近年企業が目指す健康経営の在り方として、「ウェルビーイング(well-being/ウェルネス)」が注目されているのをご存知でしょうか。
ウェルビーイングとは、ひとが身体的・精神的・社会的に“良好な状態”であることを指す概念のこと。従業員満足度やエンゲージメントなど、企業における満足度だけではなく、プライベートも含めた個人の状態を指します。
2021年3月には日本経済新聞社が、公益財団法人Well-being for Planet Earthとその他参画企業と共に、ウェルビーイングを測定する新指標の開発やウェルビーイング経営の推進、政府・国際機関への提言などの実施を目指して「日本版Well-being Initiative」を創設するなど、注目が高まっています。
さらにこちらも近年企業が追うべき目標として注目されているSDGs。その3番目の項目である「GOOD HEALTH AND WELL BEING(すべての人に健康と福祉を)」および8番にあたる「DECENT WORK AND ECONOMIC GROWTH(働きがいも経済成長も)」を達成するにあたっても、働く場としての企業がウェルビーイングに取り組む必要性が見えてきます。
この記事では、ウェルビーイングとは何か、企業の取り組み事例、ウェルビーイングを理解し高めるワークショップなどをご紹介します。ただ事前にひとつ、理解していただきたいとても大事なことがあります。
それは、ウェルビーイングを向上させるための取り組みを実施するにあたり、短期的な効果を求めてはいけないということ。
ウェルビーイングはあくまで「良い状態」を示す言葉なので、一時的あるいは期間限定で気分を上昇させることではありません。また明確な指標や数値目標も存在しません。ボーナスを多めに支給したり、ただ休みを増やしたりという刹那的な施策で、上がったり下がったりする数値のことではないのです。
そのため取り組みを実施するにあたり「これをすれば即解決!」という答えもありません。
もちろんウェルビーイングの高い従業員が増えれば、離職率が下がったり生産性が上がったり、最終的に企業への利益は生まれるかもしれません。ただそれはあくまで副産物であり、最大の目的は、幸せに働き続けられる従業員を増やすことです。
もし経営者や人事の立場で、
「これまで従業員のために福利厚生は充実させてきた」
「従業員満足度を上げるための施策も打ってきた」
「それなのになぜ、うちの社員は幸せそうではないのか」
とお悩みであれば、幸せな瞬間を点で作るのではなく、幸せな状態を線でつくり続けることに注目していただけるといいかもしません。
少し理解に時間のかかる内容もありますが、ぜひ最後までご覧ください。
1:そもそもウェルビーイングが注目され始めた理由とは
また、後ほど触れますが、「世界幸福度ランキング」では、日本のランキングが経済的に豊かな国の中でも長年下部に属しているのはご存知の方もいらっしゃるかもしれません。
世界の新興国に比べて、ほとんどの方が基本的な衣食住や命の安全を得られているはずの日本ですが、皆が何か満たされなさを感じているようです。物質的な豊かさとは違った価値観の存在があり、その不足が世界幸福度ランキングの低さにもつながっていうようです。
これまで豊かさの一つの基準とされてきたGDP(国内総生産)ですが、これを追い求めてきた日本の状況をみると、どうやら物質的豊かさでははかることのできない、精神的な豊かさをはかる基準・モノサシが必要になってきているように思われます。
さらに、比較的数値化・一般化しやすい物質的な豊かさに比べて、精神的な豊かさとは、個人の価値観に大きく左右されやすく一般化するのが難しいという問題があります。
これまで、福利厚生や給与などで社員の要望に応えて解決してきた会社が、これから優秀な人材を確保するために、多様化する個々の精神的な豊かさにも応える必要がでてきました。
そこで、仕事を通じて社員の幸せな状態をつくり続けようという、ウェルビーイング経営というものが注目されてきたというわけです。物質的、精神的、両面の豊かさを提供できる組織にならないと、人が集まらないという企業の危機感のあらわれとも言えるでしょうう。
1-1:ウェルビーイングは「良好な状態」
ウェルビーイング(well-being)とは、ひとが身体的・精神的・社会的に“良好な状態”であることを指す概念のこと。それは昇進や結婚などのイベントによって一時的に得られる幸せや、あるいは日本国憲法でいう「健康で文化的な最低限度の生活」ができていることを指すのではありません。
では具体的にどのような状態かというと、それを厳密に定義するものもありません。なぜなら「身体的・精神的・社会的に“良好な状態”」がどのような状態かは、個々の感じ方によって変化するものだからです。
現在使われているウェルビーイングの概念が初めて用いられたとされるのは、1946年に定められた世界保健機関(WHO)憲章において、健康とは何かを定義した文中でした。
Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが 満たされた状態にあることをいいます。
現在も用いられているこの表現は、当時一般的な英語表現ではなかったものの、単純に身体的な健康を指す「Health」とは異なる新たな「健康」の概念として、世界中に広まりました。
そこから現在に至るまでの中で、ウェルビーイングの概念は「健康」に代わるだけでなく、「幸福」にも代わる状態だという考え方が広まってきました。
この考え方を実践的に定義づけしたのは、「ポジティブ心理学」の分野で世界的に注目を浴びるアメリカの心理学者、マーティン・セリグマン氏。それまで考えられてきた「幸福(Hapiness)」に対して疑問を投げかけ、一時的な快楽ではなく「持続的幸福(Flourish)」についての論理を展開しています。
1-2:幸福は「その時の気分」に左右される
そもそも、幸福(Happiness)とは何なのでしょうか。少し哲学的な疑問になってしまいますが、お付き合いいただけますと幸いです。
これまで世界中では、一般化しづらい幸福を数値化するためにさまざまな方法が試されてきました。
前述した「世界幸福度ランキング」もそのひとつです。耳にしたことがある方は、日本の順位が非常に低いこともご存知かもしれません。
この「世界幸福度ランキング」は、
①国内総生産(GDP)
②社会保障制度などの社会的支援
③健康寿命
④人生の自由度
⑤他者への寛容さ
⑥国への信頼度
の項目を加味して順位付けされています。
なぜ、日本の順位が低いのか?という疑問を持つ前に、そもそもこれらの尺度から幸福度合いを正確に測り、それを国ごとに比較することは難しいと言う専門家は多くいます。
例えばGDPは経済活動が活発になれば上がりますが、それは離婚による訴訟が起きても、事故が起きても、戦争が起きても、経済活動は発生し、GDPは上がります。
あるいは国民は人生の自由度が高いと感じていても、そこには政府の情報統制が存在しているかもしれません。また、日本人がアンケートで「どちらでもない」を選びがちな国民性であることが有名なように、その国の控えめな文化やはっきりとものを言う文化が反映されている可能性もあります。
では、日本国内の企業単位など、より状況や背景が似通った母集団でアンケートをとれば、幸福度を正確に測ることができるのでしょうか。
あなたがいま、「人生にどれくらい満足していますか」と質問されたとします。回答にあたって、これまでの人生すべてを総括してどれくらい満足しているかを、正しく評価することができるでしょうか。
長くてもこの数ヶ月、大抵はこの数日間、もしかしたら今日起きた良いことや嫌なことを思い浮かべて回答してしまうことが多いのではないでしょうか?
セリグマン博士の調査によると人々が報告する人生の満足度とは、質問されたまさにその瞬間に、「自分がどれぐらい良い気分でいるか」に左右されるというデータです。
人生の満足度をどう評価するかは、約70%以上がその時々の気分で決まるものであり、頭で判断する割合は30%にも満たないそうです。
つまり、いくらアンケートで幸福度を測ろうとしても、結果はどうしても「そのときの気分」に左右されるものなのです。
1-3:幸福論から、ウェルビーイング論へ
さらに、皆さんが「幸福」「幸せ」という言葉を聞いた際に、思い浮かべるのはどのような状態でしょうか。ほとんどの方が、笑顔が溢れ、明るい気持ちである状態を想像します。
しかし“明るい気持ち=幸せ”を指すのであれば、ポジティブなひとは幸せで、ネガティブなひとは不幸だということになります。でも一概にそうと言えないことは自明の事実ですよね。
明るい気持ち(後述するポジティブ感情)は、幸せの要素のひとつであって、イコールではありません。
このように、これまでの幸福度をはかる方法では、人生の瞬間的な満足度を重視しすぎる傾向がありました。
そこで、人生の満足度だけでなく、幸せを生み出している複合的な要素を組み合わせ、一時の感情に左右されない「持続的幸福度(Flourish)」を指標にしていこうと考え出されたものがウェルビーイングなのです。
※参照:ポジティブ心理学の挑戦 “幸福”から“持続的幸福”へ マーティン・セリグマン (著), 宇野カオリ (監修, 翻訳)
2:ウェルビーイングの指標「PERMAモデル」
ウェルビーイングには、測定可能な構成要素がいくつかあるが、各要素がウェルビーイングと関係しているものの、ウェルビーイングを決定づけるものはありません。例えば、天気が気温や湿度、風速、気圧などの要素でできているのと同じです。
しかしそれでは、誰もが正しくウェルビーイングを理解したり、ウェルビーイングを増大させる目標を追うことができなくなってしまいます。
そこでマーティン・セリグマン氏が提唱したのが、PERMAモデル。ウェルビーイングを5つの要素から成るものとして、それぞれを測定することで、持続的幸福の追求を行うことができるというものです。
これまで幸福度は前述の通り「人生の満足度」など主観的な価値観で判断されていました。しかしこの5つの要素には、自己評価で主観的に測定されるもの、客観的に測定されるものの両方が存在することがポイント。これらウェルビーイングの要素を満たし高めていくことで、より現実的に持続的幸福を増大させることを可能にしています。
ポジティブ感情とエンゲージメントについては、イメージが湧きやすいですね。前向きに、何かに没頭できている状態であること。ゾーンに入っている状態とも言えるかと思います。
ポジティブな関係性という項目では、自分の気持ちだけでなく、社会との関わり方の大切さについて言及しているのは、人間とは社会性を持つ生物で他人との関係性の中でこそ、人はウェルビーイングな状態を保てるという考え方ですね。
企業でいえば、組織の中でいかにお互いを活かし合い、協力し合えるかが大事になってきます。いつでも帰属する場所があるという安心感もウェルビーイングに寄与するかもしれません。
最後の、意味・意義や達成という項目は、これまでの幸福論にはなかった視点かもしれません。しかし、企業のミッション・ビジョンやパーパスづくりに関わってきた私たちとしては、とても納得感がある要素です。
ラクラク・カンタンだけでなく、困難を乗り越えることで成長を感じることができたり、仕事が社会の役に立っているということが実感できれば、大変な仕事にもやりがいを見出せたり、ある程度の負荷は、実はウェルビーイングを保つには大事な要素です。
一見、幸福とは少し遠いところにありそうな、時には相反しそうな要素でさえも、実はウェルビーイングには必要であるというのは、気づきになりそうです。
もともとセリグマン氏はこれらの要素を数値化するためのアンケートなどは作成していません。前述の通り、アンケート結果はその瞬間の気分を反映しやすいことから、あえて作成していないとも考えられます。
しかし、現在では様々な研究者がウェルビーイングの尺度を図るべく、様々なアンケートを用いてデータ収集・研究をされているので、近い将来、短期的な気分に左右されないウェルビーイングの数値化が可能になるかもしれません。
もし、みなさまんがすぐに社員のウェルビーイングの向上に取り組もうとする際は、その結果を何かの数値のみに頼ることは難しいでしょう。PREMAモデルの5要素それぞれを高めるために自社では何ができるかを考え、社員を巻き込んで継続的に取り組んでいくことが大切です。
“タル・ベン・シャハー博士によるウェルビーイングの具体的な指標”
・Spiritual Well-Being:精神のウェルビーイング
・Physical Well-Being:身体のウェルビーイング
・Intellectual Well-Being:知性のウェルビーイング
・Relational Well-Being:人間関係のウェルビーイング
・Emotional Well-Being:感情のウェルビーイング
「ハーバードの人生を変える授業」で有名となった心理学者のタル・ベン・シャハー博士は、ウェルビーイングをより具体的に高める基準として、SPIRE(スパイア)という指標を掲げています。これら5つの項目の頭文字をとったものがSPIRE(スパイア)で、5つのウェルビーイングが実現されている状態がWhole-Beingとされています。
“ギャラップ社が定義するウェルビーイングの具体的な指標”
・Career Wellbeing(キャリア ウェルビーイング)
:仕事・子育て・趣味など、1日の大半を費やすものへの幸福があるか
・Social Wellbeing(ソーシャル ウェルビーイング)
:信頼と愛情のある強い人間関係があるか
・Financial Wellbeing(フィナンシャル ウェルビーイング)
:報酬が得られる手段があるかや、資産を管理・運用できているか
・Physical Wellbeing(フィジカル ウェルビーイング)
:心身ともに健康で、日々ポジティブな感情を持っているか
・Community Wellbeing(コミュニティ ウェルビーイング)
:地域社会や会社内などのコミュニティで関係が形成できているか
「ストレングスファインダー®️」を開発したアメリカのギャラップ社も、ウェルビーイングを5つの要素で定義しています。セリグマン氏のものとは多少異なりますが、こちらも参考にご紹介しておきます。
3:ウェルビーイングの取り組み企業事例
具体的な測定が難しく、正解もないウェルビーイングなので、実際に何をすればいいのか分からないという方も多いかと思います。しかし、世の中にはウェルビーイングについて独自の取り組みを行う企業は多くあります。
今回はその中から4社をご紹介させていただきます。もちろん、これらの企業と同じことをすれば良いわけではありません。しかし、共通しているのは、一過性の施策ではなく、社員と共にウェルビーイングを追及し続けようとする継続的なスタンスです。ぜひ自社に合った取り組みを考えるためのヒントにしてみてください。
3-1:イトーキ
老舗でありながら、最先端の働き方を採用するオフィス家具メーカーのイトーキ。イトーキは従業員の心身の健康を重要な経営課題と捉え、戦略的な健康経営を更に推進するため、2017年2月に「健康経営宣言」を制定しました。
健康経営に関する取り組みの中でも特に注目を集めたのは、「自由(FREE)」をテーマに、従業員のワークエンゲージメントの向上によるウェルビーイングの実現を目的とした、新しい働き方である「XORK Style(ゾーク・スタイル)」。そしてそれを始動するにあたり、働き方をサポートするために開設された新本社オフィスの「ITOKI TOKYO XORK」です。
この「XORK Style」実現のために「Activity Based Working(※1)」の考え方を導入したり、オフィスの空間品質基準に「WELL Building Standard(※2)」を導入したりと、オフィスづくりに携わる企業ならではの最先端の取り組みを行っています。
※1:個人が効率よく仕事をするために、場所・時間・相手などを自分の裁量で選択する働き方のこと。オランダのヴェルデホーエン社によって提唱された。
※2:建築や街区の環境の性能評価システム。人の健康とウェルビーイングに影響を与えるさまざまな機能を、パフォーマンスベースで測定・評価・認証する。
▼「XORK Style」について
https://www.itoki.jp/company/xorkstyle.html
▼「ITOKI TOKYO XORK」について
https://www.itoki.jp/xork/
3-2:丸井グループ
1962年に丸井健康保険組合が設立されて以降、企業文化として「健康経営」に取り組んできた丸井グループ。
身体的な健康に関する施策をメインに実施してきましたが、2014年からは健康の定義をウェルビーイングへと切り替え、健康推進部(現ウェルネス推進部)を発足。健康経営推進最高責任者(CHO)の役職も設け、「ウェルネス経営推進プロジェクト」として活動を実施しています。
メタボ率や医療費など身体的な健康面のほか、育休の取得率やストレスチェックなどさまざまな数値を総合的に計測し、自社の指標としています。
継続的な活動の結果、各指標の向上のみならず、「健康経営銘柄」や「健康経営優良法人~ホワイト500~」など、他にも数多くの外部機関にも評価されています。
▼丸井グループのウェルネス経営について
https://www.0101maruigroup.co.jp/sustainability/theme02/health.html
3-3:PwCグループ
監査およびアシュアランス、コンサルティング、ディールアドバイザリー、税務、法務など、多岐にわたる事業をグローバルに手掛けるPwCグループ。
コーポレートサイトでも、ウェルビーイングの推進についてはっきりと言及しています。
PwC Japanグループ 代表からのメッセージ
PwCは「成功する人々はウェルビーイング(心身の幸福)を軽視しない。成功する組織はそこで働く人々がウェルビーイングを追求できるような環境を提供する。」という考えのもと、グローバル全体でウェルビーイングを推進しています。私たちが最終的に目指しているのは、従業員一人一人が心身ともに健康であり、PwCグループで働くことで成長実感や幸福感を感じ、自律的に高いモチベーションで仕事に取り組める組織です。PwCグループにとって、従業員一人一人が唯一の資産です。そして従業員が最高の状態でパフォーマンスを発揮することが、お客様への価値最大化につながるのです。
“Be well, Work well”.
これからもPwC Japanは、ウェルビーイングに精力的に取り組んでいきます。
PwC Japanグループ代表 木村 浩一郎
PwCグループではウェルビーイングを「Physical」「Mental」「Emotional」「Spiritual」の4領域から成るととらえ、中でも「Physical」「Mental」へのアプローチを主に実施しています。
▼PwCグループのウェルビーイングについて
https://www.pwc.com/jp/ja/about-us/well-being.html
3-4:アシックスグループ
スポーツをはじめとする生活に関わる事業を展開する企業として、健康とは切っても切り離せないアシックスグループ。2017年には従業員のより健康的な生活の実現を目指し、「ASICS健康経営宣言」を発表しました。
※参照:https://corp.asics.com/jp/csr/wellbeing
宣言と同時に「ASICS Well-being」体制を立ち上げ、人事統括部長をCWO(Chief Well-being Officer)との兼任に。実際の取り組みではウェルビーイングにつながる各種研修やセミナーの実施のほか、食事や運動のサポートも行っています。
効果検証としては、定期健康診断、ストレスチェックのほかに、健康に関する独自の調査「ASICS Well-being survey」を全社員へ実施。総合的な数値を定点観測し、ウェルビーイングのさらなる向上に努めています。
▼アシックスグループのウェルビーイングについて
https://corp.asics.com/jp/csr/wellbeing
4:最初の一歩としてのワークショップ
ウェルビーイングの定義と注目すべき要素、そして他社の事例から見るウェルビーイングの位置付けが見えてきた中で、実際に自社では、どのような取り組みから始められるのでしょうか。
おすすめは、前述したPERMA理論等のウェルビーイングに関係性がある要素をテーマに、社員を巻き込んで行うワークショップです。
概念的な話が多いウェルビーイングですが、要は「従業員の心と体の健康を会社も一緒に追求し続けますよ」というメッセージと姿勢をいかに実行していくかということに尽きると思います。
会社が一方的にメッセージを発信するだけでは、従業員に「これは自分の幸せを考える機会なのだ」と理解してもらえません。
もし、これまで会社内でウェルビーイングについてほとんど語られることがなかったという企業の方は、ぜひ一度ワークショップを実施し、一人ひとりにとってのウェルビーイングとは?職場でウェルビーイングを高めるためにお互いできることは?などについて対話をすることをおすすめします。
ウェルビーイングに関連するワークショップはいくつかありますが、科学技術振興機構社会技術研究開発センターが発行する『ウェルビーイングな暮らしのためのワークショップマニュアル(http://wellbeing-technology.jp/ )』が取り組みやすいかもしれません。
実際にウェルビーイングとは、職場だけでなく、プライベートな領域にもまたがるテーマなので、企業文化によっては取り組みにくいケースもあります。その場合は、参加対象者を限定して始めたり、職場に関するウェルビーイングに限定して初めてみるなど、自社なりのアレンジを加えても良いでしょう。
5:最後に
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
抽象的かつ研究途中の領域なので、まさに現在進行形とも言えるウェルビーイングなのですが、簡単にリストにまとめてみました。
■ウェルビーイングとは、人が身体的・精神的・社会的に“良好な状態”である。
■一時的な気分や単独のコミュニティではなく、人生や社会という長い時間軸と枠組みと一緒に考えるべきでる。
■完了するものではなく、継続して向き合っていくべきテーマである。
■PERMA理論のように構成要素がいくつかあるが、ウェルビーイングを決定づけるものではない。例えば、天気が気温や湿度、風速、気圧などの要素でできているのと同じである。
一般化・数値化しにくいウェルビーイングですが、これだけ多くの企業が何らかの形で取り組くもうとしている背景には、物質的な豊かさだけが指標となった成長への限界をいよいよ社会全体が感じ始めている、といった側面があるのではないでしょうか。
現在の進歩の定義の延長線上にある成長や豊かさでは、資源においても、環境においても、何よりも私たち人間にとっても、限界が近いのではと、皆がどこかで感じているのかもしれません。
大切なのは、ウェルビーイングをきっかけに健康、幸せに働く人が増える健康な経営とは何かを考える続けること。この記事が、そんな最初の一歩の参考になれば幸いです。
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