みなさん、突然ですがブランディングとマーケティングの違いわかりますか?
ブランドの起源は牛の焼印で……とか。マーケティングは1900年ごろのアメリカで始まったものだけど、マーケティング第一人者であるコトラー氏やコトラー氏が影響を受けたドラッカー氏によると、実は起源は日本にある……という説明も見かけます。
参考にする本や記事によって定義や説明はちょっとずつ異なる。それがブランディング、マーケティングの一般的な理解度なのではないでしょうか。
会社でもマーケティングの部署がブランディングをやっていますし、マーケティングと広告・プロモーションの違いもよくわからなかったり。一般的にはブランディングは企業の約束で、マーケティングはその実現方法、と言われますが、いまいち掴みきれない気もします。結局、どっちがどっちなの?となってしまいますよね。
今回解説したいのは、そういったブランディングにまつわるあれやこれや。その違いを考えつつ、ブランディングとマーケティングを地続きに考えることの重要性まで理解していただけることがこの記事のゴールです。
それでは早速、見ていきましょう!
1:ブランディングとマーケティング、何が違うの?
ちょっと最初にふれてみたいのが、広辞苑でそれぞれがどのように定義されているか。いきなり広大なネットの海に漕ぎ出すよりも、まずは辞書をひいてみます。
ブランディング:
企業などが、自社製品や企業そのものの価値やイメージを高めようとすること。ブランド化。
マーケティング:
商品を大量かつ効率的に売るために行う、市場調査・広告宣伝・販売促進などの企業の諸活動。
(出典:広辞苑 第7版)
これだけでも、概要の差は理解ができそうですね。ブランディングは、対象のイメージを高めようとすること。マーケティングは売るための活動であることだと。あくまで概要ですが、頭に入ってきやすいと思います。
次はよくブランディングの教科書などで取り上げられる違いの説明ですが、自社や商品と顧客との関係性を自分と他人で置換えて説明することがありますよね。
自分自身が「自分は優秀です」と自己申告をして、相手に「この人は優秀だ」と思わせるのがマーケティング。
自分自身が「自分は優秀です」と自己申告することなく、相手が何らかの理由で自分のことを「この人は優秀だ」を思ってもらえることがブランディング。
つまり、情報発信者の立場で考えてみると、下記のような分類ができますね。
マーケティング:
自ら直接メッセージを発して、相手に自分のイメージを伝える。
ブランディング:
何らかの方法で、相手に自分のイメージを持ってもらう。
自ら相手に、直接メッセージを伝えるのではなく、相手に自分のイメージを持ってもらう(感じてもらう)。ブランディングは、最終的には相手の頭の中にどうやって理想的な自分のイメージを作るかですね。あくまで、相手に自主的に感じてもらうことがポイントです。
ちなみに、この相手の頭の中にイメージを作る際に、自ら直接メッセージを発せずに第3者に話してもらうのがPR、直接的でより強いメッセージを発するのが広告になります。
これらを実際の企業活動に当てはめてみると、マーケティングとは、そもそもは市場調査や広告宣伝など、ターゲットへのリーチに関わる施策で、企業や商品の価値をどうやってターゲットに伝えるかという方法であり、企業や商品の価値自体を高めようとする活動がブランディングと言えそうです。
しかし、定義というものは常に変化をするもので、特にマーケティングは手法の変化とともに、その役割も変わってきています。
本来、マーケティングとは対象となる企業や商品ありきで考えられていたのですが、現在はD2C(デジタルtoコンシューマー)という考え方のもと、消費者と商品開発の間にあったタイムラグがなくなり、商品を実際に使った消費者の声がリアルタイムで商品改善に活かされるようになりました。
つまり、テクノロジーの進化によって、マーケティングが下流から上流にフィードバックされることにより、価値開発にも関わることで、直接企業や商品の価値向上に大きな影響を与えるようになっています。
少し話がそれましたが、今回のテーマは、ブランディングとマーケティングの違いでしたね。まずは、その違いは理解していただけたでしょうか?
それではもっと詳しく、それぞれの役割やどのように関係しているのかをみていきたいと思います。
1-1:ブランディング=ブランドをビジネスに貢献させること
では次に、それぞれをもう少し深めて、解説していきましょう。ブランディングとは、企業や商品の価値を高めて、ターゲットの頭の中にいいイメージを作るための活動のことです。
商品そのものの提供価値に加えて、「コンテンツ提供価値」と「リレーション提供価値」の2つの付加価値が加わったものが、ブランド価値になります。
商品提供価値=商品そのものの価値
たとえば、味や機能そのもの
コンテンツ提供価値=周辺も合わせての価値
たとえば、商品の周辺にある雰囲気や演出
リレーション提供価値=ブランドと顧客のつながりのなかで生まれる価値
たとえば、ブランドと顧客、顧客同士の関係も価値になること
↓
商品提供価値+コンテンツ提供価値+リレーション提供価値=ブランド価値
人で例えてみます。その人の佇まいや印象、イメージなども含めた全部の魅力がブランド価値。印象を良くするために、独自の考え方を身につけ、人間力を磨き、言動に気をつけたり人の接し方を考えたりするのがブランディング、というわけです。
喋り方、誰と付き合うか、どんなことを強みにするか、すべてがその人のイメージを左右します。毎日の積み重ねで人の印象がつくられるのと同じように、ブランディングも、やりつづける、小さく変わり続けるようなことなのです。
1-2:マーケティング=商品を売るための活動
マーケティングは「market」をつくること。つまり市場をつくるという意味を持ちます。企業や商品の価値をより多くの人々に届けるのがマーケティングの役割です。
よくマーケティングを構成する要素として、4P(product, price, place, promotion)に分解されることもありますね。
具体的には、新商品の立案から、価格設定や流通・販売チャネルの選定、商品が世に出た後の販売拡大、顧客の声のフィードバックまで、商品の前後を繋げ、改善のためのループを作っていくような仕組みを作っていきます。
どのような商品が市場から望まれているか、どうやって商品を作るか、商品をどう流通させるか、どれくらいの値段か、どのくらい製造するか、どう広告するか、などもマーケティング。あくまで商品を売るための活動です。
1-3:ふたつの違い(BeingとDoing)
それぞれの違いを別の表現で説明するなら、ブランディングはBeingで、マーケティングはDoingと表現することができます。
商品や企業の目的とは何か、どうあるべきか、という根本から考えることはBeingであり、ブランディングと言えます。企業で言えば、理念(ミッション・ビジョン)にあたります。
一方でマーケティングはDoingです。目的を達成するために、どうすべきか。どうやって売るか、どうやって顧客に届けるかがベースにあります。
ブランディング=Being=どうあるべきか
マーケティング=Doing=どうするべきか
1-4:ふたつの違い(WhyとHow&What)
理解を深めるため、ちょっと違う角度からも考えてみます。「ゴールデン・サークル」なるものを使って説明してみましょう。
ゴールデン・サークルそのものについては、「もう知ってるよ〜」という方も多くいらっしゃると思うので、説明は簡単に。物事の本質を説明する際に重要となるフレームのことで、Why Hou Whatの3要素から構成されています。
・Why=なぜやるのか
・How=どうやるのか
・What=なにをやるのか
ゴールデンサークルの中心にあるのはWhy。これについて考えるのがブランディングです。なぜやるのか、使命や意義を考えること(あくまで定めて終わりでなく、考え続けること)がブランディングにあたります。
その「なぜ」に伴って、何をどうやって、と手段・手法を考えるのがマーケティングです。
ですからマーケティングの具体業務も、企業の理念とまったく関係ないことをやるのは避けましょう。マーケティングが迷子になっているときに正すべきは、目の前のマーケティング手法でなく、土台となるコーポレートブランディングである場合もあるかもしれません。
2:ブランディングとマーケティングは行ったり来たりせよ!
1章を読んで、ブランディングとマーケティングはまったく別物なの?と思った方もいらっしゃるかもしれません。
両者に違いはありつつ、完全には分けきれないものです。売り方や方法などHOWづくりはマーケティング、意義や考え方などのWHYづくりは、ブランディングですが、その接点はシームレスであるのが理想で、相互を連携して考えることが大事なのです。思想と計画・実行を切り離さないようにしましょう。
2-1:ブランディングをするからマーケティングが活きる
たとえばわかりやすく広告キャンペーンの例からみていきましょう。
広告キャンペーンは、マーケティングの領域ですよね。よく季節ごととか、定期的にキャンペーンや広告を行います。
一般的に、そういった単発キャンペーンは一定の効果が出たら終わります。
しかし、ブランディングを普段から力を入れていて、土台があったらどうでしょうか。たとえば固定の顧客を獲得できている状態であったりすれば、ちょっとした商品の情報を勝手に拡散してくれる。元々の商品の良さを知っていてもらえるから、キャンペーンを行っても「やっぱいいよね」となりやすい。
ブランディングという土台の上に、マーケティングをふまえたプロモーションが積み重なっていくイメージですね。
広告で狙った以上の効果が積み重なっていくことが、ブランディングを行っていると期待できるのです。
2-2:ブランディングは増幅装置
極端な話をすれば、ブランディングがなくても商売はできます。ニーズがあるものをつくって、正しい相手に、適切無価格で、適切なチャネルを使って売ればいい。それでよければ、マーケティングだけでOKなのです。
ただし、それでは商品そのものの価値以上で売ることは難しいです。長期的な顧客はつかないだろうし、付加価値もないので、やがてやってくる価格競争からも逃れられない。そこでブランディングが必要になってくるのです。
1章を思い出してみましょう。ブランディングとは、コンテンツ提供価値とリレーション提供価値で、ブランド全体の価値を大きくすることでした。商品そのものだけでなく、そのベースにある思いや周辺の価値によって、商品全体の価値を増幅させてくれるもの。ブランディングを正しく行うと、商品そのものもよりよいものがつくれるし、価格競争をしなくてよくなる、どこでどんな人に売るのかも変わってくるし、広告費・広告手法も変わるのです。
ということはつまり、ブランディングは4P(マーケティング)にかなり影響します。だから完全に別物として考えないようにしましょう。ブランディングを業務・行動レベルに落とし込んだものがマーケティングととらえてみてもOKです。
商品そのものだけ→売れる
けれど…
商品+演出など周辺の価値(コンテンツ提供価値)+顧客との関係から生まれる価値(リレーション提供価値)→もっと売れる!
ということは…
ブランディングで、もっと売る。ブランディングに基づいて4Pは変わる。
つまり…
ブランディングとマーケティングは密接に関係している!!
もっというと…
ブランディングを業務・行動に落とし込んだものがマーケティング!!!
3:ブランディングとマーケティングの2つで、ブランドは成長する
ブランディングとマーケティングは独立した存在ではなく、相互に関係し合うものであることを見てきました。
企業や商品の価値自体を高めようとする活動がブランディングで、その価値をどうやってターゲットに伝えるかがマーケティングということが理解できたと思います。
基本的に、この2つはビジネスをする上では切り離せない関係です。いいところがあっても、伝える手段がなければ、誰にも気づかれませんし、どんなに声高にメッセージを叫んでも、要らないものは要りませんよね。
また本来であれば、ブランディングをしてからマーケティングをするという流れが王道ではありますが、実際の世の中には、世の中のニーズをうまく掴むことによって売れ筋商品が先に誕生して、あと追いでブランディングを行うこともあります。
商品や自社のフェーズに合わせて、ブランディングが必要なのか、マーケティングが必要なのかを見極めることが必要です。
以上、今回はブランディングとマーケティングの違いについてまとめてみました。そして、これら2つはまったく違うものではなく、互いに密接に関係していることが理解できたかと思います。
いま、目の前の業務はどういった役割を持っているものなのか。いま、自社に必要なのは何なのか。少しでも考えを前に進めるための、お役に立てたら幸いです。
*この記事で参考にした書籍*
安原智樹(2009)『新板 マーケティングの基本』日本実業出版社.
安原智樹(2014)『ブランディングの基本』日本実業出版社.
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