その概念や測定方法などを具体的に理解できていない、という方も多いのではないでしょうか。
今回は、企業のブランドを理解する上で欠かせないブランドエクイティについて、その考え方や構築要素、測定方法までわかりやすく解説します。
1:ブランドエクイティとは?
ブランドエクイティ(brand equity)とは、ブランドが持つ資産価値のことであり、ブランドという形のないものを資産として評価し、その価値を高めるために育成や投資をする際に必要となる考え方です。
例えば、これといった特徴のないありふれた商品でも、人気ブランドの力を借りて付加価値をつけることで消費者の印象が良くなり、より多く売れるようなケースがあるでしょう。こういったケースも、ブランドエクイティが確立されている企業の力を示していると言えます。
ブランドの価値を高めることができれば、マーケティング上で有利になるというのが、基本的なブランドエクイティの考え方です。
ただし、ブランドエクイティは時代の流れとともに変化し、今は価値あるブランドだとしても、何も手を施さなければその価値は徐々に小さくなってしまいます。絶えず意識して育成・投資を行い、ブランドエクイティの向上を図ることが大切です。
2:ブランドエクイティの5つの要素
ブランドエクイティを構成する要素は単一ではなく、複数の要素の組み合わせにより、総合的に判断されます。
この構成要素は、カリフォルニア大学のディビッド・アレン・アーカー名誉教授が提唱したことから「アーカーモデル」と呼ばれています。
アーカーモデルは、「ブランドの名前やシンボルと結び付いたブランドの資産や負債の集合であり、製品やサービスの価値を増大させるもの」と定義し、次の5つの要素から構成されています。
ここからは、それぞれの要素について具体的に見ていきましょう。
①ブランド認知(Brand Visibility)
ブランド認知はブランドエクイティにおける最も基本的な要素で、「そのブランドにどれほど知名度があるか」を表しています。
消費者が購買を決定する際には、無意識に安心感を求めることも多く、無名なブランドより有名なブランドを選ぶ傾向があります。
知名度の高いブランドであればあるほど、より高い資産価値があると評価されるでしょう。また、最近では単純なブランドの知名度だけでなく、ブランドの思想や文化への理解を含めた意味合いで使われることも増えています。
②ブランド連想(Brand Associations)
ブランド連想は「そのブランド名を聞いて、消費者が何を想起するか」を指したものです。
主な連想の内容としては、「どういう商品・サービスであるか」や「主力商品やブランドのイメージ」、「デザイン」などといったブランドに直接関わる連想のほかに、「好きな芸能人がイメージキャラクターをしている」「知人がそのブランドの商品を使っていた」など、さまざまなものが挙げられます。
どんなブランド連想をするかはブランドごとに大きな差があり、同じ業種であっても、全く同じ連想をするということはほぼありません。競合他社との差別化を図るためには、「何で強く連想させるか」、「そのためにどう消費者の記憶に印象を残すか」といったことを考える必要があります。
③知覚品質(Trust & Perceived Quality)
知覚品質は「消費者がそのブランドに抱く品質への評価」のことを指します。この品質は、あくまで消費者が認識する品質を指しており、実際の商品・サービスの品質とは異なります。
例えば、「このブランドの車は故障しにくい」や「このブランドの服は着心地が良い」などといったことが知覚品質にあたります。
消費者の主観でどう思っているか、が重要であるため、企業側やブランドの実態と相違が生じることも少なくありません。
いくら優位性があったとしても、消費者がそう認識しなければ、知覚品質が低いといえます。ブランドの知覚品質を上げるためには、信憑性や説得力を持たせることが肝心です。
④ブランドロイヤリティ(Brand Loyalty)
ブランドロイヤリティは、「そのブランドへの忠誠度や愛着度、信頼度」のことを指し、構成する要素のなかでも非常に重要なものの一つです。
ブランドロイヤリティが高ければ高いほどファンが多くつくことになり、そのブランドの商品を継続的に購入する割合も高まっていきます。
また、ブランドに強い愛着を持つ消費者は、新製品の購入などをした際に自発的に周囲に宣伝してくれることも多いため、新規顧客の獲得にもつながります。
さらに、競合他社の商品へ流れてしまう可能性も低下するので、安定したブランド展開にはブランドロイヤリティの向上は欠かせないでしょう。
⑤その他の資産
ブランドエクイティにおけるその他の資産は、前述した4要素以外の無形資産全般を指します。例えば、ブランドに関する特許や商標権、著作権といった知的所有権などもこれにあたります。
特許があれば「独自の技術を法律で保護してもらう」ことができ、商標権を持っていれば「競合他社が同様のデザインや名前を使用することができなくなり、そのブランドの独自性につながる」など、競合他社からブランドを守る力になります。
3:ブランドエクイティを確立・向上させるメリット
ブランドエクイティは、向上させることで直接的に売上や利益に良い影響が出るという大きなメリットがあります。
ブランドエクイティを構築して育てることで、そのブランドにファンが付き、「このブランド好きだから、新作が出たら必ず購入する」という消費者も現れるため、結果的に新商品開発の成功率向上になるでしょう。
また、「初めて購入する商品は信頼できるものを買いたい」というのは消費者なら当然の考え方であり、ブランドの知名度が高ければ「有名ブランドなら信頼できそう」という思考にもなりやすく、新規顧客の獲得にもつながります。
現代では、どのような商品・サービスにも必ずと言って良いほど競合が存在しており、ブランドエクイティはそれらの競合よりも一歩抜きんでるために必要な要素にもなるでしょう。
4:ブランドエクイティピラミッドとは
ブランドエクイティの構築プロセスを段階ごとに示したものを「ブランドエクイティピラミッド」といいます。
ブランドエクイティピラミッドは、ダートマス大学のケビン・レーン・ケラー教授が提唱したことから「ケラーモデル」と呼ばれています。(※出典:ケビン・レーン・ケラー著『戦略的ブランド・マネジメント』)
前述のアーカーモデルと比べると、顧客ベースでブランドエクイティを考えているのが特徴的です。
レベル1が達成できれば「普通のブランド」、レベル4まで達成できれば「ブランドエクイティが高いブランド」というように、ブランドをマネジメントするプロセスをピラミッド型で表現しています。
ピラミッドは大きく4段階に分けられ、ブランド価値を高めるうえで「理性的な要素を重視するルート」、もしくは「感情的な要素を重視するルート」の途中分岐があり、合計で6ブロックで表現されることが一般的です。
ブランドエクイティピラミッドでは、どちらのルートでブランドエクイティの構築を進めたとしても、最終的には同じところを目指すことになります。
レベル1 ブランドの認知(アイデンティフィケーション)
もっとも下の階層にある最初のステップは、そのブランドがほかのブランドと区別できるように、認知を広めるプロセスであり、ブランドエクイティの5要素のなかの「ブランド認知」の部分にあたります。
企業としては、どういう商品・サービスを提供しているブランドなのか、ほかのブランドとは何が違うのか、などを知ってもらい、印象づけるための段階といえます。
ピラミッドの上部を支えるためには、ブランドの認知を可能な限り高め、土台となる母数を増やし、深く広い認知を獲得しなければいけません。
レベル2 ブランドの意味付け(ミーニング)
次はブランドエクイティの構成要素の、「ブランド連想」にあたる段階です。
ここでピラミッドは2つのルートに分岐します。
理性的ルートであれば、「ニーズに合わせた機能や効能を持っているか」などのブランドパフォーマンスで、感情的ルートであれば、「商品やサービスを利用してどんなイメージを持ったか」などのブランドイメージで、ブランド連想が決まります。
そのブランドの商品は何をするもので、どういうイメージを持ってほしいブランドなのかなどをしっかりと伝え、それが意図した通りに伝わっているかを調査する段階です。
レベル3 ブランドに対する反応(レスポンス)
ブランドに対する消費者の反応や評価といった「知覚品質」が決定する段階です。
ピラミッドはここでも分岐しており、理性的ルートでは、「実際に利用して品質や機能がほかと比較してどうだったか」を判断し、信頼できるブランドかどうかの指標となります。
一方、感情的ルートでは、「安心して利用できたか」や「利用経験は楽しかったか」、「操作や感覚でストレスがないか」などを評価します。
このような主観的な評価が、ブランドに対する評価を大きく左右します。
レベル4 ブランドに対する共感や同調(リレーションシップ)
ピラミッドの頂上にあたるのは、ブランドロイヤリティの発生です。
前段階までのブランドの意味づけやそれに対する反応によって、ブランドへの愛着や信頼性などが生まれる段階です。
平均的に見て、レベル3までは到達する消費者は多くいますが、レベル4まで到達する消費者はそれほど多くありません。
ブランドと顧客との間に心理的な絆がある、ともファン同士が絆で結ばれている、とも言える状態です。その結果、消費者は自発的に周囲に勧め、ブランドや企業を支えてくれる存在となってくれるでしょう。
5:ブランドエクイティの3つの測定方法
ブランドエクイティの向上を図る際に、その測定は必要不可欠です。
ただ、数値に見えづらい「ブランド価値」を資産として評価するため、その測定の仕方がわからない方も多いでしょう。
ブランドエクイティの測定方法は大きく分けて3つあります。
- ネットプロモータースコア(NPS®)から測定する
- 財務情報から測定する
- ブランドリプレイス費用から測定する
この3つの結果を総合的に見ることで、どの程度ブランドエクイティが確立できているかを把握することが可能です。
①ネットプロモータースコア(NPS®)から測定する
顧客ロイヤリティの測定によく使われる手法の一つとして、ネットプロモータースコアというものがあります。
顧客に対して、自社の商品やサービスをどの程度勧めたいかなど、0から10までの11段階でアンケートを取り、最高と回答した人数から批判的な回答した人数を引いたスコアが、ネットプロモータースコアです。
ブランドエクイティの最終目標の一つはブランドロイヤリティの向上ですが、顧客ロイヤリティがブランドロイヤリティにつながることは珍しくありません。
そのため、顧客ロイヤリティを測るネットプロモータースコアも重要であり、ある程度のブランド価値を可視化することができます。基本的に正確なブランドエクイティの評価は割り出すことは難しいですが、ネットプロモータースコアは最も簡単かつ、現実の顧客の声を拾える方法として、効果的な測定方法といえます。
②財務情報から測定する
企業を買収・合併する場合、評価の基準になるのは、単純に純資産だけではありません。
無形資産分も上乗せしたうえで買収額が決定されるため、財務情報から測定する必要が出てきます。それを「超過収益力」や企業の「のれん」といいますが、算出する際の無形資産のなかにはブランドの価値も含まれます。
ただし、算出の方法によってもブランド力をどの程度重視したのかが異なるため、複数の意見を議論する必要があります。
専門知識を持つ人物を集め、財務情報から企業の価値を算出し、それに対してブランド力がどれくらいの影響を与えているかをすり合わせることで、ブランドのネームバリューにどれほどの価値があるのか見立てていく方法です。
③ブランドリプレイス費用から測定する
ブランドリプレイス費用とは、そのブランドの商圏外に店舗等を出店した際にかかる費用から算出されます。
例えば、知名度の全くない地域に出店して現在と同じ認知度を獲得、ブランドイメージを確立するまでにどれほどの費用がかかるのかというコスト面を測定する方法です。
この費用は、「アイデンティティ確立のための費用」「認知獲得のための費用」「顧客維持のための費用」の3つの項目から考えることができます。こちらも正確な算出根拠を明示することは難しく、考え方のフレームの一つだと理解していただければ幸いです。
6:ブランドエクイティ確立には、価値あるミッション・ビジョンが不可欠
ブランドエクイティを確立するためには、まず社員一人ひとりがそのブランドを理解し、常に体現していく必要があります。
しかし、ブランドという概念自体が曖昧で、「自社のブランドがどういうものなので、何を目指しているのか」が扱う商品・サービスと繋がっていなかったり、社員の間でも浸透していない企業は世の中に多く存在します。
それを避けるためには、ブランドの核となる「ブランドアイデンティティ」を確立させる必要があります。
そのブランドアイデンティティの起源となる企業のアイデンティティを言語化し、表現するのがミッション・ビジョンです。
本来、商品やサービスのブランドは、それを生み出す企業や組織・人の思想から切り離してしまうと、その企業が作りだすブランドとしての必然性が生まれず、長い目で見た時に価値を高め続けることが困難になってしまいます。
少し商品・サービスのブランド構築からは遠回りになってしまいますが、ブランドをつくる企業として、実現させる価値のあるミッション・ビジョンを設定し、企業や社員一人ひとりがそれを徹底的に体現していく。そのことがブランドエクイティの確立の前提として必要な要素と言えるでしょう。
7:ブランドエクイティ構築の成功事例
ブランドエクイティという概念はここ数年で生まれたものですが、有名企業のなかにはその前から、ブランドエクイティを構築して成功している企業があります。
ここでは、特に有名な企業を3つご紹介します。
ダイソン
ダイソンといえば、「吸引力の変わらないただ一つの掃除機」と、すぐさま思い浮かぶ方も多いでしょう。
ダイソンはこのキャッチフレーズで記憶に残りやすく、当時としては独自性の高い「掃除機+吸引力」という特徴をアピールすることでブランドの認知を広げました。機能的なセールスポイントをブランド連想の中心に据え、消費者に良いイメージを与えた結果、有名な企業へと成長しています。
それ以降もダイソンは、後追いで似た仕組みの掃除機を販売している企業にも負けず、高いブランドエクイティを低下させずに維持している企業です。
無印良品
多くの企業は、家具販売なら家具業界のなかで、衣服販売なら服装業界のなかでジャンルを絞り、ブランドエクイティを構築するのが当然の流れです。
しかし、無印良品はシンプルさというコンセプトを先に立て、生活や暮らしに関わるあらゆるジャンルの商品を展開しながらも、唯一無二のブランドエクイティを構築しています。
シンプルというのは一見印象に残りにくく、感情型のブランドエクイティ構築には不利に感じる方が多いでしょう。
無印良品では、あえてエッジを立てず、シンプルでナチュラルであるというブランドイメージを定着させ、高い次元での汎用性を追求することで、ブランドエクイティを確立しているといえます。
そして、質実剛健な商品がブランドロイヤリティも高めた結果、無印良品のコンセプトに共感する方が多く、現在は日本のみならず、海外にも多くのファンを持つブランドとなっています。
スターバックス
スターバックスは、質の高いコーヒーという機能性もありますが、それ以上に感情性を考慮したブランドエクイティがある企業です。
コーヒーの品質にこだわることはもちろんのこと、オシャレで居心地の良い空間「サードプレイス」を創出し、提供しています。
また、フランチャイズ戦略は採用しておらず、全店舗を直営にすることでスタッフの品質を維持し、「最高のコーヒーブレイクを楽しめるお店」というブランドイメージを確立しています。
このように消費者に、コーヒーだけでなく、コーヒーを飲む環境にまで関わることで、最高のコーヒー体験を提供しようとするブランド戦略は、コーヒーチェーンとしてこれ以上ないほどのブランドエクイティの構築に成功しているといえます。
8:まとめ
ブランドの価値は目に見えづらく、ブランドエクイティの確立や向上は非常に難しいことですが、成功を収めるためには必要不可欠な要素です。
ブランドに対し、消費者にどのようなコンセプトやイメージを持ってもらい、どのようなブランド戦略を立てるべきか、その結果、どのように効果が出ているかの検証など、一筋縄ではいかないことも多いでしょう。
この記事で解説した構成要素や測定方法が、ブランドエクイティ確立の足がかりになればと思います。
また、繰り返しにはなりますが、ブランドエクイティの確立の起点となるのは、本当の意味で社会的な価値のあるつくり手が掲げる「ミッション・ビジョン」です。
まずはコアとなるミッションやビジョン、経営理念を明確にし、それらを基点に経営や事業の方向性が決めることが、ブランドエクイティ確立の第一歩となります。
自社はなにを目指し、どうあるべきかをしっかりと考え、顧客の望む価値を考え、自社独自のブランドエクイティとは何かを考えていきましょう。
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