【人材要件〜求める人物像の考え方】自社にマッチした人材とは?

採用時の募集要項に書かれることの多い「人材要件(採用要件/求める人物像)」。もう何年も見直されていない、誰が決めたのかもわからない、なんてことはありませんか?

企業によって記載内容がさまざまで、どんな項目を記載すれば良いのかわからない、そもそも自社が求める人物像はどういうものかが曖昧、という企業も多くあるようです。

実は人材要件は、企業と候補者お互いにとってミスマッチを防ぐための重要な要素。

今回は人材要件の必要性や考え方、おさえておきたいポイントをご説明します。

1:人材要件とは

採用における「人材要件」とは、自社が“求める人物像”の基準を明確化したものです。

多くの企業が人材要件に記載しているのは、主に以下のような項目です。

  • これまでの経験
  • 持っているスキルや免許
  • 望ましい人柄
  • 期待する役割

人材要件をしっかりと作成しておくことで、採用に関わる全社員の中で、どのような候補者を求めているかの共通認識を形成できます。また、それを候補者にも周知することで、候補者が自分に合った企業かどうかをあらかじめ判断することができます。

つまり人材要件を正しく定めることは、企業にとっても候補者にとっても、お互いにミスマッチを防ぐことになるのです。

人材要件に記載する項目はさまざまで、上記のように一般的なものを記載している企業や、必須スキルのみを記載している企業、「明るくて元気なひと」「成長意欲が高いひと」のように、具体的過ぎたり、抽象的過ぎたりする企業もあります。どれが良いとは一概には言えませんし、正解もありませんが、どのような項目を記載するかには「企業らしさ」が現れていることを認識しておくと良いでしょう。

例えば必須スキルのみを記載している企業は、評価基準がある程度数値的に定められた、成果主義の企業のような印象を受けます。

一方で「明るくて元気なひと」など人柄のみを記載した企業は、それがなぜ企業に求められているかが分からない上、多くのひとにあてはまる表現なことから、「誰でも良いから採用したい」という印象を与えかねません。

受け取る印象はひとによってさまざまなので、人材要件を作成する際は、自社らしさがしっかりと伝わるかを客観的に評価しましょう。

1-1:人材ポートフォリオから考えよう

企業にはそれぞれ、課題(ありたい姿を実現するために、いま足りないこと)があります。人材採用は、その課題を解決するための手段のひとつと言えます・

そして課題を解決するための人材は、たった1種類のタイプではないはずです

例えば、チームを引っ張るリーダーシップを持った人材も必要な一方で、協調性が高くチームの雰囲気をよくする人材も必要です。

自社の課題に合わせてどのようなタイプの人材が必要かを考えるには、「人材ポートフォリオ」を活用しましょう。

人材ポートフォリオとは、経営戦略から導き出した、企業の人的資源の構成を表したもの。表現の仕方はさまざまですが、主に以下の図のような4象限で作成されることが多いです(軸になる項目は企業によって異なります)。

人材要件を作成する際は、このような人材ポートフォリオをまず用意した上で、それぞれに対する人材要件を考えましょう。

新卒で総合職を一括採用する場合や、若手のポテンシャル採用などは、上の図のような人材ポートフォリオが活用できます。

また同じ営業でも、攻めの姿勢で仕事をとるタイプと、コツコツ外堀から埋めていくタイプなど、1つの職種の中でも複数のタイプを求める場合は、その職種の中でさらに細かい人材ポートフォリオをつくることをおすすめします。

一方で、少数精鋭の企業が1つの職種につき数名のみの採用をする場合などは、4象限での人材ポートフォリオにこだわらず、職種ごとに人材要件を作成しても良いでしょう。

▼上の図について詳しくはこちら
人事なら知っておきたい!同志を集める採用戦略の作り方

2:人材要件作成時のNGポイント

人材要件を考える際は、いくつか押さえておきたいNGポイントがあります。

「とにかく優秀な人材」をイメージした条件にしない

企業や任せたい業務によっては、高学歴な人材や、素晴らしい経験を持った人材を求める場合もあるでしょう。

しかしそうではない業務においても、一般的に誰もが欲しがる条件や、不必要なほど高学歴な人材など、「とにかく優秀な人材」を求める必要はありません

むしろ、高学歴だからといって必ずしも自社で活躍できるかはわかりませんし、培った経験が満足に活用できない職場では、入社してもミスマッチとなってしまいます。

最初から完璧を求めない。育成でカバーできることは記載しない

何もかも持った状態で入社して、即戦力になってくれれば企業としては楽ですよね。しかし特に新卒採用の場合、仕事をする上で必要なスキルをはじめから持っている人材は、そう多くはありません。

最初から完璧に仕事のできる人材を求めず、育成でカバーできることはある程度諦めて、条件を厳しくしすぎないようにしましょう。

あまりに厳しい条件を記載しすぎると、応募者がなかなか集まらず、採用に苦労することにもつながります。

3:人材要件のつくりかた3STEP

では自社にマッチした人材要件を考えるには、どのようなステップをふめば良いでしょうか。

多数の企業の採用ブランディングを担ってきた私たちパラドックスは、以下のような流れで設定していくのが良いと考えています。

(※ビジョン・ミッションに沿うことを前提に)

STEP① バリュー・クレドを基に「求める人物像」が持つ要素を洗い出す
STEP② 洗い出した要素を「ペルソナ」に落とし込む
STEP③ ペルソナを「人材要件」に落とし込む

まず大前提としてお伝えしておきたいのは、企業に応募してくる候補者は、「企業理念に共感」している必要があります。

彼らが共感する企業理念は、“実現したい未来”である「ビジョン」や、“日々果たすべき使命”である「ミッション」など。企業としての在り方や存在意義を言語化したものです。この企業理念への共感なしに人材を採用することは、互いのミスマッチにつながるため、おすすめできません

ただビジョンやミッションは、企業によりますが、人材要件に落とし込むには曖昧な表現であることが多いですよね。

そのため人材要件は、より具体的なイメージを持って考えるために、ビジョンやミッションをさらに個人の行動や価値観へ落とし込んだ「バリュー」と「クレド(スピリット)」を基にすることをおすすめします。

顧客(市場・社会)に対して“約束する価値・強み”が「バリュー」であり、従業員が“大切にすべき精神・行動指針”である「クレド(スピリット)」です。

人材要件を考える以前に、企業理念にバリュー・クレド(スピリット)やこれに似た項目がない場合は、企業理念を見直すか、自社にとってのバリューやクレドは何かをある程度言葉にしてから、人材要件の設定に進むようにしましょう。

▼ビジョンについて詳しくはこちら
ビジョンとは?組織の進む道が定まる実践的なビジョンの知識と作り方。
▼ミッションについて詳しくはこちら
ミッションとは?会社のあるべき姿や使命を明確にするミッションの知識と作り方。
▼バリューについて詳しくはこちら
バリューは顧客との約束。ミッション・ビジョンとの違いとは?
▼クレド(スピリット)について詳しくはこちら
クレドとは?社員共通の価値観を示す、クレドのつくり方と浸透策

3-1:STEP① バリュー・クレドを基に「求める人物像」が持つ要素を洗い出す

企業理念の中でも、「ビジョン」「ミッション」は企業全体の方向性を示したもの。曖昧な表現も多く、そのままでは個人の価値観や行動に落とし込むのは難しいものです。

そのビジョンやミッションを踏まえて、個人の価値観や行動に落とし込んだものが、「バリュー」や「クレド」です。

この2つを基に、「求める人物像」が持つ要素を洗い出していきましょう。

具体的に洗い出す要素は、以下のような項目です。

【スキル・能力】どういったことができるのか
【人間性・志向性】どのような性格か、どのようなことを好むか
【必須要素】企業が社員に必須で求める要素
【あるとよい要素】候補者が持っているとなおよい要素

この際に重要なのは、現場の意見をしっかり聞くこと。どのような人材が活躍しているか、求めているのはどのような人材か、現場の意見も取り入れながら、求める人物に必要な要素を洗い出しましょう。

例えば私たちパラドックスでは、以下のような企業理念を掲げています。

VISION
志あふれる、日本をつくる。

MISSION
志の実現に貢献する。

VALUE
本質的なアイデアで期待を超え続ける、志実現のパートナー。
 顧客視点で本質的に発想します。
 イタコのように深く理解します。
 ストーリーのある企画をします。
 職人魂でこだわり、実現します。
 つくり手が直接やりとりします。
 サービス精神で円滑に進めます。
 ワンストップで価値提供します。
 長期的視点で誠実さを貫きます。

CREDO
 本当の目的地は何かを考えて動く。
 常に相手のためになることを考える。
 どんな仕事もアイデアで楽しくする。
 約束やルールは、必ず守る。
 自ら手を挙げ、気前よく行動する。
 品よく礼をつくし、相手を敬う。
 チームの温度を高め、強みを活かし合う。
 直接確かめ、リアルに感じとる。
 ストーリーでイメージする。
 細部まで綿密に気を利かせる。
 逆境こそ、逃げずに立ち向かう。
 目先にとらわれず、フェアプレイに徹する。
 ちゃんと叱る。ちゃんと褒める。
 教えることで、自らも学ぶ。
 きちんと食べて寝て、体を鍛える。

このバリューとクレドを基に、求める人物像に必要な要素を考えると、一例ですがそれぞれ以下のような要素を導くことができます。

【スキル・能力】

  • サービス精神がある
  • つくるものにこだわれる

 

【人間性・志向性】

  • 経営者視点がある
  • 結果が出るまでやり切る責任感がある

 

【必須要素】

  • 手段ありきではなく目的思考

 

【あるとよい要素】

  • 外国語スキル

実際にはより多くの項目を洗い出す必要がありますが、このようにバリューやクレドと関連する要素を考えていきましょう。また【あるとよい要素】に関しては、必ずしもバリューやクレドと紐づかなくとも、実務的にあると望ましい項目でかまいません。

3-2:STEP② 洗い出した要素を「ペルソナ」に落とし込む

次は求める人物像の要素を基に、「ペルソナ」をつくります。

「ペルソナ」とは、ターゲットを具体的なひとりの人間に仕立てたものです。年齢や出身地、性格や趣味など、自社が求める要素を兼ね備えた、ひとりの個人をつくり上げます。

「求める人物像」が持つ要素を洗い出しただけでは、まだバラバラの要素が羅列されている状態です。そのままでは、互いに矛盾する要素があったり、全てを満たす人物は存在しなかったりする可能性があります

ペルソナに落とし込んでみることで、条件を満たす人材をより具体的に、生きた人間として想像できます。

その結果、STEP①で出した要素の中で不要なものを削ぎ落とすことや、より具体的な要素を見付けることができるのです。

以下のような項目や図を参考に、できるだけ詳細なペルソナを作成してください。

【基本属性】

  • 年齢
  • 家族構成
  • 居住エリア
  • 学歴、学部

 

【行動属性】

  • 趣味
  • 休日の過ごし方
  • 最近の悩み
  • 消費傾向(お金の使い方)
  • 利用メディア/SNS

 

【その他特徴】

  • より詳細な性格や経歴
  • 行動の特徴
  • 将来的なキャリアプラン

▼「ペルソナ」のつくりかたは以下の記事も参考にできます
鍵を握るのはペルソナ設定。カスタマージャーニーの考え方
ペルソナは、ブランディングとマーケティングで変わる?基本的な考え方と設定項目をご紹介

3-3:STEP③ ペルソナを「人材要件」に落とし込む

ペルソナができたら、それを少し抽象化して「人材要件」に落とし込みます。

書き方は企業によってさまざまなので、書きやすい書き方、自社に合った項目の記載で構いません。

はじめにご紹介したように、「これまでの経験」「持っているスキルや免許」「望ましい人柄」「期待する役割」のような項目でも良いですし、STEP①で洗い出した「MUST」「WANT」「スキル・能力」「人間性・志向性」に、改めて当てはめて記載するのも良いでしょう。

また社内に共有する際は、人材要件とともにペルソナを公開すると、より採用したい人材のイメージが具体的になります。

人材要件は変わるもの

そもそも企業理念は、時代や企業の成長と共に変わるもので、不変ではありません。つまりそれを基にしている人材要件も、企業理念の変更や時代に合わせて変えていく必要があります。

一度決めたからといってずっと使い続けるのではなく、定期的に見直し、改定していきましょう。

4:「求める人材」が「求める職場環境」を整える

人材要件が完成したら、ひとつ考えていただきたいことがあります。

それは、作成ステップの中でつくりあげた「ペルソナ」にとって、自社は働きやすい環境か?ということ。

こんな人材がほしい!と求めるばかりで、与えるものがなければ、理想的な人材は採用できません。せっかく採用できたとしても、すぐに離れていってしまうことでしょう。

例えば「積極的に改善提案ができる」ことを人材要件に記載していたにも関わらず、入社して実際に意見を言ってみたところ、上司から「生意気だ」「何もわかっていない」と言われ、入社前とのギャップを感じてしまうようなことはよくあります。

人事としては「新たな風を取り入れたい」と思ってのことでも、実際に働く現場にその空気がなければ、採用された人材は不満をためるだけです

また“採用する人材は企業理念に共感していることが大前提”とお伝えしましたが、そもそも企業理念が社内に浸透していなかったり、言行一致していなかったりする場合も、入社後の早期離職につながります。

ただ理想の人材を求めるだけでなく、採用した人材が実際に働く環境も整えることも、採用活動と並行して行うようにしましょう。

5:最後に

人材要件は、求職者と企業とがお互いにミスマッチを防ぐために、重要な役割を果たします。

とにかく多くの候補者を集めるためにわざと基準を甘くしたり、必要以上のスキルを求めたりすると、互いに損しかありませんので、丁寧に正確に記載しましょう。

最後に、ここまでの各章でお話しした重要なポイントを振り返ります。

  • 人材要件は、求める人材のタイプ、職種に合わせて複数作成する
  • 「とにかく優秀な人材」「最初から完璧な人材」を求めない
  • 人材要件は企業理念の「バリュー」「クレド」を基に作成する
  • 求める人物像が働きやすい職場環境かを確認する

これらのポイントを参考に人材要件を作成する中で、自社だけでは難しいと感じたり、そもそも企業理念から変える必要があることに気付いたりすることがあるかもしれません。

そのような場合は、プロに頼るのもひとつの手。企業成長の要である採用活動を成功に導くために、最善の方法を探してみてくださいね。

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PARADOX創研 メディア編集部
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