マーケティングやブランディング施策を考え始める際に、必ずと言っていいほど出てくるワードが「ペルソナ」。
広告やECサイトの制作、商品開発など、ペルソナはビジネスのどんなときにも使われる概念です。
何十年も前から使われているこの用語ですが、定義の幅も広く、実は意外と理解しにくいですよね。
昔からあるというイメージにより、変化の激しい現代においてペルソナを用いた手法は“古い”なんて意見もしばしば。
この記事では、そんなペルソナの本来の意味や、本質的な使い方、ペルソナのつくり方についてご説明します。基本的だからこそ重要な概念ですから、しっかりと理解していきましょう。
1:ペルソナは施策の「主人公」
ペルソナとはそもそも、ラテン語で「仮面」を意味する言葉。それを心理学の領域に転用し、人が社会生活の中で演じる役割(男女、親、ありたい自分など)を表す概念として、ユングが提唱したところから使われ始めました。
そこから派生し、ビジネスで使われるようになったペルソナは「ターゲットを具体的な一人の人間に仕立てたもの」。「ターゲット」がユーザー層の属性や特徴を列挙したものだと考えると、「ペルソナ」は性格や趣味嗜好までを明らかにした、ひとりのユーザーです。
よく「広告はたった一人に向けたメッセージ」と言いますが、その“たった一人”がこのペルソナ。
性別や年齢などの基本属性だけではなく、どんなときどんな行動をとるのかを明らかにすることで、ピンポイントでそのひとに届く施策が考えやすくなります。すると結果的に、大多数に向けた当たり障りのない施策ではなく、特定の層に対して確度の高い施策に仕上げることができるのです。
つまりひとりのユーザーであるペルソナは、さまざまな施策を考える際に必要なカスタマジャーニーの主人公なのです。
▼カスタマージャーニーについて詳しくはこちら
2:ペルソナが「古い」と言われる理由
変化のスピードが異常なほど早く、次々と新しいものが生まれる現代。マーケティングやブランディングの手法も同様で、毎日のように新たなカタカナ用語や暗号みたいな頭文字を目にしますよね。
その中でも、古くからあるペルソナを用いた手法を「古い」「必要ない」と否定する声もしばしば聞かれます。
「古い」と主張する方の意見の多くは「世の中の変化が早すぎて、どうせすぐに製品や施策を改良せざるを得ないのならば、いちいちペルソナを設定するのは無駄なのではないか」ということ。
もちろん考え方はさまざまですし、マーケティングにもブランディングにも正解はありません。ただ私たちの意見としては、明確に「無駄ではない」と考えています。
先述したように、ペルソナはさまざまな施策における「主人公」となるユーザーです。商品開発であっても、単発の広告であっても、長期的なマーケティング施策においても、“誰に向けたものか”を踏まえて考えることは必要ですよね。その最も根本的な部分において、古いなんてことはありません。
重要なのは、世の中の流れが早くとも、ユーザーの趣味嗜好が変化しようとも、そこに対応するペルソナをつくること。一度設定したペルソナを何度も見直したり、新たに細分化したペルソナを追加していくことで、結果的に時代の変化やニーズに対応する施策へとつながるのです。
3:マーケティングとブランディングにおける違い
ビジネスにおいてペルソナを用いる目的は、大きく分けてブランディングとマーケティングの2つがあります。少し乱暴ですが、今回はブランディングとマーケティングの違いを下記の様に分けて説明していきたいと思います。
ブランディング:自社製品や企業のブランド力を向上させること=より愛してもらう
マーケティング:短期的に商品を売るための活動=より買ってもらう
▼ブランディングとマーケティングの違いについて詳しくはこちら
目的や施策の内容が異なるブランディングとマーケティング。それぞれにおけるペルソナは、同じもので良いのでしょうか。
今回のブランディングとマーケティングの定義の違意を踏まえると、答えは“ノー”です。マーケティングは買ってもらうために行うもので、ブランディングは愛してもらうために行うものであれば、自然とターゲットになるペルソナは異なってきますよね。
このことについてご説明するにはまず、「ブランドパートナー」について理解する必要があります。
ブランドパートナーとは、マーケティング用語でよく使われるロイヤルカスタマーに近い概念です。そのブランドにとっての理想のお客様です。
ブランドパートナーとは
・購入量(購入額)がたくさんあって
・いまのブランドが好きで離れず
・ブランドの価値を理解し広めてくれる
・ブランドと一緒に未来まで歩んでくれる
・ブランドを共創するお客様
▼「ブランドパートナー」についての詳しい説明はこちら
商品を多く購入してくれるだけでなく、企業(ブランド)が好きで離れず、企業の価値をよく理解して周りのひとに広めてくれ、企業の未来を共創していく存在がブランドパートナー。
一般的に企業のブランディングが目指しているのは、このブランドパートナーを増やすこと。ブランディングの宛先であり、ペルソナとなるのがブランドパートナーなのです。
しかし最終的にはブランドパートナーとなるひとも、最初はそのブランドのことを全く知らなかったひとのはず。そのひとがブランドパートナーになるまでの間に存在するのが、マーケティングです。
そしてマーケティングを行う際は、目的が「一度も商品を買ったことがないひとに購入してもらう」場合と「一度だけ商品を買ったことがあるひとに再購入してもらう」場合や、ターゲットが「毎月の購入額が5,000円のひと」と「毎月の購入額が50,000円のひと」では、当然ペルソナを変える必要がありますよね。
狙いたい顧客の状況に合わせて、いくつも設定するのがのがマーケティングのペルソナ。
商品やサービスの成長フェーズごとにマーケティングを行なっていく中では、複数のペルソナが発生します。そのペルソナを積み重ねていくうちに、「最終的にこのひとにずっと愛してもらいたい。」「このひとと共創しながらブランドを育てていきたい」と思えるようなペルソナに出会う時がくる。そのペルソナこそがブランドパートナーと呼ばれるブランディングにおけるペルソナなのです。
色々なひととの出会いを通じて、やっと「このひとだ!」とおもえる最愛のひとに会う。そんな感覚に近いのかもしれませんw。
ただし、お茶を濁してしまう様ですが、ブランディングのペルソナ=ブランドパートナーも、一生変わらないわけではありません。企業が目指したい方向性や、ありたい姿の変化に合わせて、ブランドパートナー像もまた変わっていきます。
4:ペルソナの項目・要素
ひとりの主人公であるペルソナ。では作成する際に、考えるべき項目はどのようなものでしょうか。
ペルソナに設定すべき項目は、その商品やブランドが「BtoB」か「BtoC」かによって大きくわけられます。
どちらもたったひとりの個人を想定することに変わりはないのですが、考えるべきペルソナの考え方や抱えている課題は、業務上のものかプライベートのものかで大きく変わるからです。
もちろん商品や狙いたいターゲットによって、必要となる項目は多少変わってくるものですが、基本的には以下のような項目を設定し、ペルソナシートをつくると良いでしょう。
▲https://prdx.co.jp/visions-prdx/customer_jouney/ より
4-1:「BtoC」のペルソナ
BtoCの場合、ペルソナは生活者(消費者)です。スーパーやドラッグストアで商品を買ったり、友人とのクチコミやSNSでブランドを判断する、プライベートな個人を想定しましょう。
BtoCのペルソナは、年齢や性別などの「基本属性」、趣味や最近の悩みなどの「行動属性」、「店舗で見た商品をネットで買うタイプ」など一言で表せないような特徴を記載する「その他特徴」の3カテゴリに分けて考えます。
【基本属性】
・性別
・年齢
・職業
・年収
・家族構成
・居住エリア
【行動属性】
・趣味
・休日の過ごし方
・最近の悩み
・消費傾向(お金の使い方)
・利用メディア/SNS
【その他特徴】
・より詳細な性格や経歴
・行動の特徴 など
4-2:「BtoB」のペルソナ
BtoBの場合、ペルソナは組織に属するビジネスパーソンです。商品やサービスの購入の背景には、企業としてのニーズがあります。例えば、自分の困りごとの解決だけでなく、組織の他部署が抱える課題解決のために、リサーチをしている可能性が大いに含まれます。
同時にやはりひとりの人間ですから、個人的な志向性の影響はあるでしょう。したがってBtoBでは「個人ペルソナ」に加えて、「企業ペルソナ」、「その他特徴」を考える必要があります。
【企業ペルソナ】
・業種
・商材
・所在地
・売上規模
・従業員数
・決算月
・企業風土
【個人ペルソナ】
・性別
・年齢
・部署/役職
・経歴
・決済可能な予算
・チームサイズ
・ビジネス目標
・ビジネス上の課題とニーズ
【その他特徴】
・業界における企業の立ち位置
・ペルソナの個人的な商品の知識 など
5:「都合の良い人物像=ペルソナ」ではない
ペルソナをつくる際にやってしまいがちな大きな間違いの一つに、「都合の良い人物像をつくりあげてしまう」ことがあります。
例えば20代の働く女性をメインターゲットに開発したファンデーションのマーケティング施策を考えるために、ペルソナを設定する際。
都内在住一人暮らし、ファッション感度が高い、未婚、年収600万円のキャリアウーマン、SNSのフォロワーは1000人以上……。と設定したとしましょう。おそらく多くの女性が、憧れるような方ですね。
もちろんこのような方ばかりが買って使ってくれれば、SNSでも宣伝してくれるでしょうし、商品のイメージも上がって都合が良いですね。でも現実はそううまくいくものではないことは、冷静に考えればわかるはずです。
なぜこのような事態が起こるかというと、理由は一つ。データを見ずに、妄想でペルソナを設定しているからです。
「こんな人が買ってくれたらいいな」という妄想で都合よく設定したペルソナは、マーケティング戦略を考える際にも、紙の上で都合よく動いてくれます。しかしそれを施策に落とし込んで実施してみると、全く効果も出ないのです。なぜなら、実際の購買層は、30代の働くママだったのですから。(というようなことが、起こってしまうのです)。
ペルソナの設定において重要なのは、現実的に考えてメインのターゲットとなる人々の、代表となるような人物を設定することです。既存の商品やサービスの場合は、購買層の分析やアンケートをとったり。新商品や新サービスの場合は、市場調査を行ったり。
そうしてデータに裏付けされた人物像を設定することが、ペルソナを使ったマーケティングの第一歩です。
6:最後に
マーケティングでもブランディングでも、重要な役割を果たすペルソナ。施策におけるたったひとりの主人公を設定することで、確度の高い施策を実施することができます。
しかしペルソナはときに的確でない人物像を設定してしまったり、時代の変化とともに変わってきたりすることも。絶対のものと捉えず、あくまでツールのひとつとして活用するようにしましょう。
ペルソナを用いてマーケティング・ブランディング施策を考える際には、一度カスタマージャーニーマップをつくってみることもおすすめ。
以下の記事を参考に、そちらもトライしてみてくださいね。
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