企業や団体の組織風土に関する悩みは様々です。
・社員の意識を前向きにしたい。
・会社の雰囲気を明るくし、離職率を下げたい。
・コミュニケーションをもっと活発にしたい。
・自由な発想や行動ができる自立した組織をつくりたい…。
しかし実際には、どこから手をつけて直せばいいかがわからなかったり、変化を起こそうとしても、すぐに効果が出ずに諦めてしまったり…。という状況も多いと思います。
私たち株式会社パラドックスは、業界業種問わず、たくさんの企業様の理念づくりやブランディングをお手伝いさせていただいている会社です。そして、様々な施策の中で、たくさんの企業の理念浸透や風土づくりも行っています。
「ブランディングが、組織風土と関係あるの?」と思った方もいるかもしれません。実は、企業の強固な企業ブランドをつくっていくためには、社外に向けた施策だけでなく、社内への施策も非常に大切です。なぜなら、共に働く社員こそが、企業ブランドの共創に欠かすことができない一番でファンであるべきだと、私たちは考えているからです。
一貫したブランドをつくるためには、社員間でのビジョンの共有と言動の一致が不可欠です。たとえ全国に社員が散らばっていたとしても、一貫した行動をとれていれば、「この会社はいつもあいさつが気持ちいい」「だれとやりとりしても丁寧で親切だ」といった統一感のあるイメージをつくることができます。
理念づくりは、社員の進む方向をそろえるためでもあるので、社員のみなさんに理念に共感し、一体感のある自立型・自走型組織に進化していくことが、強い企業ブランドにつながっていくのです。
パラドックスでは、上記のような内側に向けた企業ブランドづくりの一環として「インナーブランディング」をお手伝いすることも多く、そのファーストステップとして風土を改善しています。
私たち自身も、数々の施策を通して風土を改善してきた経験を持っているため、自分たちで実践してきた方法で、効果が高かったものをお客様にも提案することがあります。
以前は、社員が個人商店として仕事を進め、なかなか全社の一体感を感じにくい時期もありました。コミュニケーションが足りず、足並みがそろわないときもありました。
しかし、地道に風土づくりの取り組みを続け、今ではお互いを認め合い、チームとして動けるような組織に変わってきました。企業のはたらきがいを調べたGPTW(Great Place to Work)というランキングでは、5年連続でベストカンパニーに表彰されています。
このように、変化を実感してきた私たちだからこそ、みなさんに伝えられることがあるのではないか。私たちが、組織風土を変えてきた取り組みを紹介することで、少しでもみなさまのお役に立てるのではないか。そう思い、この記事を書くことにしました。
目指す風土は組織の個性に合わせ、異なっていて当然です。しかし「社員が幸せにはたらける環境を整えたい」という気持ちは、どんな組織にも共通していると思います。このページが、よりよい風土づくりのきっかけになれば幸いです。
1. 風土づくりをする意味
1-1 風土づくりは社員のイキイキの源。
風土についてお話しする前に、冒頭でふれた「インナーブランディング」についてご説明します。というのも、風土づくりはあくまでインナーブランディングの一工程だからです。まずは全体像をとらえていただき、なぜ風土づくりから始めるのか?を、理解していただけると幸いです。
そもそも、インナーブランディングを実施する理由は、「ビジョン(その企業が目指す未来)の実現へ向かう状態を社内につくるため」です。
企業にはその企業独自の志、つまり企業理念およびビジョンが存在します。ただ、企業も人の集まりですので、誰か一人の力では企業のビジョンを達成することはできません。そこで働くすべての人がその企業のビジョンに共感できる状態をつくっていくのです。
つまり、インナーブランディングとは、個人の志と企業の志を重ね、働くことを通じて自己実現を感じられるようにすることです。
企業が目指している志と、そこで働く一人ひとりの志が重なると、理念に共感・実践する人が増え、相互の自己実現に向けて大きな推進力が起こります。そうして、企業の目指す未来にも、社員個人の目指す未来にも、着実に近づいていきます。
私たちパラドックスは、インナーブランディングを進める手段として、理念浸透を行なっているのですが、理念浸透のプロセスの初期段階、いわば下準備が風土づくりなのです。具体的には、下記の図をご覧ください。
最初にあるのは、理念策定です。これがないと、そもそも浸透させていく企業の志が不明確ということになります。もし、まだ明確な企業理念が定まっていない、もしくは企業理念を見直したいという場合は、下記の企業理念の記事を併せてご確認いただけますと幸いです。
→「企業理念とは?100年続く企業になるために必要な企業理念を徹底解説。」
企業理念策定の次に行うべきことが、風土づくりです。せっかく策定した企業理念も、社内にそれを受け入れる風土が整っていなければ、うまく浸透していきません。風土づくりとは、理念浸透を行う上でとても重要な下準備なのです。
風土が整うと、いよいよ理念浸透の相互認知〜相互共感〜相互貢献フェーズに入っていきます。ここが企業と個人の自己実現フェーズであり、両者の自己実現が進んだ先にビジョンの実現が待っているのです。
このように、風土づくりは、理念浸透の様々な施策の土台となる重要な役割を担っています。
全体像についてまとめると…
・インナーブランディデングを行う理由
ビジョン(その企業が目指す未来)の実現へ向かう状態を社内につくるため
・インナーブランディングとは
個人の志と企業の志を重ね、働くことを通じて自己実現を感じられるようにすること
・理念浸透とは
インナーブランディングの手段、理念策定〜ビジョンの実現までをいくつかの工程に分けて実行すること。この工程のひとつ、下準備が風土づくり。
風土づくりがいかに組織にとって重要か、なんとなく理解していただけたでしょうか。
次は具体的に風土づくりとは何かを説明していきます。
インナーブランディングについて詳しく知りたい方は、ぜひこちらの記事もチェックしてみてください。
→「リモートワークでも社員の意思統一ができる!インナーブランディングによる企業文化の作り方。」
1-2 まずは「心のコップ」を上に向けることから。
インナーブランディングの理想形は、企業理念および会社の志を社員一人ひとりが理解し、個人の自己実現と重ねていくこと。その一歩目が組織風土づくりだと説明しましたが、自己実現の達成は、すぐに手が届くものではありません。
マズローの5段階欲求を元にご説明しましょう。この説は、人間の欲求は5段階で構成されており、低次の欲求(Level 1生理的欲求)から順に段階をクリアしていくことで、最終的に自己実現に達するという理論です。
実は、この5段階欲求の中でLevel1〜4までが、風土づくりに大きく関連しています。自己実現はその後。だからこそ、風土づくりにおいて、自分たちの組織がどの段階にいるのか見極めることが大切です。
社員はきちんと休憩が取れているか。安全な場所で、快適に働けているか。社員は企業から愛されていると感じているか。賞賛し、認め合う関係はできているか…。
まずは、一人一ひとりが、自分自身の安心・安全が感じ、所属している組織が自分のことを理解しようとしてくれているという信頼感があること。それがないと、なかなか他人のことまで気を配ることは難しいですよね。これは「心のコップ理論」といわれ、人のアドバイスや、様々な経験を受け止めるためには「心のコップ」を上に向けることが重要と言われています。
下を向いたコップに水が入らないとの一緒で、むやみに理念浸透だ!自己実現だ!と言っても、社員の心が開いていなければ意味がありません。
生理的欲求〜安全欲求〜愛情欲求〜承認欲求が充足して、はじめて心のコップは上向きになり、自己実現という欲求に向かうことができるのです。
1-3 風土づくりの誤解。風土の改善が万能薬ではない理由。
組織風土づくりの最初のステップの生理的欲求や安全欲求ですが、これだけを改善すればいいというわけではありません。各ステップをつなげてストーリーにしながら、より高次の欲求実現に挑戦していきましょう。
例えば、生理的欲求や安全欲求を充足する給与や労働条件、人間関係の改善は、組織風土のマイナス面をゼロに戻すための施策です。一方で、ゼロからさらにプラス面を伸ばしていくためには、より高いレベルである自己実現欲求を満たしていく必要があります。
次の図は、アメリカの臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグが提唱した理論で、この理論によると、人が不満足を感じる要因と、満足を感じる要因は全く別のものなのです。図に示されたように、マズローの欲求でLevel1生理的欲求〜Level3所属・愛情の欲求にあたる部分は、不満足を改善する要因にはなっても、満足度をあげるために要因にはなりにくいのです。注意していただきたいのは、風土の改善は、どちらかというとマイナスをゼロに戻すためのものだということ。プラスの効果(組織へのポジティブな反応)をもたらすためには、自己実現の欲求を満たす必要があります。
結局のところ、風土の改善とはいい組織に向けたベースづくりであり、すべてを解決する手段ではありません。よりよい組織に向けた活動には終わりがなく、ずっと続けていくもの。
2章でご紹介する方法も参考にしながら、ぜひ独自の改善策を探してみてください。
1-4 風土づくりのメリット。
組織それぞれの風土をつくることは、大きく2つのメリットにもつながります。
①成長への欲求が生まれる
先ほどご紹介したように、風土づくりは理念浸透の1歩目。社員が誇りを持ち、自己実現するための1歩目です。Level4承認欲求までを満たせていれば、人は自然と成長への欲求が湧いてくるといわれています。人生の多くの時間を使う仕事で、さらに成長したいという欲求が生まれれば、より充実した時間を過ごせる社員も増えていきます。
②メンバー同士の団結力が強くなる
ここはとても大切なポイントです。普段から会社が進みたい方向と、個人のがんばりの方向をそろえて風土づくりをしていると、一人ひとりがすべきことが明確になり、いざというときも組織の団結力が発揮されます。
さらに、相互理解まで組織風土が進化していれば、自分の果たすべき仕事が済んだ後は、離れている仲間のためにできることを自発的に行えるようにもなっていきます。いわば良い意味での「おせっかい」ですね。つまり、組織を超えて、越境した助け合いが起こりだすというさらなる良い関係にもつながっていくのです。
③性善説に立った経営が可能になる
いま、リモートワークによって会社への帰属意識や社員同士の信頼を感じにくいという声もよく聞きます。
経営者やマネージメント層の方でも、急に性悪説的な思考になってしまい社員がしっかり仕事をしているかどうかが信じられず、必要以上の報・連・相を要求してしまうことがあるそうです。
いざというとき組織に必要なものは、社員を縛るルールや規則ではありません。一人ひとりが共通のビジョンを持ち、支え合う風土です。そのために普段から、相互理解とリスペクト前提で性善説に基づいた組織風土づくりが大事なのです。
緊急時は、いままでの仕組みが通用せず、わからないことだらけで不安を感じる社員も多いです。組織という枠組みが崩れ、所属や愛を感じにくくなったり、コミュニケーションが減ることで承認される機会も減ったりします。そんな状況だからこそ、風土が大切です。
きちんと安心安全な環境が整い、お互いへのリスペクトの元、目指すべき方向さえつくれていれば、組織はバラバラにならずに済むのです。
次の章では、風土づくりに向けて実際に何をしているのか、取り組みの一部をご紹介させていただきます。
2. 風土づくりの実例(パラドックスの場合)
この章では、「どんな風土を目指しているの?」「実際には何をしたらいいの?」という問いに答えるべく、弊社パラドックスでこれまで実施してきた、風土を改善していくための取り組みを具体例としてご紹介していきます。
風土をつくっていく際、特に注目したいのは理念ワードの中の「ビジョン」です。ビジョンとは、「企業が実現したい未来」を表した言葉ですから、理想の未来へ近づくためにも、まずは自社でその理想を実現することが近道。自社で重ねた実績は、世の中への説得力にもなります。
例えば、パラドックスのビジョンは「志あふれる日本をつくる」。ひとりひとりが自分の人生の使命を見出し、誇りを持って生きる状態をつくっていくということです。
だから、パラドックスの社員一人ひとりが、まず自分の使命を見つけ、誇りを持って生きていくことが大切です。そのためにつくっているのは「お互いを認め、助け合う風土」です。まずはパラドックス社員が、お互いのことを認め、目指す未来に向けて助け合う、そんな状態を続けることが、お客様やさらにその先の世の中にも志を持つ人を増やす第一歩になるはずだと信じています。
このように、「私たちは○○な未来を目指しているから、◇◇という風土をつくっています」とストーリーで説明できれば、より多くの人に共感してもらうことができるでしょう。まずは、自分たちの目指す風土について、よく考えてみてください。
▶︎ご紹介する取り組み
2-1<Level1 生理的欲求>
・理念での健康への示唆
・PPC(Paradox Physical Challenge)
2-2<Level2 安全欲求>
・理念に基づいた評価制度の策定
2-3<Level3 所属・愛情欲求>
・チーム/メンター制度
・経営者の声を発信する場(日報、社内ラジオ、全社会)
・運動会、全社会、など社員が集まりコミュニケーションをとる場
2-4<Level4 承認欲求>存在価値に自信を持つ
・自分を知る(ストレングス、MBTI)
・気づきの発信とリアクション(日報)
・木鶏会、ほめ達検定
2-1 <Level1 生理的欲求>
生理的欲求は、文字通り人間の生命維持に必要な根源的な欲求です。特に組織の環境と関係してくるのは、食事や睡眠についてです。企業が社員の食事や睡眠を奪うことは、あってはならないですが、会社の規模や業界によってはないがしろにされてしまうこともあります。経営者の目線と、現場の目線がずれていることもありますので、今一度、よく見返してみましょう。
<施策の例>
●理念での健康への示唆
パラドックスの行動指針には「きちんと食べて寝て、体を鍛える。」という一文があります。
まずは理念の中で名言することで、休憩することや、体を整える時間を推奨しています。実際に、社員の間ではコンビニのお弁当ばかり食べないよう、ランチタイムには、社員同士で社外に出て会話をしながら食事することを心がけ、栄養の偏りに注意するようにもなりました。
また、夜遅くまで働くよりも、メリハリをつけて働くことが褒められる雰囲気が定着してきました。コミュニケーションツールを仕事とプライベートで使い分けたり、土日・休日の連絡は控えるなど、当たり前のことからですが、意識を変えています。
理念の中に、社員の心と体の健康を守る言葉を入れること、それを社員がお互いに呼びかけることも、風土づくりの土台を固めるためには有効です。
●PPC(Paradox Physical Challenge)
運動を賞賛する仕組みもあります。毎月社員が運動の目標値を決め、その達成に向けてランニングやウェイトトレーニングを実践します。達成した人にはポイントが付与され、ギフトと交換できるという仕組みです。これも、経営陣から積極的に実践する姿を見せて、社員全体へ普及を促しています。
2-2 <Level2 安全欲求>
安全欲求は一般的に、不安や混乱をなくし、安全・安心に過ごせるような環境を整えることを指します。物理的な安全性(社屋の安全、緊急時の身の安全)ももちろんですが、組織としての秩序や、分かりやすい制度による安心感も重要です。
<施策の例>
●理念にひもづいた評価制度の策定
パラドックスの評価基準は明確で、理念を実行している人が評価される仕組みがあります。特に分かりやすいのは評価シートです。パラドックスの使命である「志の実現に貢献する。」という言葉を分解し、必要な姿勢やスキルを細かく項目に分けています。それらを満たしているかどうかで評価が決まるため、上司による評価に個人差が出てしまうこともなく、納得度の高い評価ができるようになっています。
2-3 <Level3 所属・愛情欲求>
所属・愛情欲求では、人間の社会的な欲求が現れ始めます。一人でいることに寂しさを感じ、家族をもちたい、組織に所属したい、グループの中で役割を担いたいという欲求があらわれます。企業の中で特に気をつけたいのは、チームの体裁は整っているけれど、実際は社員が孤立していたという状況です。
<風土づくりの施策例>
●チーム制度とチーム会
入社すると必ずチームに配属されます。さらにチーム会という週例のミーティングでは、お互いのことを知り合う時間や、仕事の進捗を確認する時間を設けており、相談ごとができる仕組みがつくられています。また、チームの中にはメンターが存在し、若手がひとりで抱え込まないようにも気をつけています。体裁だけのチーム・メンターではなく、お互いの信頼関係が強くなっていくよう、定期的にコミュニケーションをとる時間を設けることをオススメします。
●経営者の声を発信する場(日報、社内ラジオ、全社会)
パラドックスでは社長や経営陣からの発信が毎日のようにされています。というのも風土づくりにおいては、ボトムアップではどうしても長続きしないためです。上の立場の人が、まず姿勢を見せること、自分たちのありたい姿を発信し続けることが、風土をつくる上でとても大切です。上の立場の人からの発信は、それだけ本気で組織を変えようとしているという覚悟の現れにもなりますし、社員にとっては「気にかけてもらっている、ちゃんと自分たちのことを考えてくれている」という安心感にもつながります。
・日報
パラドックスでは社内SNSで毎日その日の気づきを社員全員が日報として出す仕組みがあるのですが、その中で経営者や経営陣からも日々意識したいことや風土の改善について、意見が発信されています。
・社内ラジオ(Youtube配信)
経営者によるラジオ配信も実施しています。これは、経営者からの一方的な発信ではなく、メンバーとキャッチボールになる場として設計されているもの。
例えば、毎回異なるメンバーをゲストとして招待し、社長と社員がお互いの理解を深めたり、事前に取られたアンケートをもとに、社内のメンバーからの疑問に答えたり・・・。また、各チームに回が振り当てられ、それぞれの企画に経営者を巻き込みながらライブ配信する、といった試みもここ数年で行われています。風土の中に経営者も入り込んで発信をしていく、メンバーに投げるのではなく、経営者も風土を変えていく中心にいる、という姿勢から、その本気も無意識に組織全体に伝わり、効いてくるのだと思います。
・全社会
月に一度ある全社の社員が集まるイベントです。ここでも数字や案件の共有の前に、まずはじめに経営者より、次の一ヵ月で大切にしたい考えやありたい姿について発表があり、この言葉もメンバーの記憶に残るものになります。
このように、経営者からも、半年や一年に一度といったスパンではなく、毎日や月ごとのイベントで「こうあろう」「こうなっていこう」という風土を変えていく発信があり、さらに一方通行ではなく双方向的にキャッチボールできる機会をもっている状態です。
●全社員が集まりコミュニケーションをとる場(全社会、運動会)
パラドックスでは全社イベントが多めに用意されています。半年に一度、全社員が集まるキックオフだけでなく、全社の球技大会や社員旅行もあります。オフィスが、東京、名古屋、大阪、福岡、沖縄にあり、普段顔を合わせることのない社員とも交流を持つことで、目標を共有したり、会社への帰属意識を高めています。
2-4 <Level4 承認欲求>
グループに所属すると、次はその中で承認されたい、褒められたいという欲求が出てきます。承認文化は大切ですが、むやみに褒めても意味がありません。ポイントは、企業の理念と価値観に沿って承認すること。会社が進もうとしている方向のベクトルと、個人のがんばりのベクトルが揃ったことを承認・評価していくことで、双方のベクトルが揃ってきます。
<風土づくりの施策例>
●自分を知る研修(ストレングス、MBTI)
お互いのことを承認するためには、まず自分と相手の特徴を知ることから。パラドックスでは自己分析の結果を組織の中でも共有し、強みを活かし合う方法を考えています。
リモートワークをしているときは、コミュニケーション量が普段より減ってしまいますが、普段からお互いの得手不得手を認識していれば、お互いの業務をスムーズに進めやすくなります。社員同士の承認に特に役立つと考えている指標は次のふたつです。
・ストレングスファインダー
アメリカのギャラップ社が開発した、人の強みの元=才能を見つけ出すツール。
人が持つ様々な資質を34に分類し、あなたの中では34の資質のうちどの強みがどういう強さの順番で現れるのかがわかります。チームで仕事を進める際に、お互いの強みを知ることで、業務の役割わけや分担がしやすくなり、それぞれの社員が力を発揮しやすいポジションを見つけやすくなります。
参考URL: https://www.gallupstrengthscenter.com/sign-in/ja-jp
・MBTI
欧米で古い歴史を持つ性格診断テスト。ユングの心理学を元に分類された16タイプの性格のうち、あなたがどれに当てはまり、どのようなことが「利き手」なのかがわかります。これにより、お互いの思考や行動の癖を知っておけば、相手に合わせたコミュニケーションもとりやすくなります。
参考URL:https://www.mbti.or.jp/what/
●気づきの発信とリアクション(日報)
先程もちらりと触れましたが、パラドックスでは社内SNSで毎日その日の気づきを社員全員が日報として出す仕組みがあります。この日報によって、各メンバーが日々の仕事の中でしている体験やその気づきを共有できます。
またその日報には、各記事に対し、「いいね!」「一緒にがんばろう!」といったあいづちや、理念に紐付いたスタンプを送れる機能がついているため、理念を軸に据えながら、お互いの考えに共感し、承認・応援しあう、という風土の土台になっています。また、自分の投稿に対してのリアクションが目に見えるため、オフィスが離れていても組織への帰属意識を持つための助けになっています。
こちらの社内SNSは、パラドックスのクライアント様にもご利用いただいているのですが、習慣的に他メンバーの気づきや考えに触れ、それぞれの理念で承認していると、自然と会社ごとに異なった空気感ができあがっていくのを感じます。
●褒め合う仕組み(木鶏会・ほめ達)
以前のパラドックスは、マネジメント層に限らず不器用で職人気質なメンバーが多く(いまもそうかもしませんが)、どちらかというと「褒めるところ」よりも「足りないところ」に焦点を当てて下のメンバーを育てようとする風土がありました。
力を伸ばすために、厳しいことを伝えることも必要ですが、厳しさだけではつらくなってしまうだけ。その厳しさに若手は企画一つ出すことにもためらってしまったり、上司に話しかけづらかったり、と組織に溝が生まれてしまう原因のひとつになってしまいます。誰かに遠慮しながら進める仕事ほど、生産性の低いものはありません。
そんな風土だったパラドックスでも、いまや日常的に褒め合う風土が根づき、それも上司から部下に限らず、上下左右のメンバーで日々褒め合っています。
そのきっかけになっているのが、大きく2つの取り組みです。
・社内木鶏会での美点凝視
「社内木鶏会」というのは致知出版社さんが発行している月刊誌「致知」を使った取り組みのひとつで、社員全員が決められた数記事を読み込み、毎月一度3〜4名ほどのグループに分かれて、その感想を共有する会のこと。ここでは、大切なルールとして、各感想の発表に対し、「美点凝視=いいところを見つけ褒める」することがあります。
いいところというのは、記事への感想自体やその目の付け所であったり、日々の仕事に対する姿勢。はじめは少し恥ずかしいかもしませんが、対面で口に出して褒めることで、本人にきちんと伝わり、お互いに承認しあうことで、信頼が祖合っていきます。この取り組みを取り入れてから3年。最初はぎこちなく違和感があった「美点凝視」も、いまではスムーズにお互いのいいところを口に出せるようになりました。
・ほめ達
木鶏会を導入し始めた頃、ある日突然、普段は厳しい上司から、日々の仕事の中でも褒められるようになりました。これは「ほめ達」というものを経営層・マネジメント層が受けたことがきっかけ。
こちらは、一般社団法人 日本ほめる達人協会が実施している“ほめる力を学びながら受ける検定試験”。マネジメント層が「ほめ」の達人になることで、メンバーたちの新たな強みや魅力を見つけるきっかけになります。仕事のフィードバックも褒めを基点にするため、ポジティブに受け取りやすくなります。
大切なのは、きちんとメンバーのことを見て、褒めるということ。見てないのに褒めるのは、逆効果なのでご注意を。ちゃんとメンバーの成長を見ること、言ったことに責任を持ってフォローすること。
パラドックスでは、この試み後、先程の日報で、気づきと合わせて誰か一人を褒めることもルール化しました。ささいなことについても褒め合い、それを全体にも共有することで、メンバーのいい面を見る風土が育っていっています。
―――
以上、ここまでが風土づくりの例です。いままでの施策の中でも、特に風土づくりに有効だと感じているものを選んでご紹介していますので、組織の欲求レベルに合わせて試していただければと思います。
くれぐれも注意していただきたいのは、いきなりLevel4の承認欲求から満たそうとしないということ。1-3章でふれた通り、マズローの5段階欲求は下から順番に満たすことが前提です。安全な職場や、組織内の信頼や愛情がないままに、自己開示や褒めることを推奨しても、社員は「強制された」と感じ拒否反応が起きてしまいます。改善策がちゃんとプラスの効果を生むように、社員の声を聞きながら、ひとつずつ丁寧に進めてください。
また、これらによってすぐに風土が変わっていくわけではありません。経営者や経営層から発信し、根気づよく続けることが重要です。
そして、積み上げた風土を土台にして、Level5の自己実現欲求を満たしていくことになります。自己実現を満たす施策については、インナーブランディングの記事をぜひご覧いただければ幸いです。
3.まとめ
お読みいただきありがとうございました。組織風土づくりのイメージが、少しでも具体的になっていればうれしいです。度々ふれてきたように、組織風土づくりはインナーブランディングの入り口です。地道な活動が多い割に、社内から賞賛されることは少ないかもしれません。それでも、まずは組織風土を固めなければ、その先にあるやりがいにもたどり着けません。
私たち自身がちょっとした取り組みで、想像以上に変われたように、これらの取り組みは、小さいものであれば、やろうと思えばすぐにでも始められることばかりです。
オフラインでできなければ、オンラインでもできることもたくさんあります。直接会うことが難しい環境下でも、ちょっとした工夫とオンランツールさえあれば出来てしまいます。まずは、完成度よりやってみることが大事かもしれません。
ひとつでも多くの企業や組織が、よりよい組織風土の上に、組織と個人の自己実現を目指して、進んでいけることを望んでおります。
コメント