カスタマージャーニーとは、一言でいうと「顧客がブランドを体験する旅」のこと。例えば商品との出会いから購入までに、ウェブ検索やクチコミで調べ、店舗で手に取ってみる。このようなプロセスを指します。
新しい商品やサービスを売り出す際や、既存のものが伸び悩んでいる際、顧客とのより良いコミュニケーションを図るために、よく用いられるマーケティングのツールです。
本記事ではこのカスタマージャーニーについて、考えるメリットや重要なポイントをご紹介するとともに、施策を考える手助けとなるカスタマージャーニーマップのつくり方をご説明します。
実はBtoBの場合、BtoCの場合でマップのつくり方は少し異なるのですが、今回はよく使われるBtoC向けについてお話しします。
鍵を握るのは「ペルソナ」の設定。そのことを念頭に、ぜひ読み進めてみてください。
1:カスタマージャーニーとは
「カスタマージャーニー」とは、直訳すると「顧客の旅」。顧客がある商品やサービスを知り、興味を持ち、調べて、購入する。この一連のプロセスを、旅に例えた言葉です。意味を踏まえてもう少しわかりやすく訳すと、「顧客がブランドを体験する旅」と言えるでしょう。
現在ではCX(カスタマーエクスペリエンス)と言われる言葉ありますが、その顧客体験を時間軸で追っていくものがカスタマージャーニーと言えるでしょう。
そしてこのプロセスの各段階における顧客の行動・思考・感情を可視化することで、企業のマーケティング施策の助けとなるツールが「カスタマージャーニーマップ」。そしてこのカスタマージャーニーマップを作成するにあたり、体験の主体として設定された顧客像を「ペルソナ」と呼びます。
初めに“顧客がある商品やサービスを知り、興味を持ち、調べて、購入する”プロセスを例に出しました。しかし実は、カスタマージャーニーは購入までのプロセスだけを指すものではありません。
カスタマージャーニーは、スタートとゴールを自由に設定し、スタートにいる顧客がゴールにたどり着くまでのプロセスを可視化するもの。例えば一度商品を購入した顧客が再度商品を購入するまででも良いですし、オンラインショップしか利用しない顧客に店舗へ来てもらうまででも良いのです。
さらに言えば、一つの企業に一つ、一つの商品に一つ、というものでもありません。一つの商品に対しても、初めて購入する人とリピート購入する人では、たどるプロセスが異なります。その商品は初めて購入するけれど、以前その企業の別の商品を購入したことがある人と、その企業の商品自体を初めて購入する人でも異なります。
カスタマージャーニーやカスタマージャーニーマップは、求めるゴールや設定したペルソナによって、いくつも作り分け、使い分けるものなのです。
2:カスタマージャーニーが再注目されている理由
カスタマージャーニーやカスタマージャーニーマップは、マーケティングの世界で以前から使われているもので、新しい考え方ではありません。しかし近年、以前にも増してその重要性が注目されているのには、主に二つの理由があります。
一つは、企業(商品・サービス)と顧客との接点が多様になってきていること。インターネットが生まれる前までは、企業と顧客の接点は多くが店頭かCM。生活者に購買を促す手法は限定的でした。
しかしインターネットの普及により、Web広告はもちろん商品の紹介ブログ、企業のWebサイトなど、接点が急増。さらに近年ではSNSが広まり、インフルエンサーのみならず一般の人々までも、企業と顧客の接点になりえる時代になってきたのです。
このことにより、企業は顧客との接点をどこにつくるか、直接的に表現すると、どこに広告費をかけて宣伝をすれば良いのかがわかりづらくなりました。
二つ目の要因は、前述のカスタマーエクスペリエンスの充実を通じて、カスタマーサクセス(顧客が商品やサービスを購入後に望む結果を得られること)を重視する世の中になってきたこと。何が何でも商品を買ってもらうことだけを目的にしていては、企業は生き残れない。ブランドの価値を高め、商品だけでなく企業全体を好きになってもらうことが、大切な時代になってきました。
そのために、企業は顧客との関係性をあらゆる場面で、かつ長期的な接点において、より良いものにすること、顧客とのコミュニケーションをしっかりと計算して行うことが必要です。このコミュニケーションを狙い通り行うためにも、上手くいかないときに軌道修正をする際にも、軸となるカスタマージャーニーは重要なのです。
近年ではマーケティングオートメーション(MA)ツールも増え、企業が独自に設定したカスタマージャーニーマップに沿って、マーケティング施策を実施することも手軽になってきました。MAツールの普及も後押しして、カスタマージャーニーの重要性が改めて見直されてきた側面もあるのではないでしょうか。
コラム:カスタマージャーニーはもう古い?
カスタマージャーニーについて調べてみると、たびたび“古い”という主張を見かけることがあります。1年もあれば流行が移り変わる時代に、ずっと以前からある考え方は古いように感じてしまいますね。果たして本当に、もう通用しない考え方なのでしょうか。
古いと言われる理由の一つに、「顧客の行動は多様化しすぎて、一概に予測できない」というものがあります。確かに一つのカスタマージャーニーをつくって、それ通りに施策を設計していくという考え方は現代にスピード感や多様性にあいません。しかし、だからといってまったくカスタマージャーニーを設定しなくてもいい、という理由にはなりません。
顧客との接点は多様化し、顧客の行動も多様化していますが、顧客は必ず何らかの方法で企業と接触し、何らかのプロセスを経てゴールにたどり着いています。その多様なプロセスを一つずつ紐解き、基本的なカスタマージャーニーを作成し、ターゲットによって分岐させながら、進化させていけば良いのです。
3:重要なのは、ペルソナの考え方
カスタマージャーニーを考える上で、最も重要なのは「ペルソナ」です。マーケティングに少しでも携わった方ならお分かりだと思いますが、ペルソナは、行動を起こしてほしいターゲットを具体的にイメージした人物像のこと。
ペルソナをしっかりとつくり込むことで、カスタマージャーニーの考えやすさや、実現のしやすさが大きく変わってきます。
先に述べたように、カスタマージャーニーは、一つの商品に一つというものではありません。求めるゴール、ゴールにたどり着いてほしいペルソナごとに、いくつも設定するもの。
これを把握した上で、ペルソナを設定する際の重要なポイントが二つあります。
3-1:「都合の良い人物像=ペルソナ」ではない
ペルソナをつくる際にやってしまいがちな大きな間違いの一つに、「都合の良い人物像をつくりあげてしまう」ことがあります。
例えば20代の働く女性をメインターゲットに開発したファンデーションについての、カスタマージャーニーを設定する際。
都内在住一人暮らし、ファッション感度が高い、未婚、年収600万円のキャリアウーマン、SNSのフォロワーは1000人以上……。と設定したとしましょう。おそらく多くの女性が、憧れるような方ですね。
もちろんこのような方ばかりが買って使ってくれれば、SNSでも宣伝してくれるでしょうし、商品のイメージも上がって都合が良いですね。でも現実はそううまくいくものではないことは、冷静に考えればわかるはずです。
なぜこのような事態が起こるかというと、理由は一つ。データを見ずに、妄想でペルソナを設定しているからです。
「こんな人が買ってくれたらいいな」という妄想で都合よく設定したペルソナは、カスタマージャーニーマップを作成する際にも、紙の上で都合よく動いてくれます。しかしそれをマーケティング施策に落とし込んで実施してみると、不思議なことに何の効果も出ないのです。実際の購買層は、30代の働くママだったのですから。(というようなことが、起こってしまうのです)。
ペルソナの設定において重要なのは、現実的に考えてメインのターゲットとなる人々の、代表となるような人物を設定することです。既存の商品やサービスの場合は、購買層の分析やアンケートをとったり。新商品や新サービスの場合は、市場調査を行ったり。
そうしてデータに裏付けされた人物像をペルソナに設定することが、カスタマージャーニーを使ったマーケティングの第一歩です。
3-2:「最重要顧客=ブランドパートナー」から考える
一つの商品やサービス、一つのゴールに対して、カスタマージャーニーは一つではないとお話ししてきました。ではマーケティング施策を実施しようとするとき、全ての考えられるターゲット層、異なる全てのゴールについて、カスタマージャーニーを設定しなければならないのでしょうか。
もし人手や資金などのリソースが有り余っているようなら、ぜひそうするのが良いでしょう。しかしある程度的を絞り、できれば一過性のものでなく、今後も長く効果をもたらすような施策が良いと考えているならば。
まずはペルソナに設定するターゲットを、ブランドパートナーにすることをおすすめします。
ブランドパートナーとは、マーケティング用語でよく使われるロイヤルカスタマーを、もう少し丁寧に位置づけしたもの。そのブランドにとっての理想のお客様です。
ただたくさん買ってくれるだけではなく、ブランドの価値をよく理解し、その価値についてまわりの人に広めてくれる人。そして、ブランドのいまを愛しているだけではなく、これからの未来を一緒につくっていってくれる存在です。
ロイヤルカスタマーとは
・購入量(購入額)がたくさんあって
・いまのブランドが好きで離れないお客様のこと
ブランドパートナーとは
・購入量(購入額)がたくさんあって
・いまのブランドが好きで離れず
・ブランドの価値を理解し広めてくれる
・ブランドと一緒に未来まで歩んでくれる
・ブランドを共創するお客様
少しだけ詳しく説明しますね。既存の顧客は、ブランドパートナーを含めて4つに分けられます。この図では、新規顧客の獲得と顧客生涯価値それぞれの貢献度を軸に分類しています。
ブランドパートナーをより増やしていくためには、それ以外の3つのカテゴリにいる顧客のカスタマージャーニーを描き、アプローチしていく必要があるでしょう。
一方で、これまで全く接点のなかった顧客に対して、アプローチを行いたい場合もあるでしょう。この場合、4つの分類に当てはまる顧客はまだ存在していませんが、その際にも意識すべきはブランドパートナー。
今後その商品やサービスにおいて、ブランドパートナーになってほしい人物像はどんなひとか。そのペルソナを描いて、アプローチしていくことが重要です。
ブランドパートナー自体の詳細な定義や設定の仕方は、以下の記事で詳しく説明しています。もし現在、企業やブランドにとってのブランドパートナーを設定していなければ、まずはブランドパートナーを考えてみてください。
4:カスタマージャーニーマップのつくり方
ではここからいよいよ、カスタマージャーニーマップのつくり方について説明していきます。とはいえ、前述のように新しい考え方ではありませんから、企業や個人によってさまざまなつくり方があるでしょう。
ワークショップにもいくつかのやり方があります。ここではステップがわかりやすくまとめられた「はじめてのカスタマージャーニーマップワークショップ(加藤希尊 著)」を参考に、作り方をご説明します。
紙やWebツールなどに、カスタマージャーニーマップを描きながら進めてください。主に4-4から4-7のステップについては、行動・接点・感情・対応策が縦のラインでつながるように描くことで、わかりやすいマップをつくることができます。
プロジェクトメンバーが既に集まっている場合は、以下のステップを実際にワークショップとして実施しても良いでしょう。
“カスタマージャーニーマップワークショップの7STEP”
1.テーマを決める
2.ペルソナを設定する
3.行動を洗い出す
4.行動をステージに分ける
5.顧客接点を明確にする
6.感情の起伏を想像する
7.対応策を考える
4-1:テーマを決める
最初のステップは、これから始まる全ての土台となる重要な部分。ここでは、以下の3つを設定します。
・カスタマージャーニーのテーマとなる商品やサービス、ブランド
・スタート時とゴール時のペルソナの状態
・スタートからゴールまでの期間
まず今回のテーマとなる商品やサービス、ブランドを決定したら、スタート時とゴール時のペルソナの状態を決めます。
このとき大切なのは、数値で測れる状態を設定すること。例えば、スタート時は「Webサイトで一度商品を購入したが、ブランドについては特別な印象を持っていない状態」。ゴール時は「Webサイトで二度目の商品を購入し、ブランドについて好意的な印象を持っている状態」。
数値で測れる部分は商品の購入回数ですが、それ以外の感情や印象についても、ある程度定めておくとその後のマップ作成が進めやすいでしょう。
4-2:ペルソナを設定する
次に、カスタマージャーニーマップ作成において最も重要な、ペルソナを設定します。先ほどご説明した通り、現在のブランドパートナーや今後ブランドパートナーとなり得る顧客像を明らかにしましょう。
ペルソナの設定では、年齢や性別、居住地や年収などの「基本属性」と、趣味や悩み事、よく使うデバイスなどの「行動属性」とを洗い出します。
ターゲットとなる顧客像の代表となる人格を、特定の個人にまで落とし込み、誰に対しての施策を実施するのかを明確にしましょう。
人物像は細かければ細かいほど良いですが、くれぐれも都合が良いだけの人物に仕上げないよう気をつけてください。
4-3:行動を洗い出す
このステップでは、ペルソナがスタートからゴールまでの間にとる行動を明確にします。
まずはスタートとゴールの行動を、具体的にしましょう。これは4-1で設定したスタートとゴールの状態ではなく、ゴールに向けた最初の行動と最後の行動です。
例えばスタート時は「購入した商品を使用する」「同じ商品を利用している著名人のSNSを見つける」などで構いません。その後は「ハッシュタグをクリックする」や「Webサイトを見る」など、ゴールにたどり着くまで、ペルソナがとる行動をできるだけ多く書き出しましょう。
ここで出たアイデアは、実際の施策を考える際に重要な土台となります。想像力も働かせながら、ペルソナの行動をしっかりと紐解いてください。
4-4:行動をステージに分ける
行動をできるだけ多く考えたら、それらを分類してグルーピングしていきます。「出会い」「リサーチ」「購入」など、行動をステージに分けて移り変わりを可視化しましょう。
行動を分類していくと、足りないステージがあることに気がついたり、こんな行動もとっているはず、と新たな発見があったりします。その場合は適宜追加して、整理し直してください。
4-5:顧客接点を明確にする
行動をステージに分類できたら、次は顧客接点を明確にします。これはペルソナが利用するスマートフォンやPCなどのデバイス、特定のアプリやSNS、CMや店舗などを指します。
ポイントは、自社が提供している接点に限定しないこと。例えば公式にSNSをやっていないからと言って、SNSという接点はないと決めつけてはいけません。
先ほど設定したペルソナの行動に沿って、デバイスだけではなく、店舗へ向かうための「徒歩」や「地図アプリ」なども含めて、細かく接点を考えていきましょう。
4-6:感情の起伏を想像する
行動と接点を可視化したら、その背後にある感情の変化を想像してみましょう。
「かわいい」「行ってみたい」などのポジティブ感情と、「面倒くさい」「わかりにくい」などのネガティブ感情、どちらにも注目してください。
感情の変化は、施策を考える際のヒントになりますから、丁寧に読み解きましょう。また、ゴールの段階での感情はポジティブ感情になることを目標とし、そうならない場合は課題として受け止めてください。
4-7:対応策を考える
ここまできたら、マップ全体を俯瞰して、課題や改善可能なポイントを検討します。これまではペルソナの立場になって考えてきましたが、ここでは企業目線でできることを考えましょう。
行動・接点・感情の横のラインと、縦のステップで考えるのがポイント。
対応策では「好印象を与える」といった曖昧なものではなく、「ポイントを進呈する」のように具体的なものを想定します。
可能かどうかはひとまず置いておいて、やったほうが良いこと、やるべきことを記入してください。
これでカスタマージャーニーマップは完成です。ここからは予算や人的リソースを加味して、実現可能なものや絶対にやるべき施策を進めるフェーズになります。
5:最後に
カスタマージャーニーの最重要ポイントは、ペルソナの設定。ブランドパートナーとなる人物像を設定することで、施策が一過性に終わることなく、持続的に効果を発揮します。
実際のつくり方を見てもわかるように、カスタマージャーニーはペルソナが正しいことを前提に、行動や接点、感情を洗い出し、そこに対する施策を考えています。
ただカスタマージャーニーは、あくまで課題を見つけ、施策を考えるための、ひとつのツールに過ぎません。流行の移り変わりが激しい時代、この方法で施策を考えたからといって、必ずうまくいくわけではありません。
例えば自分自身のSNS知識が遅れていたり、そもそも顧客における商品の使われ方が全く想定と異なっていたり。どんなに緻密にマップをつくったとしても、読み違いの要因は思いもよらないところにいくつもあります。
この方法だけに頼るのではなく、ぜひさまざまな知識や流行を掴みながら、施策の実施に役立ててみてくださいね。
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